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完全侵略マニュアル/あなたの為の侵略戦争  作者: C
第十章「異世界の車窓から」

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豚は肥らせてから喰え

【用語】


『仮名』:異世界転移後の国際連合武力制裁活動に暗躍する正体不明の軍人たち。既出の限りすべて女性で、地位に比べると若い。仮名として名乗る名前は歴史上の戦争に関与した人間の名前ばかり。


――――――――――(抜粋)――――――――――


それは「強い個体」だからです。


これは種族そのものや種類のことではありません。

あくまでも、在る種族、在る種類の、在る個体のことを言います。


「強い」というのは他の個体を殺せる、という狭い意味ではありません。

それを内包したライフサイクルの完成度が高い、持続的で安定している、という意味です。


そしてなにより「強い」という意味は「当人がそう認識している」という意味ですね。

ただし、そこに欺瞞や錯覚は含まれません。


動物は「これまで」「このとき」の事実を基に「これから」を規定します。


これまで三大欲求の充足に成功した。

このときもすべて欠けることなく摂取している。

これからも必要十分に確保できるのは間違いない。


十分な食事、必要な異性、快適な休息。



強い個体は、自己の相対性を認識出来ます。



己より動きが速い個体。

己より体が大きな個体。

己より筋力が強い個体。


無数の上位個体が競合相手として存在する。


寒くなり暑くなる。

乾き始めて湿り過ぎる。

明るくもなり暗くもなる。


それを知りながら、何も不安を感じない。

他者や環境と引き比べて自分の位置を認知できる、ということですね。

事実のみから成り立つのが強者です。


何がどうなろうと、どうにでもなる。


――――――――――強いから――――――――――



もちろん、客観的に言えば何がどうなるかなど全く予想できるものではありません。

次の瞬間隕石の直撃を受けて死ぬかもしれません。


強い個体はそれを「知っても感じない」ために、行動へと結びつきません。

そうした蓋然性を適切に処理できるわけです。




さて、これを踏まえましょう。


動物は一般に、弱い個体を嫌います。

弱さは欠陥を意味するからです。


病気の個体は喰えません。

感染源になるからです。


怪我をした個体は喰えません。

傷口から汚染されているからです。


では怪我も病気も何もなくとも、肉体的ポテンシャルを発揮できない個体は?


最悪です。

回復/向上の余地がないということになります。


そして「嫌う」ということは「遠ざける」ということです。


殺しても得られるものが無い。

ソレは無駄であり、コストやリスクとは違います。

無駄を選ばないから強い、とも言い換えられます。



動物、とりわけ強い個体は「自分より強い個体」を狙います


巨獣強獣に挑みかかるなど珍しくもない

――――――――――人類が、これまでもこれからも、そうであるように。


強い、とは。

健康で充足し安定した個体。

強さを保つ為に必要な要素。


得難いからこそ価値がある。

得易いのであれば価値はない。


リスクもコストもリターンに見合う。

コストパフォーマンスの上限を狙う、それ以外を無視する。

結果として何も得られなくとも、可能性があれば無駄ではない。


強者だからこそ、負担を選べる、選ぶのです。




だから、弱者は忌避されます。


弱肉強食は錯覚、もしくは妄想です。

慰めでもあります。


「弱いから食われるのであって、自分は悪くない」というモノです。

固有の事情、無能不運欠陥などなどを、一般法則にすり替えることで認知を防ぐという手法ですね。

もちろん結果には影響しませんし、事実とは関係ありませんが。



欠陥のある個体は、可能性がない。

関わるだけ無駄。


コストやリスクは恐れないが、無駄は考慮以前に認知すらされない。

強者が弱者を避けるのは、金持ちが乞食の懐を探らないのと同じ。


弱者こそが、欠陥がある個体を狙います。

より弱きを狙い、僅かなリターンにコストとリスクを投じる。

短期的に得る物があっても、赤字が日常化。


そして収支を悪化させて、さらに弱体化する。

だから弱者。


もちろんそれは選択の結果ではなく選ぶ余地のないこと。

最初から決まったレールでしかありませんが。


故に正しく弱喰強肉。




ではなぜ「強い個体」が幼い子供たちを保護するのでしょうか?


それは「幼さ」が「弱さ」ではないからです。

それは動物の「強さ」の定義と同じように考えてください。



「欠陥」と「未熟」の違い。

「終わり」と「始まり」の違い。

「完成」と「未完成」の違い。



だからこそ動物一般は、未熟な個体を保護する傾向をもちます。


それを母性父性と呼ぶ向きもありますが、学問的ではありません。

学問的には、母性父性「本能」は存在しませんから。


実際、幼体をへの保護は血統はおろか種族すら問いません。


子犬を庇護する猫。

その逆。

人間一般が様々な種族の子に感じる保護欲。

狼に授乳された人間。


特段、確認を要しませんね。

どれもこれも父母親子のような、成立して一世紀ほどしかたたない概念とは無関係です。



強者はその余力を使い、可能性を保護する。

それはもちろん、道義的なにかではありません。


「豚は肥らせてから喰え」

それだけです。


どのように喰うにせよ、幼い時に消費するより成長させてからの方が、破格の利益が見込めます。


もちろん時間と手間をかけるのですから、リスクはあります。

しかし損失になっても、特段困らないのが強者です。

だから強いのですから。



欠陥のある弱者ならば、コストやリスクに耐えられない。

そもそも成長させれば逆転される上に、ソレを凌駕することはできない。


だから成長を待たずに喰らおうとして、コスト割れを起こす。


今回のテーマで言えば幼児性愛者の心理ですね。

もちろん多くの弱者/欠損者は「喰らおうとすらできず」代えるべきターゲットも選べずに、衰弱して消滅していくのですが。


ではこれを踏まえましょう。



彼は子どもたちを喰らう気がない。

「喰らわない」ではなく「気がない」。


欲求の問題ですから、倫理的な問題ではありません。


道徳律で欲求自体を消すことは出来ませんから。

欲求が湧かないのは、獲物が幼く弱いから。


であれば十年待てばいいのか

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・無意味です。


もちろん年齢制限のような迷信とは違います。


動物にとって成熟とは受胎出産可能なこと。

つまり今も十年後も、その点は変わりません。


成長過程によっては、十年後になお庇護対象扱いされる可能性もあります。

一生涯取り置きされ、デッドストック化する可能性ですね。


埋められたまま忘れられた木の実のように。

それが芽吹いて次世代を造るのは、定型化したパターンでもあります。

今回の作戦で、それは望ましくはないのでしょう。




ゆえに女と認知させるために必要なのは、肉体的な条件ではない。

背が伸びても乳房が発達しても臀部が充足しても、何も影響しません。



必要なのは状況認識です

――――――――――彼女たちは「彼よりも強い」と。



繰り返しますが腕力ではありません。

もちろん知識でも技術でも地位でもない。


本能に根ざした欲求ですから、社会という仕組みの中で、かろうじて成り立つギミックは意味を持ちません。


必要唯一の条件は「動物としての強さ」です。



強い個体はより強い個体に惹き付けられる。

そうなれば彼から「獲物」とみなされ、強い「欲望」の対象になります。


互角に見せれば、女と見なされるでしょう。

気が向けば狙われるかもしれません。

凌駕して見せれば、獲物とみなされるでしょう。

最優先すべき捕食対象となりえます。


「なにもかも」を欲求してすべてを欲する。

「ありとあらゆる」手段を尽くして喰らう。

「永続的に」保持し続けるように捕らえる。




「強い動物/個体」は「そうする」のです。

それを「やさしさ」と読み替える向きもあるようですが。



――――――――――(抜粋)――――――――――



《とある動物行動学者(仮名ツジ)によるとある群れの行動記録と実証作戦計画に対する分析》





【聖都南端/白骨街道/らんどくるーざーの中/青龍の貴族の右隣/エルフっ娘】


気になる。

気にならないわけがない。



あたしたちは、かなり劣等感を感じてると思う。

あたし以外に彼、青龍の貴族が眼を向けたから。


Colorful。


男の憧憬、全ての女の羨望を具現化すればどうなるのか。

それがこの、五人の娘たち。


あたし、そして妹たちはその娘たちを差し置いているわけで。


あたし、たちが立つ場所は。

五人が五人とも望んでやまない立ち位置。


彼に寄り添っているんだから、妬まれても妬む筋合いはない。

理屈で言えば、ね。


でも、無理なんだけど

――――――――――妬ましいし。


Colorful。


男を惹き込む技能の結晶。

それはもちろん、男一般を惹きつけても意味がない。

あたしたちにも、彼女たちにも。



ただ一人の気を惹くことができるかどうか

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・できる、から、あたしたちは比べる。



なぜならColorfulは皆、魅せ方が上手いから。


常に一人を魅せるために、観せて振る舞う。

相手を観察し、その反応を決して忘れない。

刻一刻、自分をただ一人の為に整えていく。


それは身についた仕草。


意識しなくても出来る、みたい。

でも今は。


自分の欲に従って、一人の男を欲して、そしてそれを気付かれて、ううん、それが起きる前から見透かされて、それでも留まれず躊躇わず。


その彼と来たら。


Colorfulの誰かをかまう。

その前に、あたし、たちに気を向ける。

判りやすく、解りやすく、隠せない。



大変非常に面白くない。


あたしは気に入られている。

あたしは好かれている。

あたしは囚われてる。


なのに悔しい。


うん。

やっぱり悔しい。

女として、負けてるから。


Colorful、その男を惹きつける、魅力。


ソレは当然、彼をも惹きつけているのであって。

彼の中で、あたしが一番でないところなわけで。

そりゃまあそんなところは幾らでもあるわけで。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・一番でいたいし。


全部。

なにもかも。

欲張りが止まらない。


真似できるかは、わからない。

真似すべきかも、わからない。


ズルいことかもしれない。

スベきではないかもしれない。


Colorfulの五人。

皆が一生懸命、近づこうとしてるのに。

たまたま運よく、側にいる、あたし。


もっと、もっと、もっと。

だから、あたしは、Colorfulの仕草に耳欹てる(みみそばだてる)




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