合わせ鏡

「人間というのは腹を空かせるものだ」

なるほどなるほど。

「故に１日三回機会ができるる」

ほうほう。

「一緒に食う」

それだけで。

「古典的な方法だろう」

まったくですね。

「食わせればついてくる。食えばついていける」

いずれも？

「同じだな」

ゆえに。

「食わせた」

何のために。

「まともにさせるため」

まともではなかった？

「まともなやつは食ってる」

逆もまた。

「真なり」

それで少女と仲良くなった。

「子どもはそんなものだ」

心温まる関係ですな。

「そうか」

ではない？

「寒さが凌げただけだ」

寒かったんですか。

「そりゃそうだ」

朝だから？

「あの子を見たから寒くなった」

暖めてあげたんですね。

「まさか」

では？

「俺が寒くなくなった」

どうやって？

「あの子の腹を一杯にして」

本人が望んだと。

「知らん」

相手の意思は確認していない？

「考えたこともないね」

ちょくちょくあるんですか？

「ちょくちょく子どもが落ちていてたまるか」

まあ、そうですな。

「時々、眼について、暇なとき」

拾ってるわけで。

「時もある」

彼女は貴男に好意的ですが。

「そりゃそうだ」

てすか？

「旨い飯を腹一杯食えば、みんながみんな大好きになるんだよ」

また食事の話ですか。

「また、って？」

また、って、とは？

※中央警務隊による参考聴取記録（東京都新宿区市谷本村町５-１防衛省市ヶ谷庁舎小会議室）

※東部方面警務隊により中央警務隊へ「隷下隊員への調査は越権行動」との理由で中止要求

※中央警務隊からの回答前に市ヶ谷常駐の東部方面警務隊第３０２保安警務中隊が参考人を開放

※聴取記録はその混乱で散逸し、防衛省で確認できるのは上記部分のみ

《神奈川県内某所/三佐のセーフハウス/分類「ぶらっくふぁいる」》

【聖都南端/白骨街道/らんどくるーざーの中/青龍の貴族の左膝/お嬢】

わたくし、物欲しげでしたか？

ご領主様の指先が、わたくしの首元を弄ってくださいます。

慌てぬようにして、慌てさせぬように。

ご領主様が手を、指を、視線をくださる。

それはいつものことなのですが。

それはとてもとても嬉しいのですが。

そしてなにか、釈然としません。

なぜならそこに、優しさを感じるから。

ただただ愛でられるのなら、誇るべきこと。

弄りたい、触りたい、見ていたいと思われるなら。

すごくすごく自慢ですわ。

史書に載せて詩人に詠わせたいくらいに。

そう在るべきですしそう在りたいですしそのように在るのですけれど。

そうなっておりません。

わたくしの肌を弄る指先が、楽しむより楽しませようとしているような。

まるで得るよりも与えようとしてるようで、とってもとっても気持ちがいいの。

解せません。

まるでその、行き届かない女を宥めるがごとき、優しく叱責するような、私の自尊心を潰れそうなほど握りしめて身の程を知らせるような力加減は、つまり、わたくしの気づかぬ問題がありそれを、ご領主様が愉しんでいおられる、ということ。

わたくしは完璧ですのに。

今あったことと。

ご領主様がＣｏｌｏｒｆｕｌの橙さんをみつめました。

そしてただ、わたくしがＣｏｌｏｒｆｕｌの皆をさりげなく視る。

それだけ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なぜ皆、一瞬、固まるのかしら。

わたくしは、改めてＣｏｌｏｒｆｕｌの皆を一瞥。

ことさら朗らかにほほ笑みを見せ、ていますのに。

遠慮などせぬが良いでしょう。

わたくし、たち。

ねえ様、あの娘は、ご領主様に愛でられる。

あなたたち。

Ｃｏｌｏｒｆｕｌの皆はご領主様を楽しませる。

存分になさればいいわ。

それはまあ、広く殿方の好みで言えば、わたくしよりも、今は、大きな貴女たちの方が、構われる可能性は、低くないとは申せましょう。

――――――――――羨ましくなんかありません――――――――――

例え一時、たかだか重ねた歳月の差でしかないとはいえ。

わたくしたちが女として未熟で、Ｃｏｌｏｒｆｕｌの皆に劣っているとしても。

ねえ様すら美しさはともかく、愛しい方を悦ばせる技芸で一歩及ばぬとしても。

わたくし、平気ですわ

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ご領主様は小さい娘が好きなのですから♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪

世の誰がどう感じましょうと、世評が何を囁きましょうと。

意中の方にそぐわねば、大きさも凹凸もなにもかも無意味でしかありません。

世に尊ばれる玉であるよりも、御一方に仕舞われる石でありたい。

それが何より幸運でしかないとは、自覚しないわけにはいきませんが。

もちろん、近い将来、わたくしの育ちゆく様を楽しんで頂きます。

今まで自身を磨いていなかった、とは申しませんけれど。

単なる趣味にして、手慰みにすぎませんでした。

これからは、ご領主様の為。

そのためにそのように、わたくしは大きく成れるのですから。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・大丈夫大丈夫大丈夫。

ちいさくなくなってもわたくしたちはわたくしですからねえさまみたいにおおきくてもかわいがってもらえますしきっときっときっと

――――――――――かんがえちゃだめ――――――――――

【国際連合統治軍第１３集積地/白骨街道/ランドクルーザー車内/中央席/青龍の貴族】

俺は余計なことを考えてしまった。

可愛いな、で済ませりゃいいのに。

まったくもって、度し難い。

Ｃｏｌｏｒｆｕｌ、ハーフエルフ、っそれはブリーダー的に産み出されている愛玩奴隷。

スタイルが悪かったらどーなるのか、とかそんな感じの、嫌な連想。

そりゃあれだ。

愛玩動物と同じ。

愛玩奴隷牧場の、つまりは大半の、異世界に生息する、ほとんどすべてと言うのも控えめなハーフエルフ。

ソレはエルフの代替え品。

間違いなく品で、商品だ。

エルフは美しい。

それは絶対的な恒常性維持機能。

その結果。

生物としての優秀性、その頂点。

無駄な怪力もない。

無駄な鉤爪も牙もない。

無駄に大きくも小さくもない。

歪な突出による脆弱性を持たない、永く安定した高性能。

地球型環境への汎用的適合、その極致。

それが同じ優劣基準を持つ人型種族を魅力する。

優れているから美しい。

すべて理由がある。

ハーフエルフ、その体香。

香水の原型になるようなそれは、老廃物の処理サイクルがスムーズなせいだとか。

魔女っ子、お嬢のような子供も、代謝が活発で老廃物をため込まない。

だから、ハーフエルフの性質は地球でいう子どもと系統は似ているのかも。

だから、既存の現象と一致しているから、地球の科学者がアタリを付けられた。

エルフっ子もそうだしね。

それこそ香りを身近に感じないと判るまい。

では、俺達は？

繕って、盛って、覆って、固めて、切って、貼って

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・美しさを擬態して、機能を損なうことはある。

それが人間だ。

偽装品と真作の違い。

それは人と彼女たちの違いだ。

偽装品も贋作も模造品も、それはそれで味わいがあるけどね。

ガンモドキは鶏肉より旨い。

上手くはない。

巧くはない。

美味くもないが、旨いのだ。

味わい方ひとつ。

グルメとは、美味しくする者である。

美味いを楽しむのは三流。

俺もだよ？

化粧でごまかし型で偽り香りを造り

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・補正と言い張り体をねじ曲げハイヒールで足を潰す。

そんな徒労も大好きです。

――――――――――それはともかく。

だからエルフに近い恒常性、例えば不老、を先天的にもつハーフエルフは元々すべてが美しい。

人間と比べれば

――――――――――エルフと比べなければ。

ここ異世界では、そうはならなかった。

異世界人を比較の対象としなかった。

それだけだ。

エルフの香り。

ハーフエルフの香り。

何一つ手を加えない身体の匂い。

ここそれぞれの特徴はあるが、判るんだ。

エルフっ子とＣｏｌｏｒｆｕｌの違い。

同じ系統に在るように感じて、しかし決定的に違う。

レベルの差ではなく、異質なのだ。

エルフ。

ハーフエルフ。

それは匂いだけじゃない。

肌の質感、肢体のライン、鼻梁の造形、髪の手触り、他何もかも。

真球。

球体。

似て非なる者。

例えを上げたらキリがない。

エルフと比べれば、だ。

そして。

この世界では。

比較の対象は、エルフだけ。

エルフがハーフエルフを自分たちと比べる

――――――――――そりゃ、わかる。

似てるのだから、違いを探したくもなるだろう、

アイデンティティーの問題だ。

異世界人がハーフエルフをエルフに比べる

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・わからん。

エルフもハーフエルフも全く全然、異世界人とはかかわりが無いくらいくらいなのに。

そも異世界人の大半は、エルフなんか見たこともない。

地球人の方がエルフに親しんでるくらいだ。

ネットで大量に画像動画３Ｄモデルが公開されてるからね。

エルフっ子のは削除させたが。

タグを追跡してデータを破壊させたが。

新手のコンピューターウィルスかってその界隈を騒がせた。

異世界転移で絶たれたと思われたウィルス製作者の伝承が継承されていたとかなんとか。

誤解だ。

おそらくきっと、非職業的なウィルス製作者は日本にゃいない。

テロリズムってのは確固たる視点が無いとできないしね。

ソレはものすごく現代日本向きじゃないわけで。

正解。

それは三佐の実践テストか示威作戦。

あの女が部下の嘆願だけでやらかすわけないからね。

※第７７話＜十二日目／After　Coming out＞

興がノったからやってやった、ついでに、ってところか。

まあきっと、全国のみなさんへの良き教訓になったことだろう。

電子データほど脆いものは無い。

データが消えたとかなんとか嘆くのは、そんなモノを信じた自分が悪い。

一番頼りになるのは紙ですよ紙。

一番確実なのは石ですけどね。

日本国内のエルフ愛好家の教祖化している活動家が、神棚にハードデータを隠匿してバッテリーを予備まで含めて複数接続して電源から遠ざけ防電磁ケースで覆って隔離、しかもすべて特殊な用紙に印刷してるとか、しかも想像でも汚してはならないとかなんとか日々説法しているとかなんとか。

そこまでせんでも。

大丈夫か日本の農業大学生。

※第７９話<沈黙の春>より

は、地球の特異現象として。

帝国の絶滅政策以前から、異世界でもエルフは少なかったらしい。

個体数も少ないし、ましてや人里に出てくるのは変わり者、だとか。

エルフっ子２５６歳が言うんだから間違いない。

なら異世界人が、エルフとハーフエルフを比較するってのは？

わざわざ、想像上のエルフとハーフエルフを比較する？

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・否定の手段だな。

人よりどれだけ美しく。

人よりどれだけ愛らしく。

人よりどれだけ格好よく。

だが、皆が、人が言う

――――――――――エルフに劣る――――――――――

否定のための否定。