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完全侵略マニュアル/あなたの為の侵略戦争  作者: C
第二章「東征/魔法戦争」

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読めるか?書けるか?話せるか?



文字が読めるなら世界を理解できるということだ。

文字が書けるなら世界を表現できるということだ。

多言語が話せるということは世界に行けるということだ。




【太守府/港湾都市/奴隷市場/青龍の貴族一行中央】


あたしは短弓をもっていた。

胡散臭い。

もちろん厳重に護られては、いる。

青龍の貴族を中心に、先頭が盗賊ギルドの頭目。

更に先にはギルドの配下。

青龍の騎士が周りを固めて、ついて来る女将軍の後には黒旗団の荒くれたち。


とはいえ、そんな事をわかった上で誘うんだから、怪しくないわけがない。


あたしの緊張を悟った青龍の騎士達は、いつも以上に警戒している。


もちろん、悟ってないのは、あの娘たち。

ううん。

嫌な気配は感じている。

だから、いつも以上に、青龍の貴族に寄り添う。その裾を離さない。



前太守の資産、ねぇ。


そもそも、帝国太守は奴隷を必要としない。領民が奴隷みたいなものだ。

いつでも、いくらでも、なんにでも、動員できる。

わざわざ金を払わなければならない人手などいらない。


まあ、私的な、家庭用にいくらかは有り得る。


家臣に命じるには雑事に過ぎ、使用人達に命じるに、はばかられる事がある。

賄の受け渡し、特に、渡す側、などは代表例。


実際、前太守にもいくらかはいた。

だが、家庭用。

だから、前太守の遺族と共に逃げ去った。


そして、逃げようにも、引き渡されずに、奴隷商人の元に遺されたモノがあった。



ますます、胡散臭い。


奴隷商人から買い、引き取らずに預けたまま。


なぜ?


本来想定した仕事がなくとも、雑用をさせればいい。

奴隷商人は、売買契約以後の奴隷をタダで預かったりしない。

保管中破損のリスクや維持経費がかがるからだ。


保証金に消耗費は当然に奴隷商人に支払っていただろう。

しかも、例外措置に相場はない。

つまり、言い値に近かったはずだから高くつく。


前太守は預けっぱなしでどうするつもりだった?


値上がりを待つ?

市況による値の上下はある。

だが大規模な戦の後、奴隷は値が下がるし、そもそも赤龍から青龍に覇権が入れ替わる時期は物が動かない。

派手に値上がりする物なんかない。


しかも奴隷は資産だが、時を経て価値が上がるモノじゃない。


下がる。


子供なら、育ち教えてやっと値が付く。だがそれは奴隷商人だからやる事だ。

奴隷を買った主人からすれば、その瞬間から価値が下がる。


当たり前。

歳をとるからだ。

そして牛や羊と違い、奴隷はそれ自体では何も生み出さない。

働かせる事でのみ価値が出る。


当然、奴隷を買う時は引き取り準備に合わせて買う。

買ったらすぐに引き受けて働かせる。


当たり前だ。




【太守府/港湾都市/奴隷市場/軍政司令部一行中央】


俺は埠頭とも倉街とも違う事に面白さを感じていた。


そう。

ここは、牧場だ。

両脇に柵がかけられている。

広い道には俺達だけだが、まあ、つまりは非常時故だろう。

柵の奥、簡単な作りだがけっして粗末ではない宿舎。


一言でいえば、牧歌的。


その隙間から覗く目は、まあ、太守府と同じだね。

警戒。

うん、いい加減、化け物扱いはナレマシター。


歴史家の少女、いや、一応成人か、は意外そうにキョロキョロしている。

視線と同調させたカメラ(ヘアバンドに偽装装着)に収める為か。

手元のタブレット(中身はガラケーのシステムで動作確実、戦車で轢いても壊れない)に指を走らせるのはせわしないが。


「意外か」


いや、ビクッとしたね?そんなに集中してたか。


「はい。イメージに引きずられていました」


まあ

『奴隷』

『奴隷商人』

『奴隷市場』

って聞けばね。


「資料は読み込んでいたつもりでしたが・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


史料とファンタジーの落差が大きいからな。

ジャーナリスト志向なら、現代史メインだったか?


「鞭に鎖、血と糞尿、絶望と悲鳴」


歴史家がムッとした顔で元カノを睨んだ。


「そこまで幼稚じゃありません」


コワいコワいとオドケて煽る。おまえはな、まったく。

選挙権持ったばかりの子どもどきで遊ぶな。


「我々とて派遣前講習を受けていなければしらなかったろうさ」


元カノや他の部下は史学系じゃないからな。

ふと浮かぶ。


「あんな立派な奴隷に、あんな酷いことをするわけがない」

「アンクル・トム?」


歴史家即応。結構知ってるな。

『風とともに去りぬ』にて。

南軍の人たちが『アンクル・トムの小屋』を評するシーン。


プロパガンダ?

表現技法?


ありもしない、あるいは異常な特例を一般化して見せる詐欺。

人が人であり得ない状況を、誰にでも分かり易くする工夫。


揶揄なのか比喩なのか。


だが、こちらの世界は地球の過去と変わらないようだ。

あまり。


清潔な宿舎。

区分けとしての柵。

柔らかな秩序に暴力の匂いはしない。


文明社会の、普通の刑務所の方が、よっぽど荒廃を感じる。


当たり前。


牛や馬を虐待する畜産家がいるか?

いたら、それは異常者だ。誰かが止める。


止められない(権力その他で)なら、虐待されるのは奴隷に限らない。


高価な資産。

働かせる事で見込める利益。

しかもコミュニケーション可能で汎用性が高い。


そりゃ大切にする。


栄養に気を使い。

休息に配慮し。

技能を教える。


奴隷は大切に、大切にされる。

主人より先に食事が与えられのが普通なくらい。

馬の世話をしてから休息する牧場主は普通だろ?


それが。


同朋への配慮でなくても。

車をメンテナンスする感覚と同じだとしても。


さてさて。


コレは、揶揄ですか?比喩ですか?




【太守府/港湾都市/奴隷市場/青龍の貴族一行中央】


あたしも奴隷なんだけどね。


奴隷を知らない青龍の奴隷談義。


まあ、貧民の生活に比べたら、天と地の差よ。

貧民達を引き受ける奴隷商人なんか居ないけど。


栄養状態が悪く、気質が荒み、技能の欠片もない。

野良犬同然で投資の価値がない。


奴隷商人が喜んで買い取るのは、没落市民か未開人。

健康で、気質が従順で、技能を付ける下地がある。


破産競売、戦争捕虜、奴隷狩り、身売り、などなどで出回るのだけど。


買われる方も、自分を買い戻す期待で、なんとか支える。

実際、解放奴隷の市民なんか珍しくない。


とはいえ。

それは他人事だから言える事。


解放奴隷は例外だ。

才覚があり意欲に満ち幸運があったものだけ。


普通は働いて働いて、働いて働いて死んでゆく。

そこまでは、職人や農民と変わらない。


違い?

恋人を持てず、道端で死ぬ自由もなく、形ばかりの私物もない。


働けなくなるくらいに歳をとる事が出来たら?


牛や馬と同じ。

今までの活躍に感謝。

苦しまないようにするのが主人の良識。

普通の感覚を持った主人なら悼み、涙を流すだろう。


だから、それを代行する奴隷商人は、毒に長けている。




【太守府/港湾都市/奴隷市場/軍政司令部一行中央】


俺は、ギョッとしてしまった。


それが言いたかったのか、エルフっ子。

老衰で死ぬ人間は少ない時代だから、市民とどちらがマシかわからんが。

エルフっ子みたいに自活能力が高いのに『家族を護る為に奴隷になる』のは例外だしな。


待遇格差は乏しくても、

意識の格差は天地。

さて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?


そこじゃない?




【太守府/港湾都市/奴隷市場/青龍の貴族一行中央】


あたしは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いや、やめとこう。


意識の格差に、いい加減に慣れた。

青龍とあたしたち。

特に、この、青龍の貴族、コイツ。


「毒殺に注意して」


耳元に囁いた。あの娘達には聴かせたくない。


「良いことを知った」


青龍の貴族が笑う。本気だ。


「だが、安心しろ」


はいはい。


「何の影響もない」


ちがう!!本気でわかってない!


青龍の貴族が笑う時、いっつもいつも、理解してない。

本気で笑い、


『自分が殺されても支障がないから、安心しろ』


とくる。


殺そうとされないから、でもない。

殺されないから、じゃない。

殺されたとしても、だ。


誰かが自分を殺したいだろう。

そのうち誰かに殺されるだろう。

しかし殺された後で何か支障があるだろうか?


戦争は続く。

帝国は滅ぼす。

ここには代わりの領主が訪れる。


なにも問題ないじゃないか!



――――――――――――――――いっそ、その朗らかな顔を、殴りたい。




【太守府/港湾都市/奴隷市場/軍政司令部一行中央】


俺はさりげなく、視線を逸らした。


怒ってる怒ってる。


おかん気質のエルフっ子だけに、なにかに触れたらしい。

女と子供の逆鱗はどこにあるかわからんな。

触れてなお判らんので地雷より厄介だ。


「プークスクス!」


元カノ。わざわざ嘲笑アピール。


「あいかーらず」


なんだよ。




【太守府/港湾都市/奴隷市場/青龍の貴族一行中央】


あたしはだいぶ前から、気が付いていたが。


奴隷市場中央。

大きな館から出てくる影一つ。

全身を長衣で覆い、面を付けた痩身姿。


「お待ちしておりました」


跪き、頭を地面に垂れる。


「奴隷商人の頭です」


と、盗賊ギルドの頭目。


「皆は遠ざけました」




【太守府/港湾都市/奴隷市場/軍政司令部一行中央】


俺の前に伏したまま、話続ける奴隷商人。


大きな、王城や参事会に比べればともかく、港街の中で言えば1、2を争う館。

それなりに開けた、奴隷牧場の真ん中でそう感じるんだから、実際に広いだろう。


無人に、した?わざわざ?


他の奴隷商人とその部下達は、周りの奴隷宿舎の管理か自宅待機を命じられているらしい。


元カノが騒がない。

旅団の魔法使いが安全を確認している。

なら、マジか。

何故?


「ご承知の通り、我らは異端審問官の管轄でごさいました」


帝国は常勝戦争征服国家。

それがこの世界の人々からみて、三代前からの日常。

勝ち続けるから捕虜交換なぞしない。

竜は戦場で敵を喰うから、捕虜は食べない。あまり。

敵の高位高官以外、つまり捕虜の大半は、売る。


奴隷の永続的最大供給源。故に奴隷経済は帝国が支配している。


ここしばらくは、別として。


そして帝国の奴隷経済管理官庁が異端審問官だった。

名称通り、内部監察中心の秘密警察。

エルフ絶滅やドワーフとの協定など異種族政策も担当する。

その関係で、


・非帝国人居住者(奴隷)の管理

・異種交配の多発現場での取り締まり


の為に奴隷市場が管理下に置かれた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・まあ、利権分配だろう。


最前線で戦利品取り放題な帝国軍。

(個々兵士の略奪は厳禁なので軍令で占領地から供出させ、階級に応じて分配する)

それに匹敵する旨味を、内部暴力組織にも与える必要があった 、と。


とは言え、帝国自身が商売をするわけではない。

その商売の有力者達に任せ、その有力者を管理する。

だからこそ、奴隷商人、奴隷商人たち、その頭が生まれる。


それがこの、全身覆い尽くした方、と。

変わった服装文化だな。




【太守府/港湾都市/奴隷市場/青龍の貴族一行中央】


あたしはまあ、納得、した。

とにかく恭順の視線をアピール。

奴隷商人達で雁首揃えても逆効果、と考えたわけね。


いきなり青龍をだまそうとして殺されかけた参事会よりマシ。


みな、工夫することね。

どれが正解やら。


「異端審問官たちは逃げ去りました」


伏したまま続ける奴隷商人。


「我らが前に表れなくなっただけにございますが」


どこかに残っていても、自分たちにはわからない、か。


「ご領主様」


盗賊ギルドの頭目。


「任せる」


青龍の貴族が即答。

頭目が一瞬止まり、下がった。


驚いてる驚いてる。


いつからの主従よ?

驚いたのに気がつかなかったら、いえ、知らなかったら勘違いしそう。


「立て」


青龍の貴族の一言。

奴隷商人は顔をあげ、慌ててさげた。


「身の証を立てるすべとて御座いませんが!しかしながら!」


あの娘がかけよりかがんで、奴隷商人に囁く。


「二度目はありませんので」


慌てて立ち上がる奴隷商人。

危なかった。

最初から青龍の騎士が奴隷商人に銃をむけて構えていた。

あの娘を避ける形だからすぐに撃てる。


「立場は伝わりました。貴方が敵であれ味方であれ、ご主人様は気にされません」


あの娘は一生懸命続けた。


「ご主人様の味方になっていただけたら嬉しいですが」

小声。

主の意思ではなく、個人的願望。


ポンッ。

あの娘の頭を撫でた青龍の貴族。そのまま館に向かう。

あたしたち、そして奴隷商人は慌てて続いた。




【太守府/港湾都市/奴隷市場の館/軍政司令部一行中央】


俺、俺達は、奴隷商人の館の奥の奥に通された。


市場中央のここは、接客用の建物で、とりわけ重要な客が、奴隷を確かめる為に使うのだという。


確かに、柱はおろか床にまで紋様が透き込まれた見事な作りだ。


「今後、使う機会もありませんが」


と奴隷商人。

元々、年に一回使うか使わないか、程度。

領主か帝国政府の要人くらいしか使わないのだという。


「異端審問官は、動きを気取られるのを嫌い、船を拠点としておりました」


海嫌いの帝国で、一番船を利用する者達だという。


奴隷商人や市場の事務は別に建物があり、一般的商談は街で行う。

前領主は入荷を知らせ、港の資産から契約通りに代金が決算され、そのまま訪れることはなかった。


まあ、来れなかったのは、俺達のせいだけどね?

謹んでご冥福を・・・・・俺が祈っても浮かばれないか。


「ご領主様の資産はこちらにございます。むろん、ありとあらゆる面で守られております故、専門職以外の目にも触れておりません。言葉であれ何であれあらゆる汚濁から遠ざけて育てられました逸品です」


一際、大きな扉。館の真ん中あたりの見当。


相変わらず、凄い細工だな・・・・・・オーストリアの、あれ?教会とかじゃなくて、現代建築で見た、ような・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・後で映像チェックせんと。

俺の場合、ベレーと徽章にカメラが仕込まれている。

もちろん、データに手は出せない。


三佐をノせればなんとか。

あの人もこういうの好きだしな。


え?ここから先は人数制限?無菌室?

「ん」

元カノチェックはOK!

なら、俺と曹長、シスターズは離れないし、歴史家は来るよな。

おい!

神父と元カノ!

お前らもかよ!!




【太守府/港湾都市/奴隷市場の館/奥の間】


あたしは膝蹴り。

掌底を入れたが軽い。うねうねと勢いを殺しながら、飛び跳ね、奴隷商人を盾にした。


「ジャストモーメン!」


あたしは半身に構えて回り込む。

相手も商人を盾に身を隠す。




【太守府/港湾都市/奴隷市場の館/奥の間】


わたくし、意識が飛んでしまいました。


ねえ様と道化の息詰まる攻防!

扉の中を見た瞬間、両手両足を開き、奇声を上げた黒い陰!


「HARYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!!!!!!!!!」


コレ、やっぱり獣人じゃありません?


・・・・・・・・あら?わたくし?何かから視線をそらしてしまった――――――――――ご領主様!




【太守府/港湾都市/奴隷市場の館/奥の間】


わたしは、耳も目も聴こえなくなってしまいました。

ただ、わかります。

ご主人様だけが。

そこにおられると。

なのに、なぜでしょうか?

大変な事が起きている。

ご主人様が、消えてしまうような、予感。




【太守府/港湾都市/奴隷市場の館/奥の間】


エルフの少女たち――――――――――ではない。


俺がいつも見慣れている姿と違い、歪だ。


だが、不快ではない。

いや、快を引きずり出す、不自然で暴力的なまでのカタチ。


朱い髪、碧い髪、翠の髪、橙の髪、そして、白い髪。

年の頃は十代、前半から後半。


特徴的な耳と耳飾り。

飾りは髪の色に合わせ、突き出した耳からさがっている。

ピアス、ではない、な。


スタイルはバラバラ。

豊満、華奢、長身、小柄、大なり小なりメリハリがはっきりしている。


共通している。

水蜜桃のような、瑞々しくも密度のこもった柔らかさ。

――――――――――の印象を突きつける――――――――――ような薄物をまとう。


肌の輝きを確認できるように。

肢体の形が見えるように。

だがしかし、一番価値があるところは決して晒さぬように。




【太守府/港湾都市/奴隷市場の館/奥の間】


あたしは耳を疑う。


謎の激情に駆られた。道化を殺そうとした、マズッ、と思った時はかわされていた。

まあ、良いんだけど。


「チョ!オマ!!」


なんて言った、の。


「Repeat!OK!!」


あたしは黒い顔を握りしめながら、理解した。





文字が読めるか?





青龍の貴族は尋ねた。


熟練の調教師に社交のすべを刷り込まれ、入念に心構えを与えられ、練習に練習を重ねていたであろうハーフエルフの奴隷達。

少女たちは一斉に奴隷商人を見る。

が、道化が背後から巻きつき(?)視線でさえ正解を示せない。


背後にいた白い髪のハーフエルフが、ためらいながら頷いた。

青龍の貴族には伝わらない。

ただ、気づかれた。


その視線を受けて固まる。


「おっしゃってください」


あの娘がとっさに促した。


「遠慮せずに、貴女の意志を言葉で」


遠慮ではなく、恐怖だろうが。

あの娘の配慮に気がついた朱髪のハーフエルフが受けた。


「よ、読めます」


慌てる。


「文字は読めます。ご主人さま」


頭をたれ

「顔を見たままで」

妹分が止めた。




あたしも、遅まきながら、気がつく。


青龍の貴族は表情が変わっていない。


館の柱や床、扉の細工を見る目と同じ。

とても、愉しそうな、視線。




【太守府/港湾都市/奴隷市場の館/奥の間】


俺は背後でぶつくさと言っていた声(絶叫)が静かなのに気が付いた。



いや、


「こーいう絶世の上玉がいるならいるって言いなさいよ!!脅威も悪意もなかったってんじゃなくてさー!!!」


魔法使い締あげるなよ、とか、


「つーか、家族ばれが怖くて妾を迎えにこれないって!帝国の恥が!!!」


いや、おまえが、帝国の名前で前領主を罵倒すんのか?とか、


「えーい!アタシも十代だったら!!!」


無茶言うな!日本の十代にこんな美少女がいるか!つーか、ハーフエルフがいねーよ!!

とか大騒ぎしていたんだか。


突然の格ゲー展開もあり、フリーズしていた。

俺が。


「ん?」


M14に銃剣を付けていた元カノがいそいそとよってくる。

なにしてやが「ライバルを刺突しようかと」――――――――――――――――――――ダメだコイツ。


「女なら当然だよ?男を穫られるくらいならね」


現地化?違う。

ダメな方向にハイブリッドしてやがる!

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・まあ、キメラの処置は後回しだ。

ハーフエルフ達を見回した。

いや、正直、全神経が背後のヤンデレ(M―14銃剣ver)に向けられていたが。


血の涙。

こんな人生最初で最後のお宝映像をガン見で記憶できんとは!

いや、大丈夫大丈夫。

チラ見した印象だけであと半世紀は戦えるよ!!


「採用!」




【太守府/港湾都市/奴隷市場の館/奥の間】


あたしは、いや、みんなが呆然とした。


なんと言ったのか?




臣下に取り立てる。





解放奴隷どころじゃない。

上にいるのは青龍だけ。


もちろん、聞き直す者はいない。


あの娘と妹分が必死に身振り手振り、目くばせを交えて制止。

青龍の貴族、その感情の機微を読み取り、伝えられるのはあたしたちしかいない。

逆鱗に触れれば最低でも街が消える。

すこし触れれば殺される。


まずは最初の常識。

青龍に訊き直せるのは、耳が不自由な者だけだ。

奴隷たちは、必死に妹たちを見ている。


新たな指揮者を。




【太守府/港湾都市/奴隷市場の館/奥の間】


俺は息をつく。

接収資産とはいえ、しまっておくわけにもいかない。

換金する気になれないし、第一、奴隷売買は異世界不干渉の国連原則違反。

即銃殺。


だから軍属扱いが一番なんだが。


読み書き会話に不自由がない

帝国公用語にこの土地の言葉を含む、複数の。

訊けば、フィクションを含む本を読み、日記まで書いていた。


ただの手伝いでもよかったが、こりゃ掘り出し物だ。


俺たちは魔法的な力で現地のあらゆる言葉が伝わるしわかる。

逆に、現地人にも地球の言葉が伝わるしわかる。

そこにある落とし穴。


ニュアンスの問題。


どうも、元カノの話を聞く限り、お互いの意思が伝わり方に反映しているらしい。

主体の意思だけならともかく、受け手の意思、印象?に影響されるから厄介だ。


『たのむ』

『やれ』

と伝わっているような。


ここに文字表現が絡むと、書き手の意思や置かれた状況が影響している可能性も否定できないとか?


『おしらせ』

と書いたら

『布告』

と読まれているような。


魔法チックすぎてどうにもこうにも。

元カノは指揮してる時の違和感で気が付いた。

私兵集団の連中から筆談などを交えて聞き出して修正中らしい。

大陸全土からの寄せ集めで多言語のるつぼ、しかも、他の文化と付き合う経験が豊富な連中だから、頼りになるだろう。


国連軍事参謀委員会でも元カノの黒旗団の情報を吸い上げ中。

つまり、公式な対策はいまだならず!


だから、複数言語を読み書き会話できるこの子らはえらく貴重だ。

現地向けの文章は全部チェックしてもらおう。

常にそばに置いて、言葉遣いをチェックさせるのもいいかも・・・・なんだよ。


「邪な気配がしてね」


それはあれか、年若い美少女たちを殺意の視線で睨めまわす年増・・・・OK!わかった。協力してくれ。


「なになに?」


あの子たちに装備を。


「マメシバ!」


無言で飛び出し敬礼する三尉。


「アタシの制服人数分!」

「ハナコ三尉!埠頭に戻り備品輸送にかかります!」


踵を返して走り出す。


「マメシバの輸送!」


元カノは後を追うドワーフに怒鳴った。

ドワーフは力こぶを作って応諾 。


「ひゃ」


担がれたな。


「ご領主様」

ん?

「署名願います」

おう。


奴隷商人が下がると、シスターズが五人のハーフエルフを連れてきた。


跪く。


凄く緊張してるな。

全身が紅潮して、あれ?涙目?

瞳に力はあるし、うーん、さっき怖がってた時の涙が残ってるのかな?


それが大変にエロっぽい。

美しさとなまめかしさに、気圧される俺は小市民です。


「「「「「ご主人さま」」」」」


はい。


「「「「「始まる前から、終わりの先まで、我と我が身のすべてを捧げます」」」」」


いや、国連軍て辞められるからね?



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