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完全侵略マニュアル/あなたの為の侵略戦争  作者: C
第十章「異世界の車窓から」

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観光

【用語】


『赤龍』『帝国』:地球人と戦う異世界の世界帝国。飛龍と土竜の竜騎兵と魔法使いを組み合わせた征服国家。70年ほどかけてユーラシア大陸に匹敵する面積を持つ大陸の東半分を征服した。特段差別的な国家ではないが、エルフという種族を絶滅させる政策を進めている。


『魔法』:異世界の赤い目をした人間が使う奇跡の力。遠距離の破壊、伝達、遠隔視、読心などが使える。魔法使いを帝国では組織的に養成しており、貴族に準ずるものとして扱われる。





第13集積地における「人に準ずる者」たち。

自由を奪われ、強者に従属を強いられる、虜囚たち。


帝国軍。

騎士と兵士。





かれらは、敢えて領民から意識を逸らせた。


目を凝らし、耳を澄ませる。

それと知られぬように。


しかと理解はしていない。

しかし身に付いてはいる。


敵を知ることは大切だが、より大切なのは、敵にそれと知られぬこと。


知ったと知られれば、裏をかかれる。

知られぬままに知りさえすれば、裏をかける。


それが容易いわけではないが。


捕虜となる。

世界最強の帝国軍を、虜囚とする。


青龍。


すなわち世界で一二を争う敵に、捕らわれ囲われ近づける。

そんな最高の戦機を逃すほど、間抜けなわけがない。

異世界最強の帝国軍。


ましてや、聖都付近の帝国軍。


帝国史上最も困難な殿。

帝国史上最悪の敗北の中、帝国史上最高の頭脳が、帝国最高の一軍をしつらえた。



観察者。


魔法慣れした者。

魔法戦闘に親しんだ者。


魔法使いの援護・支援作戦経験者。

身内や友人知人に魔法使いが居ればなおよし。


どの敗走でも殿部隊は厳選されたが、聖都付近はとくに質が高い。

元々の駐留部隊から選抜されただけではなく、再編成敗走中の部隊からさらに人材が派遣されてきたくらいに。


それだけ時間があった、ということでもある。

その時間を利用して、捕虜になる準備を整えた。


無数の領民の管理。

それを考えれば聖都が放置されるわけがなく、青龍の進撃路上ではなかったがゆえに接触が遅れるのは自明であったからだ。


帝国史上、つまり異世界史上最高。

捕虜になるために産まれた軍。



それが役目を果たせぬわけがない。



知り得たなにかを外に持ち出せるか、といえばそれは怪しい。

青龍は人の心を暴く技を、多量に気軽に使い尽くす。

行動それとて、無数の使い魔に見張られている。


見張られてる、というよりも、観察されているのだが。

青い龍の意図などどうでもいい。


秘密を守ることなどできはしない。

ましてや知り得たことを、本国本軍へ伝えるなど至難の業。

ただ伝えるだけでもそれなのに、伝えたことを隠すとあればなおのこと。


それもまた、どうでもいい。


帝国軍にとって、知り得たことは、次の戦に生かせばいい。

たった、それだけのこと。


次の戦争の為に。

次の次の戦争の為に。


世界を征服した後は?

宇宙を征服すればいい。


ただそれだけのこと。


それで済まない者たちが、とても近くに居るのだが。

それで済ませる者たちに、それが気づけるわけがない。




領民。

怯え、恐れ、震えて、固まる。

幾百の女たち。


皆が皆、街道端の路面にはいつくばる。


瞬く間に、数十の女が殺された。

街道端に槍で串刺しにされ、矢で射貫かれ立ち並ぶ、女型の肉塊。


苦鳴が必要なくなり、邪魔になった。

故に矢で射抜かれた。


斬り刻まれた後、女たちの中に突っ伏す女型の肉塊。

悲鳴がいらなくなり、耳障りになったのでトドメを刺された。


街道の中途で大半が力尽き、路面で喘ぎ震えるのみ。

槍で首を貫かれ、馬上から鉤縄でひっかけられ引きずられ、街道端に投げ込まれた。


端で地に伏す女たちは、固く目を閉じ自らの手で口を塞ぐ。


彼女たちが生き残る方法。

見下しすらしない相手の意を迎え、その邪魔をしないこと。


そう勘違いしているのだ。

同朋が殺されたばかりで、なお。


殺されたのはなぜか。



街道を空けるために女たちを誘導する役割

――――――――――悲鳴と斬撃。


街道をはみ出して女たちが地雷原に飛び出さないように止める役割

―――――――――――苦鳴と串刺し。


終わったから、音を止めた。

道を開ければ用は無い。


始まったから、音を止めた。

気をそらす者に用は無い



殺される者たちには、そんなことは判らない。

だから彼女たちは、生き残る方法を創る、信じる、裏切られてなお、闇雲に。


それを見て尋問させたUNESCOの学者たちが、あるいは宗教の芽生えではないか、などと議論しているのも知らず。




帝国軍は耳を澄ませ、目を凝らす。

こっそりと、さりげなく。


二人一組。

近くに立ち、ある者は座り、また騎乗のまま。

互いの位置を記憶するのは各自と指揮者。


同じ所。

同じもの。

別な者。


別な所。

同じもの。

別な者。


音。

動き。

気配。


通りすぎる青龍。

見聞きできたことを、皆で組み合わせて考える。

最優先、ではなく、それだけを。



普段の帝国軍なら、領民たちに関心を払う。

何時の時代でも模範的な歩哨が、なにも異常が無い虚空に注意を払うように。

それが己とはまるで違う無力なモノであろうと。


たかだか民に過ぎない。

だから斬ろうが刺そうが、どうでもいい。


任務と矛盾しなければ、よし。

任務の役に立てば、なおよし。


それだけだ。

それだけだから、一応、警戒しないこともない。


何故か怒らない。

何故か逆らわない。

何故か反抗しない。


怯えて震える領民たち。



暴動の気配があれば判る。

しかし、今はない。

滅多にない。



領民はまずもって、自分たちで殺し合う。

自らの血に酔った時しか暴れない。

牛のようなものでしかない。



いまもそう。

帝国軍の感覚は屠殺場の牧童に近い。


牛や羊が反乱を起こす?

それを心配するほうが異常だろう。


故に帝国軍は建前上、領民による事故を防ぐために注意する。

だが内心では領民、反乱の可能性を疑い続けている。


おとなしく殺され、おとなしく順番を待つ、領民。


それが擬態である可能性は、万に一つも無い。

だが帝国軍は油断しない。


万と一回目が今かもしれない。

そう考える。


むしろ反乱なら帝国軍には理解しやすい。

従順に殺されるより、納得がいく。


まずもって、自分ならどうする。

そう考えるのは、異世界でも騎竜民族でも変わらない。

まさに、相手の身になって考える。

なら?


殺されそうになるならば、その可能性が有るならば、殺されないうちに斬りかかる。


敵の強弱など関係ない。

命がかかれば当たり前。


死なば元々勝ったら儲け。

敵を疲れさせるだけでも死に甲斐がある。


帝国軍、いや、その根幹である騎竜民族にとって、当たり前。

それが異世界全体では当たり前ではなかった。

それは地球世界でも、同じなのだが。


とは言え、それに慣れるわけでもない。


「つまるところ騎竜民族は地球人と異なり、ありとあらゆる存在を『対等な者』と感じる病弊を患っている」

とはUNESCO社会病理学者の診断書。


例えば、それが無駄になったことしかなくても。

いつかのために、永久に備え続けるのが帝国軍。


だからこそ、例外だ。


街道上の帝国軍が、領民に対して隙を造るなど。

危険性を無視するなど。


しかし、それは作戦のため。





眼を凝らし、耳を澄ませる。

それを押し隠し、目立たぬように、全感覚を研ぎ澄ませる。

近づく青龍に向けて。









【聖都南端/白骨街道/らんどくるーざーの中/青龍の貴族の右隣/エルフっ娘】


あたしは彼、青龍の貴族を視ていた。

それは気になるから、ってだけじゃなくて、外を見たくなかったから。


慣れ親しんだ場所の、変わり果てた光景。

楽しくはない。


あたしが知っている場所につれてこられた。

嬉しくはあるけど。


それは自分の知識や感覚が必要とされるということ。

それはつまり、普段の関係。


訊かれる彼。

あたしが答える。


まずそこから始まった。

あたしと彼、青龍の貴族。


それはそれは甲斐の在ることだけれど。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・それで終われませんでした。



予想してなかっただけで、後悔はしてないわよ?

あたしの中で、あの娘が一番大切なのは変わらないしね?

それは彼にもことあるごとに、釘を刺されているしね?




おまえは、まもれ。




いったい、どこで、しられたのやら。

べつに、あたしへの興味だけで知ったわけじゃないんでしょうけれど。


知りたがり屋の青龍が調べぬわけがない。

戦の最中、これから乗り込む土地の、王国のこと。


青龍の魔法。


地の果てのことすら見聞きして、いつでもそれを取り出せる。

過去のことまでさかのぼって、いまの如く繰り返せる。


それでもいっそ、すがすがしい。





きっかけがなんであれ、知ってもらえる。

それを覚えているってことは、感心があるということ。

彼自身が興味をもた無いと、無視する人なのにね


関心を持ってもらえて、出会うことができて、求められて、応えることができた。

ほんとうに、ツイてる。


あの娘、あたし、妹分。


誰も何も隠せない。

隠したところで気にもされない。

隠す必要もない。

伝えなくとも知られてる。


欲を言えば?


あたしのことを訊いて欲しいし。

あたしのことを調べてほしいし。

あたしのことを知ってほしい。


青龍相手じゃ無理なのよね。


あたしが知っていることは、何もかも知られている。

それを気にされていないことはあっても、知られないことはできない。


だから彼は、あたしすら知らないことを、あたしのことを、弄り倒して遊ぶのよ。

まったく。


そりゃ、青龍からしたら、仕方がないのでしょうけれど。

まあ、いいことにしてあげる。



あたし自身が彼を楽しませる関係。

それがこんなに嬉しいなんて、ね。


産まれてから一度だけ、最初で最後に知る喜び。


あたしはとても、幸運だ。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・愉しまれかたに、不満が無いわけじゃないけれど。


不満だけど。




【国際連合統治軍第13集積地/白骨街道/ランドクルーザー車内/中央席/青龍の貴族】


俺は時折、窓の外を見る。


窓と俺の間に居るエルフっ子。

その視線にビビっているのではない。

なぜに俺をガン見しているのか。


なにゆえに?


そんなことを訊くのは素人であろう。

男は黙ってスルー推奨。

よくあるよくある。


よって、異世界の車窓から。



白く舗装してされた道。

―――――――――――――――――――――――砂利が砕かれた人骨ってのは、アレだが。

明るい陽射しに白い雲。

――――――――――――――――――――――――窓を開けることができたら、さぞ気持ちが良かろうに。






無数の人骨。

溢れんばかり。


骨と判る形をしていないのが何よりです。


造られてからまだ半年もたっていない。

今日も増え続けています。


埃として吸い込みたくないので、窓はしっかり閉じてます。


今日は少ないかもしれない。

パージが行われたら、最低でも1万人分の人骨、の材料が生成されるので。


100%自然物で、体に害は無いですけど気分に響くので。


伊達に百万人以上の徴集領民が居たんじゃない。

半減したには意味がある。


いえ、大半は帰郷したんですけどね?


大変残念に思います。

帰郷できなかった人たちについては。


ええ、国際連合的には人ではないですけれど。

でも、残念なことには変わりません。

そりゃあなた。


森へお帰り~♪


っていうのは作戦目標なんですから。

今のところ。


日本国憲法体制に忠実でな自衛官諸氏、含む俺。

基本的人権と平和主義と主権在民にのっとりつつ、前文の国際協調主義イコール国際連合中心主義と現政権が解釈している中。


異世界住民という自然物を在来環境へ返すことに全力全速です。


早くしないと気が変わるかもしれないしね。

絶対に受け入れにくい方向に変わるに決まってるからね。

軍隊類似組織としては日本人の利益にかなうなら受け入れるしね。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんであれ命令があれば受け入れる可能性もなくもないというよりおおいにあるが。




俺はともかく置くとして。

俺が受け入れなくてもなんも変わらんが。

俺も真面目な自衛官(みんな)の足を引っ張る気は全くない。


よって幸いにも、森へお帰り~♪できなかった自然物(いせかいじゅうみん)は日々それほど増えてはいない。




どうしてこうなった。

いや、聖都と周辺の管理を帝国軍に任せているせいだが。

俺たち国際連合統治軍が。


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