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完全侵略マニュアル/あなたの為の侵略戦争  作者: C
第十章「異世界の車窓から」

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356/1003

幕間:設計思想/architecture identity.



「国際連合の活動は広く多世界の皆さんの理解にささえられております」


《国際連合総会における事務総長スピーチより》




挿絵(By みてみん)


『居住区』

:第十三集積地徴集領民居住区。正式には「第001~100鹵獲品集積地」。方形の区画を地雷原のキル・ゾーンで囲み、その四隅に出入り口とそれを管制する自動機銃とオフェンス・ゾーンがある。

一区画1万人前後が収容され、現在は半数が解体済み。


様々な理由で区画居住者が居なくなることはよくあり、その都度、生き残っている徴集領民たちが後始末を行う。


もちろん、一番多い解体理由は「該当区画居住者の帰郷完了」であることはいうまでもない。二番目以下の理由について防衛省は「把握していない」とコメントする予定であり、国際連合広報部広報官が本日話す言語の選択を事前にあてることができた質問者もいない。


なお防衛省に異世界関連の質問するメディアはなくなった。

要約すると「把握していない。外務省を通して国際連合に確認中。回答遅延は遺憾」としか反応しないので、記者クラブすら質問しない。


それでも配布資料に基づいて国内メディアのニュースは流される続けており、海外メディアの日本支局はそもそも日本の官公庁に取材しないので誰も困らない。



居住区は元々、帝国が区割りを行い、粗雑な柵で仕切り管理目安にしているだけの区画だった。国際連合統治軍管理に移行してから、その命令で領民自身が改装。

本来中央に広がっていた宿舎を解体して居住地外周へ移設。2~3階建ての集合住宅形式として外壁を兼ねる形に成型。


その後外周に地雷が散布され、自動機銃が配置された。


領民たちは少数化した帝国軍経由で下された国際連合統治軍の命令に、極めて熱心に従った事実が確認されている。

作業慣れして組織化された労働力ばかりで、作業量に対して過剰に投入された豊富な人員資材を使い瞬く間に完成した。


こいした作業命令の全ては国際連合統治軍到着直後、その直後に行われた。

生き残った異世界人全員が、ホスゲンオキシム/CX gasの威力を様々な音声とともに直接試聴した後、のことである。

同じ立場でありながら従わなかった人々が一万人程度、生き腐れて行く光景のことを指す。

※第226話<ホスゲンオキシム/CX gas>



『パージ』

:「切り離し」「分離」の意、転じて国際連合管轄からの分離措置。

国際連合統治軍の用語。


パージは基本的に自動制御で行われる。

「居住区区画内対象者無作為自白剤検査で国際連合への敵意が認められた/その可能性が否定できない」場合。

「居住区外壁、オフェンス・ゾーンやキル・ゾーン突破の動きが認められた/その可能性が否定できない」場合。

「捕虜(帝国軍)に沈静化困難な騒乱状態が認められた/その可能性が否定できない」場合。

これらは哨戒気球他の監視体制が居住区内部動体の移動パターン、移動速度、居住区内分布などにより判定する。

その他、機械判定に寄らないのは「管理権(集積地司令官や軍事参謀委員会など)が適当と認めた」場合。



どのような場合においても説明や警告、予告は無い。経緯確認の調査が行われることもあるが、パージ判定には影響しない。調査する場合、自動システムの起動シークエンスを一時停止することもある。その権限が管理者には在り、撤回する権限はない。



第13集積地では一区画(収容者一万前後)単位、主に塩素ガスが使われる。

特に居住区には改築時点でボンベと噴霧器が設置済み。その時点での地形に合わせてエリア分けして複数個が配置された。もちろん起動時には当該時点での気候(気温・湿度・大気密度・風向きなどの12時間前からの推移)をもとにして単純なプログラムに従う。

基本的パターンとしては、まず外周宿舎内で低濃度ガスの噴射が始まる。宿舎は居住区内側に対して出入口があり、外壁側が地雷原であることは広く知られている。致死性のない塩素ガスにより動けるものは全て居住区内側屋外へ移動する。特に低濃度ガスではすぐには肺喉への侵蝕はなされない。多くの音声(悲鳴や警告、救難要請)で実態以上の誘導効果を発揮する。

ほぼ無人になったところで宿舎内には高濃度ガスの撒布が始まり、宿舎の半密閉環境そのものが居住区を囲む檻となる。常態に置ける単なる木製の壁を越え、自動機銃を予備待機で利用することなく完全な隔離が完成する。

標的の移動に伴って低濃度ガス噴射は順次外寄りから内側へ進行。標的大半の移動が完了したエリアには高濃度ガスが散布。

最終移動地点である居住区中央生活物資倉庫へ全標的の自発的集結を促す。その後、倉庫上から最高濃度ガスが撒布される。


段階を踏む理由は標的を効率よく外壁から一番遠い場所にまとめる為。

自暴自棄になった群衆が外壁突破を図った場合に、自動機銃の弾薬と銃身、周辺地雷が消耗するのは望ましくない。塩素ガスの最大摂取領域に集めることで作業時間を最短化する。三次工程における作業効率を上げて、動員労働者の負担を下げる。

などなど最終結果には何一つ影響しないが、今後の応用を踏まえた試行錯誤を兼ね効率を追求している。


ここまでが一次工程。


その後3日間放置して自然希釈や加湿(水)分解で塩素濃度が下がるのを待つ。すると中毒死しなかった者が動き出す場合がある。

最終的に集合死する為に死体に押しつぶされるなど、偶然にガスが薄い場所に隔離される場合があるのだ。

これを自動機銃で狙撃。もちろん赤外線走査で位置は最初から特定されているのだが、徹甲弾を使用するがとはいえ外壁を貫通して撃つので命中率が悪い。動き出してからのほうが射撃効率が良いので間をあける。

概ね三日ほどかける。


ここまでが二次工程。


そして塩素濃度の安全基準を確認。

第一次世界大戦ではしばしば塹壕や着弾跡にガスが滞留していたが、居住区はほぼ平らなので問題はない。宿舎は掃討射撃で穴だらけなのでほぼガスは抜けている。

偶にしか犠牲が出ない安全な作業として、各居住区から分担で動員し、最終処理を行う。一区画の整理に毎日2万人前後を後退で当たらせ、概ね一週間程度。二人で一体運び出せば撤去には一日程度しかかからず、木造宿舎解体に二日。回収資材の整理に三日。運び出した一万体余りを焼却し道路資材に換える作業は並行して行われ、ほぼ同時期に終わる。


ここまでが三次工程。

三次工程では広く複数の居住区に分担を命じる。それにより広報コストをかけず全員に「どのような結果が起きたのか」という認識を共有してもらうためである。つまり「百聞は一見に如かず」の実践であり、収容者が主体的かつ自主的に国際連合統治軍の作戦目標に従属するように理解を促すこと。


それはパージのトリガーを起動させないことにつながるので、新たな犠牲を防ぐための人道的配慮でもある。





挿絵(By みてみん)



挿絵(By みてみん)




『居住区出入口』

:方形区画の四隅に設置。

四隅にした理由は二つ。

実際の居住区から街道に至るオフェンスゾーンを長くとること。

居住区同士の交点がなす十字路に自動機銃を集結させて相互支援体制を作ること。


十分な必需品が蓄えられ水源が確保されている居住区からの出入りは多くない。区画整理のような大規模作業がある場合も、居住区領民の一部が選抜されるだけである。


一番多く出入りするのは帝国軍巡察隊と出入り商人となる。


国際連合統治軍は居住区の出入りのみを管制する。

居住区内の存廃時以外、原則、内部に干渉しない。

内部での作業命令、外部動員もすべて帝国軍経由。


哨戒気球や偵察ユニットによる監視はさているが、パージ(居住区廃止の第一段階)まで含めてプログラムに任される。機械判定でパージが開始されると自動的に帝国軍捕虜へメッセージが送信され、ガス撒布と効力判定に最適な時間帯を特定、プロセスが開始される。


一応、CICの当直は確認するが、本当に見ているのはUNESCOの研究者くらだろう。




居住区の監視哨は内部の領民が設置したもので、国際連合統治軍も帝国軍も関与していない。

特段、推奨も制止も確認もせず。


その監視哨は多くの場合、出入口近く居住者宿舎の高台に設置される。


見張り役は居住者の中でも目と耳が良いものが選抜されており、国際連合統治軍の監視が目的。

理由は巻き添えから逃れる機会を増やすため。


通りがかりの地球人、その動向はまったく無関係な居住者には予想すらつかない。そしてその結果、自動機銃が起動したりガスが散布されたりする。そうなれば当然、最寄りの居住区の外壁側、つまり人が住んでいる宿舎に銃弾砲弾致死性非致死性ガスが流れ込み、巻き添えにされる。


狙われたら逃れるすべはないが、無関係な流れ弾なら逃げることが不可能ではない。




よって監視哨の見張りは異音(車両、航空機・ヘリの音)に気が付きあるいは姿らしきものを感知すると皆に知らせる。

領民たちは地球人を刺激しないように物音を極力抑え、口伝えと身振り手振りで避難開始。

居住区中央、あるいは地球人が通過する側から正反対に身を寄せ合う。


春になり気候が穏やかになったことで、夜中まで宿舎に戻らない者が増えているのはそれが理由。

外郭沿いの宿舎は、一番流れ弾を喰らいやすいから。


このプロセスが地球人来訪後一月ほどで完成したことを、UNESCOの文化人類学者は驚異的と評している。異世界人のポテンシャルは、やはり地球人類よりはるかに高いのかもしれない。


それでも最後に宿舎に戻るのは、宿舎を建てさせたのが国際連合統治軍の命令だったから。

それは単に、ガスを居住区内にできるだけ閉じ込める工夫でしかないのだが、そんなことはわからない。居住者たちはほんの数カ月で「ある日突然、一夜にして、居住区一つ1万人が皆殺しにされる」ことになれており、その後片付けをする関係で今も起こり続けていると判る。




徴集領民たちには、事前最中事後、何が生じても説明はされない。

そもそも全て、帝国軍から指示されるので地球人の姿を見ることすら、ほぼない。

帝国軍の上に立っている異質な支配者が


「黒い髪と黒い瞳、肌が色づいて青い旗を掲げている」


それだけだ。

それすら、例外的に直截見聞きした者からの伝聞だけ。


日常は居住区内の耕作で過ごすよう帝国軍に命じられているが、元が農民なので収穫が見込めず無意味とわかる。

時折居住区の後始末を命じられれるので、自分たちに「価値が無い」とみなされていることだけはよくわかる。




それが生み出す自然な反応。




国際連合統治軍(せいりゅう)の意図を推測し、刺激しないように身を慎み、今まで生き残れた間と同じ生活を続けようとする。

それを乱すものがいないようにお互いで監視して、それが居れば、そのように疑われれば、皆の手で皆に見守られて地雷原に放り込まれる。


その手で殺してもいいのだが、あえて国際連合統治軍の仕掛け、彼らが言う青龍の魔法にあてる。

自分たち自身への戒めとして。







国際連合統治軍第十三集積地CICオペレータ(仮名)森少尉の言葉。


「人間は解りあえるものですよね」






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