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完全侵略マニュアル/あなたの為の侵略戦争  作者: C
第二章「東征/魔法戦争」

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素晴らしき哉!人生!!

・・・・・, tanah airku

Tanah tumpah darahku

Di sanalah aku・・・


・・・我が祖国よ

汝のために我が血を流そう

母なる大地を守る・・・・・・




【1965年9月30日/ジャワ島】


両手の平を染める赤は血液の色。


人間の血。


己の血ではない。

無縁の血でもない。

真っ赤で流れて広がる鮮血。

無数に広がる血と骨肉の海。


両手。

両腕。

足元。


体中に染み渡る赤。


生涯漂う匂い。

決して拭い得ない色。

死してなおまとわりつく景色。


瑞々しい赤で髪をかきあげた。


深く息を吸う。

少し、微笑んでしまった。

感傷的になっている自分など想像出来なかった。


だが今、頬を伝う涙を感じる。


ただの汚れに過ぎない。

早く体を洗わなければ臭うだろう。

武器に付いたままなど有り得ない。


ただのモノ、液体に情を感じるなど。


だが。

しかし。

今、ひとときは許されたい。


笑い出す。

口に鉄錆の味が広がる。

鏡を見ればその姿がみえるだろう。

可能なら我が身の姿を永久に記憶に焼き付けたい。

だが、残念だ。


敵の命。

敵の死。

敵の血。





素晴らしき哉!人生!





浄められたる我が晴れ姿!


我れ立つは正義の証!


其は我らの誇り!



姿を映す事はできない。残念だ。

水辺はすべて埋まっている。


ああ!


配慮が必要だ。

生き残りがいれば、ゴミ掃除をさせなくては。

生き残りが、いれば。


自分のような未熟な兵にすら容易くなしとげられる。

それなのに生き残り?

ああ、やはり、無理かもしれない。

だが、まずは。


和気あいあいとする同朋に手をふった。


笑いながら。


みな、自分の身を案じて、少しぎょっとしたが、すぐに伝わる。

笑いで応えた。


奴ら如きが我らを傷つけられるわけがない。

我らは正々堂々!正面から駆逐するのだ。




【日本/東京/千代田区永田町1丁目7-1/衆議院第一委員室】


「つまりこういうことですかな。魔法は距離に影響を受けない」


距離というのはあいまいな概念であり、むしろ空間と乖離していると考えるべきだ。


「・・・・・・・まあ、いいでしょう」


何が良いのか。


「つまり、遥か彼方の戦争が、いつでも本土に波及し得るということだ!」


現状で確認されている魔法の特性から考える限り、魔法使い自身が見ず知らずの場所に影響を及ぼすことはできない。


距離を置いた場所に影響を及ぼす場合、その範囲を特定出来る境界を視認する必要がある。

都市の内部を攻撃する場合、その外壁が見える場所に魔法使いを終結させ儀式を行う。


魔法の遠距離効果事例からいえば数百Km距離を置いた場所に情報を伝達したことがあるようだ。

その場合、伝達先に近親者の魔法使いを配置して送受信者とした。


それでなお例外的事例と記述されている。


いずれにせよいまだ検証に堪えない。


「では、本土は安全だというのですか?何を根拠に」


安全だなどとは言っていない。

危険とも言っていない。


いくつかの条件を満たせば大陸から地殻を超えて、いや、正確に言えば経路不明で、遠隔地に魔法を及ぼすことができる。


その魔法が危険か安全かは不明だ。


「だから本土が敵の攻撃範囲に入っているということです!いま!国民の生命財産が危険であることを」


どうでもいい。質問は終わりかね。


「は?」


短音では質問の趣旨がわかりかねる。


「どうでもいい、とは?」


重要ではない、という意味だ。

付言するなら、考えるべきは

『既存の物理法則が適用されていない可能性』

について、だろう。


「あたりまえでしょう。魔法なんだから!そんなことより」


何が当たり前なのか。

それが説明されていないので優先順位が理解しかねる。


「そんなことより!どうでもいいとはどういうことですか!!」


答えがわからないならそう言いたまえ。


「人の命がどうでもいいとはどういうことか!わたしはそう聞いている!」


危険はどうでもいいといいと言ったのだ。

言ってはいないが、人命についても同意する。


「な!」


私が考えているのは意味のあることだけだ。

もちろん、君に考えろとは言わない。

可能な質問は出尽くしたと了解する。


「どこに行く!」


異なる物理法則が共存し得るのか?

しえないのであるなら我々がどちらの法則によってここに在るのか?


それを考えることができる場所に行く。



※予算委員会委員長(与党議員)により休憩宣言。与党委員に誘導されより参考人は退出




【日本/全国ニュース】


衆議院予算委員会で判明した本土攻撃問題に関して政府は明確な回答を避けており、国内では不安の声が広がっております。


今回の疑惑追及が与党連合議員により行われたことから与党内部で幹事長への批判の声が上がっております。


内閣支持率は相変わらず不支持が支持を上回っており、野党側は攻勢を強める考えです。

この結果、政局は流動化の様相を見せ始めております。


では、次のニュース。

春の行楽シーズンにむけたおすすめスポットのご紹介です。




【日本/東京/千代田区有楽町1-7-1/有楽町電気ビル北館20階/外国特派員協会主催記者会見】


知事選挙における勝利は必ずしも国政における支持と一致してはおりません。

しかしながら、わが党の月例選挙情勢調査を見て、夏の参院選挙への自信を深めております。

衆参同日選挙に関するご質問ですが、議会政治家であれば常にいつどこでも選挙で支持を受け当選できるようにすることが肝要です。


たとえ、前回選挙の翌日であろうと三ケ月後であろうと同じです。



本土攻撃の可能性ですか。

すべての危険が全く存在しないなどということは申しません。

しかしながら、国際連合軍事参謀委員会の見解は皆さんさんご存じのとおりです。

わが連合与党内閣は繰り返しそれに賛同の意を表明しております。

まあ、なかなか報道されませんが。


(記者席から笑い声)


魔法を遠隔地に及ぼすには照準、例えば


『術者自身が標的地に精通している』


あるいは、


『誘導役の魔法使いが標的地に配置されている』


という条件が必用であると確認されております。


本土と大陸の間には、航空海上哨戒線を形成しております。

それを担ってるのは国際連合軍に派遣されている海上自衛隊並びに合衆国海軍第七艦隊です。

本土の位置は秘匿されていると考えてよいでしょう。


密入国の可能性ですか?

確かに、標的誘導役の魔法使いが入国した場合、本土が攻撃される可能性が生じますな。


しかし、かの地の方々にが独力で本土に到達する事は不可能です。

大陸との距離、並びに現地の海上移動手段を考えますと、そう、日本国内で組織的な手引きでもないと無理でしょう。


(笑い声)


むろん、長期的な地球本土攻撃の可能性を考慮しないものではありません。

それゆえにこその国連軍平和創造活動であると理解しております。

いえいえ、やられる前にやれ、ということではありません。


『人類社会を脅かしている勢力を安全化するのは国際連合の責務である』


という国際連合の判断に、我が国、わが党は賛同し協力するだけです。


むしろ今現在我々は前線拠点が大規模魔法攻撃にさらされる可能性を懸念しております。

その最大火力が203mm野戦砲1門ほどではありましょう。

前線兵士諸氏に任務を命じたる国の政治家として、最大限の支援をしたる後に、幸運を祈るものであります。

日々、様々な情報が集積されておりますので、新事実が判明した場合はその時点を持って対処いたします。


なお、与党連合内にて様々な意見があることについてご質問がありました

我々はすべての有権者の代弁者であると自負しております。

最終的に集約できるのであればどれほどの意見を内包しようと各々一党、一会派、一政権で何の問題もありません。




【太守府/港湾都市/倉庫街】


「いや、昔を思い出したのだよ」


褐色の肌、銀にも見える白髪。長身で引き締まった体は60才過ぎには見えないだろう。


「ワシも若かった時があるのでな」


目の前の少女のような年齢で歴史に参画した老人。


「言葉に不自由はない」


孫を見るような、まさにそのように、微笑んだ。

日本語は堪能だ。

独立戦争の英雄を父にもつ、と言えば日本語が得意であることの説明になるだろう。


インドネシア国家戦略予備軍から出向中の国連軍少尉。

全てを見聞きする為に派遣された日本の少女、いや、女性。


少尉は異国と同じように異世界を踏みしめ、足元を確認した。


ブルーシートに広げられた人体。

いわゆる人類(異世界の)であると見て取る。

少尉は耳や尻尾を確認する癖がついている自分に満足した。


路上、路地、そして屋根にドワーフと人間(地球人)の封鎖警戒線を確認。

さらに満足。


よろしい。

任務に支障は無い。

傍らの兵士に撮影させる。


彼は少尉と同じ国章を付けた馴染みの部下だ。

任せておける。


部下は手際よく死体の衣服装備を剥ぎ取り、横に並べていく。


他に二カ所。

一つは原型を留めていない。


別の部下がドワーフを遠ざけ、エルフと異世界人類に手順を教えている。

異世界では死骸の始末は奴隷か捕虜、駆り出された住民の労役だ。

だから、正規兵はそれを好まない。


だが、旅団員は元々が、あるいは今も感覚としては、傭兵団だけに、あまり抵抗がない。

とはいえ、略奪目的だから厄介だ。


だが、死体を扱う重要性は、だんだんと浸透している。

もちろん、個々人はおろか種族的向き不向きはある。

ドワーフなどあれだけ精密な金細工を創るのに、死体とハムを同じようにしか扱えない。


だが、新たな同朋は熱意がある。

不得意は得意に任せるなりに、理解し邪魔をしなくなる。


邪魔にならない!

素晴らしい!


少尉は称賛を内心に隠して喜んだ。


十分だ。

すぐに慣れるだろう。

次だ。


「あそこだな」

傍らのドワーフが頷いた。


倉の一つ、その上部にある開口部。

明かり取りなのか通気孔なのか、周りの倉にも同じような構造物がある。


周辺を含め、何者も潜んでいないと確認済み。


倉についている開口部の趣旨は後で確認する事にした。

異世界で戦うのだから、典型的な建物の知識を抑えることは重要だ。

いずれ来る市街戦の為に。


我らが彼らから学ぶ事は遥かに多い。


まったく幸運だ。

このような旅団を手にできるのは天性の軍人のみ。

それ上長として仰ぐことができるのが幸運でなくて何だろうか?


あるいは、彼女は『あの少将』に匹敵するかもしれない。


扉の前には緊張した現地人。

鉄の兜に革鎧、槍と楯は傍らの壁にたててある。

街の衛兵だ。


「ご苦労さん」


敬礼。


上官には意図的に尊大さを演じてもらっている。

だから、少尉が現地人に気を使う。


ほっと息をつく衛兵を見て、正確には腕と槍の血を見て、悪くない、と安心する少尉。

殺し合いの後でこの様子なら、邪魔にならない。


部下以外に足を引っ張られることは恐ろしいことだ。


そのまま破壊された扉から倉へ、その上に登る。

少尉はインカムを抑える。

骨伝導式というのはなかなかに快適だ。


「隊長」

『どう』

「巣穴です。一人なら10日の保存食に武器、数人が何日か閉じこもっていたのです」


乾燥した豆の類に弓、矢、替えの弓弦、剣が二本、ナイフ、狭い場所で長時間動かない場合に必須なクッション。

臭いは複数、染み着き方は数日以上まともな換気をしなかったから。


開口部から見下ろした。


「狙撃向き。この間合いなら弓でもいけますが、暗殺ならボウガンが欲しいところです」


部下の職分だが、死体の掌には弓の痕跡がなかった。

暗殺者、ではないか、あるいは弓以外を得意とするもの。


つまり、ここは待機場所だ。

見通しが良いのは隠れ潜み続けるための警戒用だろう。


『殺意はなかったって』


隊長のそばにいる魔法使いが報告したようだ。


「隠れていただけ、ですな。接触した兵も『単純に逃げ出した』といっております」

『逃がすよりマシ?』

「仰る通りです」


兵士の視線と一致するカメラの映像は確認している。

少尉は彼らの判断を支持する。


『何が必要?』

「面通しさせます。街のマフィアと衛兵から顔の広い者を一人ずつ」

『後は任せる。奴隷市場を見てくる』

「ならば」

『ん』


少尉は思う。


偵察ユニットに接続した魔法使いが、壁の分厚い倉に潜み、外を覗いてさえいない敵を発見。

包囲だけして、退路を断ってから捕獲、のつもりで掃討班が急行した。


だが気づかれた。

この立地条件と、標的の技術だろう。


屋根を逃げようとした標的を攻撃。

二人しとめるも一人が屋根を走り路上から見えなくなる。


射線を抜けた一人は偵察ユニット越しに、魔法使いが攻撃。

爆散。


敵(味方以外の意)に対処しながら、すぐに掃討班のドワーフが倉の扉を破り突入。

敵が逃げ出した潜伏現場確保。


少尉は、自分のミスを噛み締めた。

攻撃魔法のユニット越し行使。

もっとテストさせるべきだった、と。


生け捕りたかったが、まあ、仕方がない。


偵察ユニットを一台さいて追跡し続けても、手持ちの戦力で確保出来たか怪しい。


なるべく捕らえたかったが、あの高さから落ちれば死ぬ。

可能性にかけて脚を撃ち抜いた技量、なにより逃げられると判断し攻撃に転じた判断の速さを誉めるべきだろう。


それに成果は大きい。

死体でわかる事はバカに出来ない。

良い戦果だった。


少尉も旅団長も納得した。


いま、その先に導くべきは一つ。


『帝国の根がどこまで残っているのか』


今はそれ。


誇り高き異世界の敵は、ただ滅びる気はないのだ。

こうして、諜報員を残し続けるぐらいに。


「送信」

と、少尉はつい、呟いてしまう。

まだこの通信端末には慣れない。


急ぎの連絡は音声で。

報告書には急ぎではない所感を添えて文章で送るのだが。

だが、実戦こそ最良の訓練。

ほどなく、画面すら見ずに単文で部隊を統制出来るようになる。

少尉には、なすべきことをなしながら全体像を俯瞰する余裕すらある。


未熟ながら天性の上官。

チグハグながら熱意がある部下。

不甲斐なくも把握仕切れないが慣れていく自分。


まさにあの日あの時のようだ。


日本の友人に頼まれた時には確信した。

また再び、と。


我々は偉大なる歴史を創る。

経験から明らかだ。

あの日のように。


9月30日。


季節も街並みもまるで違うのに、同じ匂いがする。

強く。

より強く。

だんだん強く。



軍人とは何か。


人々を護る者。


同胞を蝕む毒虫を駆除し。

社会に寄生せんとする害虫を滅ぼし。

あらゆる獣を斬り伏せて新たな民族と祖国を築く。


老人は、楽しい時代、楽しい世界になったものだ、と笑った。



「さて」


振り返った。


「歴史の目撃者たるキミは大丈夫かな」


兵士に渡された水で口をすすぎ、気分はマシになったらしい。


「お手間をとらせました。申し訳ありません」


老人は、礼儀正しい子供は好きだ。

礼儀を知らない子供には礼儀を教えるので、すべての子供が好きなのだが。


「君はカタリベだ」


ドワーフ、獣人、異世界人類、地球人類。

周りに集い役目を果たす兵士たち。


「謙虚であってはならぬ。全てを見下ろしたまえ」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・考えます。


蚊のなくような、声。


老人は思慮深い子供も好きだった。

この子はきっと大成するだろう。

正義を自得するに違いない。



正義とは。


極めて楽しいもの。

最高に誇らしいもの。

素晴らしく報われるもの。


でなくては正義ではない。

老人はその人生の全てでそう理解した。


カタリベたるキミよ。

いつかキミが再び訪ねた時。

皆は喜んで晴れがましき日々を再演するだろう。




【とある歴史書の一節】


インドネシア国家戦略予備軍。


いろいろな見方はあるだろう。


である。

であった。

ではないか。


ここは異世界転移後の地球外惑星。

ここで語られるべき、転移前の文脈は一つ。


彼等は、とある政権において、大統領親衛隊に等しい存在であった。

その誕生から終焉までを見届けた。


そしてなによりも強調すべき事。


国内の特定民族とイデオロギーを絶滅させる為に活躍した。

アジア的謙譲に満ちた彼らは控えめに誇る。


せいぜい数十万の敵しか殺せなかった、と。


故に対象の根絶には失敗してしまった。

だが、その栄光は疑いえない。

その功績を祖国が賞賛し彼等自身が誇っているのだから。


公然と。

堂々と。

高らかに。


こんな例えがある。


世界大戦の勝敗が逆転したら、かのSSがどうなっていたのか?

知りたければ彼らに訊け。


とはいえ、SSと一緒に語れば彼らには嗤われるだろう。


彼等は歴史的勝者であり、そうあり続けるのだ。


その彼らは経験に基づいて、新たな歴史においてもその役目を自然と悟った。

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