連鎖侵蝕
【用語】
『正義』:宇宙の真理。なので当たり前だが付言しておくと「普遍」にして「不変」であり「不偏」である。誰もが産まれつき知っている。誰でも容易く実行できる。誰もが善く報いられる。正義と対峙する悪は「正義はいくつもある」などと相対主義を唱えて内なる正義から逃げ続けるのが一般的。
「見つけたら殺せ」
「前に進め、後に続け、声を絶やすな」
「殺せ死ね殺せ」
――――――――――繰り返し
老人は若者たちが好きだ。
だからだろう。
若者も、その老人に話しかけてくる。
異世界から学ぶことは多い。
そう、老人は思う。
この世界がどんな道をゆくのか。
それは自明のこと。
だからこそ、余計な手は加えない。
ただあるがままでいい。
だから今日も話をする。
高齢者という珍しい存在。
それを楽しむ若者たちを、また楽しみながら。
鍛えられている若者たち。
その姿を称賛する娘達。
憧れている子供たち。
ドワーフたちは地球式の訓練技術を身につけている。
適度に負荷をかけ、十分に休ませる。
同時に異世界式の戦闘技術は、端から身についている。
農夫農婦でも、人間程度は殺せるように。
地球の発想が無ければ、肉体に頼る原始的な武器成果を得るのに時間がかかる。
異世界の技術でなければ、中世準拠の住民たちには維持できない。
だからこそ二つの世界から、いいとこどりをしている。
老人が、そのように仕立てたのだ。
だから訓練に同行するときがある。
発案者としてその事項を検証する為に。
だから太守府のあちらこちらを行き来する。
軍政部隊による治安維持作戦に協力を求められたがゆえに。
だから村々で話をする時がある。
単なる雑談を求められたがゆえに。
国際連合決議による「異世界文化不干渉原則」には抵触しない。
老人にとって、老人が住まう世界にとって、ただの雑談に過ぎないのだから。
ほう。
キミはあの時、野盗に腕をおられたのか?
それは良かった。
うん?
ああ、そうか。
思いだせるだろう?
野盗に殴られた、その日その時その間を。
苦痛。
恐怖。
屈辱。
どうだね。
さ、皆を見たまえ。
キミが殺されかけたおかげで、誰かが、その苦痛を味わわなくて済んだんだよ。
嬉しいだろう。
素晴らしいだろう。
感謝したいな。
これを誇らず、何を誇るというんだね。
辛い。
苦しい。
恥ずかしい。
――――――――――そは、誉なり。
まあ殺されなかったのは、次の機会があるということ。
こんどこそ、だね。
そこのキミは、確か、奴らに凌辱されていたんだったんだね。
どうだね、奴らになりたかったかな。
奴等に与して、キミたちを虐待した女の最期は見たのだろう。
ああ、見てはいるが。
その場には無くてね。
脳幹を撃ち抜かれた頭というのは、見慣れているのだが。
ほうほう。
軍政司令官がね。
それは楽しみだ。
是非聞かせてほしいな。
わたしはまだ、それを誇ることができなくてね。
いやいや。
今までの戦いでは、我々より強い相手とも戦っていたのだよ。
はは。
悪とは敗北を約束されたモノではあるが、弱いわけではない。
だから、機会はあったはずなのだ。
おいおい、ひどいな。
まだ諦めてはいないよ。
悪に殺されるために生まれてきたのだから。
ん?
悪を殺すためではないのか、というのかな。
それはそうだが、それはみんなだよ。
人というモノはそういうもの。
誰もが、悪を踏みにじり理解させ、悪を殺すために生を受けたのだ。
とりたてて誇るのも、面映ゆくてね。
ああ。
そうだ。
悪もまた、踏みにじられて殺されるために、それだけの為に産まれたのだよ。
だからこそ、殺されに現れる。
殺してあげなければ、というのも、また面映ゆきかな。
だがね。
それだけではない。
そう自負しているのだ。
いつかこの身が悪の銃火で撃ち抜かれるときがくる。
敵の銃弾を引き受け、正義の味方を救うときがくる。
悪を滅ぼすだけではなく、正義を助けるときがくる。
今日この日まで、味方に救われてきたのはそのためだ。
より多くの悪を殺すために。
一人でも、二人でも。
百万の死体も一人から、というだろう。
それができる。
キミ、キミにも負けないぞ。
絶対に、だ。
【国際連合統治軍第13集積地/除染路/ランドクルーザー車内/美幼童少女採掘中/青龍の貴族】
部隊予備戦力、俺。
緊急医療が必要な場合。
衣服を切り裂き剥がす。
肌を拭い掴み視認する。
手脚を固定し傷を塞ぐ。
スムーズに出来るのは、今のところ1人だけ。
スムーズ、ってのは抵抗されないという意味でもあるが。
技術的に、って意味もある。
想定される患者、シスターズ&Colorful。
服を脱がせるときは、割合協力的。
入浴時だけれど。
この子たちが身にまとうは、マメシバ・ブランド特殊衣裳。
俺にとって普通の服なら何でもござれ、だが、製作者からして普通じゃない。
謎ギミック満載過ぎてかえって扱いにくいんだ、これ。
わーざわーざ俺宛に送られている取扱説明書を、わーざわーざ読むわけがない。
何故か添付ファイルではなくて、紙ベースでプリントしたものを送ってきている。
コピーをとられて流出するのを警戒してるんかね?
それは確かに、高度過ぎて技術情報っぽくも見えるが。
ワンアクションで半裸にできるギミックとか。
完全オーダーメイド/一着一着がワンオフ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・どんだけ暇なのか。
いや、なぜ暇なのか??
旅団規模の部隊。
しかも異世界各種族とASEAN諸国軍の混成部隊。
もともと傭兵部隊の異世界兵、実戦経験者ばかりのASEAN兵士。
手間が省けるところもあるだろうが、かえって面倒な部分も多いはず。
それを率いているが基本なにもやらない元カノ。
異世界人とインドネシア人の副長が二人。
中枢を一人で切り盛りしているマメシバ三尉。
しながら、シスターズ&Colorful、八人分の衣裳を一人当たり十何着一月と経たずに生産。
しかも各人の感想をフィードバックしながら、まだまだ続けているらしい。
人間業じゃない。
名前だけじゃなくて、実態も人間離れ。
出会ってすぐに気が付いてよかったです。
危うく口説くところでした。
成否を問わずヤバかった。
外見だけは良いからね。
アレの種族カテゴリーは置いておくとして、マジでマメシバ。
そこまででやるところを見ると、任務をこなしながら縫製をしているとしか思えない。
であれば、単なる遊びを越えている。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ス、トレス?
あれが?
あの生き物が??
それがありうるかも?
もしかして、気晴らしなのかな。
遠くから見守りたい。
被害範囲から距離をとるために。
元カノにも言っておこう遠回しに。
アレに遠回しなんか通じないか。
言うべきか。
言わざるべきか。
俺はともかくお前は仕事。
そんなわけで、シスターズ&Colorfulの服はますます複雑怪奇。
ゆえにますますコンセプト不明。
マメシバが突然吠える、趣味人にしか通じない謎用語が関係しているのかもしれないが。
ラキスケってなんやねん。
誘い受けってなんだ。
まず服を脱ぎますじゃねーよ。
で、ギミックの形態。
衣服を脱着させるのは得意な俺でも、さっぱりわからない。
服を飾るリボンを何cm引くと何が起きるのか、全部違うそうです。
それもほんの一例。
・・・・・・・・・・・・・取説が一着一着ごとに、専用で別紙まで在る。
アホか。
緊急医療担当でも、誰がなんでそんなモノを読むのか。
普通に斬り裂くに決まってる。
刃物を使わなくても綺麗にばらけるポイント付。
いや、肌近くで刃物を振るうのを危惧するのは判るけどね。
でもあまあ、緊急医療で衣服を斬り裂くのは定番だ。
そして俺も、上手くやる自信はある。
余り真似をしないように。
自衛官だから、一通り訓練済み。
って話じゃない。
俺の救護スキルは自衛官標準、一般人並み、訓練すればできる程度です。
慣れてるか?
っていえばそんなことはない。
むしろ危険な職業、まあうちでいえば普通科、のほうが怪我をしないように注意して無理をする。
無理をするだけでどうかとは思うが。
ただそんな俺でも、救護キットの扱いは普通科隊員の十倍は慣れてるけれど。
ちょっとスゴイよ?
自衛隊備品を何度も使ってるし、内容が当社比3倍の米軍キットはさらに三倍使ってる。
英語の説明書も和訳して覚えてあるくらい。
事務がらみで備品管理に顔がきくからね。
自衛隊の、どこに在るのかわからないほど貴重な救急キット。
いや、戦闘を考えてないから戦傷も考えていないという。
先進国軍隊最少装備はつとに有名。
いざとなれば一般の病院に運び込むから大丈夫!
と防衛省はのたまわっており。
うん。
いざとなったら最前線に連行してやる。
本土決戦前提で、医療関係者は前線から避難させないつもりらしい。
戦争なんて考えてない、平和な職場です。
もちろん、戦争する羽目になっても大丈夫。
今、ナウ、手持ちの医療キットは全部米軍の備品です。
説明書はは全部英文ですが、スペイン語通訳付きですが
中身は少なからず日本製品です。
防衛省と無関係な医薬品メーカーの、様々な救護キット。
普段から米軍に納めているので、戦傷用医療キットのラインナップが豊富。
死体袋まで扱っていた。
しかも開戦決意から開戦までの1カ月で、説明書の日本語訳が自衛隊に完全納入されたぐらい。
納入された名義は、在日米軍ですけどね。
普段取引がないと、融通きかせてもらえないから米軍経由で発注。
俺が所属連隊分を入手する為に、知人の米軍将校の名義借り。
偽名で医薬品メーカーに問い合わせて、偽装で発注書を造り、声色で電話して無理を通した。
ら、他の連隊や師団に広がり、最終的には三佐経由で在日米軍司令部へ。
自衛隊実戦部隊が直接米軍やメーカーとやりとりして、防衛省が行方不明。
三佐がいなかったら、警務隊に逮捕されてただろうな。
三佐がいなかったら、こっそり済ませて足がつかなかっただろうな。
三佐がいなかったら、それでも始まった戦争で死体が増えたのかもしれないが。
というわけで、医療キットの取り扱い。
俺が得意なわけである。
だが違う。
我が部隊で一番重要。
二番目、に等しいくらいには重要。
俺しか持たない、特殊技能。
つまり?
子どもウケがいい!!!!!!!!!!
異世界と地球の共通点
――――――――――重要、この場合。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんか共通点が多いな??????????
ま、それはそのうち、科学的に解明されるのだろう。
これも要注意。
興味を持たれたら危ない。
俺が。
――――――――――解剖されないように。
だが、そんな多世界共通現象だけが重要ではない。
こともないが、よりレアスキルがある。
三重否定かよ!
って怒られそうではあるが。
救護キットの取り扱いに長け。
患者に信頼される付き合いがあり。
此処まででも、レア。
自慢だが。
さらにプラスαが地球人類有数なのだよ。
魔法使い。
異世界人。
エルフ。
ハーフエルフ。
ようはシスターズ&Colorful。
この子たちの体に詳しい地球人類は、俺以外、いない。
広く世間にアピールしたいぐらいです。
きっとモテ、いや、子供好き要素でウケる、ないし評価が上がるに違いない。
常に新しい出会いを求めております。
女のみなさん。
子供好きってよくないですか?




