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完全侵略マニュアル/あなたの為の侵略戦争  作者: C
第二章「東征/魔法戦争」

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34/1003

魔法戦争/the United Nations Magic Corps



無知は力なり。

知るを求めるが故に。


知は無力なり。

知るを足りるが故に。



【太守府/港湾都市/埠頭】


俺達は港でもいつもと変わらない。

定時出動定時帰宅、2DKに戻って風呂入って飯食って寝る。

(友達と遊ぶのは休日)

という『いつもの』ではなく。


帝国資産の接収。

帳簿の確認スキャン

実物との照合(撮影)。

そもそもこの土地から物資を持ち出す予定はないわけで、つまり日本の社会維持にも戦争、もとい、平和創造活動に必須な物というわけでもないのでうっちゃってちゃダメですかそうですか。


とまあ太守府と同じ。

一昨日からのいつもの。



まあ、俺たち不在中のあちらでは施設隊が作業に巻き込まれている。

本来は太守府駐屯地設営の為に短期間派遣されただけの彼ら。

なぜにどうして何故に?


三佐のごり押しだ。


ホント、ごめんなさい。

言葉尻を捕えて、置いてけぼり&任務押しつけ、ばんざーい!したかっただけなんです。


『軍政統治を代行したからには、その仕事もしてもらわんとな!』


っとドヤってたら、やらせやがった。

権力は乱用するもの。


するんじゃない!させるんだ!


おー感動。


教える役の地球人が増えた。

メイドさんらや執事達も慣れてきているから順調順調。

進捗状況を見るに、帰る頃には終わってるんじゃないか。

俺の任務も終わってるんじゃないか?


ぽん。


なになに?いつも五月蝿い神父がそっと去るってどゆこと?

俺死ぬの?

胃の痛みはまさか!




【太守府/港湾都市/埠頭から倉庫街へ】


ご主人様はいつも通り。


「まずは迎賓館でお休みください」


との皆様方の誘いを無視。歩き出す。

わたしは、ちいねえ様、ねえ様と一緒に考える前に続きます。

でも、続いてから後ろで立ち尽くす皆様方に、ごめんなさい。


「倉街へ」


ちいねえ様が聞こえるように言われる。

慌てて、皆様方が走り出しました。


すごいです!ちいねえ様!ご主人様の行き先が、なぜ判るんですか?


羨ましいです!




【太守府/港湾都市/埠頭から倉庫街へ/軍政司令部中央】


港は太守府とは違う。

というより、俺は三佐と違う、と言うべきだが。

権力の有る無しは勝敗を決める決定的な差だ。


つまり。


俺は軍政司令部の人間しか使えないからだ。え?人数?

兵10名、下士官、司令官、監察官、事務方2名。

バレーなら試合よゆーよゆー。

審判もいるよ?


だが、太守領全域から搬入された税、しかも物納、を蓄えた港湾倉庫をチェックするんだぜ?


人目があるからため息もつけない。




【太守府/港湾都市/埠頭から倉庫街へ/青龍の貴族周辺】


あたしたちはいつの間にか、中心にいた。

正しくは、中心は青龍の貴族で、そのすぐ脇。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・危険な位置。

政治的に。

物理的には安全だけど。


青龍の貴族の右手前方が騎士長。

少し後ろの中心が青龍の貴族。

左右があの娘たちで背後があたし。


続いて道化、僧侶、オマケ(役人ですよ~)。


左右外側は青龍の騎士が4人ずつ。


その後が頭目、若い参事、両替商。

二人は話しかける機を狙っている。あの娘たちをチラチラ見ながら。

まあ、兄(両替商)が妹(妹分)を頼るのは、見栄えはともかく、わかる。

だが。

参事の視線は、何?


なんで、あの娘たち、じゃなくて、あの娘を見てるのか?


要注意。




【太守府/港湾都市/埠頭から倉庫街へ/軍政司令部中央】


俺はインカムを切り替えた。

まあ、よし。


埠頭からそのまま徒歩。たいした距離じゃない。


だが、まあ、音は遠退いた。気がする。

金属音と怒鳴り声。

のような音。

市街地の方から聞こえるのが、なんとも。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・きっと、想像しない方が体に良い。


反射的にインカムを遮蔽ノイズにしてしまったが。

骨伝導だから、耳塞げないんだよな。

まあ、砲撃戦を想定してるわけじやないし。

隊内通信に支障がないとはいえ、お迎えの人たちがいることを考えれば、ここから先は使えない。


軍政司令部メンバーは先に降りたから、まんま直行。

元カノの黒旗団は大所帯だから、第一陣の2/3、100名くらいがついて来ており、最後尾を行軍中。


そろそろか。

ノートPCのディスプレイを見る。


皆も立ち止まった。




【太守府/港湾都市/倉庫街入り口/青龍の貴族一行と黒旗団の間/港の有力者たちの先頭】


僕らは当然、立ち止まり、青龍の貴族の言葉を待つ。

そんな中、僕は、おかしな気配を感じて、振り返った。


青龍の貴族たちの後を追う我々、両替商や頭目に僕、更に各業種同業者の皆の、更に後。


黒旗団。


帝国統治時代に時々見かけた騎士達のような隊列とは違う。


先頭中央が団長。

まとめた黒髪をなびかせる、青龍の女将軍。


両脇が屈強なドワーフ。

旗持ちだ。


団長の少し前が青龍の、毛色か変わった(肌の色が濃くなった)騎士。

エルフの副長が団長の真後ろ。


続く隊列が 更にまちまちだ。


青龍の騎士、ドワーフの戦士が大雑把に左右だが、列も作らずてんでに歩く。

中ほどは人間の戦士、明らかに青龍じゃない連中がやはりまとまらずに前後に別れている。

隊列の真ん中はエルフ、かな。

杖と赤目。

魔法使いか。


騎士や兵士というより、規律や秩序とはなじまない愚連隊。


さいぜんから、僕らを連行するように背後から圧迫し続ける。

気配、というより、その野卑な笑い声が聴こえるたびに、生きた心地がしなかった。


整然とした帝国騎士や、無機質な青龍の騎士に慣れてしまうと、異形な集団。


おかしな気配に僕が振り返ると、それが、巨大なスライムのように、滑らかに速やかに左右に別れて動き出したところだった。


僕らの両脇を抜けて前へ。


青龍の貴族を追い越し、倉庫街を守る衛兵たちを無視して中へ。




【太守府/港湾都市/倉庫街入り口/軍政司令部中央】


俺が向き直ると、これ見よがしなハンドサイン。

もちろん、元カノだ。


背後の旅団(第一陣)が前後に別れた。


20名程のエルフ、シンガポール国旗を付けた10名位の兵士が立ち止まる。


マレーシアや、フィリピン、インドネシア国旗をつけた兵士がドワーフと一緒にペアを組み、左右に別れ前に駆け出す。

70~80くらい?


「殺ったら減点だよ~殺られたら連帯処刑だ~」


元カノはインカムに指示しながら、商人達を押しのけて、いや、自然に皆が道をあけて、前に。


人波モーゼ。


港の有力者三人衆の一人、お嬢の兄貴の前に立ち止まった。

あ、兄貴が倉庫の、って言うか、太守の港湾資産の管理者だったか。

もちろん、他の商人たちの資産が詰まった倉街の代表でもある。


「貴方の配下に警告を」


いきなり指示された両替商は目を白黒させた。




【太守府/港湾都市/倉庫街入り口/軍政司令部中央】


わたくしは、ご領主様に一礼。頭を、いえ、髪をなでてくださった。

髪を、と、思う事にいたします。


お兄様に走り寄り、青龍の女将軍さんが手渡した、いやふぉん、をお兄様の顎脇に付けました。


「このまま、命じてください。中の者達に、青龍に従えと。話せば伝わります」


お兄様は直ぐに理解され・・・・・・・・・あら?理解されてない。

けれど、解らないなりに、わたくしの言うとおりにされた。

さすが、お兄様!頼りになるわ。


でも、呼びかけるだけになさって。

お手持ちの道具だけでは、倉街の中にいる衛兵の声は聞こえませんから。




【太守府/港湾都市/倉庫街入り口/軍政司令部中央】


飛翔する偵察ユニット。


ドローン?あんなんラジコンだ。

あの程度のオモチャをドローン呼ばわり出来っか!J・P・ホーガンに怒られるわ!!

(SFマニアの譲れない一線)


ラジコンのスピーカーでも、お嬢の兄貴の声が十分響いている。


倉庫街を旋回する経路と、音のタイミングは自動。

響きすぎずかぶらずに、まあおおむね、聞き取りやすいのではないだろうか。

降伏勧告だけは人類史上最高のレベルと誇れる国連軍の面目躍如。


ラジコン機の真下、倉庫街に居るのは、お嬢の兄貴の部下と不法侵入者。

部下というか衛兵みたいだが、かれらは従うだろう。


お嬢の兄貴が怒鳴っているのでトラブルは最小限。

まあスピーカーで増幅されてるから地声はいらないが緊迫感は無駄じゃない。

誰も死なないといいな・・・・・・・・・・・・・・・。


元カノの黒旗団は手際よく、開けた埠頭から遮蔽物たくさんの倉庫街へ走りこむ。

つまりは、ただの、安全確認なんだけど。


上空の観測気球が全体像を把握。

偵察ユニットが広域探査。

走り込んで行くドワーフと歩兵のペアは制圧役。


拳を打ち合わせ火花を散らしたドワーフ、ありゃスタングローブか。

気持ちはわかるが、打ち合わせると壊れそうな気がする。

ペアはAK47を構えたASEAN兵。


何故?


「あれ試作のAK47Jだよ。弾変えてる奴」


ロシアからライセンス獲得。

構造は知られてるから、許可出すだけだろうが、元ロシア大使の現大統領ってそんな権限あんのか?


まあ、問題になるのは地球に帰れた後だからいいの、か?


ってゆーか、そこじゃない。なぜ47?


「74以降じゃ口径がね」


あーそうか、竜と板金鎧相手じゃ、口径7.62mm以下は話にならんか。

M-16が本土待機なのと同じ理由。

口径だけなら動作が確実で信頼性が高い奴はいくらもある(元カノの受け売り)らしい。


だが、状態が良く大量在庫があるM-14が俺たち国連軍の基本兵装。


在日米軍兵器廠にモスボール化されて大量にあった、いや、まだまだあるらしい。

ものもちいいよ。


え?

64式?

聞かない子ですね・・・・・・・・・・・・・・・。


「シュチュだけなら、MP5でもショットガンでもいいけど、種類増やしたくないしね・・・・・・・・・・・・・・・いーの、アタシは長いのが好き」


お前の手持ちはM-14か、と突っ込まれる前に言い切る元カノ。



そうこう話していたら、衝撃映像。

いや、目視だけどね。

魔法の杖を構えたエルフたち、HMDヘッド・マウント・ディスプレイ装着済み。

もちろん魔法使いのローブをまとって。


えー、シュール?


後ろのシンガポール兵が偵察ユニットを操作して、偵察情報を魔法使いが共有。


もちろん索敵用。

草木など自然物の中で遮蔽されているなら、偵察ユニットの赤外線探知でなんとかなる。

が、レンガや石造り、要はこの世界の街中、で遮蔽されている相手(敵味方不明)の科学探索は精度がぐっと落ちる。

だが、魔法の術なら、建物内の人間を感知出来るのだと言う。


「し・か・も、相手の感情や隠し持った装備まで解る反則精度!」


いや、精度ってレベルじゃねーよ。

すご!

無人機が『一見そう見える』ってレベルで非武装の民間人一家を吹き飛ばしたりするのを防げる訳だ。


魔法は目視範囲、建物内を探るなら建物を見ないといけない・・・そうなんか。

大規模な魔法陣を組み、強力な魔法使いが複数集えば、『目の前の』都市の『中』を攻撃出来るらしい。

それとて『都市』を目視しないといけない。


「攻撃、防御、探索、みんなそうだよ?」


っと臣下(エルフの副長だろう)の受け売りでドヤ顔。

みなまで言うな。

つまりは偵察ユニットを使えば、魔法の弱点が無くなるわけか。

ん?

それはつまり攻撃も可能なんじゃないか?


「ユニットがいる所に本人がいる!」


みたいなモノ、と、胸を張る元カノ。とりあえず視線をそらして事故を防ぐ。

うん、特に巨乳好きってことはないけどね。

普通に好きなだけだけどね。

何故か目をそらすよね。




【太守府/港湾都市/埠頭から倉庫街へ/青龍の貴族周辺】


あたしは呆れていた。

青龍の貴族と女将軍。

二人の話は半分以上わからないが、あたし達の持つ、魔法の法則が塗り替えられた事はわかる。


魔法の効果は距離に影響される。

遠ければ弱く、近ければ強く離れすぎれば弱くなり、最終的には届かない。

程度は術種類、術者にもよるけれど。


皆、そう思っていた。

理由を考えずに。


青龍はそんな事を知らない。

知らないから命じた。


『使い魔が見ている場所を探ってみろ』


青龍に仕えた魔法使いは命令に従う以外ない。

あの面を被ることで、飛翔する使い魔(ゴーレム?)の五感を共有する、らしい。

面を被った魔法使いは、使い魔がいる先で、その場にいるように魔法を使える。

魔法の力も制限がなく弱くならない。


青龍は思う。


『この世界の魔法は距離に影響されないんだな』


と。


あたしたちだけなら、永遠に気がつかなかっただろう。



いままでの、あたしたちの世界ではどうか?


遥か彼方、山二つ向こうの魔法使い同士が意志を伝えあった事がある。

あれは夫婦で、意思の疎通はできたが、互いの魔法を共有できた訳じゃない。相手が見ているモノを教えられたからと言って、燃やしたり探ったりはできなかった。

かろうじて伝わった意思でさえ、飛竜や早馬を伝令に使った方が良い。


使い魔により彼方の情報を得るなら、帝国も青龍も同じだ。

ゴーレムに五感を持たせるのは青龍にしか出来ないが。


だが、帝国の魔法使いは、使い魔経由で魔法を使えない。

そんな事をしたら使い魔を操れない。

もちろん、使い魔の五感を自分以外に伝えたりも出来ない。

使い魔に特化した帝国軍の魔法使いは見聞きした内容を絵や文章にする訓練が必須なくらいだ。


水鏡のように遥か彼方の、触媒が無い場所を見る魔法はある。

それとて、見る場所をある程度(その程度は術者次第)知っている必要がある。

もちろん、見た先に魔法を送り出したりは出来ない。


青龍の魔法はあたしたちとかなり違う。

なのに。

あたしたちの世界の魔法の力を、自分たちの魔法に乗せた。

あっさりと。


敵の気持ちや鎧を見透かし、雷や炎を飛ばし、結界で災厄を払う。


全く安全な場所から。


これまでの帝国軍がしつらえていた魔法兵、最前線で脆弱な魔法使いを守る兵士達はいらない。


青龍の女将軍が構えているように、堅固な本陣に居ながらに最前線で魔法を使えばいい。

いや、むしろ、沖合の海龍の中、ううん、青龍の本土からでもいいんじゃないかしら。



まったく、どこまで、デタラメなの。


でも、まあ、収穫はあったかな。

あたしたちと青龍、違う違うとは思っていたけれど、魔法の形や現れ方の差がだいぶ解ってきた。


例えば。


あたしたちの魔法は直接に見ず触れず、相手の気持ちを読み取る。

青龍の魔法なら直接触れて意志を奪い、考えや知識を喋らせる。


青龍の魔法はどんなに遠くも見通せる。

あたしたちの魔法は衣服や壁の向こうを見通せる。


探せば違いは幾らでもあるだろう。

できること、できないこと、得意なこと、不得意なこと。

だから、青龍はそれを探して回っている。


そして、いささか信じがたいような、いかにもらしいような気もするけれど、まったく恐れていない。


あたしたちが青龍の魔法と従来の魔法の違いを知ることを。

違いとは弱点でもあるのだけれど。


帝国は魔法の秘密を独占する為に異端審問官を使ってあらゆる手を打っていた。

対抗されれば支配を支える力が弱くなる。

それが普通の考え方だろうと思う。


青龍も支配者だ。

だが、だから、支配下にいる者が無知であるのを好まない。


尋ねる。

尋ねさせる。

教える。

教わる。


『知ろうとしない者を相手にする暇はない』

とでも言いたげに。




【太守府/港湾都市/倉庫街入り口/軍政司令部中央】


俺は格言を思い出した。


触らぬ神に祟りなし。

好奇心はネコを殺す。

藪をつついて蛇を出す。


破裂音。


「味方以外?弓、三人、生け捕り?」


倉庫街の中だ。


「こら~撃ったら殺す!殺さないなら撃たない!」


インカムに怒鳴る元カノ。副長のエルフがノートパソコンの画面を見せてる。


「全部回収。破片も」


何やった。


「全体警戒厳」


すごく、しりたくないです。


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