男耕女織
【用語】
『軍事参謀委員会』:国際連合の参謀本部。安全保障理事会の補助機関。国連憲章第七章に基づく国際連合の軍事力行使の指揮を執る。
『安全保障理事会』:国連実質的決定機関。もちろん、総会の承認を得てこそ正式な決定となる。異世界転移後は全て一任されている。でも、理事会の要請で総会決議がされることがある。
『常任理事国』:合衆国(米)、連合王国(英)、第五共和制(仏)、共和国(露)、統一中華連邦(中台合併)、日本。
『国際連合軍』:国連憲章第七章に基づく人類社会の剣と盾。と国連総会で決まった。黒幕は元在日米大使の合衆国大統領であるとマスコミに報道されている。
『国際連合』:the United Nations/連合国、の超訳。異世界転移後の人類社会の総意を体現する組織。と国会で決まった。加盟国のほぼすべての外交防衛権を委託されている。黒幕は日本の一衆議院議員であるとマスコミに報道されている。
【登場人物/三人称】
地球側呼称《三佐》
現地側呼称《青龍の公女》
?歳/女性
:陸上自衛隊三佐、国際連合軍事参謀委員会参謀、WHO防疫部隊班長、他いろいろな肩書を持つ。日本の政権与党を支配する幹事長の娘で、父親と連携して戦争指導に暗躍している。
地球側呼称《幹事長/三佐のオヤジ/オヤジ様》
現地側呼称《青龍の宰相》
?歳/男性
:衆議院議員。連立与党第一党幹事長。与党合同選挙対策委員会代表。世に広く知られた「政界の黒幕」、知らぬ者が居ない「影の宰相」。娘と違って役職は三つだけ。米中を中心とした各国、複雑多数主張も思想もバラバラな与党連合に少数独自の野党からなる日本議会に影響力を持っている、と言われている。私邸が事実上の安全保障理事会/国連事務局となっており、その運営を司る(国連に役職は無い)。国際連合の実質的軍事指導者である現合衆国大統領とは旧知の間柄。
「異世界人の体液に対する無制限接触許可を与えます」
言い回し言い回し。
「例えば?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・血液って言いましょうか。
「唾液とか?」
リンパ液でも細胞液でもいいですから。
「ありがたく享受しなさい」
ありがたーく、『気持ちだけ』いただきます。
「使わない自信があると?」
子供たちが俺のそばで怪我するわけ無いでしょうが。
「面白いわね」
俺のそばで子供たちが怪我するとしたら、三佐が意地になってスナイパーを差し向けた時だけ。
「だから?」
ありえない。
証明終わり。
気持ちだけ頂きます。
「ふーん、納得。
だけど――――――――――流血は避けられないわよ」
【国際連合統治軍第13集積地/除染路/ランドクルーザー車内/美少女シェイカー中央/青龍の貴族】
俺が子供たちの安否を確認して、どうするのか?
まあ、そう思うよね。
護るための戦闘指揮なら、曹長の役割。
救護するための緊急治療なら、衛生兵の役割。
――――――――――でも無いんだな。
曹長は戦闘時、全体の指揮を執る。
優先順位を把握して、護るべき子たちの位置が判れば十分だ。
いや、ぶっちゃけ、それ以上の情報は抱え込めない。
情報過多は自滅の基本。
人間の取捨選択力など知れたもの。
知れば知るほどオーバーフロー。
索敵偵察は戦場の基本。
将校教育じゃ、そんな寝言を吹いてるね。
ばーか。
ってもんである。
市場原理と同じように、夢幻の机上で空論。
教科書とキチガイはロジックが大好き。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・結構います。
居なくていいのに。
人のキャパシティから見て無限に等しい大宇宙。
そこから法則を導けるということは、現実を一つ残らず切り捨てているということ。
論理上の存在は、現実には存在し得ない。
嘘が嘘と判ればこそ、そのデタラメを利用できる。
索敵偵察物見に様子見。
なんといってもいいが、リソースに対して効果は知れている。
何にしても手間がかかり人がかかり装備と補給、なにより時間を食いつぶす。
ある程度で切り上げないと、戦力をすり減らすだけ。
敵を知り己を知らば百戦危うからず。
危うくない戦場が一つでもあったかといえば、逆説でもなく答えはでる。
敵を知りえず己も知らず、危うい百戦を続けましょう。
続けたいならね。
情報を得ないこと、そもそも得ようとしないこと。
それは指揮能率、部隊戦闘力にかかわる重要事項。
つまり曹長は、出てこれない。
では、どうする?
衛生兵。
うちのような小所帯では、まず持って戦闘員。
本来の役目を果たすのは、全体の態勢確立後。
損害確認より救護より、戦闘陣形の一部。
即座の対処は不可能だ。
その後の対処も不可能だ。
まあ、この子たちが人見知りってのもある。
非地球人を警戒し怖がるのは当然として。
地球人なら良いってもんじゃない。
知らないは、怖い。
子どもはそれくらいでいい。
それを乗り越えて和食のレシピを求めに厨房に行った、魔女っ子。
お疲れさまでした
――――――――――駐屯地糧食班の皆々様。
完全武装の女性自衛官。
銃を抜いている国連軍憲兵。
そんな背景に立つ、異世界美幼女。
こわ。
全員が銃口を向けている中で、糧食班の女性隊員だけが接近を許されたのだとか。
いや。
教わりに行って、相手を選別するような魔女っ子ではない。
選別されたというか?
敢闘精神に優れた勤務時間外活動にいそしむ婦人自衛官。
命令を字義通り解釈してむしろ味方を標的とする国際連合軍憲兵諸氏。
管轄権やら私情のもつれやら、縄張り争い。
両者がそんなこんなしているうちに、割を食ったのが駐屯地業務隊糧食班。
定型化した鹵獲帝国軍集積生体物資の管理業務。
皆が慣れ切ったルーチンワークを乱す異物。
なにしろ魔女っ子、すなわちゲスト。
自由裁量自由行動が認められている、外から来た軍政部隊。
いや、事前調整はしてるけどね。
権限と行動を一致させるほど、俺は幼稚じゃないから
その中で最重要護衛対象として公知された、文化習俗習慣生態各種不明の賓客。
の、一人。
しかも、公知されることは絶対ない、だが知られているのが、怪しい動き。
魔女っ娘他ゲストの子たちに集中する機械的人的記録システム。
駐屯地内部どころか広大な第13集積地の記録/監視システム。
それが、上位指揮系統の介入で、本来あり得ぬ対象に集中する。
その指揮系統がどこかといえば、決して追うことはできないのだが、追えないというだけで駐屯地上層部には答えが出ていたりする。
MSC
軍事参謀委員会 。
その上は安全保障理事会しかない、国際連合軍の最上層部。
繰り返すが、軍の、中枢指揮機関。
まちがっても、異世界大陸の辺境地方の一現地代表、その随伴者たちに注目するような組織ではない。
それがなぜ注目している長に見えるのか。
それを撫ぜ隠そうとしていないのか。
それはどのような意味を持つのか。
第13集積地司令官、監察官、文化アドバイザー。
鹵獲生体(徴集農民)帰郷作戦トップスリー。
知らざるべきを知ろうとするほど、ド素人じゃない。
だからこそ憲兵隊に警護と監視を命じたんだろうが。
いろいろと示唆をされたうえで、山のような読むべき空気を扇がれて、考えすぎた上官のテンションに基づき、その異様な任務にあたる憲兵の緊張は察して余りある。
雑すぎませんかねぇ。
三佐。
そこに介入するのは空気を無視した一群の人々。
ってか、何時でも何処でも連帯する女たち。
煽ってるのはメンゲレ軍医大尉。
誰もが眉を顰めるかと思いきや、けっこうこの名前はスルーされているらしい。
ミリタリーマニアか、歴史マニア、世間一般の少数孤立系くらいしか反応しない。
戦後は遠くなりにけり。
で、いつの間にか、女性自衛官の中心的な存在に。
軍医ってだけで、軍隊組織の中でも特別感あるからね。
しかも仮名を名乗る非公式系統の謎将校。
駐屯地上層部の特別扱いを、軍医の肩書で自然に見せかけて、性別の連帯感を生かして駐屯地を侵蝕しているらしい。
って、知り合いの知り合いたちが言ってたことを、俺なりに分析。
ということはメンゲレ大尉を口説くと、他の女たちに遠慮され手を出せなくなる?
ということはメンゲレ大尉の好感度を上げると、多くの女から好感度を得られる?
ということはメンゲレ大尉を狙いつつ、駐屯地の女の好感度を上げることもあり?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・考えが甘くございました。
まさか子供たちとの関係を邪推され、女性自衛官が武装して待ち構えていようとは!
視線が厳しいなんてもんじゃありませんぜ?
完全野戦装備実弾装填済み実戦経有、の女兵士、たち。
性犯罪者を見る目で俺に銃口を向けてきます。
いや、一応は、まだ疑惑どまりか、一応は。
認定されたら死ぬまで誤射されてる。
で。
俺の余波を受けて母性本能が限界突破。
俺以外の男は性犯罪者予備軍に見えるようで
政治的配慮に燃える武装憲兵部隊。
人道的配慮に燃える武装女性部隊。
本来。
糧食班の中心は男性隊員で。
力仕事だからね。
手伝っているだけの糧食班若手女性隊員。
魔女っ子の質問。
隠れている経験豊富な男性糧食班隊員へ伝達。
回答を魔女っ子に伝達。
魔女っ子の疑問。
それをさらに
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・やばい眼の銃口に囲まれながら。
ご迷惑をおかけしました。
美味しい魔女っ子和食の背景にある悲劇。
少しやり過ぎだとは思います。
知らないは、怖い。
子どもはそれくらいでいい。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・のだが。
それぐらい、シスターズ&Colorfulは他と距離を置いている、置かれている。
俺でも正解が判らないあたり、互いに距離感を掴みかねている、というべきだろう。
お互いに、ってことは、つまりこの子たち側の心象も大きい。
シスターズ&Colorfulのメンタリティ。
軍政部隊隊員相手なら、話す近づくは大丈夫。
つまりそれ以外、禁止。
すごく緊張しているのが判る。
ってか、怖がる。
だからこそ、隊員たちも距離を置く。
そりゃそうだ。
子どもに怖がられて、敢えて近づくような人間はいない。
いるかもしれない?
それは人型の生物ってだけ。
はよ殺せ。
で、それは殺せば済むとして。
ここで問題となるのは医療行為にたいするシスターズ&Colorfulの感じ方。
そもそもが他人に、触れられたり肌を見せるのは嫌がる。
マメシバ三尉は、ひんむいたり着せ替えたりいろいろ勝手にできるようだが。
特に男相手には、理由の如何を問わず、絶対拒否。
保護者の俺だけは例外扱いのようでお父さん、いや、お兄さんは嬉しい。
正直、異世界では少数派。
地球でいうごく限られた時代の貞操観念のごとき純潔主義。
水浴などを不自由にした挙句、衛生環境を悪化して多くの疫病を蔓延させた。
某宗教の教祖、その言葉とは無関係な捏造解釈。
異世界にはないからね。
宗教そのものが。
ということは、この子たちの独自嗜好なんだろうな。
肌を晒す、体に触れられる、相手が医者でも断固拒否。
それがこの子らのメンタリティ。
いつまでもそれ、ってわけにもいかないが。
無理やり押し通すことでもない。
いまのところ。
そもそもが、理由の如何によらず、っても、理由を理解させられれば、って話。
そもそもが、
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・医者、って概念も曖昧なんだよな。
地球で医学の概念が定着したのは、それも例によって先進国限定で、って考えてもごく最近。
例によって異世界が遅れているのではなく、地球とのタイムラグのせいなんだが。
衛生兵の概念が伝わるわけ無いか。
つまり、衛生兵に救護させることもできない。
いや、いざとなればやらせるけれど。
やらせはせん。
やらせはせんぞ!
とも言いたくなる。
つまり俺だけだ。
何を置いても真っ先に、この子たちにとりかかれるのは。
はい、暇人って言わない。
予備戦力は戦闘の要。
偉い誰かが言っていた。
つまり俺、すなわち要と言い切れる。
であれば、安否確認しつつ誘導しつつ救護するわけ。
シスターズ&Colorfulを。
俺が。




