正当行為
登場人物&設定
※必要のない方は読み飛ばしてください
※すでに描写されている範囲で簡単に記述します
※少しでも読みやすくなれば、という試みですのでご意見募集いたします
本作では一人称で描写される登場人物の固有名詞を使いません。
他の登場人物も複数ある役職名やアダナ等で呼ばれます。
文節の大半は一人称となりそれが次々と入れ替わります。
よって、以下の特徴で誰視点であるのか、ご確認ください。
・一人称部分の視点変更時には一行目を【】で区切ります。
・【語る人間の居場所/誰視点】とします。
・「誰視点か」の部分は「青龍の貴族」「魔女っ娘」など代表的な呼称(役職名やアダナ)を入れます。
・次の行、もしくは数行以内に「俺」「私」などの特徴となる一人称を入れます。
以下設定を参考に誰視点か確認いただければ幸いです。
(書き分けろ!と言われたら返す言葉もございません)
【登場人物/一人称】
『わたくし』
地球側呼称《お嬢/童女》
現地側呼称《妹分/ちい姉さま/お嬢様/愛娘》
12歳/女性
:異世界人。大商人の愛娘。ロングウェーブのクリームブロンドに蒼い瞳、白い肌。身長は130cm以下。装飾の多いドレスが普段着。
【登場人物/三人称】
地球側呼称《お嬢の父親》
現地側呼称《大先輩/五大家古参当主/親バカ》
?歳/男性
:シスターズの一人、童女ことお嬢(12歳)の父親。中世準拠の異世界としては異例なほどに、家族思い。特に娘を溺愛しており、愛娘が夢中になっている青龍の貴族(俺)を公然と敵視している。公の場では商人たちの尊敬を集める銀行家。五大家で一番古い家系と、邦で一二を争う規模の商会を持つ。
【用語】
『参事会』:太守府を実質的に支配する大商人たちの集まり。五大家と呼ばれる5人が中心メンバー。
『太守府』:帝国の行政区分をそのまま国連軍が引き継いだ呼び名。領地全体の呼び名と中枢が置かれる首府の呼び名を兼ねる。帝国ではおおむね直径120km程度を目安に社会的経済的につながりが深い地域で構成する。南北が森林、西は山脈、東は大海で大陸のほかの地域からは孤立している。ただし、穀倉地帯であり海路につながっているために領地としての価値は高い。10年前までは古い王国があり帝国に滅ぼされた。
それは「優しい世界」
――――――――――――――――――――と称する、薄気味わるい小さな箱庭。
わたくし、御世辞には慣れておりますの。
商家の出であれば当然ですわね。
社交辞令は呼吸に等しく、打算を隠すか勘定を晒すか、退いて押し、推して惹く。
皆が知恵を絞る鉄火場、それはもしかしたら、戦場かもしれません。
喜んで見せるも、悦ばせて魅せるも、何もかも意図あってのこと。
・・・・・・・・・・・・・・・・意図を思いつくまでの時間稼ぎ、ということもありますけれど。
余りに基本的過ぎて、意味すらなくなっておりますの。
とはいえ、効かぬ石でも投げ続けねば、石もないかと侮られます。
「皆が持つなら持たぬと同じ、とはいえ持たねば恥をかく」
と、どこかのどなたかがおっしゃいました。
ですから、足しにならねど引かれぬために、日々刻々皆が皆、御世辞を撒いておりますわ。
時々、稀人、微かな数。
それが芸とも見える冴えを見せるときもあります。
わたくし、それを見るのが大好きですの。
気色の悪い世界は、ソレではございません。
わたくしの、わたくしどもの、いわゆる氏族の娘が集うところ。
社交界。
丁々発止、御世辞が跳びかう市場ではございません。
風聞風文から騒ぎが押し流す、参事会でもございません。
皆が首を洗い、死にゆく順を待つ園遊会でもありませんわね。
園遊会がそうなりましたのは最近ですわよ?
それはそれ。
社交界。
ただただ縁づくまでの、娘たちの暇つぶし。
程よく飲み。
程よく食べ。
際限なしに喋る。
繰り返し繰り返されるのは、相手に向かった賛辞と共感、のフリをしたお世辞。
何故にフリかといえば、誰も相手を見ておりません。
誰を見ても同じような顔に同じような肢体に同じような衣裳。
色合い形は違えども、ネコの家族の方が見分けられますわ。
ソレ等がお世辞を贈りあう。
これも簡単、無難な故に。
批判をされたくないから批判しない。
批評することなどできないから、在るがままを否定しない。
否定などされようものなら、殴られたかのように泣きわめく。
もちろん、
「貴女には、その緑より少し赤を注したほうが似合うわよ」
なんて申し上げるのは、わたくし位でしょうけれど。
皆、お抱えの衣裳師、衣裳士、仕立て屋のお仕着せを纏うだけ。
纏わせる方も、周りに合わせるだけの楽な仕事で、腕が落ちていくとか。
そんなところに芸や技能は生じません。
ただただ摩耗して、鈍麻して、ほどよく丸くなりますわね。
氏族の跡継ぎを産むだけなら、それでいいのでしょうけれど。
アレらが産んだ子が、御気の毒ですわ。
これでどうして、育てられましょうか?
乳母や氏族がはぐくみますのは、育てられないからですわね。
育てられてもたまりませんが。
産まれて初めて目にする人が、ソレでは。
ホントウニ、サイアクデシタワ。
ほーんと、わかりません。
わたくし、褒められるのは好きです。
いつもいつも、微に入り細に入りもっとも至極な批判を言う者があれば。
理屈も何もなく、ただただ否定しか出来ない者があれば
わたくしを嫌い嘲り軽んじる者があれば。
その者から生涯一度の賛意を引き出すこと。
その眼を奪い、その口を縫い付けること。
わたくしの、わたくしであるにより。
「褒められる」
とは、そういうことじゃありません?
もちろん、思いもつかぬことでしょうね。
褒められるに値せぬ者には。
だからこそ、わたくしはやり遂げて魅せます。
否定も批判も批評もない、それより高みでみおろしておられる。
無関心、無視、それでいて見ていらっしゃる、意地悪な方。
なによりも静かで、だれよりも退屈してらっしゃる。
わたくしは可愛がっていただけますけれど。
わたくしをこそ楽しんで、お気に召していただけますけれど。
わたくしの決意をこそ愉しんで、意地悪されますけれど。
きっと。
認めては、いただけません。
まだ。
これから。
わたくしに、釘付けになっていただきますわ。
わたくし、そのためにだけ、産まれてきたと存じております。
それが、一人の女の、存在理由。
絶対、絶対、絶対に。
――――――――――ご領主様――――――――――
【国際連合統治軍第13集積地/除染場/ランドクルーザー車内/美少女巾着袋中央/青龍の貴族】
『ア――――――――――』
Amen?
俺は慌てて音量調整。
背後の神父、その声が頭中に響く。
『ッテンションプリーズ!!!!!!!!!!』
ちゃうんかい!!!!!!!!!!
――――――――――アクマでも神父のシャウト。
ライブハウスなら、最高だろう。
異世界侵略中は五月蝿いだけ。
なお今年から人類史は異世界侵略にあけくれており。
推して知るべし
――――――――――shut up!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
こどもたちが怖がるだろう。
《悔い改めました!!
神は私を赦します!!!
この上は善き羊飼いとして皆様をHeaven GO!!!!》
とかなんとか言って五体投地したのが10分前。
Self 懺悔もアレだが、五体投地って仏教じゃないか?
さっき(30分くらい前)神父を殺しかけた手前、遠慮があった。
だから志願承認、ドライバーを任せたのだが。
『発射シマス!』
だから言わんでいい
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・さっさと発車しろ。
【聖都南端/青龍の軍営外郭馬場//らんどくるーざーの中/青龍の貴族の右膝/魔女っ娘】
わたしの心に響く、鐘架の鐘。
(投石機?)
ねえ様が囁き、わたしは自分が石弾になったような恐ろしさを覚えます。
皆、慌てる隙もありません。
とっさに身を守ります。
わたしはご主人様に、しがみつきました。
ねえ様がそれを外から支えてくださいます。
ちい姉さまは、素早く目くばせ。
察したColorfulさんたちが、椅子や屋根に腕脚をつっぱらせました。
それを確認し、ちい姉さまは顔を埋めます。
スゴいです。
カッコいいです。
でも顔を埋めてぐりぐりなさるのは
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ご主人様の腰。
ズルいです。
うらやましいです。
わたしも。
と、皆ができる限りの体勢を整えた瞬間、
――――――――――道化さんが、竜を叱咤――――――――――
ふゃ!!!!!!!!!!
『『『『『きゃ♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪』』』』』
【国際連合統治軍第13集積地/除染場/ランドクルーザー車内/美童女下美幼女少女漬物中央/青龍の貴族】
俺は後悔していた。
人生を、じゃない。
いや悔いの多い人生だけど。
ニートに産まれなかったこと
――――――――――産まれる場所は選べない、とはよく言ったもんだ。
あきらめてないよ?
就職してしまったこと
――――――――――つい若さゆえの過ちでカッとなってやった。
反省してるよ?
三佐に出くわしたこと
――――――――――あの日あの時あの場所でバックレて逃げていれば。
チュートリアルに出現する魔王っておかしいよね?
だが今は違う。
人生とは日々これ発見の連続。
なんとか努力すれば思い出せる後悔。
思い出せないほどの膨大なリスト。
そこに新たな一ページ。
神父に運転させるんじゃなかった。
いきなりフルスロットル急発進。
ウィリーなんて出来たのか。
ランドクルーザーさんパネェ!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・本当にランドクルーザー?
天地がひっくり返るハズだよ。
車体が後ろに倒立。
後ろ向きに座っていた俺たち。
そのまま車内を後ろへ落ちた。
Colorfulの4人に向かって。
シスターズ&Colorful1名とともに。
どうしてこうなった?
回答。
シートベルトがないから。
戦闘車両でシートベルトは厳禁。
事故で負傷する程度、軍隊では考慮にすら値しない。
恐れるべきは、うっかり死ぬことなんかじゃない
――――――――――殺されること。
事故はトドメを刺しにこないからな。
故にこそ、可能行動最大維持。
車両が緊急停止。
まず考えるのは待ち伏せ。
体がシートから動けなかったら?
シートベルトを外す前に蜂の巣だ。
つまり、そーいうこと。
だがもちろん、シートベルト着用は自衛官の基本。
自衛隊は軍隊じゃないからね。
尊法精神は我らが誇り。
日本国憲法から道路交通法まで。
これが問題だと言う人もいる。
いなくていいが。
有事に道路交通法を守ってられるか!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・とかどうとか。
もちろん、根本的に間違っている。
法律は守りながら、何だってできるのだ。
例えば違法性阻却事由とかいろいろ。
正当防衛とか緊急避難とか、法律を無視していい状況はこの程度だろう
・・・・・・・・・・・・・・って思うじゃん?
そんなわけがない、
「刑法第35条:法令又は正当な業務による行為は、罰しない。」
とあるので。
最初から有事立法なんかいらないのである。
最終的に「それが正当であったか否か」は終わってから、あるいは一段落中に決める。
それは議会が決めるからね。
その議会は有権者が決めるからね。
というか、戦時下に起りえるあらゆることを事前取り決めなんかできるもんか。
というか、一般の日常的生活におけるあらゆることを事前に取り決め出来るわけがない。
というか、そんなことしてたら立法府はこの世の終わりまで終れない。
別に法学部出身者が政界の黒幕じゃなくても、その程度は考えつくから。
実際、こうして侵略戦争してるやんけ。
法律に通行止めなんかない。
前に進めなきゃ飛べばいい。
それを止めるのは人のせい。
官僚は、この考え方が嫌いだから。
何故ならその発想が
『私人間の自治』
つまりは
『他人に聞かないで自分たちで話し合いなさい。トラブルになったら裁判所に行きなさい』
という原理になるからだ。
江戸時代でいう『相対済令』みたいなもの。
圧倒的に少ない人数で運用される、世界史上最少級の専制政府。
このあたりは他の西欧諸国とあまり変わらない歴史。
なお明治から特殊、いや異常な歴史。
でまあ、グローバルスタンダートな方法には問題があった。
ある種の人々が『要らない子』になってしまうのだ。
だってほら、相対済ましてしまうとね?
最初から最後まで、官僚の出番ねーじゃねーか。
これよ。
そりゃ不満だよね。
だれもお伺いに来なくなるし。
それでうまくいくのかといえば、大抵の法治国家でうまくいっている。
トラブルになった時だけ公権力が呼ばれるので、何もかも事前に決めて口を出すより効率もいい。
だから大抵の法治国家では、裁判所の権限が強くて重要。
判例が実質的なルール/法律として機能するから。
裁判官が日常的普通に政府と喧嘩します。
だから日本では絶対禁忌。
だから日本では裁判がない。
だから日本では法治がない。
司法官僚の力はおまけに等しく、行政官僚の力は絶対的。
内閣法制局とかね。
日本特有の謎機関で、閣議の前にあらゆる法律や条約まで審査し修正し立案もする。
誰が選んだわけでもない、誰にも責任を取らない、誰でもないのに。
内閣はその結果に花押を押すのが仕事です。
なお責任は押した人がとります。
うん。
こう考えると。
有事法制って発想自体が、軍事官僚の妄想なんだろうな。
それがないと、誰もお伺いに来てくれないから。
「これから装填しますけど法律に書いてありますか?」ってな。
これぞ官吏の許認可権。
実戦になったら無視されるに決まってる。
戦時下にそれを期待されても困る。
俺たち兵隊が困る。
もちろん異世界に内閣法制局の縄張りは無い。
で、なぜ今、俺たち自衛官がシートベルトをつけていないのかといえば。
撤去済みだからだ
――――――――――国際連合軍に参加したときに。
国連軍は、軍隊だからかね。
統治軍ふくめてね。
撤去しなくても、使わなければいい?
反射的に付けちゃうんだな。
これが。
そもそも索敵能力で圧倒している異世界侵略戦争。
不意討ちより事故リスクの方が高い?
聞く耳持たない偉い人
――――――――――合衆国大統領。
を認める日本国防錆党幹事長の政界の黒幕。
まあ、国際連合のツートップ。
二人とも原理主義者だっていうからね。
大統領は特に軍人だから、自衛隊が理解出来ないのだろう
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・だといいが。
嫌な予感がする。
理解した上であれば?
合衆国有数の知日家で、合衆国有数の日本ロビーである合衆国陸軍という国の世襲貴族で、幾多の敗け戦でフラストレーションをためまくっていながら、なお連邦議会やホワイトハウスと笑顔で喧嘩できる米軍人の頂点。
自衛隊を、国連軍として居続けさせるつもりかもしれない。
――――――――軍隊であれ――――――――
呪いか。
昨日から今日も明日もずっとずっと
――――――――――親愛なる特別職国家公務員同僚諸氏にこころから同情する。
俺、退職金もらって帰るから
――――――――――その前に後悔。
更に新たな一ページ。
俺の心の非公開後悔リスト。
ヤロー神父、てめぇ。
『女なら尼僧?アンダスタンOK?』
Heaven GO!!!!とはよく言った。
Heavenってマジに天国か死後の世界か。
『OH!HARLEM Bath plug in!!!
産ませよ増やせよ色々満たせ!!!!!!!!!!』
やかましい!!!!!!!!!!
言い返せないのが腹立たしい!!!!!!!!!!
決して引け目があるのではなく、俺は自分の反省と他人の糾弾を同時進行できる。
マルチタスクは大人の嗜み。
まあ出来ない奴、名前だけの大人もそこら中に居るけどね。
再発防止。
原状復帰。
公開処刑。
三点セットは出来なくてはならない。
でも、一つでもできれば不十分ながら、マシ。
一つもできない事例など、いくらでも思いつくよね。
俺は再発防止策に思いをはせる。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・チャイルドシートが必要だった。
後悔先に立たず。
先にたったら先悔だが。
しかし後悔には、現状把握が大切だ(原状復帰)。
とりあえず神父をどやしつけるのは想像だけでしのぐ(後悔処刑)。
憂さ晴らしは心の健康のために必要です。
それは決して忘れられないけれど、優先順位があるわけで。
なにがどうなってどのように手遅れなのか。
はたして俺は、どちらだろう?
子どもに埋まっているのか。
子どもを埋めているのか。
まあ視界が塞がれているのはわかる。
とりあえず口は猿轡状態で、声が出せない。
顔全体を白い布に包まれたフニャフニャしたもので覆われている。
この懐かしいと言うほどインターバルを空けてない。
初めてではないが繰り返し馴染んだような温かさ。
柔らかい張りがある感触は、みんなそうなんだけどね
これは、この温度と湿度と香りは
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・エルフっ子、だな。
俺が顔を埋めているのは。
では、それ以外は誰か?
特に背中にまたがってペチペチ叩くのは?




