表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
完全侵略マニュアル/あなたの為の侵略戦争  作者: C
第九章「神様のいない天獄」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

328/1003

幕間:母系社会

【登場人物/一人称】


『あたくし』

地球側呼称/現地側呼称《メイド長》

?歳/女性

:太守府王城に奉公する女性たちの長。ストロベリーブロンド、碧眼、白肌。異世界でも地球世界でも一般的な、ロングスカートに長袖で露出が少ない普通のメイド服を身にまとう。まだ年若いが、老人の執事長とともに王城の家政を取り仕切る。

初登場は「第11部 大人のような、子供のような。」


【登場人物/三人称】


地球側呼称《三佐》

現地側呼称《青龍の公女》

?歳/女性

:陸上自衛隊三佐、国際連合軍事参謀委員会参謀、WHO防疫部隊班長、他いろいろな肩書を持つ。日本の政権与党を支配する幹事長の娘で、父親と連携して戦争指導に暗躍している。



「侍従長と宰相が同じ意味を持つわ」

「フランス王室ですか」

「家宰、家老、老中」

「東西問わず、っていうことですね」

「最高権威者の側にいる非公式、最高権力者」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あの女性が、ですか?」

「そのように訓練されている」

「考えすぎですね」

「はっきり言うわね」

「上官の意見に反対するために部下がいるんです」

「なら、彼らの立場は危険だと思わないかしら」

「思います」

「自覚はある」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・リンチにかけられてるくらいですし」

「つまり」

「国連現地雇用職員である間は守られますが」

「それを中世の言葉に翻訳すると」

「・・・・・・家じゃないから家臣ではなく・・・・・・・臣下っていうなら、

誰のって話で・・・・・・・奉公人なのに護られなかったわけで・・・・・・

それは何ってことに・・・・・・?」

「できなければ解らない」

「判らなければ守られていない、と?」

「であれば」

「孤立してます」

「氏族という血縁、街や村という地縁、職能集団にも属していない」

「しかも権力中枢近くに居て破格の、まあ日本のホワイト企業程度ですけど、

ブラック企業が標準な中世から見たら、好待遇を受けているんですから」

「無力な富者など殺される順番待ち」

「殺されるのを待つバカは多いけど」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ではない、と」

「どうやって?」

「ご教授ください」

「新しい一族を造ること」

「どうやって?」

「王城勤めという職能集団で、王城住まいという地縁集団で、後は中核になる

血縁があればいい」

「ありませんけど」

「黒髪の子供」

「?」

「地球人が居なくなっても、多くの氏族が欲しがる価値がある」

「!」

「赤子は母親の所有物」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「母親たち全員に等しく強く支配力を及ぼせる、一人の女」

「嫌な発想ですね」

「雑な否定ね」

「唯一無二の切り札をもって、勢力の均衡を謀るなんて」

「かんたんよ?」

「誰にとってですか」



あたくしは、感銘を受けておりました。

身の程をわきまえぬことに、恥じ入る次第にて。

控えの間に侍り、声も上げられません。


御城代様、青龍の公女様は今、御領主様にゆだねられ領地を納めておられます。

ゆえにこそ、あたくしはご用命に応えるべく控えておりました。


御領主様の負託を受けられたる方。

御領主様の高貴な御客様。


何不自由なく過ごしていただき、過不足なきことを御領主様に言上いたしますこと。

それは、あたくしの務め。


時折、御用を言いつかり、また、御話の伴もいたします。

故に常に、あたくしが休むときは別の者が代わるように。


今日もまた、御話相手。

その後。


想いもつかない、御城代様の言葉が聴こえてまいりました。

御領主様が、信はともかくとして、頼られるほどの御方。

ゆえにこそ、訳が解らぬなりに、判ります。


簡単なのだ、と。










<play Back>




あたくしは十年前、この邦に連れられてまいりました。


――――――――――はい、母一人子一人。

その母に連れられたのでございます。


いえ、氏族はおりません。

あたくしは、母、と呼ぶように躾られましたその女、唯一人とともにありました。

定かである限り、ずっと。


母の主たる関心は、あたくしに向いていたように思います。

物心ついて以後、おそらくその前から。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・さようでございます。


母たる女がいる。

であれば、何処かの氏族には属していたのでございましょう。


さりながら、母は過去を伝えることもなくみまかりました。

あたくしの思い出も、判然といたしません。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・覚えたること、にございますか。


やや、曖昧でございます。

覚えにある限り、あたくしは母以外の手をかけませんでした。


母と離れたことは、死に別れるまでございません。

いつも母がおり、子守の類に覚えがありません。


ゆえに母は、氏族を出たものとおもわしゅうございます。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・子を育む氏族がおりませんゆえに。


何故、氏族と別れたのか。

捨てたのか、捨てられたのか。

それは存じません。


様々な土地を、二人で転々としました。

迎えられたこと、見送られたこと、おそらくは沿岸部のそこここかと。


費え(ついえ)に不自由した覚えはございません。


不自然(おかしな)こと、と言えば、下男下女以外の家人に覚えがない、というあたりかと。



身のまわりにあたるメイドがおりませんでした。

暮らし向きからすれば意外、でございますわ。



衣服に寝具や部屋飾りを仕立て繕う。

食事の手配に主な仕上げ。


部屋に廊下を掃除する。

小さな家なりと百を超える小物を手入れする。


厨房、納屋、庭木に街の様子確かめる。

洗濯塵焼き買い出し蔵入れ蔵出しは、下男下女が為しますが。

下男下女の務めに目を配り、話しを聞く。


不足をあてがい、剰余をまわし、女主人に申し上げ、指示を受けて調べるまで。

陽が明けてか日が暮れるまで。


それが家々のメイドが役目。




その差配は日々女主人がいたします。


帳簿をつけ相場を測り両替に赴く。

奉公人の、家外の様子に気を配りしかるべき手を打つ。

それら一切を支えるために、耳を澄ませる、お付き合い。


皆を使うことは、それはそれはたいへんなこと。

注力するため、メイド2~3人が常にございます。


それがないのは、あまりにも奇天烈(おかし)なことかと。




ただそれで不自由は、やはりございませんでした。

あたくしがそれを知ることはなかった、ということにございます。


母は地縁血縁と無縁にても、なんなりと自分でこなす女。

そのようにあれかし、とせざるを得ないわけがあったのでございましょう。



そして十年前。

その母は、先の太守様に仕えました。


そのために太守領に来た、と思わしく。

あたくしも、そのまま母に付きメイドたるよう、習い覚えました。


奉公と言えるもの。

あたくしのそれは、そのときからにございます。


それから五年前、子を宿した母はみまかり、あたくしがメイドの長を継ぎました。




さようでございます。

十年前。


先の太守様がこの邦、王城に入られる。

同時に組まれました使用人たち。その女たちの長が、あたくしの母でございました。

――――――――――いえいえ、メイドは氏族とは異なりますれば。


血で継がれるモノではございません。


長を継ぐように育てられたこと。

長を継ぐように命ぜられたこと。

長を継ぐように認められたること。


この若輩が、並み居る先達を従えて、差配せし旨。

ただ秀でて済むものではございません。


無論、特段の事情がありましょう。

そしてそれを、確かめたことはございません。


確かめようとは、問われてなお、思いも付かぬことにございます。


知るべきを悟るべき。

知らぬべきを察すべき。

知りまた知らぬを自在とする。


メイドのたしなみにございますわ。



――――――――――はい。

さようでごさいます。



氏を定めるは、誰の腹からいでたるか。

氏ある女が産めばこそ、氏族にございます。


血の流れは、女にしか判らぬが世の習いでございますれば。


氏族を従えればこその当主。

女に授けられればこその氏族。

古来変わらぬことにございます。



――――――――――さようでごさいます。


太守といわず、皇統も等しくございますわ。


皇帝がもし男であった場合。

女を孕ませ産まれますと、その子は女の氏族となります。


皇族中もっとも血の濃い娘。

皇統を嗣ぐのは、その女が産んだ子でございます。


その中から、魔法使いたちが次期皇帝を選んでゆきますわ。


幾分、女帝によりがちではありますが。

皇統と帝位をひとつにできるなら、ということかと。


とは申せ、また、世の常。


継承とは別のやりとり、男と女には避けられませぬ。

氏族、家とは無縁な、各々がこと。


なればこそ、恐ろしく、いえ、おぞましいと申せましょう。


決まった相手を持たぬ身分なれば、ここまでは

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・先の奥方様が、あたくしどもを捨てたること

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あたくしの母との関わりにございますか?



お答えいたしかねます。

それが常かとお尋ねならば、戦場にては何事も起こり得る、としか申せません

―――――――――――――――――――――――――――それを差配するのも、女どもの長たる役目であると申せましょう。


あたくしは、今であれば果たせると自負しております。




――――――――――?

御領主様に付けた、五人のこと、でごさいますか?


御懸念にはおよびません。

五人が五人とも、御技と魔法にて癒やしていただけました。


肢体に傷も病もございませんこと、皆様方に裏書きいただきました通り。

心の傷ゆえに、お一方以外に肢体をゆるすことは不可能にございます。


心の傷は、致し方ございません。


見習いから一人前になるまで、余裕がありませぬ。

未熟故に学ぶべきが多く、役目を担い始めればなお多忙。


十から十五、六まで殿方を知らぬものでございます。

よほどの良縁があれば、また、別でございますが。


それが五人の傷を深くしたこと、間違いございません。






――――――――――意図、にございますか。


傷を塗りつぶしていただくべき、と。

あたくしが、御領主様のお情けにすがりました。


お側に、と。

厚かましい願いでながら、了としていただけました。



あの時以来、あの娘たちは

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・殿方に近づけません。


顔なじみはおろか、老齢の執事長にすら。


近づかれただけで常を失います

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・無理からぬことではございますが。


このまま生きるには、不自由が多すぎましょう。

そして五人が常を保てますのは、青龍の方々と接する時のみにございます。


もちろん青龍の騎士様方は、あたくしどもと距離をとられます。

無体なことはもちろん、お世話すら許されません。


五人の娘たちは青龍の殿方以外、その距離さえ耐えられぬのでございます。


――――――――――さようでごさいます。


ただ、平穏をもってよし、とするのでございますれば道はございます。


青龍の方々、その差配に使えばすみましょうが。

役目がいくらもありませぬ故、五人でたりますわ。





さりながら。

それですませることは、まいりません。

私事にて。



あの日あの時、あたくしは

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・考え違いをしておりました。


氏族を知りながら、氏族を解らず。

あたくしの無知ゆえに。


元々、王城に勤める者たちは皆、どこかの氏族に属しておりました。

中の上程度の力を持ち、氏族の為に縁故を広げる為に王城奉公と。


先の太守様、その御一族が失墜された後。


王城勤めが嫉視の的であること。

皆を護る力がどこにもないこと。

時を経ればいつか襲われること。


故に。

あたくしのような寄る辺なき者以外、家に帰しました。

家に返せば氏族に後は氏族が護る、と、そう思い。


氏族が族の為に在る、と知りもせず。

守るより棄てるほうが容易と、考えもせず。


愚かにも。

母と己が間柄を、氏族というモノと誤解して。


それが何をもたらすとも思い至らず。



五人に限りませぬ。

あたくしは、皆を見棄ててしまいました。


かつて王城に勤めていた者たち。

今となっては、半数ほどにございます。


顔を見る事が出来ない者が、どうなったのか。

今ならば承知しておりますわ。


叶うならば、勝手ながら、ソレを繕うべき。

そう願いましたのは、あたくしにございます。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・解決、を、御領主様に願い出ました。


五人の娘が、触れ合える殿方は、御領主様。


ただ御一人。

触れて、交わし、抱いていただけるのは唯御一人にございます。


御領主様なれば、触れてなお落ち着く、と申しておりました。

休む前に、御領主様の手をいただくと、よく眠れると。


無論、毎夜お願いするわけにはまいりません。

今は、今までは、でございますが。


――――――――――今は、胸が苦しい、と。


触れられれば、すべて自然に進みましょう。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・残念ながら、いまだ。






――――――――――ご懸念には及びません――――――――――


子は女のモノにございます。



もともと皆様の采配であれば、子をなした女は里に下がる必要もない、とか。

子をなした女どもの為に王城の一角、と申し上げるには広い場所があてがわれております。

産み育む間にも、常と変わらぬ手当を下げ渡す。


かように定めていただきました。



いずれだれかれと御恩を受ける者も出てまいりましょう。

無論、それをあてにしてのことでは御座いません。


王城にいるモノは誰も彼も、氏族と縁が無くなりました。

五人の娘たちは、とりわけ。


離れようとも思わぬでしょうから、産み育てる役目に尽くしましょうが。

ソレを置いても、後援には不自由いたしません。




まだ見ぬ先を見据えて、王城の娘達には声がかかっております。

五大家に並び立たんと願う家には、黒髪の赤子を迎えたい様子。


大半は知遇を得らると誤解されておりますが。

そのような誤解は、五大家の皆さま方が説き聞かせておりますので。


それでもと願う氏族は、血が欲しい、とお考え。


不遜なことながら、盛衰勝敗によらず。

龍の血が欲しい。


赤い龍の血は相応に伝わっております。

青い龍の血をこそ、皆が切望してやみません。


青い龍の子を育てる。

邦中の力添えをいただけましょう。


五人はまだ、気が付いておりませぬ。

今と己と御領主様。


ソレだけ見えるようになれば、足りまする。

いまは。


あたくしは、そう思っておりまする。




母と子の繋がりは強く、女と男の繋がりはもっと強く。

ましてや、御領主様と

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・救った?


救い主であるから、お慕いするもの。

とお考えでございましょうか。



確かに、そう見ることも、不可能ではありません。

だけであれば、だけでありましょう。


いえ、けっしてそのような

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――つたない知見ではありますが。





人は、助けられたことに礼はしても、ソレだけではないかと思いますわ。




礼は様々な形がありましょう。


お金、知縁、品、労

・・・・・・・・・・・・・・・・・一時の奉仕。

くらいではないかと。




御恩と奉公。

対価と交換。

損と得。



僭越ながら皆様を推し測り、判りかねております。

御領主様が望みと、貴女様の望み。



あたくしども地に伏す身なれど、忠誠は対価ではあがなえませぬ。



苦痛と恥辱から、絶望から救っていただけましたが。

それはそれで有難いことでは御座いますが。



むしろ、御領主様は、

――――――――――殺してくださいました。





暴漢に、奴腹び同心した女たちを。

五人の娘、あたくしの、皆の敵を。


御手にて引き裂かれた男たち。

御領主様の命で吊し殺しにされた女たち。



もちろん、街中で無頼漢が狩り尽くされましたわ。



街中の皆が皆、御領主様の意を迎える為に、必死に工夫しておりました。

御不快を晴らさんと、さもなければ次は誰の番かと畏れながら。





それが己の為であれば

――――――――――極まりましょうとも。




故にこそ、御奉公には収まり切りませぬ。

五人が御領主様に直接お仕えする仕儀に。





あとは。

ほどなく召され、娘たちの傷が癒されるもの

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・御領主様は肢体、だけ、を楽しむ方ではございませんでしたけれど。


五人の心奥、その底から味わっておられますわ。


――――――――――何度となく見誤りること、恥ではございません。

あたくしごときであれば相応かと存じます。


とは申しましても、五人が哀れ

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・だけでもごさいませんが

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・近づいて、微笑み、突き放し、逃さない。




――――――――――どうしたら、よろしいのでしょうか?


もしご高配を賜れましたら、深くお礼もうしあげます。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ