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完全侵略マニュアル/あなたの為の侵略戦争  作者: C
第八章「天獄に一番近いここ」

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迷悟一如

【登場人物/三人称】


地球側呼称《三佐》

現地側呼称《青龍の公女》

?歳/女性

:陸上自衛隊三佐、国際連合軍事参謀委員会参謀、WHO防疫部隊班長、他いろいろな肩書を持つ。日本の政権与党を支配する幹事長の娘で、父親と連携して戦争指導に暗躍している。


地球側呼称《幹事長/三佐のオヤジ/オヤジ様》

現地側呼称《青龍の宰相》

?歳/男性

:衆議院議員。連立与党第一党幹事長。与党合同選挙対策委員会代表。世に広く知られた「政界の黒幕」、知らぬ者が居ない「影の宰相」。娘と違って役職は三つだけ。米中を中心とした各国、複雑多数主張も思想もバラバラな与党連合に少数独自の野党からなる日本議会に影響力を持っている、と言われている。私邸が事実上の安全保障理事会/国連事務局となっており、その運営を司る(国連に役職は無い)。国際連合の実質的軍事指導者である現合衆国大統領とは旧知の間柄。




「貴様ごとき女に、なにができる」

「!

――――――――――今時なにを言ってるんですか!!!!!!!!!!

女だからってバカにしないでください!!!!!!!!!!」

「だからって、か

  ――――――――――衛兵」

「時代錯誤もいい加減に」

「失せろ」

「いったいなにをかん、ひゃ??????????暴力が赦さ」

「――――――――――次」




『バカばかりね』

「確認すべきことか?」

『バカばかりですから』

「自分への侮蔑を人類の半分へ拡散する、自我希薄。

 相手の偏見を利用せずに糺そうとする、甘えと独善。

 己が安全を自明とする、依存心の高さ」

『使い物にならない』

「無加工なら、あの程度だ」

『女に産まれたというだけで少なからぬ男女から、侮ってもらえるのに』

「見下される、軽んじられる、舐められる」

『舐められたい!馬鹿にされたい!!見下されたい!!!

 誰にも身構えられたくない!!!!

 見果てぬ夢の、アドバンテージ♪』

「現実は」

『恐れられ、(おもね)られ、敬遠されて尽くされてます』

「尽くさせてるんじゃないのか」

『おかげで毎回一苦労』

「それゆえのメリットもあるだろう」

『もっともっと欲しいのよ』

「欲張りが良く似合うな」

『なんとかしてください』

「七光りが眩しすぎて、無理だ」

『せっかく女に産まれたのに、ついてないわ』

「ただの女なら隙を突き、脚をかけ、内から手を回せるのに、か」

『天に二物をもらえなくていいけれど、自力ですら手に入らない』

「生まれた家が悪かった」

『おじいさまからの成り上がりだけれど』

「知事から市長、町内会長まで後援会会員だがな」

『後援会の中で育ったようなもの、どーにもならない』

「他の家に産まれても、おまえはうちに、オヤジのところに来たさ」

『それもよかったかも

・・・・・・・・・・・・・・・だめ、困る』

「より大きな力を手に入れるか、うちで過ごす日々をとるか」

『両方』

「まったく、欲張りが似合う」

『もういいわ』

「なら終いと」

『お・ね・が・い』

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・オヤジにねだったことなどないくせに」

『よろしく♪』

「大した手間ではないが」

『ありがとうございます♪』

「だが」

『仮名が必要なの』

「女である必要があるのか」

『なにかとね』

「例えば」

『10~20年後の裁判で、陪審員や裁判官の心証が良くなる』

「戦争犯罪者前提か」

『起こり得ることに備えてるだけ』

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なくはないな」

『実行時は若かった方が<若気の至り>って弁護ができるし、若さを失った後なら同性にも共感を創りやすい』

「具体的なことだ」

『抽象的なことを考える家風じゃないわよ』

「戦犯覚悟で仮名になりたい女が、いるとはね」

『あくまでも、覚悟の問題だけれど

―――――――――――――――――――――――――――――――なれるなら、誰だってなるわよ』

「戦犯に」

『たかが吊るされるだけで、人類史を執筆できるんだから』

「誰が迷う、と」

『誰でもなれはしないけれど』

「資質さえあれば、仕立てあげるのだろう」

『当たり前の日常なんか、誰がやってもいいじゃない』

「<それは貴女にしかできない>

――――――――――――――――――――――――――――――――――見事な口説き文句だ」

『お兄様、お願い』

「次」






【聖都南端/青龍の軍営内演習場/青龍の貴族、右/エルフっ娘】


あたしは

――――――――――いまここにいるかんかくがなくなっている。


肢体の感覚がなくなっているような、肢体から切り離されているような。

訳も解らず考えがまとまらないのに、繰り返し様々なことが浮かんでいく。


あの娘は血の気が引き、人形のように。

なのに誰よりも鮮やかな感情を湛えていた。


まるで、あの娘だけが色を失ったような。



あのときの銃に射抜かれたように、ううん、怒りを湛えた眼に抉られた、あの娘。


青龍の貴族、その怒りを見たことがあるなんて、あたしたちだけかしら

――――――――――怒りを感じさせる前に、殺すものね。


ほんの少し前。


あの娘が身を投げ出した時。

青龍の貴族が銃を構えた時。

あの娘に銃口が向けられた時。


青龍の貴族は殺意などなかった。


いつもと同じように。

太守府を皆殺しにしようとした時。

港街を練り歩いた時。

野盗の群れを潰している時。


殺す時、壊す時、滅ぼす時。

青龍の

――――――――――怒りすらしない。



あの時も、そう

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あの時、あたしは気がつかなかった。


殺意も敵意もない。


いつも通りの彼、青龍の貴族。

いつも通り銃を抜く。

いつも通りに撃つ

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ところだった。


本当なら殺されるのは青龍の道化、だった。


なぜ?

いつもの通りに、おどけたていた道化。

彼、青龍の貴族が、道化のじゃれつきをいなしていた。

両方、いつも通り。


でも、皆が凍りついた。


なぜ?

皆がわかった。

殺される。


そっか

――――――――――道化が、あたしたちに絡んだから。


皆が彼、青龍の貴族を伺った、その時には銃が抜かれていた。



放つ前に、あの娘が跳びついた。

それが間に合ったのが、不思議。


歴戦の刺客でも、こうはいかないもの。


青龍が殺す。

ある瞬間、気負いも決意もなく。

突然に、相手を問わず。


青龍の貴族が殺す時は、そんなもの。


青龍は、誰が相手でも、同じ。

皆に等しく、まるで価値を認めていない。

青龍であるかなしか、それすら気に留めない。


自分自身を含めて、いくらでも代わりはいる。


そんな彼が、躊躇するわけがない

――――――――――そこに踏み込んだ、あの娘。



そこで殺されなくても、仮に殺されても、それが問題じゃない。

あたしにはともかく、あの娘にとっては。


あの娘と青龍の貴族。

自分の命に関心がない。

そんな二人、ひとつで二人。



だから、あの娘が絶望しているのは、踏み込んでしまったこと。

もう取り返しがつかない。


彼、青龍の貴族、その逆鱗に、一方的に飛び込んでしまったのだから。

あたしは、言葉をかけそうになる。


取り返しがつかない。

それは終わりじゃない。


でも、それは、あたしには伝えられない。

あの娘に、誰よりも、あの娘に近いのに、あの娘にそれを感じさせることができるのは

――――――――――あたしじゃない。




【国際連合統治軍第13集積地/射撃場/魔女っ娘の前/青龍の貴族】


さて、俺は再確認。

魔女っ子を見ると、抱くと感じるあの時の感覚。


空白と驚愕と安堵と怒り。


感情は厳禁。

絶対禁止。


当たり前だ。


叱るのだ。

怒るんじゃない。


子どもに怒る?


そんなマヌケじゃない。

いや、そもそも、殺さない相手に怒るべきじゃない。

殺す時だって、最中は怒るべきじゃないが。



感情的になると失敗するからな。

経験者は語る。


まあ、感情が行動の邪魔、ってのは唯の常識として。


殺せと命じるときに、感情的だったことはない。

よね?


感情的なつぶやきが射殺命令と解されたことはあるが。

俺の憎悪に反応して撃たれた人がいないとは言わないが。


さておきだからこそ。

いまは、クール。


これ大切。



バカは怒るから、叱れない。

躾も叱責もなにもかも、怒っていたら暴力だ。


物理的な強制力、それだけじゃない。

言葉でも態度でも顔でも、出来る。


相手を痛めつけるのは、スッゴく容易い。


恥ずかしながら、経験者は語る。

切り刻んでやりたい相手に、それで当然のヤツにだけなら、胸を張れるんだけどね。

そうでもないんだこれが。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・子ども相手にやらかしたことは、無い。


今思い返してもない。

大丈夫。




人間は弱く脆く痛がり屋。

何物にも耐えられやしない。


だから、だ。

怒りの使い方、転じて叱り方は将校の必須スキル。



いやまあ、教育工学で言えば、他人を指導指揮する為の不可欠最低条件なんだが。


それが出来る人間が居るとは言わない。

何故か失敗する奴ばかり。



だが、それでもこの必須最低条件は、教えられる。

知っているだけでも違うから。



バカにバカと教えるのが、軍事教育の基礎初歩第一歩。

永久に成功しなくても、成功を目指すため。


日々刻々の失敗を、刹那瞬間ことごとくに叩き込む。

失敗を自覚して試み続ければ、弾みや紛れで成功しないとは言えない。

期待などしないし、希望など持たない。


数に任せた確率論


――――――――――まさに、軍事は科学。


と考えを巡らせて。

作戦開始。




【聖都南端/青龍の軍営内演習場/青龍の貴族、正面/魔女っ娘】


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――わたし。


ご主人様の手。

頬にいただいた手のひら。

髪を梳いてくださるゆび。


その黒い瞳。

わたしを吸い込んでいる、瞳。

瞳に映る女は、わたし。


ご主人様の意志に従えなかった、女。

ご主人様の命令に従いたい、女。


わたしは望まれた通りの女になれませんか?

ご主人様が望まれた通りに――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――。



それだけは、ぜったいに、いや。




【国際連合統治軍第13集積地/射撃場/魔女っ娘の前/青龍の貴族】


俺はグッと、我慢だ作戦中だ。

俺が落ちついても、この子が落ちついてからでないと叱れない。

俺になら出来る。


泣いてる子どもを前にして、動かないってムチャだよ。

今すぐ即座にどうにでもできるのに。

しかし待つ。



魔女っ子をなだめない。

宥めたいが宥めない。

誤解させない。



子どもが相手なんだから、言いたくなる。

とりあえず何でもいいから俺が何とかする相手を見つけてやるよ、と。

いつもそうしているように。


が、それはマズいと判ってる。



ただただ肯定された人間は、何もできなくなる。

批判をすることもされることも無く、自分と他人の区別がつかない。

飛びっ切りの痛がり屋。


機能不全の過敏症。

俺たちの社会ならそれでもいい。

良く居るしありふれてる。


俺だって、そういう人は嫌いじゃないし。

むしろ扱いやすくて大好きです。



社会の維持なんかそれほど人手はいらない。

もたれかかって甘えていても、それで誰かが困ったりしない。

むしろ非生産的な方が、社会の過充電を放出できるくらいだ。


だが。

俺たちの戦場ならそれはダメだ。

死ぬ。

俺に殺されかけたように。


そうはさせない絶対に。


俺の側にいるときも。

何処か遠くへ行くときも。

二度と会えなくなったとしても。


魔女っ子には、老衰以外、死ぬことは認めない。



だから泣かせる今だけは。

ここで撫で転がして落ちつかせれば、認められたと勘違い。

次回も安全装置が働くとは限らないじゃないか。



じっと待つ。


魔女っ子を従わせなければならない。

簡潔に、判りやすく、解釈の余地なく。


理解は必須ではない。


必要なら殴ってでも。

強要命令脅迫反射。

なんでもいい。



理由の如何を問わず、銃口に跳び付くな。




だから、理由など聞かない。


理由次第で許される余地あり

――――――――――有り得ない、そう明示するため。


だから、説明などしない。


説明次第では例外もあり得る

――――――――――有り得ない、そう明示するため。




俺がただただ、待ち続けていると、赤い瞳の焦点があってきた。


まだ涙目だ。

怖かっただろうな。

銃の威力は知ってるものね。


何度となく使って見られてるし。



それなのに、銃口の前に身をかざすとは。

誰かを庇おうとするなんて。


体を抉りぬいたときの血肉と骨。

即死に至らぬ苦鳴と号泣。

鼻を突く刺激と生臭さ。


この子はそれをみているはずなのに。


なるべく見せないように、とは思ってきたが。

半分くらいしか成功してないからな。


強い子だ。

自殺してしまうくらい、強い子だ。

その強さをくじかねば。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


よし。

頃合い。

短く明快に解りやすく。


俺はどうだ?


言葉を考えられる位、落ちついてる。

頃合い。


よし!



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