君勿給死

自殺も９０％減少しました。

「馬鹿を言うな」

「それは誤算範囲だ」

「ほぼゼロではないか」

「集計は各警察本部に問い合わせた数字をまとめたらしい」

「また、数え方を変えたな」

「失業率に犯罪発生率に検挙率、経済成長率に日経平均、毎度毎度よくも粉飾白書ばかり創りよる」

「共産国家の統計と同じですね」

「官僚国家(スターリニズム)は常に同じ道を行く」

「誰が何故、何人死んでも、気にすまい」

「気が付かないんですよ、書類に載せないので」

「多くも少なくもない、適正数にまとめられるからな」

「±１以内に修正されますから」

「数えてすらいないのだが」

「どこが今の担当だ」

「数字の元は総務省か？」

「アムネスティ、だな」

「「「「「「「「「「え」」」」」」」」」」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・？

「何が起きた」

「異世界転移くらいしか起きてないが」

「因果関係があるか！」

「生活苦はなくなったが」

「異世界転移のせいで統制経済になったからな」

「自殺の主原因は貧困ではない」

「警察は認めないが」

「すべての行動に個々人ごとの動機がある、などと考えおる阿呆はほっておけ」

「生活苦など最終段階の特徴に過ぎん」

「社会から疎外され困窮し、居場所を得られぬまま死ぬのだ」

「なら統制経済のおかげでしょう」

「我が党としては同意しかねる」

「いままでは格差の極大化、階級の固定化、社会の硬直に壊死」

「我々が対峙してきた問題だ」

「それも同意できないと」

「ソレとコレは別だ」

「無差別テロは死体の痙攣」

「まだ我が国は死んでない」

「転移前は、そう言えたでしょう」

「まだ、死んでない」

「これから死ぬといってるようなものだ」

「転移後は」

「統制経済で、誰もが等しく、居場所を失った」

「地位、役割、責任、なにもかも」

「生産がほとんど必要ないからな」

「格差も階級も疎外感も」

「死ぬ理由も、か」

≪参議院厚生労働委員会議事録より抜粋≫

【聖都南端/青龍の軍営内演習場/青龍の貴族、右/エルフっ娘】

あたしはとっさに割り込み

――――――――――そうになるのを、耐えきった

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんとか。

生きているから。

妹分が、へたり込んで大きく息を吸う。

当たり前よね。

彼、青龍の貴族。

この場にいる全員の生殺与奪を決めている。

それは権力ではなくて、実力。

殺す気になれば、殺してる。

殺さない気なら、殺させない。

身振りや視線一つで大剣を砕き、人を潰す。

生きるか死ぬか。彼以外には決められない。

支配下にあるのだから。

刃向かう力はないのだから。

逆らう意思がないのだから。

だから、あの娘が死ぬのを許すわけがない。

あの娘は、死を覚悟したかしら

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そんな訳ない。

あの娘は、考えたりしない。

あの娘に、覚悟なんてない。

あの娘は、感じたままに動く

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・青龍の貴族に、望まれた通り。

あの娘が覚悟するような、そんなことは、あたしがさせない。

諦めてしまっているのは、防げなかったのだけど。

それは彼が覆してくれたしね。

それがまた、今、こうなっている。

彼は殺そうとした。

あの娘は救おうとした。

二人とも、無自覚に。

だから、よ。

だから、ね。

自分の女に銃口を押し付けた、青龍の貴族.

自分の男に銃口を向けさせた、あの娘。

「Ｏｈ！Ｂｒａｖｏ！！！」

―――――――――――なのに、なにを、見物客みたいに！！！！！！！！！！

あの娘に庇われた青龍の道化

あんたが、全部悪いんじゃない！！！！！！！！！！

あの娘は、自分がやってしまったことに、固まっている。

あたしは、二人の間に

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・入れない。

【国際連合統治軍第１３集積地/射撃場/軍政部隊後方見学席/青龍の貴族】

俺はものすごく泣きそうになりながら、右手の指を開いた。

トリガーからも、トリガーガードからも指を離した。

持っているだけのＭ１９１１Ａ１(ガバメント)。

よし。

泣いてない。

男は泣かない。

大人は泣かない。

見られてる。

女の子たちに。

子どもたちに。

よし。

頭が冷えていった。

冷えきった。

今まで何人も何十人も殺させた。

いや、三桁、いやいや、四桁ぐらいか。

つまりたくさん殺した。

と、思っていた。

嘘ではないが、違うんだな。

親しい相手以外は、人間じゃないんだ。

俺、唯一の特技。

落ちついていない時ほど動きが硬くなる。

慌てて失敗するよりも、動かない役立たずのほうがマシ。

三佐の評価は正しかったらしい。

認めたくはないが。

だから気合を込めて、腕を動かす。

就寝中の金縛りで、無理やり体を動かそうとしているみたいに。

動かない自分の体に恐怖を感じながら、感覚がないままに命令に従う体に何も感じない。

悪夢の中に居るみたいだ。

それも、嘘じゃないか。

左手で魔女っ子を、その胸倉をつかみ、その固まった体を掴んだまま、力任せにはがす。

魔女っ子の胸元に抱え込まれていた拳銃。

俺は自分の右手に、必死に命令。

掴みなおして、銃身を掴んでいることを魔女っ子に見せる。

もう誰かを撃つ気がない。

って伝わったらしい。

魔女っ子は崩れ落ちる。

中身のない魔法使いローブの塊のように。

が、それを抱きしめ支える俺、の体。

ナイス！

俺が俺の体を讃えてやまない。

すっごく安心したぞ。

いや、安心どころではないが。

魔女っ子。

力が抜けた体をゆっくり砂浜へ。

俺もその前に腰を落とし、いやへたりこんだ。

魔女っ子。

力が抜けすぎて、座り込んでなお砂浜に沈み込みそうになる。

俺の体に寄りかからせる。

Ｍ１９１１Ａ１(ガバメント)を傍らに置く。

視線を向けただけで曹長がやってきて、回収してくれた。

ありがたやありがたや。

今度曹長の娘さんに、お父さんの英雄的行動を知らせてあげよう。

きっと死んでもラッパを離さないに違いない。

いや、もっとましなエピソードで。

俺は魔女っ子を見た。

半ば抱きしめているので、全体像は見えない。

だが確認するために距離を空けるわけにはいかない。

内心が平坦なまま、慌てて魔女っ子を確かめる。

そして向き合った。

俺はＭ１９１１Ａ１(ガバメント)の銃口を、魔女っ子の胸に押し当てた。

そしてそのまま、引き金を引いてしまった。

力を込めていない。

指を動かしてもいない。

トリガーガードにかけたまま。

気が付いたときは、Ｍ１９１１Ａ１(ガバメント)の安全装置が働いていた。

つまり激発機能を起動させたのは間違いない。

おれは、魔女っ子を、撃ったのだ。

もし、発射されていれば？

もし、４５ＡＣＰ弾がこの小さな体に放たれていれば？

もし、１１ｍｍ余りの弾頭が華奢な体を抉り潰していたら？

俺は力を込めた。

この温かさを海岸にまき散らして、細く小さな血肉の塊として足元に積み崩され、人形のような赤い瞳は人形になってしまっていただろう。

温かい。

柔らかい。

鼓動と吐息。

良かった、無事だ。

【聖都南端/青龍の軍営内演習場/青龍の貴族、左側/お嬢】

わたくしは、やっと息を突けるようになりました。

深く深く深～～～～～～～～～～～～～～く、息を吸い。

ふか～～～～～～～～く、息を吐きます。

あの娘は大丈夫。

大丈夫大丈夫大丈夫。

ほんとにもう！！！！！！！！！！！！！！！

ご領主様が、あの娘を抱いたまま浜辺に座らせました。

ご自分の肢体であの娘の肢体を支えておられます。

あの娘の肢体を強く抱きしめ、抱きなおし、柔らかさ差を確かめます。

マメシバ卿が新調した、魔法使い用長衣。

そのかしこに在る隙間から手を差し込み、腕と脚と肢体を確かめます。

ご領主様は常と変わらぬ、ように見えますが、明らかにお怒り。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・羨ましくはありません。

あの娘はそれどころじゃないために、愉しむどころじゃないでしょうし。

ご領主様も、あの娘の無事を確認する以上のお気持ちは無い様子ですし。

それはそれで、残念のような、わたくしの時はどうしたらいいのか困ってしまいますけれど。

わたくし、生死の境でついつい高ぶってしまっておりますわ。

ご領主様のそばにおりますと、おのれが危険に晒されることはございませんし。

ご領主様が抜き放った銃を、騎士長様が拾い上げました。

そしてそのまま、わたくしたちと距離を空けます。

ここからは、男と女のことですものね。

臣下や騎士が距離を置くのは無理からぬこと。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なぜか、わたくしに目礼。

あ。

いえ、たしかに、それはそうなのですが。

ことここに至っては、わたくし、なのでしょうね。

ねえ様は、あの娘と近すぎて接ぎ穂を見付けられません。

Ｃｏｌｏｒｆｕｌはみな、あの娘と距離があるので戸惑っております。

ご領主様の女で、あの娘と同じ立場で、あの娘と共にいる女。

見守る。

加わる。

窺がう。

ん。

わたくしですわね。

【国際連合統治軍第１３集積地/射撃場/軍政部隊後方見学席/青龍の貴族】

俺は気持ちを切り替えた。

こんにゃくメンタルは伊達じゃない。

感謝の祈りを捧げよう。

安全装置は偉大なり。

今こそ改宗する用意がある。

科学信仰に帰依します。

人類の未来は明るい。

科学に反しない限り。

いや、科学技術って詐欺師とバカとキチ○イが扱わないかぎり、安全だしね。

※第６１話 ＜フィンランド方式＞より

さて、神父に対する嫌がらせ。

完了。

なお、天罰が下れば改宗する用意があります。

ホントです。

マジ。

神さま聴いてる？

聴いていたとして、どう解釈すべきか。

先ほどまで神父に向いていた銃口。

弾頭が発射されなかった。

距離５ｍの必中距離、俺でもだ。

暴発してもいいのよ？

もちろん、撃ち殺す気など、無かったはずだ。

そんな気がする。

事故でいいんだ事故で。

殺した数を増やしたいわけじゃない。

殺して愉しいわけもない。

神父だって生きている。

残念ながら。

今も。

ミミズだってオケラだってアメンボだって。

生きてるんだよな。

チッ！！！！！！！！！！

いや、ミミズオケラアメンボはかまわんが。

セクハラ聖人、もとい、作戦上の障害物も、みんなみんな生きている。

―――――――――――だから、どーした。

生きてるなんて、当たり前。

感謝感激感動するほど、惨めで救いようがない哀れな発生すんじゃない、ってレベルまで落ちぶれちゃいない。

だから、そんなつまらない命、奪う気はない。

動きを亡くそうとしただけだ。

なら銃口を向けるな？

正しい、まったく、正しい。

殺意はともかく、行動はマズい。

殺意はいいのか？

今更か？

ちょっと一瞬ほんの刹那、気が向いた、だけ

――――――――――それはきっと、異常なのだろう。

俺たち地球人に、ではなく

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・魔女っ子にとって。

だから俺は、トリガーにかかった指先に、気がつかなかった。

いつだ？

指先がかかったのは、銃を抜いた時か？

魔女っ子が跳び付いてきた時か？

もちろん、だからといって問題は生じなかっただろう。

トリガーを思い切り引いてしまったが、誰も撃たなくて済んだだろう。

今、この通り魔女っ子が生きている。

だからこそ、看過できない。

赦されない。

魔女っ子。

誰かの盾になっていいわけないだろーが！！！！！！！！！！！！！！！！！！！

お兄さん許しません。