攻防一体
『エルフ』:異世界の種族。基本形態は人と同じく四肢がある。手足指の数は同じ。全体に背が高く細身。女性は概ねメリハリがあり、男性は細身でありながら筋肉質。人間の美的感覚で言えば総じて美しい。異世界の他の種族と比べて圧倒的に長命、絶対的な不老。10代から20代を少し超えた程度で老化しなくなる。俊敏で器用、五感が鋭く、感染症になりにくい。世界を支配していた帝国から絶滅すべき種族とされており、大陸では奴隷として以外の生存が許されていなかった。
帝国以前に歴史が始まる前からドワーフが嫌い。
『ドワーフ』:異世界の種族。基本形態は人と同じく四肢がある。手足指の数は同じ。全体に縦横サイズが同じで厚みがある体つき。背丈は平均160cm前後と低めだが横幅も同じくらいあるので小さい印象はない。体毛が濃いが獣のように全身を覆っているわけではなく、厚くごついが皮膚も露出している。全身が筋骨隆々としており腕力持久力耐久力が強い。服装装備もごつごつしたものを好む。力仕事も得意だが、細やかな細工や彫金、合金精製など器用さこそ最大の特徴。世界を支配していた帝国においては貴族たる騎竜民族に魔法使い、その資源扱いの領民(エルフを除く異世界全種族)、絶滅指定のエルフなどとは別のカテゴリーとして、優遇されている。
帝国以前に歴史が始まる前からエルフが嫌い。
無視ほど雄弁なことはない。
「エルフよ」
エルフっ娘は無視。
「みよ、このカタナを」
ピクッ!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・エルフっ娘は無視。
「うむ、そのとおりじゃ。青龍の技法よ」
エルフっ娘は無視。
ドワーフは刀を抜き、刃紋を見せびらかす。
ピーン!!
「カタナを賭けて勝負じゃ
――――――――――いやまて死合いではなく」
エルフっ娘は思い直した。
うるさいからって、関節を狙う必要はない。
「主が勝てばカタナをやる」
ピクッ♪
「ワシが勝てば口利きを願う」
ピク?
「ワシが殺されるときが至らば、主の男にとりなしてくれ」
ピタ。
「まてまてまてまてまてまて主なら出来るねだれば通る
――――――――――ウガャバサマラヮシィィ!!!!!!!!!!
(悪かった悪かったカタナはやるからはなせ!!!!!!!!!!)」
こうしてエルフっ娘は、武器を新調した。
なおドワーフは、ちょくちょくカタナの様子をみにくる。
エルフっ娘の男が居るときに。
耳は口よりもモノを言う。
が。
最後にモノを言うのは別なモノ。
――――――――――とある港街での一幕――――――――――
【国際連合統治軍第13集積地/射撃場/軍政部隊後方見学席/青龍の貴族】
俺はイヤフォンで適度に抑えられた銃声を聞き流し、仕事に集中。
いや、本当に。
仕事って便利だよね。
ちょっとおなかが痛いから、じゃ誤魔化せない相手も納得させることができます。
主に近所のガキどもとか。
けっして子供の相手が嫌なわけではないし、どうせ片手間だからいいのだが。
子供連れでは困るときもあるわけで。
わ~ざわ~ざ俺の跡をたどり、ホテルの前で待ち伏せした挙句に補導され、身元引受人として取り込み中の俺を呼び出す中高生とかね。
そら捕まるわ。
つーか、保護されてよかったよ。
どんな時間帯でも女の子が近付いてよい場所ではない。
それはそれとして、なぜ俺をチョイス?
同じ近所の暇で暇で仕方がない、だから防犯協会に喰いこんで警察に顔が効く、そんな爺婆の連絡先を教えてあるというのに。
あれはビビった。
決して後ろめたいことはしてないのに真っ最中に警察から電話が来れば驚く。
携帯の電源は切れないからね。
仕事というか、任務というか、上司の性質、いや性格上。
三佐からの電話ならばビビらないが。
所轄からなんて、普段縁がある場所と違うし。
自由意思で集まった愛好者が乱交パーティーを開いていただけで逮捕される時代。
プライベートなホテルの一室で、公然猥褻罪が適用される狂いっぷり。
※実話
俺はやってないが。
ただもしかして、自由意思でホテルに入った男女のプレイ形式によっては内乱罪が適用される時代が来たかと思っただけ。
そのおかげでとある女性が羞恥プレイ好きだと分かってよかったよかった。
怪我の功名というべきか。
が。
そんな功名は続かない。
続いてたまるか。
だから仕事を装って思春期の好奇心から身を守ったのは良い思い出。
四ヶ月くらい前までの。
【聖都南端/青龍の軍営内演習場/青龍の貴族、右側/魔女っ子】
「Amen! 」
と、おっしゃられても。
わたしは、聞くわけにはいかないのです。
せめて心の中で言い訳をします。
「Amen! 」
わたしには、言わずもがななことですが。
お伝えしたほうがいいのでしょうか。
「Amen! 」
どう伝えるべきなのでしょう?
ご主人様が嫌いなものを嫌いになりたいのです。
ご主人様が好きなものを好きになりたいのです。
ご主人様が望む、そんな、わたしになりたいのです。
だからきっと、道化さんの言葉を聞いてはいけない。
でしょうか?
【国際連合統治軍第13集積地/射撃場/軍政部隊後方見学席/青龍の貴族】
俺が考えるべきこと。
それは指揮下部隊の訓練、いやそれが前提としている作戦。
つまりはアメリカンな物量作戦。
反対しているわけじゃない。
そもそも、質で戦えるような俺たちじゃないしね。
時々銃器弾薬が無くなってもたくさんあり過ぎて誰も気が付かないような、そんな我が同盟軍とは違う。
訓練しない俺じゃなく、訓練できない俺たち。
そんな俺たちが護ってきた、米軍の事前集積物資他デットストックの底なし沼。
数撃ちゃ当たる万々歳!
戦略的にはそれでよくても(よいのか?)戦術的にはそうもいかない。
戦場で弾を運ぶのは兵士なのだ。
無駄に消耗して歩きたくない。
補給兵など走らなきゃいかんのに。
全力疾走という非人道的行為を強いられてるんだ!!!!!!!!!!
だから効率的にサボる。
そのために無駄弾を撃ってほしくない。
そういう意味でも、統制射撃。
勿論、本来の統制射撃は戦闘力を常に維持するためだ。
3秒以内のインターバル・タイミング。
それを半数ずつでスライドさせる。
打撃力に変わりなし。
それよりなにより持続力。
そしてなにより命中率。
制圧射撃は威嚇射撃。
7.62mmでそんなことするものか。
5.56mmだとそれくらいしかできないけれど。
個々兵士の反応は、だいたい間違っている。
不意に何かを見つけたら、撃つな動くなシグナル鳴らせ。
不意に何かを感じたら、撃たず身を下げシグナル鳴らせ。
不意に敵を見かけたら、撃たずに狙ってシグナル鳴らせ。
これが正解。
バカ、あるいは不慣れな奴は撃つ。
ので、射撃の基本は部隊管制。
だからこそ不慣れな、俺たち自衛隊は念入りに。
教習所じみた駐屯地、自動兵器に守られた陣中。
そこで体にしみこませ続ける。
抜けないように、抜ける側から、繰り返し繰り返し染み込め直し。
有松・鳴海絞り。
友禅染。
染物の基本は繰り返し繰り返し。
「Attention!!!!!!!!!!!!!」
誰一人例外なく、何一つ号令なし。
試射プロセスは静かに進行。
みんな慣れてるみたいだね。
俺は初めてだが、隊員たちはそうでもないのかな。
軍政部隊配属前、普通の部隊にいたころ、ほぼ毎日コレだったんだろうな~。
軍政部隊専用に教育を受けるのは、軍政官だけだからね。
曹長以下みなが戦場で過ごしている頃。
頭上を越えていく砲弾ミサイル航空機を眺めている頃。
生きた標的を目にすることが非常にまれな体験となっている頃。
戦場に立たない不幸な人もいたわけで。
それはあたかも、まじめに受験戦争を見物していた生徒・学生のように。
レイオフ率70%オーバーの異世界転移後日本で、異世界情報にワクテカしつつ自宅待機を楽しんでいる人々とは違って。
真面目に受験戦争に突入したかいあって、人類史上初めての高水準で異世界を研究できる時に居合せて狂喜乱舞している研究者とはまた違い。
戦場に立てない不幸な俺がいたのである。
「オカオコワイネ??女の子が怖がりますよ~?」
「怖くないです!」
「怖くても平気です!!」
「相手にするんじゃありません」
戦場で原型が残っている死体を刺突して日がな一日過ごす。
それが兵士たちの日常。
勘違いして異世界住民と言葉を交わしたりしなければ、殺されずに済む戦場。
それが開戦から一か月の戦場。
その同じ時期。
俺は清潔な豚の臓物に突撃演習。
人間の内蔵に似てるから、最適らしいですよ?
異世界人の内蔵も、形や色や臭いが地球人と全く同じ。
訓練軍曹の確信をもった保証付き。
なお清潔ってのは、既存の感染症のみ考慮すればいい、ってこと。
治療よゆーよゆー、とは立ち会い軍医の保証。
俺たち軍政官は、否応なく最前線。
異世界人と地球人の接触点に向かう。
邪魔にならないための、猛訓練だった。
具体的には吐いたり錯乱せずに兵士の後ろに下がれるように。
下がったうえで必要になるまで待機していられるように。
相手の顔と目を確認しながら撃たせられるように。
最前線で体験すべきことを飽きるほど。
撃つのではなく、殺すのではなく、壊すのでもなく。
ただ、細大漏らさず見守って、耐えることだけに特化。
撃つ訓練は適当で、撃たせる訓練が中心で、むしろ撃たれるほうが多いくらい。
それが俺の、経験値。
「モーシモーシカメヨーカメサニョ?」
【聖都南端/青龍の軍営内演習場/青龍の貴族、背後/エルフっ娘】
凄く斬りたい。
あたしは鯉口を切ったまま、気配を探る。
探らなくても、騒々しく耳に響いてくるけれど。
道化。
青龍の道化。
彼、青龍の貴族は無視。
珍しく、無視。
見て見ぬふり。
普段なら、興味がないことは本当に見てないし聴いてないのに。
面白くない。
青龍の貴族、彼の大きな背中越し。
見えなくても見なくても、判るからこそ斬りたくなる。
あえて背中に隠れたのだけれど。
失敗だったかしら。
腰を振って踊ってる
――――――――――――――――――――――――――――――のを止めた。
剣を抜く気配が判ったみたいね。
死角に入っているのに、これだから斬れない。
貴族と道化。
これは古来、つきものの関係。
であればこそ、青龍でもそうだ、というのは解るわ。
道化でなくては許されないこと。
道化であれば許されること。
道化なればこその間柄。
よけい斬りたくなるのを、我慢。
女との関係ではない、別な関係
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――彼の気を惹いてる。
嫉妬じゃないから!!!!!!!!!!!
【国際連合統治軍第13集積地/射撃場/軍政部隊後方見学席/青龍の貴族】
そして今。
俺が体験できなかったことを、体験中の隊員たち。
撃ち終わり弾倉を差し替え、空の弾倉に弾込。
戦場では込めないけどね。
試射場だからね。
そこまで終えた隊員たちの約半分。
互いにM-14を交換。
互いの銃をチェック。
それに併せて、次の約半分、4名が発砲開始。
曹長は最後なので、皆を見て回っている。
選抜歩兵の佐藤と芝も、別手順。
全員共通は、試射直後は整備をしないこと。
整備は一日一回夕食前。
駐屯地の部隊は就寝場所傍の武器庫にしまって、待機に入る。
小規模作戦中部隊は、各自管理の曹長チェック。
入浴他手元に置けない時、ペアに指名されている隊員が管理。
「Me?」
俺もやってるんだよ?
銃を預かりつつ、ガバメント分解整備。
神父と交代でね。
おかげでシスターズ&Colorful入浴中は、神父の襲撃がない。
Brotherと裸の付き合いをしようとしたら少女たちがいっしょって忘れてた(棒)
――――――――――とかやらかさない理由。
「NONONONONO!Brotherのナオンにdon’t Touch!
神父様ウソつかない???」
良かった良かった。
俺も自分で撃つのは気が引けるし。
だからまあ、全員、今は整備しない。
M-14はメンテナンスフリーではないが。
長時間戦闘に備えて、みんな整備キット常備だが。
試射の20発なら問題なし。
むしろ動作確認後、整備したせいで整備不良が発生したら大爆笑。
「イジメカッコワルイ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
いや、笑えない。
「その、ご主人様」
魔女っ子の、控え目な気づかい。
アレは無視していいのよ?
「Look at Me!」
立ちにくいよね、あのボーズ。
見慣れぬ銃を肩に担いだ神父のボーズよりも笑えない。
ほら神父がスベっても、失われる命の数は変わらないし。
死体の数以外って、どーでもいいよね。
概ね、基本、多数例。
だから俺は特技を強化展開。
公務員流問題流し特別職版!!!!!!!!!!
両目の焦点外す俺。
両肩をすくめて両腕を広げた神父。
「HAHAHAHA!!!!!!!!!!
American フレンドリー!!!!!!!!!!!
Fire!!!!!!!!!!」
な!
世界で唯一占領地で住民に好かれたがるアメリカ人の厚かましさだ、と?
失敗ばかりの癖に。
Friendly Fireって同士撃ちじゃねーか。
○○国民主化委員会とか。
○○国正常化委員会とか。
○○国再建委員会とかとか。
議会と国務省と国防省に山ほど堂々と看板たてっからだよ!!!!!!!!!!
相手の政府も住民も無視して勝手に造ってるからだよ!!!!!!!!!
せめてまとめろ!!!!!!!!!!
フルオートで全員に嫌われる、アメリカンスタイル。
全自動戦後処理失敗器が、両膝を地につき両腕を高く真上に掲げる。
「ジェネラル・マック、ショーカン」
は?
召還ポーズ?
古典映画ファンにはプラトーンのポーズ。
神父がくわえるコーンパイプ。
――――――――――く!
ばかよせやめろ!
俺たち(日本人)にだけはそれが効く!!!!!!!!!!
と、思ったら、額に開いた指先を当て謎ポーズ。
「hero show Time!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・まあ確かに、シスターズ&Colorfulの姿はお面そのもの。
バイザーが変身ヒーローに見えなくもない。
硝煙の匂いと併せれば、花火大会に縁日屋台。
御面をつけた子供たち
――――――――――出かける前に、たこ焼きか焼きそばか他全部を調達するか。
リンゴ飴は無理かな?
ここ第13集積地の厨房なら出来るだろう。
ここの厨房担当者は、子供たちに優しいし。
本土に子供を置いて来てる隊員って、少なくないよね。
まあ、子供の姿を見るだけでとりあえず気を遣うモノだが。
空の弾倉に、みんなが銃弾を詰め終わったらね。
「マイ、フェイバリット!!Auto Assault-12/AA-12」
――――――――――――――――――――えーえーじゅうに?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんつーモンを。




