唯一無二

「失って初めてわかることがある」

ソレは異世界に転移する前のこと。

去年、老年離婚した名目上の上官が言っていた。

「キミがいなくなってやっと、キミが必要無かったと解ったんだ」

あ、奥さんね。

――――――――――部下一同、言葉もありませんでした。

ちなみに上官閣下は、それまでいままでなにもかも、身の回りは元奥さん任せ。

初めて知った、ありがたみ。

洗濯機や掃除機の便利さ。

レトルト食品ならびに、大手スーパー惣菜売り場のラインナップ＆リーズナブル。

コンビニに並ぶ惣菜に弁当屋に定食屋のクオリティ。

駐屯地食堂の充実ぶりに制服勤務の利便性。

独居老人を完全サポート！

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ま、日本にはおらんわな。

スープ一つに前日からから仕込みをする専業主婦なんぞ。

愛情は三年持たないっていうしね。

その程度のことだよね。

さっさと別れりゃ良かったのに

――――――――――出世に響くから、出来なかった、と。

判ってたんだね。

【聖都南端/青龍の軍営/青龍幕舎/青龍の貴族右側/お嬢】

わたくしには、様子が良く見えます。

ねえ様。

すごく耳を傾けていらっしゃるわ。

心音まで聴こうとされていおられますね。

あの娘。

すごくとろとろに溶け崩れているみたい。

煮崩し過ぎたシチューの様に、幸せそうに自分を失って。

二人とも、ご領主様以外、眼に入ってないわね。

可愛い

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・すっごく、抱きしめたくなりますわ。

きっと、ご領主様もそれはおなじように感じられるはず。

それを肯定されるかのように、ご領主様が微笑まれました。

わたくしに、微笑まれる視線。

それはそれは幸福で

―――――――――――危機感も感じますけれど。

一番早く。

一番たくさん。

一番最期まで。

ずっと、もっと、いつまでも。

わたくしも、そう想いますもの。

もっともっと、ご領主様に。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なに？

Ｃｏｌｏｒｆｕｌの皆が、わたくしたち三人に向ける視線。

羨望と憧憬と共感に、可愛らしいものを見るような

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・わたくしたち、三人に？

ねえ様。

あの娘。

わたくし。

一人。

二人。

わたくし。

間違いなく、わたくしにも。

見守るような、声援を送られているような、褒められているような。

つまり？

―――――――――――夕べ。

―――――――――――今朝。

―――――――――――湯殿の中。

―――――――――――お布団の中。

つまり。

わたくしも。

じぶんをみうしなっていましたわね。

ごりょうしゅさまにすがりついてなにもかもゆだねてもとめて

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――わたくし以外のみんなが見ている最中に！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！

【国際連合統治軍第１３集積地//ゲストハウス/卓袱台の前/青龍の貴族】

問題点は、問題点なのか？

―――――――――――俺が一番気になるのは、ニコニコ笑っている魔女っ子。

二番目はお盆を抱えて赤面している、お嬢。

三番目は背中で耳がパタパタ動いてしまっている、エルフっ子。

だがやはり、魔女っ子が深刻な気がする。

たいへん美味しい朝ご飯。

魔女っ子が全部作ったんだよな

～～～～～～～～～～なんというハイスペック。

見知らぬ異世界(にほん)の、見知らぬ料理(わしょく)。

再現率高！！！！！！！！！！

魔法使いか？

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・魔法使いだった。

俺がある日、カリマンタン料理を作ることになったら？

出来る出来ない以前に、出来たかどうかすらわからない。

レシピ通りにして、出来上がったナニか。

それがナニと、作った人間にもわからない。

しかしこの魔法は？

此処、第１３集積地。

其の、糧食隊。

彼の、料理担当一同。

レクチャーを受けただけ！！！！！！！！！！

単なる日本人から短時間の質疑応答。

和食の先生でもない。

いや、教えるのは慣れてるだろうけどね。

糧食班って、結構新兵が放り込まれるし。

それで出来上がる和食。

異世界風味ではあるが明らかに和食。

洋風料理っぽい異世界料理しか作ったことのない魔女っ子が。

魔法だったら教えてほしい。

古今東西何処でも生きていけるのは、腕のいい料理人。

この子の才能なんだろうな。

異世界文化と洋風化した日本文化の良いとこどりハイブリット融合。

これは進化というに値するといいきってしまおう。

この偉大な結果を生んだ、有志女性自衛官各位に感謝したい。

是非とも贈り物から始めよう

――――――――――は、さて置き、同時進行するとして。

任務外活動に狩り出されて銃器も装備も持ち出した第１３集積地義勇女性自衛官反ロリコン討ペドフィリア異世界少女護衛啓蒙部隊。

すっかりなじんだ打ち解けた。

子供たちと。

魔女っ子たちの希望を聞き出して、しかるべき部署を紹介。

装填試射済みの実銃を構えてぴったり密着エスコート。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・厨房の見学やら、和食の勉強やら、俺に言えばよくね？

好奇心は子供の特権。

俺が一番得するしね。

と言いたいところだが、女心、だそうだ。

曰わく、メンゲレ大尉。

つまりは不言実行と言うことか。

有言実行失敗隠蔽、という俺とは大違い。

いや、違う。

そうじゃない。

魔女っ子が見ている。

割烹着の裾をいじりながら。

視線に気が付いて、俺から目を逸らした。

というか、逸らそうとした、か。

チラチラ見てるけどね。

俺が目顔で頷く

――――――――――びっくり。

俺が。

魔女っ子笑顔。

華が開いたのかとおもった。

もともとニコニコ微笑みがこぼれていたが。

満面の笑み。

爆弾かフラッシュ・グレネード。

体感には個人差があります

――――――――――な、魔女っ子。

魔女っ子料理。

その腕前を俺は知り尽くしていた。

不慣れな異世界料理の数々。

魔女っ子一人で万事解決。

異世界料理以外への対応能力は、まさに

――――――――――じゃなくて。

それも気になるが、先送り。

肝心なのは、この子がこの子自身をどう思っているか。

【聖都南端/青龍の軍営/青龍幕舎/青龍の貴族左側/魔女っ娘】

きゃ――――――――――――――――――――！

・・・・・・・・・・・・・・・・・いけませんいけません。

わたしは顔を引き締めます。

油断すると、綻んでしまい

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いい。

うぅ！

あぅあぅ！！

いけませんいけません。

このままでは肢体が踊りだしてしまいそうです。

我知らず、お洗濯や繕い物を探してしまいます。

命じられことばかりに飢える身を罰してほしい。

ああ！

いまならお城を独りでお掃除できます！！！！

でもでもでもでもでもでもでもでもでも、ご主人様と離れるのは、イヤ。

どうしましょう？

どうしたらいいのでしょう？

どうにでもしていただきたいのに！

ご主人さまの、お食事姿。

それを思いだして、表情が緩んでしまう、わたし。

その、わたしの、顔。

どうなってしまっているかわかります。

しかたがないことですけれど、皆さまにお見せしたいとは思えません。

ご主人様に向けられる表情じゃないのに、顔を伏せることもできません。

表情を消すことなんか慣れていたと思っていたのに。

でも、どうしても思い出してしまいます。

すっかりだめになってしまった、わたし。

ご主人様のお姿を見つつ、表情を隠す方法はないでしょうか？

とっても大きな、お口。

次々と、のむように食べすすめられました。

普段から、たくさん、たくさん、食べて、お楽しみです。

あまり表情にはだされません。

でも、判るんです。

素早く味わい、解ってからのみほす。

それに、それに、それに

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・わたしの傲慢な思い込み、かもしれませんけれど。

きっと、たぶん、わたしのお料理には、特に気を向けて頂けている。

そう、感じます。

あ、もちろん、ご主人さまは、色々なものをお楽しみです。

いろんな場所の、一流の料理人さまの、すごい料理。

わたしには、とてもとても、手が届きません

――――――――――まだ。

でも、今、ううん、これからも、どんどん、がんばります。

ご主人さま専用に、なにもかも合わせて整えて。

日々、変わり続ける、ご主人さま。

刻々、変わる、わたし。

お許しいただけるなら

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・わたし、そのものを。

【国際連合統治軍第１３集積地//ゲストハウス/卓袱台の前/青龍の貴族】

日々刻々、魔女っ子を味わい尽くしている俺。

なぜか？

気になる。

今更か？

軍政初期の食事。

接収駐留施設の料理人が作っていた。

王城では、もともと勤めていた人たちを再雇用したからな。

体制崩壊後、一斉に帝国から距離を置いた領民たち。

王城の奉公人たちも、城を離れた。

が、太守の家族が逃げた後。

王城奉公人の肩書き。

かつてはステータスだったソレが、白眼視、ヒドいときは襲撃される原因にもなった。

体制転覆時あるある。

街を捨てたものも少なくないが、アテが無いものも多かった。

だからまあ、親帝国派とみなされた人々が、再雇用に応じた

――――――――――帝国を逐った俺たちに雇われたわけ。

その中には、厨房を仕切っていた料理人もいたわけで。

腕が良く、宮廷料理から軽食までなんでもござれ。

まあ当たり前が。

貴族太守だって人間。

毎食毎食フルコース満漢全席な訳がない。

軽く楽しむ料理。

数品からなるセット料理も得意。

俺がビジネスディナー的なものに付き合っている間。

邦の偉い方々相手に、気の置くしかない食事を楽しんでいる間。

美味しかったけどね。

部下たちは、そんなこんなを楽しんでいたらしい。

上官をハブるとは。

なんて奴らだ

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・フルコースはフルコースで、美味かったけどさ。

しかもコイツ等は魔女っ子料理も楽しめるのだ。

魔女っ子が、全員分作るから。

シスターズ＆Ｃｏｌｏｒｆｕｌが手伝う。

人手は足りているし、部下たちにも大好評。

たいへん釈然としない。

異世界を満喫出来ない俺の立場は

――――――――――いや、そうじゃない。

――――――――――子供に食事をもらっている――――――――――

深刻な問題だ。

「ご領主さま」

あ、はい。

お茶まで注いで頂いておりまして。

お嬢のお茶は、美味しい。

しかも、日々、一杯一杯ごとに向上しているような。

１２歳でコレだよ！！！！

おそろしい子！！！！！！

おかしい

――――――――――まさに、子供になにもかもさせているような。

太守府王城には洗濯機導入済み。

いや、それは駐留前提なら当たり前だが。

もちろん士官は洗濯しない。

戦闘任務中、個々に洗うわけもないが。

兵士たちの当番制。

王城のメイドさんたちに任せてもいいが

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・戦闘装備だからね。

被占領下の住民に関わらせない。

一歩間違えれば帝国の密偵に拉致される。

情報収集拉致誘拐は、俺たち国際連合の十八番。

だからこそ、帝国とは似たもの同士。

国際連合雇用の王城職員は、日々点呼して所在確認している。

まあ、休日という概念がないから簡単だけどね。

俺みたいな、なんちゃって２４時間勤務とは違う。

王城職員は国際連合が雇用。

あくまでも人間未定だから、雇用じゃないけどね。

野生動物を餌付けするのと同じ。

ヒドい

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・って思うじゃん？

その餌は、業務指定拘束８時間残業手当て付き即日有給支給。

日本では実行されたことがない、アレ。

人間ではない、から、異世界人労働者には、権利はない。

全部、義務だ。

異世界人労働者を管理する、太守領では俺、が課せられた労働条件を実現する義務を負う。

相手が何を言おうが、休みを強制する責任も、だ。

本来、日本の労働法も使用者の義務なんだけどね。

雇用者は労働者を働かせない義務がある。

働かせすぎるのは犯罪。

働かせすぎないのは義務。

日本人は、みんな知らない。

異世界人(人間以外)以下の日本人労働者って。

なぜか。

言うとびっくりされるが

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なぜだ。

それはともかく

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・お察しである。

俺の分は、シスターズ＆Ｃｏｌｏｒｆｕｌが担当。

まさに子供におぶさってます。

――――――――――大問題。

本来は俺が食事を作るところだよな。

シスターズ＆Ｃｏｌｏｒｆｕｌはお手伝い。

まさにそれこそ正しい姿。

いやまあ、魔女っ子より美味しい料理を作れないが。

お嬢より美味しいお茶を淹れるのは無理だが。

俺に出来る範囲は、たかがしれている

――――――――――まさに、出来る、って程度。

他人に必要とされるような、そんな技能を持っている人間は少ない。

みんな、すべてが、ほとんどが、代わりがいる程度の者ばかり。

特に社会の上での役割なんて、名前も必要がない。

社員、隊員、市民に国民、なんなら俺にキミに私。

Ａ，Ｂ，Ｃ，Ｄで事足りる

だから誰もが言われるわけだ。

君がいなくなって、初めて気が付いた。

君がいなくてべつにいい、ということに。

不要とすらされない、影法師。

だか、魔女っ子は、そんなことにはならない。

俺が断言する。

実家に帰られたらマジで死ぬ。

それくらい依存性が高い。

当然、俺には太刀打ち出来ん。

要らない子扱いどころか、俺が依存しかねんマジ危険。

一家に一人ぜひ欲しい。

ならば、代わるわけにもいかない。

代われない。

そして、腕の良しあし以前に、依存しておかないとまずい。

知り合って仲良くなって、今は、そうも感じる。

魔女っ子は、自己評価が低い。

いや、高い低い良い悪いじゃなくて、否定か。

可愛らしさをあぐらをかいて、ニート街道を突き進めばいいのに。

いけるいける。

媚び嗤い一つで、カモを操れるよホント。

教えないけどね。

そんな自分のポテンシャルに気が付かない、気が付かせてたまるかの、魔女っ子。

最近、多少は自信を持って振る舞える、ようになった

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・か？

それが料理のせいだとしたら。

大いにありえる。

役割を見出すことにより、自分を支えるってのはありそうなこと。

俺の一口に、一喜一憂。

一口一口、むっちゃ喜んでるし。

結果なんか知れてるのに。

美味いに決まってるじゃん。

まあ、嬉しいよね。

料理を作って食べさせるってさ。

そこに水はさせない。

俺が作るとは絶対言えない。

それが危険な気がする。

俺が思うに、異世界に来て一番早く仲良くなれた魔女っ子。

だが仲良くなってなお、かなり遠慮している。

いや、怯えている

――――――――――他の異世界住民とは別な感じで。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・孤独、か。

恐れているのは、それだろう。

それは魔女っ子に限らないか。

シスターズ＆Ｃｏｌｏｒｆｕｌ、その特徴はボッチ。

政治的に孤立していた魔女っ子。

虐殺対象だったエルフっ子。

お嬢は経済的に孤高。

Ｃｏｌｏｒｆｕｌにいたっては被差別人種。

俺たちに、馴染むわけだ

――――――――――外来の稀人、招かれざる客、ボッチ同士の共感。

だからこそ、俺たち地球人との縁を守りたがる。

――――――――――独りになりたくないから。

特に、と言えば、魔女っ子が一番弱い。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・子供は殴られるくらい、わがままでちょうどいいのに。

小中高といくつになっても寝ている俺に、フライング・ボディ・アタックをかましてくる近所のガキもいるというのに。

俺は殴らないけどね。

鷲掴みに捕まえるだけ。

子ども相手に、怒るわけがない。

子ども相手は叱るだけ。

いずれ俺が、この子たちを叱るためには、もっと距離を縮めなければならない。

よし！

【聖都南端/青龍の軍営/青龍幕舎/青龍の貴族背後/エルフっ娘】

あたしはドキドキして、気合を入れなおす。

食後。

そろそろお茶も終わり。

彼の女がみんな揃っている、今。

あたしだけのことを言ったら、抜け駆けにすぎるし。

抜け駆けを笑われるか、嗤われるかわからないし。

みんなが思っていること、それならきっと大丈夫。

そんな打算もあるけれど。

モノ申します！！！！！！！！！！！！！！！

「おい」

はい！

なんでふりむいてあたしをまっすぐみているというかほほほをつつまれてるのかしら？？？？？？？？？？？？？？？？

だだだだだまされないわよ、しつないだからってきょうはとくにいそぎのようじがないといっていたけらって、ぜったいにきたいしないんだからね。

いつもいいなりになるなんておもわれてるとはおもうしちがわないけれどきょうからはそういうことはそれよりさきにあたしたちのいいぶんをできればきいてほし

「でかけるぞ」

「うん」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ。