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完全侵略マニュアル/あなたの為の侵略戦争  作者: C
第七章「神の発生」UNESCO Report.

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生きねば。/To be or not to be, that is the question.


"Wenn man eine große Lüge erzählt und sie oft genug wiederholt, dann werden die Leute sie am Ende glauben."

(嘘を百万回繰り返せば真実となる)


――――――――――Paul Joseph Goebbels――――――――――



※和訳について

:「嘘を繰り返せば皆が信じる」と単純に訳せば意味が通じなくなるので「繰り返し続ければ」の部分を「100回繰り返せば」「百万回繰り返せば」とすることが多い。日本語では数字を挙げた場合にその数そのものを意味しない使い方が常用されており、「八百万(やおよろず)」が800万という数を意味せず「無数」「数えきれない多くの」などを意味するのと同じ。

※ただし日本語が苦手な人はそれを誤訳ととらえてしまうことがある。




万物を創造した全知全能なる主。

御心を語るとき、一つの疑問が生まれると聞きました。


「主は何故、悪しきモノを創りたもうたのか?」


これをもって、御心を否定してしまう方々もおられるとか。



とても簡単な問いかけだけに「なぜ問わなかったのですか」と尋ねたくなります。

まあ、それを問うことこそ、疑問に答えてからで良いでしょう。


これは聖職者であれば、誰でも答えられるのですが

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・主は「自由」を創られたからです。


すべての愛しき者たちへ

――――――――――自由を与えられた。


すなわち、愛ゆえに。



主は赦します。

なぜなら、自由な意志により背を向けた者が、帰って来たからです。


主は待ちます。

なぜなら、戻したいのではなく、戻ってほしいからです。


主は罰を与え、恩寵をもたらします。

なぜなら、自由そのものを傷つけたくはないからです。



ゆえにこそ、我々信徒は忌避するのです。

人の意志そのものに触れることを。


それは主があまねく与えた唯一の恩寵を否定することだからです。


このような一歩目が、異教を奉じる皆さんに足踏みをさせている。

その場に信徒がいなければ、やむを得ないのですが。


私の伝え方が足りなかったのでしょうね。

天国の鍵を預かる身として、なおいっそう励みましょう。


《宗教的なお話》





カトリックも苦労しているようだ。


異世界への伝道は信仰上、危険過ぎる。

再建されたばかりのバチカンでは、公会議には耐えられまい。

国連による異世界への布教禁止は「幸いに」だろうね。



そうなれば「元」三大宗教の一角として、異教徒の改宗が優先される。

下地があるとはいえ、あるからこそ、日本では土着化しかねない危険性が高い。

だからこそ、基礎の基礎から、時間をかけて進めるつもりなのだろう。


わたしたち正教徒は、極少数派であることに慣れている。

だからあまり気にはならないが

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ああ、研究所所長がキリスト教徒なのが不思議かね?


猊下がおっしゃる通り。

キリスト教文明には魂への禁忌が強い。

魂に干渉することへの忌避感が、とても強い。


繰り返し繰り返し禁ずるほどに

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そうだよ?

――――――――――誰もが挑むからだ。


悠久の古から、未来永劫ね。



「神に問うてはならない」

まさに、その通り。


カトリックなら「だから教会に尋ねよ」と言うところだが。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・神に尋ねる、か。

考えない者たちの発想だな。


当たり前だろうさ。


答えを知らない者が、正しく問える訳がない。

応えを得たところで、正しいか解らない。


結局、問うたところで「応え」に隷属するだけだ。

受容であれ拒絶であれ、ね。


それこそが、恩寵の否定となる、ならざるを得ない。

だから、だ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・これも、異教徒には誤解が多いか。


問え、とは言わないが、考えればいいものを。


信徒は御心を知るために、御業をなぞる。

跡を辿り、模倣する。


意味も判らず、意味を見いだす為に。

それが御心を知る、近づく方法だ。


すなわち科学とは信仰であり、実験とは巡礼なのだよ。


《科学的なお話》






開けたら、閉める。

出したら、仕舞う。

――――――――――散らかしたら、片付ける。


「知ったことか」


吐き捨てながら、AA-12に銃剣を装着。


弾が5発しかない拳銃(ガバメント)

これはホルスターに戻し、両手でAA-12を構える。




兜に相当するヘルメットこそ被らない。

だがその姿は、まるで手槍を構えた中世の騎士だ。


だから期待された。


単なる獲物になってくれる、と。

これだけの人数でかかれば楽勝だ、と。

一人なら囲んで袋叩きにすればいい、と。




鈍重で視界が悪い全身金属鎧。

集団戦と騎馬輸送を前提とした動く防壁。

質量兵器として陣形破壊、対抗質量兵器を相殺。


それが連中の夢。



軽量で頑丈な化学素材。

広角複数カメラに上空からの索敵情報。

範囲制圧瞬間火力と取り回しやすい小型兵器。


これが連中の現実。





夢と現実の落差というやつは、どこまでも惨めなものだ。


期待した奴らが悪いのか。

期待させたこちらのせいなのか。





毒をもつ植物、動物、昆虫はみな派手な色彩を持つという。

あからさまに周囲の環境から浮いたスタイルは、格好いいからじゃない。


戦闘を回避するためだ。


言い換えれば、敵を倒さないため。

孫子曰く、ではないが、戦わないことほど合理的な結論はない。


戦いは、自分にとって危険。

戦いは、自分にとって負担。

戦いは、自分にとって損失。


それは自然法則であり、リンゴが木から落ちるようなモノ。

それを認めようとしないのは、人為的な都合に基づいている。


今も昔も、宗教裁判などありふれているし、狂信者の尽きることも無い。

・・・・・・・・・・・・・・というわけだ。



――――――――――それは相手が互角の力を持つ場合――――――――――


前提条件はあるだろう。

相手が自分たちより弱いとして、いつまでもそうある保証はない。

自分にできることは、相手にだってできるだろう。

だから。


一度、始めたら最後まで殺し尽くすしかない。


――――――――――そうするけど?――――――――――


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そんな声が聴こえた、気がした。



いっそプロテクターがサイエンス・フィクションのように、メタリックな印象であれば良かったのかもしれない。

そんなプロテクターを身に着けるのは、御免被るが。


異世界に馴染まない様であれば

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・黒髪を用意する方が、先か。


軍曹は後始末に取りかかる。







Dr.ライアンは驚いた。

驚いては、いた。

それなりに。



兵士たちと違って手が空いていたので、偵察ユニットで見ていたから。


街の真ん中のグリーンゾーンUNESCO本隊、平穏無事。

街の城壁外のイエローゾーンには村々から人が集まり始めている。

そして市街地真ん中レッドゾーンのワンマンアーミー。


※ゾーンの説明は<「第263話 Dr.ライアン 」参照のこと>


予想外が一番、興味を惹かれるもの。

だから、見ていた。

令嬢と二人で。




だから、ちょっと残念だった。


(たすけてあげればいいのに)


One shot kill.

日本風に言えば、介錯、だろうか?


助言してあげるべきだったか、とも思う。



軍曹を襲った少女。

その子は十分に興味の対象になる。

必須であれば、軍事参謀委員会が命じてくる

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何故か無かったが。


だが、現場から申請は出来ただろう。




数分以内に、黒旗団複合医療班につながったはずだ。

戦闘索敵装備にドッグタグ(個人監視システム)の機能を組み合わせて、データ送受信の精度を上げるる。


大陸の果て、どこかにいる治癒魔法使い。

魔法使いを従えた軍医。


彼らが通信回線経由で力を行使すれば。

命が助かった、可能性は低くはない。

※遠隔魔法治療については<「第82話 三者三様 」参照のこと>



被験者がもつ敵意の強さは問題だ。


地球人類への殺意を「人類のための組織である」国際連合は黙認しない。

それを発しているのが年端のいかない少女であれ、異世界人であれ、地球人であれ。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・実験室の中で、必要な間だけ、であれば別だけれど。




とはいえ、当然それも何とかなる。

「殺せば早い」といのうは科学的ではあるのだけれど、化学はいろいろなオプションを用意している。

いや、むしろ、何もしないほうが科学的か。



Dr.ライアンが見知った資料で言えば、人間の「殺意」自体が持続しない。


三日以上継続するのは例外で、実際には「殺意」を偽装することで精神のバランスをとるだけ。

報復殺人、かたき討ちやマフィアなどの制裁、は社会的な圧力で強制されるだけ。

日常的な殺人というのは、その場その場の利害調整のために生じるのだ。



あの少女が、あの絶望的な状況で、激情に駆られて背後から襲ってきた。


身の危険をやり過ごせたのに、そうせずに。

身の危険を顧みず、そうしてしまった。


一刺しで致命傷を与えられると思っても、即死させられるとは思うまい。

ならば間違いなく、距離をとる前に反撃されて共倒れ。


「どんな理由か知らないけれど、それは強い情念だったのでしょうね」

とDr.ライアンは思った。



理由?

情念?



とるに足りない。

強くても弱くても、構造は同じだ。


治療してあげて、保護を与えてあげて、「安定した明日を与えられた」と思わせてあげれば、忘れる。


殺意で三日、敵意で一ヶ月、出来事を思いださなくなるのに半年か。


まあ、そこまでしなくても危険は無いだろうが。

そういう意味で言えば、Dr.ライアンは国際連合の虐殺には批判的。


例え一宿一飯で懐柔出来る相手でも、規定は揺るがない。

それは極端だ、とも思う



安全保障理事会も軍事参謀委員会も、

「地球人類の一般的な傾向が異世界人に対しても適用できる」

ことは認めながら、

「例外を許容しない」

完全主義をとる。



だからとりあえず皆殺し。

「例外を想定しない科学はないけれど、例外を一般化するのは科学的ではないわ」

Dr.ライアンは、そう思う。


今回のケースも含め例外の発生を識別し、安全を検証をする手段はあるのだ。

手間がかかるから全員に、とはいかない。


しかし万を超える帝国軍捕虜に対して行っているために、手順は確立されている。

自白剤の定期投与リストに、100や200加えたところで問題ない。



もちろん職業軍人に近い意識を持つ帝国兵や、富貴ゆえの精神的安定が顕著な帝国貴族とは違う。


生活環境相応の不安定さを持つ、未成熟な子供。

となれば、精神的加工が容易なわりに持続させるのは難しい。


もしかしたら、あるいは、例外かもしれない。


だが、そうなっても問題はない。

例外というのは、管理できるのであればとても貴重なもの。

「やっぱり殺す」とはならないから心配はいらない。


その辺りの判断は一か月とかからない。



見極めたら?


あとはイトゥルップ(Итуруп)島のロシア共和国研究所へ、運ばれるだけ。

※<第129話 「初めての共同作業/Hybrid Science.」

参照のこと >


肢体を再建して、人格をInitializeしてくれる。


もともと、半世紀以上前に地球で確立された技術。

冷戦期にソビエトや合衆国で競われるように研究実践された。


異世界人に対する安全性は、複数体複数回の上書きで立証済み。


敵対者を生かして置くにはInitializeが必須。

もっとも、オリジナルデータは保管されるだろう。


異世界人の精神性は、地球人にとって魔法よりも謎だから。

例外となれば、なおのこと。




人間の精神・人格は脆すぎる。

現代技術ではInitialize(破壊/入替)か、Dual (二重)Instal(思考)lationしか実用化されていない。


70年代以降、研究がほぼ停止されているから仕方がない。

だがほどなく細部を修正し機能を正常化する、UpDateは可能になる。


異世界転移から半年もしないうちに目処がついた。

たいして新しいことをしているわけではないけれど


UpDate.


無駄なデータ、機能不全を起こすデータを削除。

例外的な動作を保証しながら、そのシステムを解析する。


Initializeしてオリジナルデータを戻す受け皿として保護されるはずだ。

もちろんDual Installationでも問題はない。


元には戻せるだろう。

多少の誤差はあるだろうが、ただ生きていても同じ事。

昨日の自分と明日の自分、今日の自分は別な自分。


連続性とは「非同一性」の読み替えに過ぎない。

つまり。



誰も死ななくて済む。

ハッピーエンド。






「誰」の中に、周りでうめいている人々は入っていない。

Dr.ライアンの中では自明のこと。


「生きる」ということに「呼吸をしている」以上の感覚を持っていない。

だから「それ」を否定することにも感慨を抱かない。


Dr.ライアンは十代を日本で過ごしてきた。

故に「生きねば」以上のことを知らずに過ごしてきた。

これからも知ることはない。


大人になり「生きねば」が単なるスローガンであると気が付いてしまう。


嘘は百万回繰り返すもの。

でなければハリボテにしかなれない。



だから。

Dr.ライアンは残念だった。

とはいえ、それを言葉にはしなかった。

賢明だったからではない。

気まぐれだ。





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