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完全侵略マニュアル/あなたの為の侵略戦争  作者: C
第二章「東征/魔法戦争」

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アムネスティ

国際連合軍特別軍法は米軍軍法を基本として国際連合軍事参謀委員会にて規定され国連総会の承認を受けております。

故に近代的な司法制度として構築されており、被疑者の権利も十全たる保護を受けられるものと考えております。


現時点におきまして死刑判決並びに執行の事例はございません。


《国際連合人権理事会/証言29》



WHO防疫部隊は人類を未知の疾病から隔離し種を保全する為に必要十分な権能を有しております。

その活動に少なからぬ誤解があることはもちろん承知しておりますのご説明いたします。


WHOの防疫作戦前段階は調査であり刑事捜査ではありません。

よって、黙秘権は認められません。


例えば都市部にて人類に脅威を与えることが可能な疫病が発生ないし発生が予見されるとき、感染の可能性がある人物に感染以後の行動(移動した場所、接触した相手、行われた行為など)を調査する必要があります。


それに対し、回答しない権利が認められるでしょうか?


むろん、可能性のあるすべての対象に自白剤を投与する場合もありますが、すべて防疫作戦上の必要によるものです。


WHOの防疫作戦最終段階は処置であって処罰ではありません。

よって、裁判手続きを必要としておりません。


保菌者ないし感染者、それが疑われる対象の隔離と消毒には迅速性と完全性が必須であり、医学的知見のない機関に助言を求めることは人類滅亡に直結いたします。

医師が医学的必要において人体に毒性を持ち得る薬物を投与しあるいは人体を棄損することと同じように法理を満たしております。


ご指摘の通り、WHO防疫部隊が軍法上の違反行為の現場に展開する例が見られます。

それは血液感染をはじめとしたエンデミックの可能性が、違反行為の現場で確認されることが多いためです。


むろん、安全性が保障されない対象への燃/化学消毒は即時完全に実行いたします。


《世界保健機関/国際連合軍事参謀委員会/定例会議証言より抜粋》



【護衛艦艦内作戦室】


「人殺しの感想をお聞かせください」


俺、この子と仲良くなれんな。うん。

元カノを見た。


「あー、この、アレなガ、がそれ」


わかんねーよ。

だいたいなんだよ。

引き合わせたいって出てきたのはどう見ても国連軍じゃないやつら。

未成年っポイのとそれ以前なコンビ。

いや、これ組んでないな。


「よろしいかしら」


前に進み出てきたのは未成年じゃないほう。20代前半かな。

どこらへんがそれ以前かっててーと。


ホルターネックのキャミソールドレス。装飾過多ながらなめらかな素材はラインを強調、インナーが透けているのはワザと・・・ってか、そういう演出だな。

街で、もちろん日本の、でナンパするなら最高なんだがな。


ローライズなデニムパンツにブーツってのはまあいいか。足回りさえまともなら走って逃げるのには問題なさそう。


「まて」


キャミソールは素直に黙る。

エルフっ子に諮問。


「この衣装は大丈夫か?」


文化的に。

わざわざしなを作って一回転。ウィンクして見せる。

うん、このキャミソールとは仲良くなり、れそうだ。


「よくお似合いです。青龍であるという以上には驚かれないでしょう」


大丈夫だな。まあ、後で上着を渡すか。

再開。

あらためてキャミソールが元カノに聞く。


「わたしからご紹介いただいてよろしい?取材するなら時間がかかるでしょう?」


ちょっと考える元カノ。

憮然としたままの未成年。

人殺してどんな気分?ってのは取材なのか。


「ワタシはアムネスティ・ロンドンに所属し」

「ちょっと待て!聞いたふりやめてくれる?」


話し始めるキャミソールにツッコむ元カノ。

お前らは友達か。

まあ、だいたいわかったが。


「つまり、慰安」

「じゃありません!人権支援活動です」


断言。


「米軍軍法でも日本国法でも売春は禁止だろう」

「ワタシたちは国連と無関係なNGO。そしてここはどこでもありませんよ」




【アムネスティ・ロンドン/東京都千代田区一番町連合王国(英国)大使館/四ヶ月前】


『性搾取の象徴』こと『売春』。


世界最古の職業は、批判しても弾劾しても非合法化しても、減ったためしがない。

アムネスティは現状をこうとらえてきた。


『むしろ非合法化したことで地下経済に組み込まれ従事する弱者(女性や子供/含む男)が人権を保護すべき公的機関や組織から切り離されてしまっている』

『性の商品化を否定するだけでは解決しないどころか、人権状況を致命的に悪化させている』


という考え方だ。

倫理的、道徳的、宗教的に正しいかどうか?それは中立性を旨とするアムネスティの活動にそぐわない。

そして、現地球世界にて明日、新たな英国政府に対し登記申請が受理される、我々アムネスティ・ロンドンはその認識を受け継ぎ行動する者である。


実際にこれまでの売春合法化により


『売春婦夫への最低賃金、納税による社会貢献』

『売春婦夫に対する医療保険、性病撲滅推進』

『賃金未払いや暴力からの保護と組織犯罪撲滅推進』


を実現した事例が多い。

それだけが、その結果だけが、アムネスティ・ロンドンの関心事項である。


『売春婦夫の人権を擁護し可能なら生活環境を向上させる』


という目的にに異論がある人類はいない。

その行き着く先として


『売春を悪として根絶するまでの過度的な対策としての合法化』


とみなすのか、


『売春を単なる一職業と定着させることになる合法化』


と考えるかについて、決着はついていないだろう。

同時に、売春合法化の事例においても目的自体の達成に失敗した例もある。

いずれにせよ実践を勧めることでしか答えは得られない。


アムネスティは全人類の福祉のために存在しているのであり、異世界転移後のアムネスティ・ロンドン再編においてもそれは変わるものではない。

これは一つの事例でしかない。

そして世界は事例の集積でしかない。

なればその探求と改善に躊躇してはならない。


『戦場における売春』


この古典的命題に答えをだそう。


しかしながら、この点について、お断りしておく。

本命題に答えを出すことは戦争を否定しない意味を持たない。

今回賛助いただいた、一人一人の個々人の計画は完遂され、戦争はなくなり、ここで得られた答えは、歴史的知識となるだろう。

あなた方が断言した通りのことが、計画通りに実現すると、我々は信じている。


あるいは法的、もしくは道徳的、さらには結果に対する責任は我々が持つ。

あなた方個々の私人としての協力は人類社会の総意ではないことを確認する。

我々への協力は再建されるであろう国際連合の意思と無関係であることを証明する。



英国大使館庁舎の一角に拍手が響いた。




【護衛艦艦内作戦室】


売春が俺にどうしてかかわるのかというと、まあ、実戦部隊を率いて『無関係です』は通らないが。

しかし、知る限り、出島にしかなかったはずだが・・・。


「出島以外で初めての活動となりますのでよろしくお願いいたします」


そう。

国際連合軍が唯一認める『管轄外活動』なのである。


アムネスティ・ロンドンは異世界転移後、連合王国(元英国大使館)にて法人登録をしている。

とはいえ、国際連合とは一切関係ない組織である。

彼らが持つ多くの主張、そのうち一つが、常任理事国(同居している英国首相か?)の目に留まった。

幾人かの私人(としての立場)でなにやら行った結果、様々なプロフェッショナルが大陸に渡航した。

主に世界最古の職業的な。


世界的な人権団体が異世界大陸に渡航するのが不思議だろうか?

No!

世界的NGOが国際連合の指揮下に入らないのが不思議だろうか?

No!

世界的なNGOにして人権団体が彼らの考えに基づき異世界で活動するのをだれが咎めるであろうか?


よって、これは、まったくだれの責任でもないのである。

もちろん俺の責任ではない。

証明終わり。


「もちろん、この土地での地球人人口からすればワタシたちが必要だとは思えませんが」


この邦の軍政司令部兵士、俺の部下、は交代で休暇をとり出島に行くことになるから常駐する必要はない。


「アタシは関係ないけど、アタシらのため」


と元カノ。

コイツが率いる部隊は、ほとぼり覚めるまで潜伏中の連中だ。

オリジナル黒旗団の連中は現地でいつも通り女遊びをすればいい。だが、旅団を組まされたASEAN連合部隊兵士はそうもいかない。


「黒旗団が駐留している間に私たちのは移動リラクゼーション『蝋燭亭』を運営しますので、よろしくお願いいたします」


パンフレット。

10名の女性のプロフィール。

調理、健康管理、労務管理スタッフのプロフィール。

いや、在住地球人が軍政司令部に届けを出すのは当然だけどね。


全員が黒髪なのは、海兵隊で髪染めがはやった理由と同じ。

一目で『外来の侵略者』と判るほうが安全・・・軍事参謀委員会はそう考えている。

黒髪じゃないと後方に下げられる・・・脳筋マッチョメンズはそう考えている。


お酒や料理のメニューがあるけど・・・あ、炊飯車両で調理するんだ。

宿泊施設は現地調達?ご休憩もあり?

・・・おい、女の子の名刺と得意プレイって。


イヤイヤイヤ、関心ないですよ?




【護衛艦艦内作戦室/青龍の貴族の背後】


あたしは何となく、妹たちを見た。

よくわかっていない。だがそれなりには、心配そうだ。

つまるところ、青龍の貴族、青龍の公女、青龍の女将軍に騎士に僧侶に道化。

それに娼婦が加わるわけ。


あたしたちの世界にあるものは、青龍の世界にもあるのね。

とはいえ、こんなに堂々と、貴族や将軍と渡り合う娼婦は青龍にしかいないだろうけど。


「ま、アンタはアタシがいるから必要ないけど、部下には遊ばせてあげなさいな」


キシャー!

妹たちが一斉に威嚇。青龍の女将軍には、物おじする気にならない。なぜか。

うーん、こまった、かな?




【護衛艦艦内作戦室】


俺は、次の少女を見た。

高校生くらいに見えるが、いくらなんでも派遣されるわけないしな。


「わたしはこちらの方々とは無関係です」


娼婦じゃないアピール。

ガキ、いやまあ、グレーの野戦服が馴染んでいない、口の悪い女性、いや、少女?が自ら進み出た。


「失礼ながら名乗りあわない事になっております」


スパイか。しかもフィクションの。


「わたしが決めたんじゃないですから!」


思春期は自分に向けられる視線に敏感だ。とりわけ侮蔑に。


「ご不審の点は決めた人に訊いてください」


元カノを見た。


「三佐のオヤジ」


やっぱりパシリか。

睨まれた。

敏感なのは子供だけじゃないようだ。


「役目はなんだ」


表情を取り繕って向かい立つ。


「これから起こること、これまで起こったこと。見て聞いて尋ねる」


来たり見たり勝てり。

いや、なんとなく。

なんか歴史家みたいなことを言ってるな。


「それだけです」


目的、というか、手段じゃないか?

でもさっき、アムネスティが取材って言ったよね?


「報じないだけか」


おっと、つい。歴史家の表情が歪む。

やっぱりジャーナリストっぽいところからドロップしたか。


「それが条件です」


報じない代わりに?

なんの条件?俺も関係・・・すんだろーな。


「何を望む」


こいつ、歴史家は?

責任者の元カノを見るべきだが、視線がそらせなかった。


「行動に便宜を与え、質問に答え、邪魔をしない」


ほー。

目的はあくまでも黙秘ね。ま、いっか。

ならば便宜により誘導し、答えるフリではぐらかし、安全の為と遮って。


「無条件に、言うとおりに、ね」


元カノが付け加えた。マジか。


「笑いごとじゃないわよ」


え?笑ってたか?やば!取り繕わんと。


「了解した」


ことにしよう。




【護衛艦艦内作戦室/青龍の貴族の右側】


わたしは様子をうかがっていた。主の希望を忖度するのは当然、だよね?

ご主人様が愉しそうに観察するのは青龍の史家、らしい。

ねえ様と変わらない年格好。


印象は・・・嫌。なんか、嫌。


今まで出会った青龍を思い出した。



見上げも出来ない遥か遥かの虹。

すべてを呑み干しなお底知れない深い深い闇。

力そのものを体現化した偶像。


ご主人様。

女貴族さん。

女将軍。


では、史家さんは・・・・・・・・・近づいてきた。


「お話しを聞いても良いかな?」


わたし?!

ご主人様を見た。頷かれた。好きにしろ、と言うこと。


「お断りします」


屈みこんで視線を合わされた事が、不愉快だった。




【護衛艦艦内作戦室/青龍の貴族の背後】


あたしは、あの娘に片手で謝罪。

つい、笑ってしまったから、頬を膨らませている。

なんで怒ってるか分かってない。

答え『ご主人様を馬鹿にされたから』ってね。


「協力いただけないのですか」


史家が食ってかかる。青龍の貴族に。


「ご主人様に何故言うんですか!」


あの娘を困ったように見る史家。


「あーあのね」


あやすような仕草。


「わたしは!貴女が嫌いです!だから応えません!!」


癇癪?!

ちょっと感動。

積もり積もったものが噴き出したのね。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

でも。

言ってから後悔。あの娘らしい。

申し訳なさそう、いや、申し訳なくて俯いてしまった。

ありゃりゃりゃ。


ここは、あたしが・・・




【護衛艦艦内作戦室/青龍の貴族の左側】


わたくしは驚きました。

あの娘の暴走も、ですが、


「話をしたければ仲良くしてみろ」


ご領主さまのお言葉に。

ねえ様もビックリです。

史家とやらも信じられないようにご領主様を見直します。


キャハハ!!!!


高く明るい・・・いえ、耳障りな笑い。

青龍の女将軍。




【護衛艦艦内作戦室/青龍の貴族の背後】


あたしが呆れていると。


「しっかりしかり!!」


女将軍、拍手。


「そんなんじゃ建て前すら訊けないわよ~オジョウチャン」


史家が歯を食いしばった。反発している。だが、自覚はあるようだ。

ふむ。

青龍の世界でも、子供は子供、か。

知識はあるようだが、覚えているだけで理解していない。


挨拶に返答。

問いに答え。

正しい答え。


な、わけがない。


挨拶は虚礼。

答えは応え。

それは相手の願望。


他人の権威を振りかざしても何も手に入らない。


力で強いるか。

情で引き込むか。

信頼を与え、与えられるか。


「・・・ご忠告に、カンシャ、します」


頑張ってる頑張ってる。


「失礼いたしました」


あら。

あたしたちに一礼。


「あ、いえ、こちらこそ、その、失礼を」


あの娘が慌てて頭を下げた。


「しばらく、皆さんとご一緒させていただきます」


あたしたちを見回す歴史家。


「あなたはこの、軍人さんを心から信頼しているのね」


その前に恐縮するあの娘に微笑みかけ、落ち着かせたのは好印象。


「いまだ、在学中の若輩です。皆さんのほうが経験は豊富だと思いますから、至らぬところは、是非ご教授ください」

「なら」


はや!妹分が早速。


「敬語はおやめください」

「あ、そうです。目上の方にそう扱われると・・・」




【護衛艦艦内作戦室】


俺は仲良くなれないが、この子らは、まあまあなんとかなりそうだ。

大学生、か。

未成年の可能性アリ。

要注意。


「司令」

常にいる曹長。いつ休んでるんだろ?

「港の受け入れが可能になりました」


めでたい。会議中に外していたインカムをつける。


「じゃ行こっか」


と元カノ。

だな、懐かしき祖国へ!






俺にも、そう思っていた時がありました。

「船の中は日本でしょ」

ちげーよ!

「ドサマギで帰国なんてあま~い」

っーか読めんのかよ!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 凄い。結構なウェブ小説を読んできましたが、意図的に読者への情報をわかりにくく書いてる作品としては最高峰です。 「書き手がわかっていても読者には伝わっていない」現象ならままありますが、名称を…
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