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完全侵略マニュアル/あなたの為の侵略戦争  作者: C
第七章「神の発生」UNESCO Report.

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289/1003

どうかこの子を殺させてください。



「へぼ将棋、王より飛車を可愛がり」

これは、父の友人から教えられた言葉です。


なかなか含蓄があると思われませんかな?



ああ、その方は日本人です。

戦って殺されました。


祖国を棄て、家族を棄て、戦友を棄て、縁もゆかりもない異国の地で、義理も付き合いもない民族の為に、泥水をすすり、熱病に悩まされ、殺して殺したその果てに。


命など、真っ先に捧げるべき、当たり前のこと。

命を大切にするなど、本末転倒ではありませんか。


ええ、珍しくもありませんでした。

だからこそ、英雄ではない。


規範というのです。



自分ですかな?

ああ、そこまでです。


何を聞いていたのです?


恩返し、などと侮辱されてはいけません。

助けられたから、助け返す。

それは商人の理屈ですな。



貴方は、そんなことのために産まれてきたのですか?


親の為。

子の為。

国の為。


報いるため。

返すため。

与えるため。


守るため。

生きるため。

勝つため。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんともはや。


それは思慮に値することですかな?




私が殺される理由は、そんなことのためではありません。

今、日本の指導者に服して殺される理由は、自明のことです。


正義の為に。


《インタビュー90with粛清部隊出向中インドネシア軍人》








Please(どうか)――――――――――」


軍曹は言葉を断つ。


撃ってやりたい。

額に撃ち込んでやりたい。

軍靴の一撃で頸椎をへし折ってもいい。


ただ一撃、ただ一撃が許されれば

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・だが、やらない。



軍曹はことさら、感傷を封じた。

醒めた目で見つめなおす。

戦況を。



苦痛に泣く少女が、泣く以外、何一つ出来ない子供が、自分の手で地獄に放り込んだ女の子が、手の届く場所にいる。


そして軍曹には力がある。

無力な子供を瞬殺出来る、力と技能と道具に経験。


絶対に、殺さない

――――――――――必要だからだ。



殺せても、殺さない。

この場に散らかした、200余りの死体未満。

それが発する音、臭い、気配。


死の象徴。



それが必要なのだ。

それは手段であり、目的ではない。



手段とは?



昆虫を傷つけずに、追い払う。

鯨を傷つけずに、追い立てる。


それには、音を使う。


同種が蹂躙され、虐殺され、助けを求める合図。

確立された技術。


絶望の匂い

――――――――――それは同種の生物を遠ざける。




それは篝火。

人間に突き立つ理性の証。


合理的だ。


仲間が危ない。

仲間が対抗し得ない。

仲間が苦しんでいるうちに逃げる。


同種の生物には、暴力に対する大きな差はない。

同種の生物が対抗し得ないなら、自分も対抗できない。

同種の生物を苦しめている間は、此方を追ってはこれ無い。


合理的だ。


夜道で襲われた時「助けて」と言ってはいけない。

特に「襲われた」と連想させるような「ドロボウ」とか「人殺し」は禁句。


誰もが身を守ろうとするからだ。


「火事だ!」

と叫ぶのが、同種の仲間を呼ぶのに最も合理的だという。


火事なら個々人を狙ってはこないから、今襲われていない者にとって安全だ。

状況次第で誰もが巻き込まれる危険があるから、無関心ではいられない。

だから結果として集まってきて、呼んだのと同じ結果が得られる。


誰もが身を守ろうとするからだ。



その辺りを見込んだ音響兵器も、これから開発が始まり多用されることになる。

とある事件を耳にすれば、誰もが思いつくことだ。


異世界大陸各地でサンプリングした、阿鼻叫喚の大人数クリアボイス。

もちろん、異世界に多数存在する各種言語に対応。


文化混交地域においては言語混交比率や計算したチューニング。

訛りまで考慮しなければ効果が限定されるために、加工は限界がある。

故に大半が実戦データの二次利用。


実際に利用するときは偵察ユニットや戦闘車両、個々兵士の外部スピーカーを連動させ臨場感あふれる虐殺を「再現」する。


もちろん偶然に頼っていては音源ラインナップが偏り、実戦使用に支障が出るのは言うまでもなく。

欠けているバージョンを埋めるための実戦も繰り返し繰り返し。


完成の暁には都市殲滅戦の数が減り、手間が省けることが予想されている。



地球でも異世界でも、人は人なり。

ということだろうか?






現に、皆が逃げ去った。

死にかけた異世界人と、同じ異世界人は皆逃げた。


だからこそ。


近づくと殺すぞ。

そう、知らしめ続けなければならない。

篝火を絶やしてはならない。




上空を、AC-130(ガンシップ)スプーキーⅢが飛ぶ限り。

爆撃侵入を繰り返して、トマト祭りの準備が続く。

その限りに置いて、悲鳴が必要だ。

それは多ければ多いほど良い。


暴徒を遠ざけ、怯えさせ、軍曹に近づけないように。

地球人に喧嘩を売らせないように。



暴徒が戻ってくれば、暴動が収まらなければ、トマト祭り開催決定。




なのに、段々と減って行く。

苦しみもがく、凄惨な音が、音源も音量も減っていく。


これは軍曹にも無視できない。


絶望は人を殺す。

死なずとも、声が枯れていく。

狙い通りに、時間がかかるように殺した。


だが、足りないかもしれない。

確信は持てない。


ここで死にゆく人数の声。

どの程度の距離に届いているのか。

どの程度の人数に影響するのか。


ただわかるのは「悲鳴と苦鳴が多ければ多いほど効果的」ということ。


失敗すれば、ここにいる者たちは無駄死だ。

いや、無駄殺しか。


軍曹の焦燥感が募る。

泣き叫ばせる為に、それを維持して続けさせる為に、一人一人を手当てしてやりたいほどに。


だが、それは黙認されないだろう。


だから、毎瞬毎瞬苦しむ少女は、その声は貴重だった。

だから、軍曹には出来なかった。


いや、出来ないのではない。

しないのだ。


軍曹自身は「助けない」と決断した。



クソ女の、ムカつく笑いが聴こえるようだ。

安全なところで将官にメモをとらせ、好奇心いっぱいの学生を従えて。

佐官の階級章をつけた、グリーンドレスが笑っている。


嗤い、ではなく、単純に、笑っているだろう。


(OK、答え合わせといこうじゃないか)


そんな思いが口を突いた。


Hurry up(急ぎやがれ)!」





その時。

何処にもつながっていないはずの通信系統が、反応した。


軍曹自身が接続を切った通信網。

そのとき操作ができた、それ以来操作していない。


電子音が鼓膜に響く。

骨電動スピーカーを通した通信確認音。


まるで誰かが、軍曹が発する言葉を待ち構え、聴いていたように。

あたかも、国際連合マークがついた、ありとあらゆる機器を制御出来るかのように。



『軍曹』

ミラー大尉の声。

ヘルメットのスピーカーが外部音声に切り替えられるのも、自動ではない。

操作がなされたのだ。

どこかから。


ホーヴァス(軍曹)?』


こもるのは気遣いと労い。

声音だけで、兵を落ち着かせる。


しばらく軍曹が確認しない間も、大尉が率いる本隊は異常なし。

それが声だけでわかる。


部下は自分の仕事だけを、こなせばいい。

物腰一つでそう思わせる。


士官とは、そういうものだ。


「待機中。全員無事、状況変化なし」


軍曹はバイザーを確認しながら、報告。

バイザーには部下と軍属(Dr.ライアン)保護対象(帝国貴族令嬢)に付属品である令嬢付メイド二名と執事。

7名のバイタルが表示。


状況は大いに変化したが、大尉も軍曹も、お互いそのことには触れない。



軍事(Big )参謀委員会は(brother ) 彼らを見守っている(watch Them)

言質をとられる訳にはいかない。


ここまで犠牲を払わせて、すべてを無駄に、させてたまるか。


90%成功した

――――――――――失敗の婉曲表現なんぞ、将官に述べさせりゃいい。


AC-130(ガンシップ)スプーキーⅢはエンドレスエイトに戻ったぞ』


――――――――――トマト祭りは、無くなった。

反射的にガバメントを構えながら、軍曹は黙って聞く。


自分で戦況を確認する気にはなれない。

確認したところで、判断の役には立たない。


ミラー大尉が代わって説明してくれた。


軍曹の権限を越えた範囲。

単独戦闘故に確認の余裕がなかった範囲。

前線兵士に与えられる欺瞞情報を越えた範囲。


『暴徒は解散した』


軍曹の目に映る場所にはいない。

いや、死にかけが山ほど、いやいや、山になっているが。



素人ならば舞い上がって、何千人もの死者、と表現するだろう。


一瞥できる距離で見て取れば、たった200体程度。

視界外の路地で潰れかけてる声に耳を澄ます。

併せて300は越えるまい。



慣れない人間が死体の山を見ると、気分を高揚させる。

素人であればあるほど、興奮する。


死体とはそれほどにインパクトがあるものだ。

文明の中に隔離された人々には、だが。


結果、見聞きした情報を10倍100倍に拡大させてしまう。

大抵の大虐殺はそうやって生まれるのだ。



軍人ならそうならないよう、訓練される。

戦果を見極められなければ、致命的な敗北につながるから。


もっとも、それは在るべき姿。


合衆国陸軍の募集兵や、自衛隊隊員には難しいだろう。

まあ肉眼での戦果判定を捨て、画像解析ですべて済む時代ではあるが。



『暴動は防ぐことが出来た』


街を殲滅する必要はない、ということ。

軍事参謀委員会がSIREN(殲滅命令)を出すことは、もうないだろう。



ミラー大尉が上空から見ていた流れ。

200人程が半殺しにされた現場。


軍曹が殺り、今、立つ辺り。


それをみせつけられた800人ほどの暴徒が逃げ崩れた。

すると何も見えていない、数千あまりの群集が逃げ始めた。


群集心理に駆られたのだろう。



密集していたからこその、数を頼んだ狂気と強気。

密集していたからこその、心が折れた玉突き状に。


飢えた野犬の群れは、巣穴に走る野ウサギたちへ。



都市の城門はUNESCO来訪にともない、封鎖されたまま。

暴徒、元暴徒たちは街を逃れることもできない。


かれらは自分たちの生活区画に閉じこもっているらしい。


守りを固めるでもなく寄り集まるでもなく。

貧困層も下層民も、てんでバラバラに。


まるで互いを疫病患者として、関わり合いを恐れるような。



広場に集まっていた都市富裕層にも、動揺はない。

中間層の家人や配下の市民を召集。


武装して家族、いや、氏族か、小単位で女や乳幼児まで集まりつつある。


一番重要な広場。

UNESCOと富裕層が集まる中心。


その周りの建物、屋敷から役場、倉庫から住居、通りから路地まで。

富裕層の配下が、共同で確保。


内側に非戦闘員を集め、武装組で外郭線を構築。

徐々に拡大して、街の支配を取り戻しつつある。


貧困層や下層民が根城に帰ったか、残っていないか、それを確認しながら街区を掃討。

各地の資産、館や蔵を守っている留守居役の者たちと合流していくつもりのようだ。


そして掃討確認が終わった順に、街区を区切る木戸を閉じる。

暴動の再発に備えているらしい。


『衛兵のエスコート付きで、迎えを出す』


あとは帝国貴族令嬢と一緒に、本隊に合流するだけ。


「了解」


通信を切る。

軍曹は嗤った。


やっぱり聴いていやがった、と。


本来、作戦中の軍人は、指揮系統から切り離されることはない。

指揮系統とは通信網。


作戦上の理由があればこそ、通信OFFは可能。

その権限は軍曹のものではない。


それなのに、それが操作出来た、ということは。

その瞬間から、いや、その前からだ。

いや、最初からか。



答えを知り、答えを行うか。

判りきった答えを、成功させることで、解る。


――――――――――聴いていやがった――――――――――





15秒。

この街で開かれなかった、トマト祭り。


15秒と15秒。

互いに与えられた、機会。


そう、与えられた、だ。


人為的に、そう設えられた、非公開ルール。



投石。

敵意。

子供に暴徒。


どちらでもいい。


虐殺したく無ければ?

虐殺されたく無ければ?


何もしていない人々が。

何もしていない人々を。


救われたければ?

救いたければ?




出来ることをすればいい。


誰にでも容易く実行できることを、直ぐにそのまますればいい。

単純だ。



子供が投石した街。

3万人が全滅した街。


どちらも何もしなかった。


だから殺すことになった。

だから殺されることになった。



国連統治軍兵士が、射殺すれば済んだ。

街の住民が、殴り殺せば済んだ。

10秒もかかるまい。


投石した子供を殺すだけ。





3万人がどうなってもかまわない

――――――――――なら、別だ。



誰も命じない。

誰も求めない。

誰も背負わせない。


地球人類にとって、どちらでもいい。

異世界住民にとっても、どうでもよかろう。


どの道、死体からは文句が出ない。



だから、この街ではトマト祭りが起きなかった。

一万余りの住民は、死ななかった。


死ななかったのだから、文句はあるまい。

どちらにしても、異世界から苦情は出ない。


軍曹は、答えを理解した。

判って、解った。


みんなが助かった。


死体からは、苦情は出ない。

――――――――――それだけだ。


そしてそれは、少女たちが役割を終えたということ。





だから、軍曹はガバメントの銃口を向ける。

引き金を絞った。





苦しませても、報わない。



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