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完全侵略マニュアル/あなたの為の侵略戦争  作者: C
第七章「神の発生」UNESCO Report.

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283/1003

AA-12



50m走の平均タイムをご存じだろうか。


日本の高校生男子で7.5秒程度。

これはもちろん「整備され障害物のない場所」での話。


「この」環境なら10秒はかかるだろう。


障害物(壊れた門の鉄柵)を飛び越える必要あり。

その後は、煉瓦敷きの庭園。

起伏はほぼない平坦な広い場所。


比較の対象が、豊かな環境で肉体的な成長がピーク(男性の場合。女性のピークは中学生まで)の時期であることを考えれば、もっとかかるかも知れない。

それはまあ、飢えた貧民たちも異常な興奮状態でドーピングされていると考えれば相殺か。




10秒。

それはもちろん、狂える暴徒100人の手が、軍曹に届くまでの時間だ。



10秒で何ができるだろうか?

まったくもって困ったことだ!








余った時間で何をしたらいい???????





軍曹は膝射姿勢。

指先で発射速度を調整しながら、5秒。

銃身を左から右へ。


軽くトリガーを絞って、肩を中心に身体全体で反動を散らす。


銃全体の構造により、拡散された反動。

それは従来の10%程度まで減じられている。

だが元々の反動が大きい実包(12ゲージ)は、連射など考えるべき代物ではない。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・考えてしまったのだが。



それでもUNESCO着任以来事前試射を繰り返していた軍曹。

AA-12の銃身を完全にコントロールできる。


その成果は瞬く間に表れた。



試射自体は国連軍全体、UNESCOを含めた軍事組織の基本動作。

だが異世界転移後、軍事的常識を完全に実行できる彼らほど、万全の体制で戦闘できる兵士はいないだろう。


カタログショッピング感覚で、数字だけ見て兵器を買うペンタゴンの軍事官僚。

勲章とおなじ感覚で、見栄えと数を気にして戦車や飛行機を備えたがる連邦議員。

株価と支持率(マスコミウケ)だけに反応する集団を「ホワイトハウス」と呼ぶ。


国防予算が組まれるとき、国防予算が削られるとき。

全く考慮されないのが維持費であり、消耗費。


戦車と飛行機と兵隊。

その数だけで「軍事力」と称する連中と戦っていた軍人のトップ。


有り余る弾薬と戦術的フリーハンドを与えられたら、それは張り切ろうというものである。

なお、UNESCOや世界保健機関が軍事組織、というのは兵士たち一般の感覚。

安全保障理事会は特にコメントしていない。




その認識を産んだ光景が展開した。




門柵、その残骸を踏み越えて飛び出した暴徒。

後ろからの圧力に押し出された連中。


とっさに開けた場所、館の庭に溢れ広がる。

その勢いのまま、下肢を血に染めた100人程が庭に転がる。

狙った標的(ぐんそう)まで、20mは離れたところに彼ら自身がまき散らされた。



悲鳴と苦鳴があがったのは、自分の勢いで地面にたたきつけられてから。




AA-12フルオート・ショットガン。


合衆国海兵隊が、こっそり装備した曰く付き。

根本構造をステンレスでまとめ、ただただメンテナンスフリーを目指している。

故にセミオート、ではない。


フルオート機能しかない。


それは構造をシンプルにして、整備性を上げるため。

意外かもしれない。


だが工学的に比較した場合、連続単射機構より連射機構の方が簡単な構造になる。


フルオートシステムを、敢えて止めているのがセミオート。

そう考えれば分かり易いだろうか?


機関銃より自動小銃の登場が遅かった由縁。

それはとても単純なこと。


単純なことではあるが、それゆえに類例がない。

小火器はセミオート、セミオートとフルオートの併用が常識だ。

スリー・ショット・バーストは、苦し紛れに使われる。



セミオート、フルオート、スリー・ショット・バースト。


引き金を引いた数だけ発射される。

引き金を引いている間は発射される

引き金を引いている間は三発だけ発射される。


目標に当てる時の撃ち方。

目標にあたる幸運を期待しつつ、足止めする時の撃ち方。

小口径高速弾のお話にもならない低威力を誤魔化すためのやむを得ない工夫。



フルオートのみ、というのは通常の発想ではない。


動作が一定であること。

操作が簡単であること。

整備が単純であること。


毎回動きがずれるようでは、熟練者しか使えない。

操作手順の多さはその習熟にかかる時間と手間を極大化。

整備とは一般兵士たちが一番時間を費やす部分。


すべては一兵器の話ではなく、軍としての補充能力に直結する。

補充の能力はイコール味方の数であり、敵との数量差。

つまりは戦争の勝敗。


それをわざわざ不利にする、敗戦に向けた味方殺し。


そんな兵器をだれが使うモノか。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・使ってしまった事例は山ほどあるが。



だから、だ。

動作が少なければ工学的な揺らぎは最小化される。

機能が少なければ操作も少ない。

構造が単純なら整備も不要。



軍用兵器が最も重要視する点でありながら、しばしば置き忘れられるポイント。

それを全て網羅している。


安定性操作性整備性に対する、独りの技術者の特異な性癖。



開発者の中で役に立つのは、発想が豊かな者ではない。

むしろそれはダメの典型。


価値があり、役にたち、だからこそほとんど「いない」のは、こだわる者。

そのこだわりが選んだ、フルオート特化。


たしかに三種類の発射システムから一つ選ぶとするならば、それしかないだろう。

選ばなければならないならば、だが。


もちろんその為に弾薬消費は極大化。

なにしろ撃ちっぱなし前提なのだから当然だ。

それは当然、弾薬を運んで配布する手間を増やすわけで。


補給の困難さは、結局兵力を減らす結果になるのだが?


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あるところに拘れば、あるところが抜け落ちる。

兵器開発者の陥穽か、割り切りか。



そして些細な欠点、いや特徴を解決するのが現場の兵士だ。

実質、セミオートに出来る。


トリガーの絞り方で発射速度を調整可能。

というより、他に方法がない。


開発者はそこまで考えず、試験配備後にテスト射手たちが工夫した結果だ。


だがしかし、それだけトリガーの反応が良い、しかも連射中に、ということは地味に凄い。

新兵器嫌い、というより憎んでいるとすらいえる、合衆国海兵隊が高い評価を与えた訳である。


無論、上層部は弾薬大量供給で対処した。

遠慮せずにばら撒けどうせ弾は余ってる、と。

軍人に職人を求める時代は、終わったからだ。




しかしこのAA-12、最新兵器。

最新なのに新しいところが全くない。


フルオートの一点を除けば機能的な特徴は、まったく「ない」といえる。

それとて既存の機能の組み合わせ。



射程はショットガンの域を出ない。

公称100mだが、常識的にはその半分。

単機能シンプル構造目的特化型兵器。


このあたりも開発者の優秀さが現れている。

陳腐化した技術の組み合わせは最もリスクが少なくコストもかからない。


普通に無能な平均以上の兵器開発者ならこうはいかない。

様々な機能を兼用させようとして、どれも中途半端にする。



最新技術を駆使し、実験室でのみ高性能な工芸品。

両者を組み合わせて、低性能稼働率ゼロ、コストパフォーマンス以前、というトンデモ兵器が出来上がることも。

出来上がるだけならよくあるが、配備されることも稀によくある。

オスプレイとかオスプレイとかオスプレイとか。



まあそんな原寸大フィギュアは、無知な議員やマニアに任せよう。

どうせ実戦では使わない

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いや、政治犯矯正措置に多用されているが。



さておき。




AA-12は合衆国本土に、置いておくわけにはいかなかった。

オスプレイとは違って、人目をはばかる。


予算審議に影響力がある合衆国議会議事堂(キャピトル・ヒル)のバカ。

合衆国海兵隊の前方侵攻能力を知りたい敵国。

永久に戦争を理解出来ないマニア。


そんな阿呆連中に見せるカバー(オスプレイ)とは違う。



だからこそ在日米軍が管理している兵器廠にあった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・山ほど。


連邦議会に気が付かれないように。

バカな議員にだけしか見えない(見せない)書類で決済処理。


うっかり合衆国本土で持ち出されないように。

置いてあれば、禁止しても使いかねない。



本来的な意味での「マーフィーの法則」は、空軍の独占物ではない。


装備に対する認識ℳ不足。

保管管理の杜撰さ。

出動時の混乱。




日常的に起こるミスが重なるだけで、現実化することは必ず起こる。


使われるわけには、いかない。

なぜなら、知られる訳にはいかないからだ。


国内戦ならば実包は使わないが、非殺傷弾を使ってなお、どれだけ戦果があがるか。



賢い連中に気が付かれたら、スキャンダル。

反戦活動家ほど、軍事に詳しいのがグローバル・スタンダード。


軍人はむしろ、知識を局限される。

訓練キャンプでは必要最低限しか教えない。

多様な知識とは、単なるノイズ。


戦闘の邪魔にしかならない。


ドのつく素人しか、無駄な知識は蓄えない。

だが、そんな軍人にも判る。

これは外部に漏らせない。


ならば日本に置くしかない。

カタツムリなみに従順な国民しかいない場所。

絶対に間違っても、ショットガンが必要な事態になどならない。

だから秘密が守られる。


世界のどこで必要になるにせよ、日本においておけば何処にでも運びやすい。

機密指定にして目立たせることも無く、さりげなく最も秘匿に向いた手法。





お察し頂けただろうか?


AA-12のコンセプト。

絶対秘密の機能、ではなく使用目的。

ただスペックを見るだけで判る。




フルオート・ショットガンは銃を持っている相手には意味がない。

射程が短すぎる。

遮蔽物を利用する術を知る相手にも、意味がない。

貫通力はゼロに等しい。

散開して接敵後退する相手にも、意味がない。

あっという間に効力圏外。


それらすべてを完全に把握した上で、考え抜かれたコンセプト。

その上でなお、合衆国海兵隊が採用する有用性。



つまり?

想定している敵は?


銃を持たず。

戦闘知識がなく。

戦闘意志がない。


徒党を組んだ民間人の集団。


海兵隊の日常業務、暴徒鎮圧。

軍が、海兵隊が「暴徒」と呼称することにした相手に「対処」する為に。




AA-12

――――――――――民間人大量虐殺器。


AC-130シリーズと同じように、一方的に殺すことだけを考えた道具。


撃っていいのは、撃たれぬ工夫をした者だけだ。

ゲームではなく、リアルなのだから。


殺し合いなどいけません。

あくまでも、殺すのです。


戦場戦争の基本原理。

だから、ダメだと断言できる。




実際、軍曹の使い方は本来と真逆。

一人で使うことなんぞ想定していない。

訓練も、作戦立案もされていない。


本来は部隊使用が前提。


最低でも射手10名以上。

部厚い透明シールドをもった楯持ちが前列。

暴徒に回り込まれないように、左右後方に障害物か防御部隊を配置。

楯やシールドを陣地で替えてもかまわない。


実際にそれが、AA-12を採用した軍首脳の頭にあった。





イラン大使館人質事件(1979年11月~1981年1月)。

無数の暴徒にテヘラン大使館が占拠。

大使館職員を人質にとられた。


その後の顛末は言うまでもない。

合衆国の恥辱に10ページばかり書き加えられただけだ。


負け戦は日常的な合衆国軍事史だが、海兵隊は笑ってはいられない。

大使館警備は海兵隊の担当だからだ。


常識的に考えれば、第一線の大使館を死守する必要などない。

そこを失っても、戦争で片づければいい。


だが、やはりイラン大使館人質事件で海兵隊は思い知った。


ホワイトハウスは馬鹿の巣だ。

ヤツらに戦争なんか出来やしない。

第一線で死守しなければならない。


そこで負けたら、そこでお終い。

汚名返上の機会など、ない。



それがAA-12の採用に至る海兵隊の信念となる。

70年代の事件だが、合衆国軍の中核はその世代。



AA-12

12ゲージ毎分300発、毎秒5発の連射が最低基準。


本来のように戦列歩兵並に密集横隊して使ったらどうなるだろうか?

最低10丁以上で同時発砲したら?


非殺傷、ワザとは殺さないの意、なゴム弾を使ってなお暴徒が死ぬ。

毎秒5発の超音速連射、距離数十mからの一斉集中。


救急医療体制が整っている国であっても、死者多数発生は免れない。

機能から、お察しされるからこその隠し装備。




しかもゴム弾利用は例外

――――――――――国際連合の全活動において。




散弾。

ショットシェルと言われる弾筒の中に、発射後に散開する弾粒が入っている。

一粒一粒の大きさと、弾筒一つで何粒入っているかで威力が決まるのだが。




軍曹が装備しているのは国連軍標準装備。

スラッグ(対物破壊用の一発弾)ではなく、バックショット(鹿や猪など中型動物/含む人間用)。


文字通り鳥撃ち用のバード・ショットなら、2~3mmの弾粒。

バック・ショットは弾筒内に直径8mmほどの金属球が9個セットされている。


超音速で飛び出した散弾は、ほどなく炸裂。


最適距離で60cmほどの円形に傘を開く。

金属球が指向性と速度をもったまま、予定範囲に散布。

その射線上に鋼の弾幕を作る。


その威力は、貫通力で小銃に劣り、制圧力で凌駕する。

小火器の瑠弾と考えれば分かり易いか。


弾粒一つ一つが、9mm口径の拳銃弾相当の威力。


単純に9mm弾を喰らえば、人は死ぬ。

他人からの適切な手当てが無ければ確実に死ぬ。


自力で治療してしまえるのは、フィクションの中だけだ。


ただし、即死はしない。

ただし、抵抗など出来ない。

だから、長く長く苦しんで死ぬ。


血を流し苦痛に叫び、脂汗を流して悲鳴をあげ、声が枯れたら痛みの全てを味わって、死ぬ。


声を上げるのは、人体固有の安全装置。

ショック死しないように、痛みから意識を逸らせるために叫ぶ。

だから叫べるうちは叫んだ方が、生き残る確率が高くなる。

我慢は文字通り、身体によくない。


その気力があるうちは、だが。


気を逸らせなくなれば、致命傷を隅々細部まで味わうことになってしまう。

それも死ぬまで末永く、助かる見込みもないのに、だ。


人体は脆くて、なにものにも耐えられないのだから。

人体は丈夫で、なかなか死ぬことが出来ないから。



当たりどころによっては、助けを求めることが出来るだろう。

求めるだけなら、誰にでもできる。


治療技術を持つのは地球人だけだ。

異世界人が助けられる可能性はない。


しかも散弾は在日米軍兵器廠に蓄えてあった在庫品。



AA-12は最新式。

だが12ゲージバックショットは旧式の鉛弾。

だからこそ、在日米軍基地のデッドストックなのだが。


鉛玉は環境汚染、非人道的などなど、利用や生産が中止されていった代物。

狩猟で多用された結果、鉛中毒で苦しみぬいて死ぬ野生動物が多発したからだ。


それもまた、逃げ延びてしまったからこそではある。

その場で殺されないと、どれほどの苦痛を受けてなお報われないのか。

人間以外にはよくわかる。


それは異世界人もおなじ。


すべての苦痛を最後まで味わった後、当たりどころによっては、鉛中毒を体験出来るだろう

――――――――――最期まで最悪の苦痛を。





青龍に出会ったら、頭を差し出すといい。

手槍の穂先にピッタリ、頭を押し付けるべきだ。

殺されるかどうかは、判らない。


だが、最悪はさけられる。

運が良ければすぐ死ねる。

運が悪ければ後で死ねる。



最悪の運勢なら、末永く一生苦しめる

――――――――――――――――――――異世界に広まった、寓話


「寓話」だと、日本列島にやたらと増えた事情通は、考えている。




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