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完全侵略マニュアル/あなたの為の侵略戦争  作者: C
第七章「神の発生」UNESCO Report.

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282/1003

M72 LAW


暴徒。


視界に入るのは二百人。

背後に続くのは一千人。

街全体では五千余り。



全員が、軍曹に、ただ一人で前に立つ男に注目。


その中を、軍曹は前に進む。

ゆっくり歩きながら、何度目か、残念に思う。


(黒髪黒瞳が相手なら、逃げ出すだろうに)


しかもそれが女なら完璧だ。

青ベレーを被った、黒髪黒瞳の美女。



もしここに現れたら。

見た者は失神するだろう。


もしここで笑顔を向けたら。

全員が退く。


もしここで手を振れば?

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――気絶したまま同じ暴徒の頭に駆け上って、全員が後方へ全力疾走する。




実際に、起きたことだ。

別の邦、別の街、半月ほど前。


単身で市場の人ごみに、何を考えたのか、紛れ込んだ。

護衛、つまり警告なしに。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・パニックが起き、異世界住民数百人が、その場で死んだ。


負傷者を考えれば四桁に達するだろう。

無差別銃撃、SIREN並みの成果だ。


しかしそれはあくまでも、本人を使った場合の話。



単なる黒髪黒瞳なら、死体は数十人で済む。

条件が揃えば、威力は十倍に膨らむ。


どちらにせよ、暴動なんぞ一撃、いや、一目で消し飛ぶ。



地域差はあるものの、程度の問題に過ぎない。

それは国連軍勢力圏の大半で通じるだろう。

よほど外部と隔絶した地域以外では。


それが自然な反応だと、納得させる振る舞いをし、続けているからだ。



青い魔女は黒髪黒瞳。

それは大陸の伝承になりつつある。


いずれ悪い子には「青い魔女がくるよ」などと言われる時代が来るのだろう。

異世界全体に。


(love & pieceを謳う青い魔女)


人々を狂わせるlove & piece?


(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・だが、皆殺しよりは、マシだ)


軍曹はそう思う。

おそらくは、多くの地球人も思うのではないだろうか。


だが、軍曹には不可能だ。

白人で、髪には白いものが混じり始めているのが目立たないほどにブロンド。

異世界でも白髪というのはあるわけで、何のアドバンテージにもなりはしない。



非道だけなら、自衛隊も在日米軍も似たようなもの。

それなのに、日本人だけが恐れられる。


作戦上邪魔である。

そう判断されれば、街も難民も、ありとあらゆるものに処分命令が出る。


作戦上必要である。

そう判断されれば、女子供含めてすべての目撃者に消去命令が出る。



軍隊はそれをためらったりはしない。

むしろ、前衛を担う在日米軍の方が数をこなしているだろう。


だが処分消去命令に際して、目撃者は残らない。


異世界住民が見聞きするのは、何もかも終わった後の痕跡。

痕跡から察することができる、恐るべき過程と結末。


痕跡がない、という痕跡。


そしてその痕を通過していく隊列には、黒髪黒瞳に日章旗/国連旗。



悪名を越えたなにかを狙って、敢えて行っている。

敢えて、地球人の印象を日本に集約させようとしている。


・・・・・・・・・・・・・・軍曹には、いや、多くの国連軍兵士が抱く印象だ。


それがつまりは、印象操作というものか。




軍曹は、ゆっくり眺めた。


恐れるべきを知らない連中を。

「暴徒」の一言ででまとめられる、一人一人を。


暴徒は密集し過ぎており、石を投げることが出来るのは後方だけだ。

威力がある石は、遥か手前に落ちる。

暴徒仲間の後頭部を砕いた。



「罪を犯す前ならば、笑って死ねるだろう」


軍曹のプロテクターを叩く小石。


一人、暴徒達の前に立つ軍曹を、彼等はどう見てるのか。

少なくとも怯えはない。


いままで門衛たちが片手楯と手槍をもって暴徒に対峙していた.


門衛が下がり、館の中に入って扉を閉ざす。

それと入れ替わるように、全身甲冑(プロテクター)をまとった騎士が進み出る。

たった一人で、だ。


傍から見れば、英雄願望のバカにしか見えない。

とりわけ「帝国の女貴族」を狙ってやってきた暴徒たち。


あからさまに帝国騎士にしか見えない者が出てきたのであれば、余計に興奮して大喜び。

間違いなく、獲物がここ、この館にいるということだ。


であれば、何もしてもいい。


反帝国こそ正義。

そう感じるようになった人々には、そう思える。


根拠などないが、生まれてから一度も根拠など得たことがない人々だ。


この館を掠奪し、この館の持ち主である商家を襲い、財貨を奪い証文を焼き、その氏族の全員を凌辱してつるし上げ、氏族に関わっていた連中を同じように蹂躙できる。


大半の暴徒は、そこまで考えない。

ただ、奪って盗んで犯して殺して、程度のことだ。



一部の暴徒は、その先を察している。

考えている、とまではいかないかもしれないが。


これから起こる略奪。

街の有力者たちの大半は、とばっちりを恐れて黙認するだろう。

間違いなく街の支配体制は再編成される。


場合によっては、暴徒の中心勢力が新しい体制に加わることができるかもしれない。

帝国貴族の首を掲げて青龍に捧げることで、その後援を得ることができれば。

勢い次第では、街の支配を逆転できるかもしれない。


そうなれば今街を支配している連中の富、財貨だけではなく命も男も女も、全部モノにしてしまえる。


暴徒の一部。

貧民の顔役や、下層住民の世話役、目端が利くと自称する野心家たちが動き始めていた。

最前列のすぐ死ぬポジションを避けて、次の列を維持。

声をかけられる連中で、まとまって動けるように。


無秩序の中に秩序が生まれ始める。

夢が膨らむばかり。



「短い夢だったなおぃ」



軍曹は、ここに日本人がいれば、という想像を振り払った。


肩にかけていた円筒を片手で操作。

円筒の後部をスライドさせて、肩に担ぐ。


集団心理に駆られた連中は、目に映っても見ていない。

背後の扉は、指示通り閂が下ろされた、はず。

外開きだから問題は無いだろう。



照準、と言うほどのことはない。


門の中央下より。

鉄の閂と、縛られ鍵をかけられた鎖。

すでに傾きかけている門。

門の鉄柵が押し倒されても閂は残るだろう。

そこを狙う。



「喜べ、殺されれば被害者だ」


発射。

無反動砲の発射音はむしろ後ろに響く。

バックブラストが後方に数百度のガスをぶちまける。

低速のロケット弾体がまっすぐに直撃。


爆発とともに、門扉が撃ち砕かれた。

モンロー効果、すり鉢状に加工された火薬が生み出す、瞬間的ながら数千度の志向性熱破。


もちろん火薬を成型しただけでそんな便利なことができるわけがないのは念のため。

威力を規定する数式もあり、そもそも火薬であればいいとか爆発しさえすればいいとかそいういうものでは全くない。

濃縮さえすれば臨界反応が起こる核分裂とは異次元の複雑系。

以下割愛。




門を構成する鉄柵。

鉄の閂。

青銅の鎖。

それらの破片が溶け崩れて飛び散っていく。


鉄柵の隙間から抜けた爆圧が全周に拡散。

溶けた金属の飛沫が直撃地点の暴徒を焼いた。

一瞬で燃え上がるが、直ぐに地に伏して消える。


ざっと10人ばかりが死傷しただろうか。


M72 LAW、対装甲ロケット弾。

成形炸薬は、爆熱に指向性をもたせ焦点に誘導する。


故にこそ対装甲。

装甲相手であれば、二次効果が期待出来る。

貫通した熱が装甲に囲まれた標的内部で循環するからだ。


もっとも、通用するのは車両から装甲車程度まで。

66mmのロケット弾ではそんなもの。

履帯に当たれば、動きは止められる、だけ。


もちろん、有り得ない。

よほど間抜けな戦車が、歩兵支援無しに単独行動していれば別だが。




だがしかし「パンツァー・ファウスト以来の傑作」とされるのは伊達じゃない。


一人で扱える操作性。

使い捨て前提の、証明されたメンテナンス・フリー。

重量2.5kgの軽さに全長70cmを切るサイズ。

安さ故の有り余る在庫。



例え戦車に通用しなくても、構わない。

手榴弾やグレネードの天敵、爆破の弾片を防ぐ防御陣地や建物。

当たり前だが、開口部が少なくて中に攻撃出来ないソレ。


それを正面から破砕出来るのだから。



ベトナム戦争中に登場したたM72シリーズは、21世紀を越えてなおいまだに生産され改良を続けられている。


なぜかといえば、後継機がことごとく失敗作だからだが。


一応、配備は進められている後継機。

例えば、SMAWロケットランチャー。

例えば、M163AT4。




操作に二人必要になったSMAWロケットランチャー。

性能を向上させた結果、操作性が低下。

もちろん整備が必要な上に、やっぱり対戦車には無力。


M163AT4に至っては、使い捨てというコンセプトに回帰しただけ。

重量3倍、全長1.5倍で取り回しが最悪。

威力がちょっと上がっただけ。

もちろん対戦車には無力。


これを持ち、別に小銃弾薬を抱える兵士殺し。

これだけ持てば、使い捨て兵士の出来上がり。


コンセプトが行方不明。


「最新鋭兵器ほど欠陥品」

という兵器開発史の常道をフルコンプリート。




合衆国海兵隊が「前世代兵器至上主義」なのは、こうした理由による。

兵器開発者が、全員バカだからだ。




異世界転移により、M-72Jが登場する日も近いだろう。

現に今この瞬間、異世界でもM-72は大活躍。


ゴーレムや巨大生物相手の遭遇戦には必須だ。




そう、デカくて固い相手には、だ

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――対人兵器では、ない。


66mmロケット弾の威力。

門の鉄柵自体は、湾曲しながら内側に倒れた。

門は爆発力を受け止める構造ではない。

鉄柵ではなく、鋼板なら別だが。


衝撃と熱は、柵の隙間を抜けてしまった。

抜けたそれを暴徒が浴びたのだが。



解放空間、密集しただけの人体が相手。


ここではたいした効果がない。

脆い人間は、その脆さを生かして瞬間的に爆発を吸収して撒き散らしてしまった。

門に当てなければ、起爆のタイミングさえ怪しかった。


威力は同じながら、戦果は対装甲の半分以下。


こんな程度と判っているからこそ、M72の最新型(M72E10)では対人効果を付与している。

貫通力をギリギリまで底上げし、破片効果で柔らかい人体を傷つけるように。


対軽装甲、陣地でありながら、人間を狙う最終形態。

後継機が採用されてなお、改良が続いている。


ソレがつまりは、答えだということ。




M-14、M72 LAW、FIM-92 スティンガーは現代歩兵三種の神器。

ソレがこの場にありさえすれば、あるいはもっと話が簡単だった。





なお自衛隊の91式携帯地対空誘導弾は異世界には持ち込まれていない。


現代戦には不向きながら性能が高く、手動誘導能力は竜を相手にする異世界戦闘には向いている。

だが操作性が悪すぎて大勢の人間に利用させることが不可能な上に、元々の数が少なすぎて実戦配備に堪えないからだ。





軍曹が持っているのはM72A7。

陣地や建造物破壊の余波で人体を破壊するタイプ。

主に障害物破壊用のベーシックモデルだ。


在庫が山ほど余っている、というだけではなく、巨大生物やゴーレム相手ならばむしろ貫通力があれば十分だったから。

今のところ第三世代主力戦車程度の装甲を有している異世界生物は確認されていない。


軍曹は役割を終えたランチャーを落とす。



暴徒は何も考えず、倒れた門を乗り越えた。

爆発にやられた者たちは、瞬時に踏み殺される。



声も上げられない、死。

軍曹は舌打ち一つ。



「声がちいさーい!!!!!!!!!!タマ落としたか――――――――――」

と怒鳴りつけたいところだ。


門の鉄柵自体は、湾曲しながら内側に倒れた。

その数秒で先頭の暴徒が、門の残骸を越えた。


いや、暴徒全体をせき止めていた門柵が無くなったので、押し出されただけ。


後ろから押され、前へ前へ。

その直前に起きた爆発が何なのか。

十人ばかりを粉々にした危険にどのように立ち向かうのか。

そもそも前進していいのかどうか。



考えがあってもどうにもならなかったのだが。




門内の広い庭に解放され、初めて判断する余裕ができる。

彼らは一斉に走り始めた。


軍曹に向かって。

後続も続く。


大半の暴徒たち。


後方ゆえに互いの押し合いへし合いが弱く、判断する余裕がある。

だが、より後方で位置的に何も見えないために判断材料がなかった。


爆発音は、魔法と解釈されたのだ。


帝国貴族を襲うなら、予想すべきこと。

おそれてはいた、だが、一発で終わったことで、より勢いづいた。


自分は大丈夫だ。

と考えた一人一人の暴徒


「「「「「殺せ」」」」」


怒声を上げて、怒声に煽り煽られて、狂乱状態。

互いが互いを煽っている、典型的な群集心理。

全員、通りにあふれる千人余りが前へ。


先頭、庭の中に踏み込んだ者たち。

押しつぶされまいとして、押しのけあって走り出す。



軍曹が身を低くしたことも、暴徒を勢いつけた。

野生動物と同じように、大きいを恐れて小さいを襲う。


50m、柵の残骸を乗り越えて、軍曹に手が届くまで15秒。

目視で百余りがダッシュ!!!!!!!!!!




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