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完全侵略マニュアル/あなたの為の侵略戦争  作者: C
第七章「神の発生」UNESCO Report.

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281/1003

stay hungry, stay foolish.

【用語】

『アイリーン作戦』

(1993年10月3日~4日ソマリア)

世界軍事史上に輝く「頭のおかしい」作戦。

敵対的な数万の民間人。

その中に紛れ込んだ、敵対している数千の民兵。

それらが混在する複数階層の建物が入り組んだ市街地に、おそらくいるんじゃないかと思われる民兵指導者を拉致すべく、ヘリで特殊部隊を特攻させHMMWV(軍用軽車両/紙装甲しかない)で撤退するという作戦。

たった、一個中隊未満の戦力で、だ。


本当に頭がおかしく、小学生でも「勇者が出てこないと無理」と断言できるびっくり作戦。

だれも止めなかった。

典型的な「机上の空論」だけで構成された作文を作戦と読み替えた代物で、士官学校で成績が良かった人間が作成し実行されてしまうことが稀によくある。

悲しい実話。

結果は推して知るべし。

低空を飛び過ぎたヘリは携帯対戦車ロケットで撃墜。

そりゃそうだビルの谷間を飛べばな。

HMMWVは蜂の巣。

至近距離から軍用ライフルを乱射されたら当たり前。

死者が二ケタで済んだ米軍はすごい。

ある意味。

作戦は成功したらしいですよ?


なお、この作戦をやらかした○○将軍を擁護する意見はたくさんあります。

見るべきものは一つも、ほんと~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~うに、たったの一つもないけれど「無能の国から無能を広めに来たペーパーテスト職人」が無条件に擁護されるのは軍隊あるある。

基本的に近代以降の軍隊は、試験で選抜された特殊な集団が支配しています。

将校と呼ばれる人たちですね。

この謎な社交クラブというか、秘密結社というか、宗教団体の中では年次席次血統人当たりの良さ、それだけで序列が組まれ実力や実績は考慮されません。

というか、考慮すると除名されて敵視されて仲間外れにされ延々と悪口が記録されます。

マッカーサーとかロンメルなど、誰もが「何を成し遂げたのか」知っている人はその界隈でものすごく中傷されるのはそのためですね。

一方で「それだれ??」レベルのマンシュタインなんかが「何一つした形跡がない」のに持ち上げられるのもその辺りが原因。「それだれ?」って思った人は何も気にしなくていいです。調べるだけ時間の無駄です。無駄をした者が言うんだから間違いない。

ので、そうした特殊な価値共同体で人望があればどれだけバカをやっても、みんなが庇ってくれます。みんなというのは世間と関係ない「みんな」ですが、そもそも社会と関係ない人たちなので仕方がない。

で、そんな世間ずれした人たちが熱心に残した「誹謗中傷」や「贔屓の引き倒し」が歴史になるのも史学あるある。

三流の歴史家は資料の字面を追うことをしかできません。文を読んでないので、むしろ読めないので仕方がない。すると山のようにある嫉妬や怨念、擁護や同病相憐れむ文章が歴史書に転載されてしまうんですね。

それを素人が読むと、あきらかに辻褄があってない。

でも三流の多数派はやっぱり特殊なカースト制の中で生きているので、世間と関わらないので訂正されません。

かくして明日も、小学生に添削させた方が良くなる作戦や計画が実行されます。

間違いなく。



成功すれば、虐殺者。

失敗すれば、死体袋。



数十人に乱打され数百人に踏みつぶされても、それと判る残骸は残るものだ。

ソマリアで潰されたデルタフォースの二人も、死体と判るモノは発見されたのだから。

※ソマリア内戦中で最もマヌケな作戦と言われる「アイリーン」作戦の一コマ




そんな思いに、軍曹は口の端で嗤う。


部下を手放した。

手に持つ7.3kgだけが頼りだ。


初撃で決まる。

綺麗にキメる自信はある。

だが、普通に考えれば成算は少ない。


気後れ、ためらい、呼吸一つで失敗だ。

そもそも、弾詰まり(ジャム)が起きたらどうなるか。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・考えるまでもない。


排莢?

装填?


そんな余裕があるものか。



この銃はメンテナンス・フリーがウリだが。

「一万発撃って、気が向いたら整備すればいい」などと言う開発者のセリフを信用したりはしない。


開発段階の精度。

生産段階の精度。


天と地の差があるのが、合衆国だ。


湾岸戦争でどれだけ苦労したことか。

全装備の一割が故障。


民製品と共用している電子通信装備は、故障が少ない。

エンジンや銃火器、などなど軍専用機器が壊滅的だった。


最新装備(冷戦後制式化)にいたっては、稼働率が70%を切ったくらいだ。

軍曹が、国連軍が使っている装備は第三次世界大戦仕様の旧装備。


情報系装備は基本的に民生用部品と共用。



だからこそ信用できる。

だからこそ、ギャンブルだ。


軍曹の主戦兵器は最新鋭なのだから。






館の正面玄関。

固く閉じられた扉。


執事に閂を外させる。


厚い扉材。

太く固い閂三カ所。



素人が手足で壊すのは辛かろう。

一階に窓がないことを考えれば、それなりに時間を稼げる。


十分な防御陣地。

遮蔽物が無い庭や通りから接近する敵。



順当に考えれば、望ましい戦い方はある。


屋内と屋外の陣地戦。

建物の防御力に隠れて、一方的に撃てばいい。


敵は無数。

味方の弾薬は少なく、兵数も少ない。


だが勝つだけならば、笑えるほどに余裕だ。

極端に言えば、ただ隠れていてもいいくらい。



館の外扉は堅く厚い木製。

施錠も厳重で、造りもしっかりしている。


爆薬があるでなし、扉を破るだけで手間取る。


もちろん、それを何とか破ることはできるだろう。

時間をかければ、だが。


そうやって館内に侵入したところで、その次は内扉が控えている。

内扉も、やはり厚くて硬い。


それを一つ一つ破るだけでも時間がかかる。

メイドに確認したところ、元々各々の部屋は施錠封印されているそうだ。


帝国貴族令嬢の隠密ライフ。

園遊会を開くわけで無し、来客があるでなし。


館の大半は全く使われていない。

警備上の問題を減らし、機密漏えいの危険性を減らすため。

未使用箇所は一日一回の巡回のみであったという。


警備も接客も令嬢が住まう最上階の一角に集中していた。

それを担っていたのはこの場で令嬢と運命を共にする人々だけだ。


令嬢の直臣たる執事にメイドたち。

館を守るために暴徒と向き合い、絶望的な状況でも逃げ出さない館の使用人たち。

現代社会とは違い休憩はあっても休暇はない中世社会。

シフト制ではなく、全員がずっとこの任についていた。


内通者がいるとは考えにくい。

相手が貧民たちとなればなおさらだ。


街の有力な氏族に仕え、最高機密を任される門衛や下働きに料理人。

この社会のヒエラルキーで言えば上の下か中の上。

貧民はおろか下層階級とは口もきかないだろう。

怒鳴りつけることはあっても、だ。



令嬢の場所が外部に漏れていなければ、彼女を狙う暴徒は館中を探さなければならない。

しかも部屋が多いし、内部は広く見通しはきかず、各々内装調度品も豪華だ。


チンケな2LDKを捜索するんじゃない。

一部屋確認するだけで、一苦労。


令嬢が籠もる部屋を見つけるのに、どれだけかかるか。


一応、令嬢の部屋が特定されている可能性に備え、仕掛けは命じておいた。

一階の正扉近くの部屋と、各階階段際の部屋を開放させておく。


わざわざ扉を開けておけば、豪華な内装が目に入る。

並びの部屋も同じような獲物があると考えるのが自然で、そこは施錠してある。


手間ひまかけて時間をかけて、開けた部屋に理場がいなくても。

それまでに押し入った部屋の略奪に、足を止める者も少なくあるまい。


(ユダヤ人の手口だな)



あえて宝飾品を見せびらかして日常を過ごし、襲われた時はそれを捨てて逃げる。

襲撃者はなんだかんだと金品が目当てなので、まず助かる。


自分たちが襲われても、警察を含めて誰も何もしてくれない。

誰かの助けを前提として、生きることができない。

法の保護が及ばない人々の知恵。


何も知らない、御目出度くも幸せな人間からは、成金趣味とささやかれる。

見栄や虚栄の為ではなく、命を守るための工夫。


そんな自衛策は多世界で通じるだろう。

法の保護以前に、法が曖昧な時代背景ではあるが。




そして最終防衛線


最上階。

階段御上り口。

直線の廊下。



石造りの階段を手榴弾で吹き飛ばすのは不可能だ。

だが、踊り場はグレネードスポットにふさわしい。


グレネードの破片は足元手すりの木製装飾の破片ともに、石にはじかれ飛び回る。

人間ミキサーの出来上がりだ。


そこで一呼吸稼げる。


階段口から廊下には、伍長率いる二等兵がM-14装備で待機中。

直線だけに射撃練習場並みの抜き撃ちが楽しめる。


一弾で何人貫けるのか?

試射実験も同然だ。


最後の最期は部屋の扉。

これまた分厚い一枚板。


パニックルーム、とはいかない。

だが、それに近い耐久性。




現代のパニックルームは欧米準拠。

所得格差が極大化した社会で暴徒から身を守るために設えられる、シェルター。

隠し部屋になっており、防火防弾防爆。


治安が回復されるまで、数日から一週間程度の間は家族と客人が過ごすことが前提。

食料や飲料の備蓄に、独立した給排水給電系統を持っている。


社会階層ごとに物理障壁を造れない都市部特有の設備で、鉱がいであればゲートタウンになるのが一般的。

街一つ丸ごと開発して富裕層だけが住み、全周を壁で囲い警備兵と地雷原を配置するほうが安全性は高いだろう。


なにもかも敵国からの攻撃ではなく、同じ国の人間から身を守るための設備である。

中世と現代「誰から身を守るべきか?」という点については共通点が多いものだ。





もちろん現代建築技術の粋とは違い、この館は中世準拠のモノだ。

建築重機ではなく人手で造られた建物故に、人の手で崩すことができる。


つまり最後は押し切られるわけだ。


館中に火でもつけられるかもしれない。

基本が石造りレンガ造りでも木製部分はある。


頑丈な扉であっても密閉性は低いため、燻されて窒息死か熱で焼死は避けられない。


全力を尽くせば半日は持つか。

だから、余裕。



支援が入るまで30秒とかからない。

支援は40mの巨体を、常に上空に浮かべているのだから。

M-14が火を噴く暇もないだろう。


一階の扉に暴徒が取り付いたら、支援攻撃開始。

それで終る。



つまり、軍曹が死んでも、任務の遂行は疑いない。

街一つ、皆殺しにするなら、誰も傷つかない。


異世界転移からこっち。

国際連合は、ずっとそうしてきた。

今日、今までは。




軍曹は頬が緩む。

笑っていることに気がつかない。



「戦って死ね」


合衆国軍最高司令官の命令。


いけ好かない陸軍BBAに応えられるのは、最高にクソッタレだ。

しかも、鼻をあかしてやれる。


さぞや愉しむことだろう。

全海兵が羨むだろう。



扉を開き、外を見渡した。


門までは50m、作業スペースとだけ考えられているのだろう、装飾となる起伏がない煉瓦敷きだけの庭。


その先は鉄柵鉄門を超えて幅10mほどの広い通り。

当然、柵以外の遮蔽物はない。

見通しが利いている。


柵の外は暴徒がいっぱい。

軍曹と暴徒。

彼我の距離は50mということだ。



それは近代兵器にとって、射程の利が生かせない近接戦闘。



暴徒が詰まっている場所、通りを中心とした館の周りはみな平地と考えていい。

理想的なのは、広く見通しが利いていること。


だからこそ、暴徒は暴徒を見て勢いを増す。

群集心理は、ある程度の広さがなければ成り立たない。

路地や屋内ではなく、広場でのみ成り立つ。


それは近代兵器にとって、射線の利が生かせる理想的環境。



軍曹はゆっくりと扉の外、門へ向かって、暴徒に向かって歩き出した。

耳を劈く奇声、気勢、喜声が響いてはいる。


だが、プロテクター越しに音と声をスクリーニングしている軍曹には関係がない。

意味があるのはこの館を守る側、門衛に執事やメイドの声だけだ。

それ以外はすべてカットし、投石の音も無視している。。




一対千で防壁なしに向かい立つ。

千、というのは、正面だけの話だが。



軍曹の指示通り、メイドが門衛たちを呼び込む。


幾千の怒声が轟き、自然の耳のみで声が届く状況ではない。

だからこそ身振り手振りに反応する門衛たち。


軍曹は、彼らの練度に安心した。


足手まといにならないなら、手間が省ける。

力が有る者は、裏切りにくい。


伍長と二等兵だけでも、安全化まで十分な時間を稼げるが。

まったく、安心だ。


呼びかけたメイドは館の持ち主、その愛娘。

忠実な門衛たちにとって、主に守れと言われたのは、この少女。

帝国貴族令嬢は、少女が離れないから守らざるをえない。


それだけだ。



門衛たちは素早く下がる。

暴徒たちを睨んだまま、それは連中を勢いづかせぬ工夫。

だが、暴徒は奇声を高めた。


詰め寄り続ける暴徒の加重で、門柵はすでに傾ぎ始めていた。

暴徒たちはさらに詰め寄り、柵へ圧力を高める。


柵を倒そうとしてる、のではない。

それなら押して引いて、壊そうとするだろう。

ただただ推し続けている。

だからまだ、門が保っているといえる。


暴徒の先頭は既に圧死して、そのまま柵をはみ出ている。

軍曹が知っている一番近い光景は、日本の朝、通勤電車のようなものか。


潰されないため。

必死になって、柵に身体を押し付ける暴徒。

押し付ければ押し付けただけ、後続が後に続くために苦しくなるだけだが。


軍曹は朝の駅で通勤電車を見送るときの様に、少し観察してしまった。


顔を真っ赤にした暴徒。

粗末な衣服。


服よりも布を継ぎ接ぎ、いや巻いただけの姿も多い。


まあ異世界は、現代地球人感覚でいう古着ばかりだが。

中でも暴徒たちは一見してみすぼらしい。




布も素材や使い方で防具になる。


濡らした新聞紙の束で5.56mm弾を防いだ事例があるほどだ。

貫通力だけは高い5.56mm弾を、だ。


その辺りの実態を安全保障理事会の面々は把握していた。


特に人生と軍歴がイコールな合衆国大統領。

現役の特務であるロシア共和国大統領。


その辺りは、実例を体験しているくらいだ。


だからこそ、現代兵器の優位性に懐疑的。

だからこそ、種も仕掛けもバレないうちに。


相手(異世界側)の無知に付け込むことをもって、基本戦術としている。

それは軍曹たちにとっては、雲の上の話。





今、軍曹が向き合っている連中。

彼等の手持資材でも、十分に現代兵器に対抗できる。

だがその心配はなさそうだ。


守りは無きに等しい。

そして攻撃力はといえば?


もちろん暴徒には武器などない。

まあ棒切れが少々、あとは素手。



中世準拠世界の都市部には凶器になりそうな、誰も管理していない資材は少ない。

木の棒一つが、タダではないのだ。


刃物を持っているやつは、見えないだけでそれなりにいるかもしれない。

だが考慮する必要はない。


反帝国を叫ぶ貧民たちには、帝国が優遇する魔法使いがいない。

密集している住民たちには、重い石を投げるために必要なスペースがない。

技能も経験もない連中には、十m先を狙える弓矢を使う可能性がない。




十分だ。

これ以上みるべきものはない。

鉄柵の向こうから注がれる、目。




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