Sympathy for the Devil……/悪魔を憐れむ詩
【用語解説】
『Sympathy for the Devil』
ローリングストーンズ<悪魔を憐れむ歌>の日本語タイトルは、意図的な誤訳である。
原題と歌詞を見ればわかる通り「悪魔からの共感」「悪魔への共感」を歌っている。
意訳するならば
<悪魔が憐れむ歌>
<悪魔に感じ入る歌>
が適当だろうが、聞こえが善いとは言いがたい。
だから営業上の都合でタイトルだけは、上品さを装う方々に聞こえが良くしたわけだ。
そしてここで言う「悪魔」は宗教上の悪魔ではない。
では何なのかといえば歌詞を読むだけで判るのだが、判りたくない方々は「ルシファーを崇拝している」と糾弾する。
良く読め、良く聴け、考えろ。
繰り返し繰り返し謳われている。
歴史上の惨劇を起こした悪辣な存在。
「私は誰だ?」と問いかけ「知っているだろう?」と繰り返す。
そして「つまるところは私と貴方たち」「おまえのせいだ」と断言して、また繰り返す。
有史以来、ありとあらゆる悪行は誰のせいか。
悪行がキリストの磔刑から始まっている辺り、むしろ敬虔なキリスト教信仰に基づいているのは明らかなのだが。
それでも真面目なキリスト教徒を自称する団体から非難される。
百年戦争
ロシア革命
世界大戦
ケネディ兄弟暗殺
一例として挙げて、さらに問いかける。
いや、答えを言わせようとする。
それを起こした私は誰だ?
この歌を「悪魔崇拝」だと批判した人々を含めて全員へ。
最期はこう〆る。
「私の名前を言ってみろ」
「どうか御許しあれ、我を語りますことを」
※ローリングストーンズ<悪魔を憐れむ歌>より意訳
軍曹は館の外、轟く罵声を意識しながら階段を駆け下りた。
クズども、つまりは暴徒。
やるべきことを知らず、やっていることを判らず、衝動に従って何もかも失うやから。
テロリストと違って、憎しみなどわかない。
憎む価値すらない、テロリストや軍規違反者など、反戦活動家以下の連中。
活動家ならつまみ出す。
それ以上でも以下でもない。
テロリスト中略などならば、レーションが旨くなる。
軍規違反者は特に良い。
基地外でやらかしたキチガイを、パラシュート無しで岩礁に突き落とす。
燃料もオイルも抜いたオスプレイ、つまり人型のゴミを積み込んで、魚礁の餌にする。
古今東西軍隊の伝統。
間違って産まれ落ちた害虫は、内部で適切に処分する。
「それは殺人ではない。生後堕胎という」
と嗤っていたのは、さて、どこの中佐だったか。
軍法会議は、議論するに値する問題に対して「のみ」開かれる。
いちいちバカを殺すために、処刑時間以外を費やすものか。
それは月一回の部屋(兵舎)片付け。
ベッドの空きを見て。
ロッカーのネームプレートを外し。
引き取り手のいない遺品を焼却。
実に気分が良い。
死体を晒せないのが残念だった。
それが出来れば、殴る手間が省ける。
日米友好に役立つだろうに。
そこまでは、単なる伝統。
上官、同僚、部下。
それらがまともに責務を果たしていない時に、不祥事と呼ばれる。
軍曹にとって残念ながら、いささか手が回らないこともあった。
それが年とともに増えていけば、単なる伝統では済まない。
ならば、暴徒の類は?
今、雑音を響かせている連中は?
軍曹は全盛期の合衆国で産まれた。
つまり成人する頃には、祖国が没落していたのだが。
だが故郷は堕落しなかった。
保守的な土地柄で、変化を嫌う。
パンを焼き、酒を造り、狩りと牧畜で肉を得て、庭で野菜を取る。
風と太陽、森が在れば燃料は足りる。
だが回帰主義のアーミッシュとは違う。
文明も科学も否定しない。
暗視スコープもダイナマイトも、銃も使う。
ケーブルTVで映画を楽しみ、ネットで買い物もする。
安定した生活。
そのコツはシンプル。
好況がくるたびに回ってくる銀行や証券会社。
それをショットガンで追い払っただけ。
それだけで、何不自由なく暮らせる。
地球世界有数の穀倉地帯。
北米の豊かな大地は、それだけで人々の暮らしを守ってくれた。
日本に置いていかれた地球世界。
どうなろうと、全面核戦争の後でも、問題ない。
軍曹の故郷は自分たちだけで生きていけるだろう。
古き良き合衆国人。
今は無きアメリカ人。
悪徳の後に産まれた善人。
そんな軍曹が、暴徒の類を嫌う。
それは当然だ。
彼は、彼らは、互いを見知らぬ負け犬と集まって、意味も解らず気勢を上げる側ではない。
信頼出来る仲間と共に、皆を守るためにショットガンを構える側だ。
――――――――――軍曹で無ければ、軍曹にならなければ。
軍隊に入らなければ、それで済んでいただろう。
軍曹は軍隊に憧れて、軍隊も彼を誘った。
互いに望み望まれて志願した。
規律を楽しみ、戦いに胸踊らせ、合衆国内外に友人が出来て、退役したら故郷に戻る。
なんの不安もない人生。
そのつもりであった。
そのようになった。
それだけではすまなかった。
異世界転移の話ではない。
その程度なら、誤差の範囲。
長い軍隊生活。
それが軍曹に、暴動を起こす側を知らしめた。
合衆国の、多くの人々。
農地を失い、隣人を失い、コミュニティーを失った。
当たり前に暮らすこと。
それが出来なかったから没落していった無数の人々。
軍に入るのではない。
軍に入るしかない、人々。
いつの間にか、一般的な尊敬を失っていた軍隊。
それは反戦思想などまったく関係ない。
合衆国が崩壊していたからだ。
夢と言えば投機。
利息や配当ではなく、売り買い時の価格差に血眼になる。
それは投資とは言わず、ギャンブルだ。
それは胴元しかもうからない。
ギャンブルなのだから当然だ。
売り買い手数料を「はした金」と嗤いながら巻き上げ、甘言で誘ったバカを元手に金融市場から金を集める。
自分で釣り上げた市場から大量の資金を回収して〆る。
そして予定通り破綻すると、役者が謝罪して、幕。
もちろん、消えた資金はポケットの中。
補償や穴埋めは税金で賄う。
合衆国で毎年繰り返される恒例行事。
日本で言う「某半島ミサイル騒動」と同じように、四季を彩る風物詩。
それに喰い物にされる大多数。
すくなくとも、合衆国では最大多数。
子供は金融商品と名を変えた博打で、有り金をすった親しか持てない。
学校と言い張る投げ捨てられた箱の中で、絶望だけを見聞きする。
基礎教育を担うはずの場所は、うらぶれた廃棄物処理場に過ぎない。
無知と貧困が拡大再生産され、その結晶が投げ込まれる公立校。
教師たちは身を守る為、進級も卒業も厄介払いに使う。
駄目なら駄目な子供ほど、見込みが無ければ無いほど。
学校に来なければ来ないほど、家が判らず保護者が行方不明ならなおのこと。
一番早く進級し、真っ先に卒業させる。
関わりたくないからだ。
記録はとられず残されない。
問い合わせが有れば、まず関わりを否定。
間違いなく警察か裁判所だから。
否定が通じなければ、先天的学習不適応の証明書が創られる。
結果、小学生レベルの語彙力がない、認識する基礎知識が無い人型生物が大量生産。
選挙人登録どころか、現代文明と無関係。
彼らを街に追い出す。
行き着いた先でさらに限度を越えて、拡大再生産。
秩序や生活とは逆の生産サイクル。
社会学者たちに「第三世界(永遠に発展可能性絶滅な後進国の上品な言い回し)」と評される合衆国。
もちろん、公式発表はそれを認めない。
今は亡きソビエト連邦や、どこかの国と同じだ。
統計は常に集計方法を変えて、平穏無事な社会を証明する。
失業率を下げたければ、就職希望者をカウントしなければいい。
平均所得を上げたければ、低所得者を見付けなければいい。
株価を上げるのはもっと簡単で、中央銀行が買い支えるだけ。
検挙率を上げると治安も回復したように見える。
それは単に、被害届をもみ消せば足りる。
ついでにテロを起こさせれば簡単だ。
別にミサイルでも構わないが、よくあるよくある。
実際に財布が軽くなっているものほど、憎む対象を探しているのだから。
「オマエがバカだからカモられる」
なんて事実に耳を塞ぐのは、自然な欲求であるらしい。
太平洋を挟んでも、人は人なり。
軍曹の世代は想像もしなかった。
子供の頃に想像していた、輝かしい祖国。
誰もが地元のことしか考えない、平均的なテキサス人。
海兵隊に志願したのは、外の世界、合衆国に輝きを見たからだ。
合衆国。
人口の10%が富の99%を握るあたりは、小さな地球と言うべきか。
所得格差が生む断絶は「異世界」と呼ぶレベル。
地域、生活、習慣、言語が細分化され所得水準により完全に異なる。
関わりのない異なる個々の「生態系」として生物学者が研究する。
もちろん生態系の発生から、進化ではなく変化、の様相か確かめる為。
実際に隣接し徒歩で越えられる境界線。
超えただけでコミュニケーションが不可能になる場所も多い。
一方で、プール付きの邸宅に生まれた時から住んでいる人々。
(警察が定期的に巡回する)
他方で、仕切られた住宅に山ほどの督促状をため込んだ人々。
(警察が頻繁に差し押さえを支援するためにやってくる)
一方で、ガレージハウスがあれば幸運な人々。
(警察に出会うことが一生ない)
軍曹が、下士官が直接取り扱うのは、それだ。
24時間365日。
負け犬同士が傷つけあうか、傷を舐めあう人生。
崩れ去る社会の中で、軍は人間最終処分場になっていた。
底辺でさえ持て余された連中はつま弾かれて追い出される。
死ぬことを期待されて、まだ死なず。
その何割かは、徴募係に騙されて、軍に連れてこられた。
徴募係はノルマを果たすために、実態がないと知りながら公的な証明書を信じる。
公立校が発行したデタラメを、字義どおりに解釈して入隊させる。
一人当たりの予算が振り分けられること。
それが徴募の目的。
もちろん、役には立たない。
軍隊でも脱落率は高く、責任を任される見込みはない。
むしろ、下士官たちはそいつらを追い出そうとする。
任務の邪魔。
敵より危険。
事故の元凶。
むしろ、実害よりなにより、羞恥心が赦さない。
下士官の中心が、正常に機能していたころの合衆国を自明としている世代。
新兵は、下士官体から見れば、真っ白なシーツに付いた汚点にしか見えない。
後はただ、兵役期間を満了しないように、速やかに戦死を期待されている
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そんな連中だ。
そんな連中を抱えた軍隊が、敬意など払われることは有り得ない。
社会一般はおろかクズどもからさえ。
いつしか憧れの軍隊は、視線を逸らされる場所になった。
まともな人間なら近づかない。
頭の暖かい、一部の平和ボケ外国人が決めつけることがある。
本国では軍人がステータスとなっている?
なにを読んだのやら。
それは半世紀以上前の話だ。
そして現況はそれどころじゃない。
そんなくだらないことを気にできる、おめでたい奴らがうらやましい。
軍がクソ溜になった。
軍曹の世代が生き残っているうちは、軍隊でいられる。
だが、早晩、組織ですらなくなるだろう。
だが、それでも封じ込められない。
軍の外には、それ以下にすらなれないクズもいる。
手を下す価値すらない連中。
生きていても無意味、殺しても興ざめ。
そう思いながらも、いつしか、軍曹はクズを無視出来なくなった。
軍曹はメイドが追いついて来るのをまった。
手順はすべて決まっており、説明もして理解を確認もした。
手持無沙汰で考える。
バカな暴徒たちを見ると、バカどもの親兄弟を思い出す。
今も任務に励む二等兵が良い例だ。
叩き直せば、立派な海兵隊隊員。
立派に戦い、立派に死ねる。
海兵にならなければ?
貧乏白人と嗤われて、カモられて、日々貧しくなる生涯。
天獄も地獄もしらず、煉獄のような一生を送る。
短くあれ
――――――――――そう自他共に認める人生。
戦死できれば幸運だ。
不平不満を鳴らして、傷を舐めあう相手だけは多い、そんな人生。
二等兵は生涯を軍で過ごす。
それが人生を賭けた、唯一の夢
――――――――――そう言っている。
産みの親を忘れたい。
育った街を、幼なじみを、軍に入る前の全てを無かったことにしたい。
軍隊にいれば、自分が何者か判る。
軍隊なら、自分で死ぬことが出来る。
軍隊は、自分をクソだと教えてくれた。
(どいつもこいつも)
軍曹は沖縄の海で思っていた。
珊瑚で紅葉おろしを造りながら、この軍規違反者にも、機会があったのではないか。
紅葉おろしに決まる前に。
最初に軍曹が訓練していれば。
最初に軍曹の下に付けられたら。
最初から軍曹の視界に入っていれば。
もっと怒鳴って殴って蹴り上げて。
ヒトデの中に放り込まれる必要もない。
珊瑚の肌触りを、文字通り骨身にしみなくてもすんだだろう。
誰も叩かなければ、叩かれなければ、叩いてやらなければ、誰もキチンと死ねないのだ。
軍曹だって、教わった。
父母から、姉から、隣人から。
銃の使い方、手入れ、弾込、誰に銃口を向ければいいのか。
――――――――――なにもかも。
誰かに、誰にもあえなかったら?
軍曹も、だ。
産まれた場所が、時が、親が違えば。
巡り合わせ一つで、あちら側だったのかもしれない。
これから殺される。
その為だけに、長く辛い時間を耐え抜いた。
その意味すら知らず、戦うことすら出来ず、標的として無駄に生きる
――――――――――産まれてきたのが間違いだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・と思っていた。
軍曹は長い長い軍隊生活、幾人もの兵士たちを見て
――――――――――それを思い知っていた。
なら、自分がなんとかするべきだ
――――――――――軍曹はいつも、そう感じていた。
可能なら、トドメを刺してやりたい。
叶うなら、殺さないでやりたかった。
「我が前においては、思いやりと優しさ、品格をもってふるまえ。己が持ち得るすべての敬意を示すがよい。汝が魂を腐らせたくなくば、だが」
※ローリングストーンズ<悪魔を憐れむ歌>より意訳
柔らかいものが床に落ちる音。
軍曹の背後。
メイドが床に崩れ落ちたのだ。
耳から入る衝撃に、耐えきれなくなったのだろう。




