感想戦
貴女、正解を知ってるの?
知らないのに尋ねてどうするの?
わたしが嘘をつかないと何故わかるの?
問えば答える。
そんな事が通じるのは、高校生までよ。
質問に質問で返すな?
そんな言葉が通じるのは、幼稚園児までね。
貴女は知らない。
私は知ってる。
知らない者は、質問できる立場ですらないわ。
だ・か・ら。
聴かせてあげる。
とある北国の話。
とある軍政官の話。
とある船乗りたちの話。
軍政官を初めて見た船乗りたち。
船乗りの一人が嗤ったわ。
軍政官が連れている女を。
どうなったと思う?
仲間の船乗りたちが、殺したわ。
全員が一斉に、嗤った一人を八つ裂き。
異世界人が異世界人を、ね。
命令無し。
習慣にもなし。
前例も類例も近似値も無し。
こんな、お話し。
※<「第46話 青~単色の世界~」より>
なぜかしらね。
どうして?
どうやって?
どうなるのかしら?
それが、知りたいの。
だから、再現するのよ。
それが、科学でしょう。
お帰りは、あちら。
ん?
ああ、貴女はカット&ペーストした。
しかも、軍事参謀委員会を黙らせるために使ったでしょう?
それが、解。
トレースして異世界人に向けてみたら?
別な答えが出るかもね。
あらあら。
私が嘘をついてるんじゃないか?
古典的命題よね。
「私は嘘吐き」よ?
《とある三佐の二佐への言葉》
事後。
極めて単純でテンプレートに沿った対応が行われた。
で、あればこそ、の結果かもしれない。
捕虜引き取り部隊が撤退後の都市。
封鎖状態で70%ほどの住民が3日間ほど生存していた。
自動機銃は引き続き弾薬が補充され、さらに増設。
地雷も追加され完全出入不可能にされた。
無予告緊急展開、総合火力演習はその後開始。
三日間もかかったのは全力を尽くしてなお、それだけ時間がかかったからだ。
その後は慣れていることもあり、標的都市の破砕に手間取ることはない。
※手順は<第74部分 幕間:善悪の彼岸 >参照
事後、演習作戦統裁官は「緊急展開体制に不備在り」と報告。
軍事参謀委員会は夏に向けた貴重な戦訓を得ることができた。
いつもいつも予定通りに進むとは限らない。
これまでそうだったから、これからもそうだと思うのは愚か者。
移動や設置、その繰り返しに時間がかかる特科砲兵には、より一層の訓練が必要となる。
精確に撃つ、敵味方の動きを誘導推測して撃つ、効率よく撃つ。
ソレだけでは足りない。
砲撃前の、戦場から戦場の移動をこそ重点的に確かめる必要があるのだ。
その肝心要が不満足であり、演習作戦の段階で判明したことは僥倖だった。
実際、大規模火力機動戦闘が必要な機会は少ない。
一特科部隊の問題と考えることなく、国連軍全砲兵部隊の課題となる。
都市破砕演習の機会は予測不可能。
意図的に設えることは、軍事参謀委員会が否定している。
故にこそ、作戦を含まない純粋な演習が繰り返されることになった。
それはつまり、異世界住民を恐怖のどん底に叩き込むことになる。
もちろん、怯えて難民化すれば国連軍の示唆を受けた難民狩りに始末されるのだが。
誰も殺さない砲撃が、誰かを殺す。
それは余談ですらない。
そして同じように、大きな注目を集めた。
それは、軍政部隊が都市を脱出するまでの作戦過程。
AC-130スプーキーⅢの戦闘自体は、異世界侵攻作戦当初から繰り返されている。
しかし、敵味方混交状態での精密度対地攻撃は多世界初。
国連軍が遠距離攻撃にこだわっているからではある。
しかし、こだわりによって可能な選択肢を閉じること、につなげてはならない。
そう軍事参謀委員会は考えている。
今後予定されている低烈度殲滅戦。
ゼロ距離瞬間全力火力戦。
例えば、街中でゴーレムに出くわした時。
この戦術が実用化されれば、今のようにM-72 LAWを使って肉迫攻撃する必要はない。
現状ではやむを得ず、接近攻撃。
射界と必中範囲の限界から、敵味方が近いと砲撃できない。
単純に逃げれば、動きが獣並みに早い小型ゴーレムに追いつかれる。
サイズが数mあるのが標準で、石や土づくりのゴーレムには小銃弾で対処するのは限界がある。
連射して形を崩すことも可能だが、時間と手間がかかり、やはり危険度は高い。
即射可能なグレネードランチャーか携行ロケット弾で、一気にダメージを与えるのが基本。
打撃を与えて動きを止めて、距離をとれるようになる。
そして火力支援を要請し、ゴーレムを操る魔法使いごと街区を処分。
手順が確立されているとはいえ、それはとても危険なことだ。
いままで怪我人が何人も出ている。
それでも、市街地で活動する兵士はM-72 LAWを標準装備。
使い捨てで安く軽く、一人で即座に簡単に操作できる手榴弾感覚の無反動砲。
これからも使われ続けるだろう。
在日米軍の在庫品が有り余ってもいるし。
しかし、いつまでもリスクを看過する国連軍ではない。
精密攻撃がより高精度なれば?
眼の前で魔法使いがゴーレムを生成しても慌てなくて済む。
味方兵士から、ほんの数m離れた標的を25mmバルカンで掃射してもいい。
上空から105mm、あるいは爆弾で一撃喰らわせればすむ。
それを実現する為に必要なことは何か?
それは結局、経験値経験則データの集積量と精度。
地球上では政治的理由により得られなかったもの。
市街地への爆撃は非戦闘員への誤爆リスクが高い。
そもそも市街戦自体がそういうものであれば、必要不必要以前に忌避される。
その心配は、もうない。
安全保障理事会は、そもそもそういった発想がない。
故にすべては純軍事的に計測される。
AC-130スプーキーⅢがとある都市で行った支援行動。
それは有り余る弾薬を使い、近接火力支援の経験値を増やせた。
それはより有効な戦術を生み出すため、繰り返し繰り返し、再現実験を含めて細部まで検証される。
標的が一人残らず無力な民間人。
それは変数が少ない理想的基盤モデルだ。
それはその後の様々な作戦の根幹となる。
今後、末永く実戦で洗練されていく。
それはそれは有意義なデータであった。
だからだろう。
なぜ?
こんなことになったのか?
経過ではなく結果、あるいは原因。
後日、それを気にした者は少なかった。
人が誰も死ななかったからだ。
法律的には、だが。
※「人間とは何か」については国際連合総会/日本国国会衆参両院法務委員会にて審議中であり、暫定的に「地球人類は人間である」というところで国連決議が出ている。
その中の例外。
この都市に帝国貴族を引き取りに向かった、そのはずだった軍政官。
彼女は過程より発起点に注目した数少ない人間だった。
そして組織の論理も理解している。
発せられた命令。
単純に異を唱えれば、抗命罪。
それは当然、事後に異を唱えることも同罪だ。
権限や作戦目的からの逸脱が無い限り、命令とは、文字通り絶対である。
どのような結果になったとしても、発令自体が問題となることはない。
軍事とは結果責任の真反対。
でなくては、誰も命令を下せない。
そうでなくては惰性と前例に縛られて、命令回避に逃避して軍も戦争も崩壊する。
ローマ帝国が敗軍の将に責めを負わせることがなかったように、それが原則だ。
もちろん、政治的な都合で例外は幾らでもあるのだけれども。
再建なった国際連合について言えば、原則を違えることはない。
病的なほどに原則を揺るがせない政治指導者。
狂的なまでに合理性をのみ追求する軍事指導者。
それを支持する機会主義の有権者。
それに従う全員軍人からなる拝命者。
日米二人の裏表。
それが独裁権力を担っているのだから、違え様がない。
であれば、軍の原則は維持される。
軍隊の中では許される質問と赦されない質問がある。
確認のための質問ならば許される。
むしろ推奨されるといっていい。
言いっぱなし、聞きっぱなし。
それではまずもって、正しく伝わらないからだ。
定型文で済むのは平時のみ。
戦時の齟齬を防ぐために平時から受令前後の質問は義務として行われる。
判っていることを知らせるために質問し、それを追認するために回答するわけだ。
※まともな軍隊に限る
疑問を口にする質問は赦されない。
最低でも即時処罰の対象になる。
疑いを持つことは叛逆に他ならない。
それを表すとういうことは反乱と認定される。
疑うことは否定すること。
味方を傷つけることができる兵器を持ち、権限を持ち、それを行使できる者が味方を否定している。
疑いを表すということは周囲に伝達するということで、サボタージュであり反宣伝。
味方の戦力をそぐ行為には、予防攻撃が加えられる。
※まともな軍隊に限る
では、異世界のとある都市を消滅させた事例はどうか。
現地司令官の判断を待たない、SIREN発動。
作戦中の部隊に対する指揮系統介入。
国際連合安全保障理事会を補佐し、国連軍の指揮を執ることを国連憲章で定められた軍事参謀委員会。
すべて、その権限の内だ。
この点において、あらゆる逸脱は認められない。
よって軍政官による上層部への意見具申は通らないだろう。
異議を唱えたほうが叛逆者だ。
では、問うことは許されるか。
指揮系統の下位から、確認のために質問する権限はある。
受令時点であれば、だが。
SIRENのような緊急命令についてはその限りではない。
それでも作戦遂行中の質問は許されただろう。
上位命令を把握した時にはすべてが終わっていたために、その機会を生かせなかった軍政官。
今更どうにもならない。
事後に質問する権限はない。
必要であれば、質問しなくても伝えられる。
必要が無ければ、何も伝わらない。
言わずもがななこと。
下士官以上であるならば、理解して当然のこと。
兵士であるならば、躾けられて当然のこと。
事後の質問、それは作戦遂行に必要ない。
であれば、作戦に対する異論異見の可能性をこそ疑われる。
それ以外に必然性が見られない。
そして当然、軍人には内心の自由もない。
疑問を持つならば、疑問に基づく質問を発するならば、むしろそれは不服従か抗命に近い。
それは当然、部隊の統制に対するリスクとみなされる。
黒に近いグレーゾーン。
銃殺か戦死か、いずれにせよ警告くらいはあるだろうか?
故に軍政官は「指導を求める」ことにした。
「本作戦の講評を求め今後の指揮に助言をいただきたい」、と。
「作戦成功に付き指導の要無し」
と却下される可能性もあった。
だが、国際連合統治軍自体が手さぐりで編成され、運営されている。
それも改良を加えながら、だ。
その中でもとりわけ「軍政官」という極めて特殊で蓄積の無い役職。
これをを含めてケーススタディーとして取り上げることは、誰しも歓迎するところだ。
それは実際に、よく行われる。
オンラインで距離の影響を克服すれば容易いこと。
軍事参謀委員会が乗ってこなければ、軍政官同士で研究会合を開くこともにおわせた。
情報共有を軍の公開スペースで行うのであれば、特段の制約はない。
むしろ推奨称賛されるくらいだ。
切りだし方を間違えなければ、相応の人材を集め、上層部への批判的な意見をまとめることも可能。
実際「指揮権に対する介入」という面で当の軍政官には、共感する向きもある。
そうなれば現在の軍事参謀委員会なら間違いなく、宥めるより制圧する方を選ぶ。
結果、軍事参謀委員会は貴重な軍政官たちを損なうことになる。
それに比べれば、一軍政官を相手にガス抜きをするほうがマシ。
・・・・・・・・・・・・・・・と考えるであろう、と彼女は予想して動いた。
予想は外れたが、願いはかなえられた。
望みは通じなかったが、手順は教えられた。
そしてこの「指導」は公開されていた。
だから、その場に居合わせず、現場を体験した者に伝手が無かった軍曹もそれを知る事が出来た。
データ取りが僥倖に過ぎなかったことも。
皆が注目している「偶然」の影で働いていた「必然」のプロセスを。
直接的に住民の三分の一を殲滅する、その決定に至った、本当の仕組みを。
15秒だ。
お互いに、機会は与えられていた。




