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完全侵略マニュアル/あなたの為の侵略戦争  作者: C
第七章「神の発生」UNESCO Report.

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卯月、皐月、よくある風景



四月。

軍事参謀委員会のモニタールーム。

とある三佐が休憩中。




北にいる子分のところに、移動する前。

移動待ちに、敢えて創った休憩時間。


だからこそ、ちょっとした作戦を見物。

お茶請け代わり、というところ。


「貧乏暇なし、とは言ったものね」



そもそも、地方の名家の末娘。

代々続く有数の政治家、それを支援する地方資産家、その閨閥の中。

それが彼女の経歴だ。


なぜ自衛官になったのかは謎だが。

彼女の兄弟も自衛官かフリーランスなので、そういう世代としか言えないだろう。


それなりの苦労があったのかなかったのか。

すくなくとも金の流れと切れたことがないはず。

それは本人も否定しない。


「百億やそこらじゃ、何にもできないわよ」


ということらしい。

それはそうなのだろう。



生まれた時から子々孫々にわたって遊んで暮らせる資産家。

その何不自由ない生活と、誇れる学位に職歴を掲げ、なお支持を訴える姿。

そんなものなぞ、選挙のたびに見飽きたモノだ。


読み書きできても理解は出来ない、無知無能。

ただ日本に生まれた、というだけの唯人。

犯罪者ではない、というだけのニート。


そんな一票が欲しくて。


熱い最中の沖縄から、厳寒の北海道まで。

秒刻み分刻みで駆け回る。


「あたりまえじゃない」


権力が欲しいからだ。

一国の歴史を変えたいからだ。


「しかも日本の権力よ」



先進国。

地球人類を支配する一握りの国々。

日本、合衆国、欧州。


何処かの権力を握ること。

人類の命運を握ること。


三億を超える人口を制しなければならない合衆国。

フランスとドイツをまとめなければならない欧州。

三千万ほどの有権者をまとめれば手に入る日本。


「人類史を書き換えるカード」


手に入るなら、なんだってするだろう。

ファンタジーの盃や、超展開のバトルロイヤルなんか目じゃない。

誰にでも、ただ、日本に生まれたというだけで、手が届く。


「そりゃ一族代々、何もかもなげうつってものよね」



そしてカードを手に入れた。

その娘、という立場。


当たり前の政治家の、当たり前の娘をしていたら、手に入らなかっただろう。

特異な政治家の、変わり者の娘として、特別職国家公務員になっていた。


だから、ちょっとしたことができる。

人類史にドミノを仕掛けることができる。

ならば押さないなんてありえない。


三佐は、押したスイッチを見て、ゆっくりと立ち上がった。


「今日は世界を♪明日は多世界を♪」








そして再び五月にもどる。



軍曹は先月の事を思いだしていた。


軍曹はそれを事件と呼んでいて、良く知っていた。

おそらくは今、自分を軍事参謀委員会がモニターしていることも。

それが、見ているのが先月と同じ人間とは思わないが。


事件でもなんでもない、何度も繰り返された類例。

そんな、たかが虐殺を、忙しい下士官が知っている理由。


珍しくも、最近、半月前に起きたからだ。

そして余りに似ている。


目前の今。

直近の過去。



館の中。

囲む群集。


これから起きる事。

これからも起きる事。


それを避ける気はない。

それを避ける気があればよい。


現代人でも中世人でも、地球人でも異世界人でも。

焼けた鉄を押し付けられれば、二度と触りたくないと思うものだ。


覚えるまで何度でも。

異世界が亡びる前に、覚えるといい。


警告はしない。

説明もしない。

予告もしない。


「殺すぞ」

等とは言わない国連軍。

殺し終わった。

と確認するだけだ。


誰が悪いわけではない。

異世界の人々が愚かだった、などと言うことも無い。


必要なこと。


だからそれは、気の毒な事。

国際連合から見れば、残念な浪費。


その原因は、もちろん、ある。



それを軍曹は、個人的に知りたかった。

だから同じ関心を持つ士官下士官と共に、調べて考えた。


それは上層部に把握されていたが、幸いにしてファイルされるだけだった。

今のところは。




その都市。

それを知るときには殲滅されていた都市。




軍曹が今いる場所から南へ千kmほどの場所にあった。



人口は3万人弱と推定されている。

殲滅時点で、という但し書き付き。


この都市も例によって地球人は、国連軍の残党狩り以外、訪れたことはなかった。

そして残党狩りと入れ違いに、帝国貴族が逃げ込んできていた。


住民はこぞって帝国が嫌いだった。

だが、その帝国貴族は別だった。


世界帝国にはありがちなこと。


その帝国貴族、その氏族は地元出身だった。

元々地元の富豪。


かつてその地方に存在していた旧諸王国時代の旧家でありながら、貴族騎士の類ではない。


帝国は滅ぼした国々の高貴な血脈を絶やす。

だが、単なる金持ちには感心がない。

故にその氏族は生き残った。




帝国は新領土の統治にあたり、その土地の領民たちによる自治を多用する。



必要な物資と労働力さえ手に入ればいい。

山羊や羊や領民や小麦、その生態を変える必要はない。

習性や形を調べはするが、獲物や作物と意思疎通など考えない。


もともとその土地に居るまとめ役。

王や貴族とは違い権威を持たない権力者。

もともと相争っている利権の主。


そいつらを使うのが、一番、効率がいい。

必要な物や労力を命じる。


出せねば殺す。

出せれば生かす。



帝国が恨まれても、真っ先に石を投げられるのはそいつらだ。

殺されれば勝手に入れ替わる。

選ぶ必要すらない。


「権力は貧困の中にしか存在し得ない」

と地球の作家、ジョージ・オーウェルは言った。


「有価資源の権威的配分こそが権力である」

と地球の学者、デイヴィッド・イーストンは書いた。



帝国が奪う。

不足が生じる。


それを配分することで権力が生まれる。

それを担うことで権威が生まれる。


資源を傾ければ、総量が減ったとしても利益は産みだせるのだ。

そこに破滅の可能性が有る限り、担うことで敬意が生じる。




旧家とそれを差配する氏族はその流れにのった。


まずは地元と帝国との調整役として台頭。

当主が野心家だったのだろう、積極的に帝国の施政に参画。

地域の枠を超えた功績も挙げた。


それが出身都市と帝国政策の摩擦解消につながったのは幸運もあっただろう。


諸王国から帝政へと向かう転換期。

瞬く間に僅か一代で、帝国貴族と成り上がった。



それはよくあること。


僅かな人口と短い期間で築き挙げられた世界帝国。

純血主義、国粋主義、民族主義では成り立たない。


征服された地域の、多くの人物、数多の氏族が取り立てられた。




帝国経済が安定期から拡大均衡に向かえば、自然に消滅する役目。

その転換期まで乗り切れば、強大な世界帝国の藩屏たる平穏と無限の発展が約束される。


東方征服が終了し、西征へと向かうこの時代。

この都市が所属する大陸沿岸部自体が西方への物資供給源、収奪領域から生産拠点へと切り替わるタイミング。


それは帝国に参画する最高の機会だった。

一夜にして潰えるなどと、誰が思いつくものか。




そして、潰えた夜のその夜明け。

そして、逃げのびてきたその氏族。



彼等は、少なくともその当主は、当の逃げ込んできた人物は。

故郷を出て帝国貴族となり、広い地方への影響力を得てなお、出身都市への好意を持ち続けた。


それは気紛れだったのかもしれず、自分、あるいは氏族のアイデンティティ、そのよすがだったのかもしれない。


貴族が出生して影響力を得れば得るほど、出身都市は恩恵を受けることができた。

それが例え、収奪に手心が加えられる、といことだとしても。


百発殴られるところ。

九十九発で済む。


人はそれに歓喜する。

中世から現代まで、異世界から地球の日本まで。

日々、あなたの周りで起きていることだ。




故にこそ、その帝国貴族は都市に匿われた。

帝国統治が一夜にして崩壊してなお、多くの住民たちが知遇を捨てなかった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・新たな支配者が、姿を表さなかったから。





いや、新たな支配者など、いなかったのかもしれない。

強者として睥睨しながら、君臨しようとは考えない。


それは支配者たりえようか?


だからこそ、多くの住民が以前のままに感じてしまった。

だからこそ、帝国貴族が地元の出世頭として受け入れられた。


帝国を駆逐した相手は、遠くを通り過ぎるだけ。

都市に何も関心を持たない。


村々も、街々も、畑も工房もほったらかし。

ただただ帝国だけを追っている。



その地方が進撃路にないから、気にしない。

帝国の集積地があるわけではないから、どうでもいい。

他の地方へ波及しそうな混乱が起きないなら、ほったらかし。


主戦場で何があったのか。

進撃路沿いの街々村々がどうなったのか。

直轄地にされた大都市で何が行われているのか。


伝わった。

信じなかった。

知られた。

感じなかった。

判った。

解らなかった。


支配者が入れ替わったのなら、なぜ来ない?


領地の隅々まで巡検し、税を課し矢銭を巻き上げ従属を約させる。

それが当たり前だ。


財貨を、土地を、人を、権力を誰もが欲するものだ

――――――――――どれも必要としない、過剰供給社会など思いもつかない。




帝国が逃げ出したのは確かだろう。

それは見ている。

帝国が追い出されたのはどうだろう。

誰もが聴いたが、それだけだ。


都市は放り出されて宙に浮く。



そんな中に腰を落ち着けた、地元にて知らぬ者なき帝国貴族。

広く多くの知己をもつ彼の人の隠遁。


ただ怯えて隠れ、再起を期す様子もない。

街の者たちにも、何かを命じるわけではない。


誰も決断を強いられない。

それは受け入れやすいこと。


惰性と沈黙は人の性。

誰も言いだせなかったのは、変化。


受け入れるという意思もなく。

匿うという覚悟もなく。

宙に浮いたまま確かめない。





故に程なく国連軍にも伝わった。



「敵がいる」


殺すべき「味方以外」ではない。

狩るべき「敵」だ。



それが先月のこと。

間を置かず、国際連合統治軍が動く。


つまり軍政官が訪れる。

帝国貴族を確保するために。





軍政官は


「帝国貴族(敵)を匿った」



「帝国貴族(敵)は捕らえられた」


と言い切った。

であれば帝国貴族は、国際連合の資産である捕虜。




これは前例があることだ。


とある国際連合占領地最北端の邦。

現地住民たちが国連統治軍をだまそうとした事例。


無力で格式だけはある魔法使いを「代表者」と偽って差し出したことがある。

実際に邦を代表するだけの力がある有力商家の者たちは、その背後に隠れて地球人をやり過ごそうと企んでいた。


その実態を当の軍政官は把握していた。


先行していた合衆国海兵隊(Reconna)武装偵察部隊(issance)が、街の要所要所に仕掛けた盗聴器。

それを解析する日本列島の分析官たち。


それは当然、敵対行動。

敵対行動への対処は決まっている。

そうはならなかった。



紆余曲折(約5分ほど)の後、全住民たちは生贄に差し出した魔法使いを「正式な代表者だった」と明言した。

最初から最後まで徹頭徹尾そうであったし、そうであり続ける。



二つの矛盾する情報が入手された時、取捨選択を作戦司令官が行うのは当然である。

もちろん前線兵士部隊が入手しうるあらゆる情報を集めるのは当然である。



情報の入手真偽採用不採用そして結果に至るまで責任を負うのは司令官一人。

・・・・・・・・と本人が知っているかどうかはともかく。


司令官はあらゆる責任を負って全住民の総意を承認し、魔法少女(げんちだいひょう)の降伏を受理した。




よって、「国連統治軍を欺く」という敵対行動がなかったことになった。

ゆえに、ロナルド・レーガンから離艦直前だった攻撃隊の発艦が中止になった。

つまりそれを、その軍政官の判断を軍事参謀委員会が追認したということ。


以後、それを参考例と考える軍政官は多かっただろう。




その事例に限らず、異世界住民との接触記録は、共有される。

同じく異世界住民と接する必要がある部署で、特に。


担当者の対応。

異世界住民の反応。

そして、軍事参謀委員会の判断。


多くの軍政官は、三点目、味方の上部構造の動きに注目することが多いようだ。




だから、だ。

はるか南の街で事態を把握した、とある軍政官は、はるか最北端の邦での事例に注目した。

だから国連軍部隊による鹵獲作戦ではなく、国連統治軍による交渉作業ということにした。




国連軍に追われた帝国貴族はその家族家産を含めて国際連合の所有である。

それをとらえたのであれば現地住民は「善意の第三者」であるとみなせる。


丁寧にもてなしていたのは、国際連合の資産を傷つけない為。

通報が遅れたのは、国際連合窓口を知る異世界人がいないから。


祖語は生じているが、やむを得ない範囲。

何も問題は起きていない。


報告を受けた国際連合軍事参謀委員会は前例通りに軍政官の主張を認めた。

前例を踏みにじるのが好きな割に、それを認めたのだ

――――――――――異世界住民は認めていなかった。




軍政官は素早く捕虜接収に訪れた。

国際連合統治軍の小部隊しか率いなかった。


それは特別な事情があるわけではない。


異世界との接触は、少なく、短く。

余計な摩擦を避けるため、最小限に最短限に。


それが統治軍の常態であり、通常任務の一貫と考えられていたことが窺える。


もちろん近隣の国連軍はバックアップ体制に入っていた。

故に戦力に不足はない、むしろ過剰なほど準備が整えられた

――――――――――異世界住民は知らなかったが。




ここまでの流れ通り、この問題を仕切っていた国連軍佐官は意欲的で柔軟で、優秀な人物だった。

個人(部下に命じたものを含む)で異世界住民殺害スコアトップをひた走るような尉官ではない。




そしてその軍政官は首尾良く、該当の帝国貴族と接触。


半日かけて尋問し、慎重に確認。

確保すべき関係者個々を、人数を、同行持参すべき者や物を。


やはり二度手間により接触を増やさない為の配慮だった。


事前にどのような根回しがあったのかは、重要ではない。

最中、どのように配慮したのかも。


ただ

――――――――――街の住民は蚊帳のそとだった。



それは正午。

住民はみな起き出し、街に出て、市が立ち、生業の休憩時。


農村部では一日一食夕食のみ。

都市部では一日二食昼食こそ正餐。


故にこそ、昼の休憩は長くとる。

商いの手を休め、工房の窯を閉じ、貴重な日光を楽しみ過ごす。


廉価な灯り無き時代で、夜は身動きできない人々。

それは憩いの時間であり、好きなことができる時間。

各々、気になることに集中できる。




帝国貴族の館、その門前。

立哨に立つ国際連合統治軍兵士たち。


携行糧食、を簡単に食べ終わっている。

戦闘中だけに、規定通り。


満腹になると腹部を負傷した時に悪化する。

それを想定していたわけではないが。


96式装輪装甲車(Ⅱ型)や軽装甲機動車は館の敷地内。

統治軍兵士たちは緊急時の退路確保に備えて、念のために門前を抑えていた、それだけ。




そこに、徐々に、住民が集まり始めた。


なぜか?


後からは確認しようがない。

だが、自然発生的なものではないか、と思われる。


実際、殺気立った様子は最期までない。

特に行動的な一部住民が、街の恩人の様子見に訪れた。


その人影に、たまたま手が空いた住民たちが立ち止まった。

それに釣られて

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・というヤツだ。


地球で幾度となく心理学者が実験したように。


人垣を作れば人が集ま。

行列を作れば人が並ぶ。

人が進めば自分も進む。



立哨中の統治軍兵士たちも、銃を構えて接近を許さないが、特段緊張の様子を見せない。

緊張が緊張の連鎖を生まないよう、練度が高い兵士たちだったのだ。


実際、住民たちを威嚇するための演技ではなく、兵士たちはリラックスしていた。




警戒すれば、脅威とみなしていると思われ、舐められる。

しかも刺激を与えることになり、敵意を買う。


力を抜き、態勢を広げることで相手を見下す。

しかもその方が反応速度は上がる。


実戦の教訓。

それが意図的なものならよかったのかもしれない。




だから、防げなかったのだが。


それは

―――――――――投石。



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