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完全侵略マニュアル/あなたの為の侵略戦争  作者: C
第七章「神の発生」UNESCO Report.

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272/1003

戦って死ね。/Yes, ma'am!!!



ミラー大尉は経験を積んだ将校だ。

皆まで聞かずとも、状況はわかった。


彼の部下三名と地球の民間人一名。

四人は暴徒に襲われている。


帝国貴族、その一行と混同されて。


群衆にその違いを理解させるには、殺さないと不可能だろう。

聞く耳があるなら、暴徒になどならない。


理解させても解決にはならない。

そもそも、帝国貴族は国際連合のモノだから。


その発想、軍事参謀委員会の言い分も、ミラー大尉にはなじめない。




ミラー大尉は頭をかきむしった。


戦闘指揮所となっている装甲車の中。

唯一の明るい材料は、人目が無いことだ。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

軍事参謀委員会が大尉に注ぐ目、以外は。



全兵士、他、異世界で活動する地球人すべてが着用を義務付けられているドック・タグ。

それは文字通り、首輪の意味を成す監視記録装置。


24時間複数稼動中。

だが、国連軍関係者はもう慣れている。


なにものにも信を置かない政治家が、非機械的な密告者を設定しているとは気がつくまい。


とはいえ指揮所内に人影はない。

規定上席を空けないドライバー席は、指揮所とは別構造。

哨戒気球や偵察ユニットを管制しているオペレーターは別車両群。

大尉が下す命令は、指揮管制システム経由で済む。



大尉は一人、存分にイラつけた。




UNESCO調査団団長は、広場全体から見える壇上で悠然としている。

調査指揮だけに特化して、部隊指揮には介入しない。


緊急時には旗印として振る舞う。

状況を確認しようとしたりせずに。


――――――――――規定通りの対応――――――――――


それでも大尉は感謝する。



おかげで広場の全員か落ち着いている。

異世界人も含めて、だ。


異常事態に気がついた、その上で尚。


街の有力者たちも最初から、異常が生じる前から壇上だ。

異世界住民の名誉を傷つけぬよう、UNESCO調査団団長の周りに置く。


その実は人質だが。


幸いに有力者は十人以上。

朝からずっと壇上に居させられ、皆がなれている。

一人二人居なくても、トイレかなにかと思われる。


だから、尋問中も、衛兵や家臣家人たちに動揺はない。

有力者たちが落ち着いているのを見て、異常ではあるが非常ではない、程度に現状をみているようだ。

その実、有力者たちはUNESCO調査団団長が睨みを利かせて、落ち着かせているのだが。


有力者たちが事態を察して、協力的なこともある。


動揺が全体に波及すれば危険。

それは経験上解っているのだろう。


むしろ広場に集った異世界住民たちは、壇上のお偉方より街の騒ぎに目を向けるようになっている。




だから広場を囲む衛兵隊列に乱れはない。

衛兵たちは何かが起きたら、まず自分が動かず、目につく範囲の者を動かせない。


広場内には壇上の有力者の関係者、直接の支配関係になくとも影響圏にあるものしかいない。


その範囲であれば問題なく、指揮系統が機能している。



街の有力者、その邸宅を襲っている暴徒。

有力者たち子飼いの衛兵や用心棒。


仲がいいとは思えないが、暴動が広場に向かう様子はない。




住民たち一人一人の臆病さ、弱者としての自覚。


それが新旧の支配者、武装した兵士や衛兵、用心棒。

判りやすい権力と暴力から逃避させる。


孤立無援の帝国貴族が相手なら、なにをしても抵抗できない。

だから襲う。


普段から自分たちを抑圧している有力者。

傲然と世界を睥睨している新支配者。


そんな相手に目を付けられたら、なにをされても抵抗できない。

だから逃げる。



とても賢明な判断だ。

狭い視野と判断以前の情報量、欲得ずくの願望に基づく現状錯覚。

その限りにおいては。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・猫と虎を間違えている。



UNESCO調査団本隊、は全く脅威に晒されていないと言える。

つまり大尉には、まだツキがある。



動揺の兆しが見えたら、SIRENしかない。

緊急安全化措置。


この事態が生じる前から準備は常にされている。

必要な銃口が異世界人の一人一人からそらされたことはない。



無力化に5秒、トドメに30秒。

撤収可能は1分後。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そこまで殺ったら、急がなくてもいいが。


人的なものを含めて資料を略奪拉致し、全部積んでから引き上げる。


UNESCOとしては、それでいい。

が、それは避けたい。


では、どうするか。

ミラー大尉は考える。




海兵隊は暴徒鎮圧なんぞ慣れたもの。

ミラー大尉も経験はいくらでもある。


軍曹ならもっと慣れているだろう。


不毛ではあるが合衆国本国内だけではなく、様々な国々で非武装軽武装の群衆と殴り合ってきた。



ウォール街のパンとサーカス、パン抜き。

ワシントンのイリュージョン、張りぼて。


根本的な国内問題に目を背け、くちばしを突っ込み続けた合衆国。

その一番お手軽な尖兵が海兵隊だからだ。




だがしかし、その経験は生かせない。

原因は、ここの、UNESCO調査団の戦力では不可能なこと。


街の衛兵を指揮下にねじ込み、投入すれば、あるいは。


だが、その場合は広場の保持に隙ができる。

いや何よりも、鎮圧なんぞ求めていないことか。




―――――――――国際連合に「鎮圧」と言う言葉はない―――――――――








一方の軍曹。

ミラー大尉の考えていることは、だいたいわかる。

これから何が起こるのかも、先月の実例から察することが出来る。


館の周り、広くとられた通り。

路地から溢れ、埋め尽くした群集。


いや、その様子は暴徒だ。


老若男女が揃っている。

フランス革命を例に取れば、虐殺の先頭が女たちだった、なんて珍しくはない。

とりわけ女を八つ裂きにするのは、女が多い。


暴徒たちは「雌犬」と罵り憎悪を繰り返す。



まるで令嬢を見たかのようだ。

もちろん見てないし、聴いてない。


令嬢を、彼等の世界全体から憎悪を受ける少女を匿った人々。

理由はどうあれ、そこまで間抜けではなかった。


つまり、それは、彼ら、暴徒たちの期待。


豊かさと縁遠い、それが共通点。

有力者の私邸を略奪したい、それも共通点。

より弱い相手を、川に落ちた犬を叩きたい。

それが最大の共通点。


自分たちを見下していた、苦しませて奪っていた、高貴な女を屈辱の極みに落として踏みつけて、命も名誉も奪いたい。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・事実はどうあれ、関係ない。


そこまで来ると、期待と言うより欲望だが。



軍曹の様に、現代先進国の安定した中産階級として人生を送ってきた、そんな人間には解らない感覚。

日々刻々と貧しくなる最大多数から抜け出すために志願した、二等兵になら解るかもしれない。




すでに柵外は全周を隙間なく囲まれている。

しかも後続もいる。


通りに溢れ、路地を埋め、明らかにここ、この館へ。


鉄柵につかみかかり、登ろうと試みている。

柵上の槍先があるから、越えられはしまい。


だが、門の柵はどうか。

開閉用の稼働部分がいつまでも保つか。

中世の技術で一番弱い、未発達な部分。


間違いなく、時間の問題だ。






館の外周柵は、正門しか開口部がない、ように見える。


軍曹やDr.ライアンが通った裏口、通用門は通りから見えない。

だからこそ、正門に圧力が集中し、柵に頼りたい身には余計に拙い。



腕を突き上げ、叫びをあげ、押し合いながら前へ前へ。

逃げ場はない。



そして暴徒の目的は・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「「「「「帝国の雌犬を吊せ!!!!!!!!!!」」」」」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・軍曹は目の前、蒼白で震えている少女たち、一対の主従を見た。


(まったく、会ったこともない相手を憎めるもんかね)


そもそも架空の、存在しない相手すら憎めるのが人間だ。

学識はなくとも、豊かさの中で知性を積み上げた人間には伝わらない。



反帝国暴動。


極大化した貧富の差。

歪んだ社会、腐乱ガスの噴出。

どうでもいい略奪と、許容しがたい虐殺。


それが始まろうとしていた。





帝国貴族令嬢。

彼女はチラリと考える。


軍曹たちのような情報機器に縁はないけれど、耳と目があれば理解できた。

この場にいる誰よりも、経験豊富なのだ。


暴徒に襲われる経験は。




全周から響く罵声。

―――――――――それは囲まれたということ。

厚い壁を越えて轟く怒声。

―――――――――それは千を越える敵の数。

意味をなさない狂声。

―――――――――それは交渉の余地なし。


奴等の狙いは、令嬢、その人。



これからすぐに起こること。

暴動を鎮圧する軍曹たちとは違い、令嬢は暴動を間近で見聞きした。


何度も何度も。


数の前に、技能は無意味だ。

隊列が数を圧倒するにしても、隊伍を組める数こそ前提。


百の兵士で千の暴徒を追い散らせる。

一人の兵士で十の暴徒に勝てはしない。




卓越した剣技が幾人を斬り裂こうとも、剣が脂で斬れなくなるまで持ちはしない。

暴徒の手や足や歯で引き裂かれる。


無双の剛力が槍を振り回しても、貫いた身体で折れずとも重荷にしかならない。

貧相な暴徒の無数の足が潰して踏みつけミンチにする。


魔法使いの火炎に水塊がいかに遠くに届こうとも、囲まれてしまえば意味がない。

引きずり倒され瞳を刳られる。


さて令嬢は?

辱められて嬲られて、弾みで殺されるがいいところ。

まったくもって、耐えがたい。



青龍の騎士たちにも目を向ける。

令嬢は伝聞でしか知らない、青龍(地球人)の騎士たち。

国際連合軍。



遠距離の攻撃を主体にして、遠くを見渡す目を持つ。


つまりそれは、令嬢から見て魔法使いだ。

帝国軍であれば騎士と兵士、魔法使いはわかれてるけれど。

青龍(地球人)は魔法使いに鎧を着せて騎士と為す。


それが帝国軍全般の理解。

帝国軍における魔法騎士、独りで一軍を斬り裂くものほどの力はない。

だから、騎士魔法使い、ないし甲冑魔法兵などと呼ばれつつある。


令嬢が降伏相手として選んだ軍曹たち。


もし魔法騎士なら、一人でとっくに暴徒を皆殺しにしているだろう。

ならこの場にいる青龍の騎士三人は、帝国の魔法使いに準ずると考えていい。

帝国人にはそう見える。



だから千を超える暴徒に市街地、建物内で襲われれば対抗しようがない。


壁や扉、建物の構造が邪魔となって距離をおいて攻撃ができない。

容易く距離を詰められ、魔法使いが苦手な肉弾戦に持ち込まれる。


まあ暴徒のやりくちは、戦、などというものではないが。


殺到する暴徒には魔法の威力が伝わらない。

見通しが利かないから、魔法使いの前で消し炭や溺死体となった姿が見えない。

最高の高率で殺せるが、逃げ崩れることは期待できない。


魔法がもつ最大の効果、威嚇が伝わらない。


前が殺されたことにすら気が付かない大半の暴徒は、怯える前方の生き残りを押しつぶして殺到する。


くりかえせば距離が詰められ、魔力が尽きるか魔法を使う時間が尽きる。


魔法使いが魔法を失えば、生きた肉塊と変わらない。

令嬢が同情するのも無理からぬこと。





このあたりの推測は、国連軍も同意するだろう。

魔法を銃器に置き換えれば全くその通り。


だからこそ、近接戦闘を避けている。

だからこそ、守りに回るのを恐れている。

だからこそ、そうはさせじと立ち回る。


近代兵器のアドバンテージ。

それは素人が考えるほどに圧倒的なものではない。


もし日本が異世界に出現するのではなく、異世界が日本の狭い都市部、さしずめ東京あたりに出現していたら?


蹂躙されているのは日本側であり自衛隊だろう。

そんあことは、職業的な軍人であればだれでもわかる。


中世の技術/戦術で近代兵器に対抗する方法などいくらでもあるし、攻め手に立ち主導権さえ握れば凌駕することさえ可能なのだから。


もっとも、中世の公衆衛生や防疫レベルを考えれば

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・環境要素によって戦争以前に終わる可能性も高いが。



知らずして正鵠を射ている令嬢は、軍曹たちを見て思った。


(いら立つのも無理はないわね)

全くの巻き添えなのだから。


つまり彼ら青龍が、令嬢一行と間違われていることも推察できた。

令嬢が外の暴徒に向かって、彼らが無関係だ、などといっても無駄。



青龍自身は広場に竜を連れてきているという。

飛竜や土竜を使えば、暴徒を殲滅することなどたやすいだろう。

でも、そうなればこの館も巻き添え。


この部屋にいる赤い龍と青い龍。

どちらも、どうにもならない。


令嬢が帝国の竜を呼ぶことができるなら、むしろ自分に向けて炎を吐かせる。

結局、もろとも心中に変わりはないけれど。


(今のうちに謝ったほうがいいかしら?)

とも思う令嬢。


誉ある戦場(いくさば)を与えらぬことを恥じよう。

せいぜい戦って死ぬがよい。


これが帝国貴族の考える謝罪。




侵略者、青龍。

叛逆者、暴徒。


帝国の敵が殺しあうのは喜ばしいこと、令嬢自身の存在が原因となれば功績といっていい。

何しひとつなしていない半人前が、死ぬ前になにがしかの功績を挙げた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・などと、思いもしない令嬢。




敵は殺すものだ。

敵に死なれてはかなわない。


錯乱した怪虫の群れが押しつぶしたからと言って、何を誇ることができるだろう?


それは帝国人、令嬢のような生まれも育ちも純粋な騎竜民族の感性だった。

それに、令嬢の感覚に合わない、と言うだけでもない。



せっかく間近にできた、龍。

帝国を一敗地にまみれさせた、見事な奇襲と圧倒的な武略。

令嬢は、青龍を、もっと見ていたかったのだ。


(どうにもならないけれど)



この館には、秘密の抜け穴等ない。

地下蔵に逃げ込んでも、糞尿を流し込まれるだけ。

ならばまだ、空を眺めて死ぬるがマシか。



手元に残る令嬢のカード。


執事一人にメイドが二人。

生き残るためならば、使い潰すにためらいはない。

それが帝国貴族であり、彼等に対する義務などはない。


忠誠とは商いではない。

献身とは交換ではない。

支配とは統治ではない。



そうして今日まで生きてきた。

大勢の武官が身を棄てて戦い、さらに多くの文官が囮となって殺された。


令嬢の為に。

それは仕える者には、呼吸と同じ。

言祝ぐことだ。


だが、と令嬢は考える。


意味がない、と。


三人をどう使ったところで、自分が助かる道はない。

無駄遣いは良くない。


ならば?



令嬢自身が囮となって、三人を逃がした方がいいだろう。


執事は帝国人ながら、市井に紛れ込んでも違和感がない。

メイド二人は元々有力な領民で、うち一人はこの街の有力者の娘。


生き残る芽はある。

誰かが生き残れば、再び帝国軍がやってきた時に役立つだろう。


それをどうやって、やらせるか。

三人は当たり前のこととして、令嬢の盾となり無駄死にする。



令嬢は三人を騙す算段を考える。


令嬢を含めて、暴徒に紛れ込むために変装することを命令。

紛れ込むためと言いつくろって、バラバラに行動。


間違いなく令嬢自身は見破られるだろう。

暴徒の勢いならば、そして令嬢が上手くふるまえば、すぐに殺される。

復仇を誓う三人は、そのまま身を隠すはず。



(心躍らぬ、とはいえぬな)


おそらく、できる。

巻き添えとなった青龍(地球人)の騎士たち。

彼等も暴徒に紛れることはできぬ。


令嬢とは別な意味で、仕草が異質に過ぎるので。


逃げ場が無い者同士。

共に戦って果てることはできよう。


本当なら、懐剣一つで青龍に挑み、殺されたい。

そしてそれは役に立たない。

だからしない。



そう思っていると、青龍の一人と目が合った。

あわてて手を握り締めて、震えを殺す。


そ~と、視線をそらし、横目で様子を覗った。


(気が付かれてないかしら?)





軍曹は視線をもどす。

窓の外、シュプレッヒコールのような罵声の先、を見た。


つまり、最悪。

思わず漏れる、二人の呟き。

軍曹と令嬢。


「皆殺しにさせたいのか、こいつらは」

「は?」



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