文明の衝突(非接触事故)
期間8月15日まで
対象3000名
選考基準
・戦場復帰不可能で容体の安定した戦傷者
・隔離病棟での見聞以外もちえない者
・下記分類に適合する者
全体注意
・捕虜交換には応じない
・身代金は貴金属とする
・身代金重量/種別は別ファイル(検閲削除)参照
・身代金の減額/免除は捕虜の社会的信用と名誉を棄損することを認識のこと
分類
A)占領地出身者
対帝国:中立
対人類:中立
・交渉担当は軍政司令官/現地代表とする
・分割、証書代納を可とする
※提案は必ず現地代表に「代表自身の個人的考え」として行わせること
※結果としてどうあれ公知の事実として原則通り処理された態を装うこと
B)係争地出身者
対帝国:非友好的
対人類:敵対的
・交渉担当は軍事参謀委員会より派遣
・免除並びに減額を積極的に行うが、一定の基準を示さないこと
※通達の背景として「帝国政府寄りの回答」ないし「示唆」を示すこと
※解放時に該当地域に減額/免除を確実に通達すること
C)敵性地出身者
対帝国:友好的
対人類:敵対的
・交渉担当は軍事参謀委員会より派遣
・策定基準に従い厳正処理
・A/Bについてどのような形であれ伝えないこと
《国際連合軍事参謀委員会作成/捕虜解放作戦概要》
【太守領上空/チヌーク一号機キャビン前部】
『軍政司令官』
はぁ?いま、俺を呼んだ?機長の三尉だよな?
『予定地視認』
いや、ビビるわ。あの機長に上官扱いされたら、ビビるわ。
敬意、はともかく、普段のぞんざいさのない声音。
『こちらレコン1、問題なし』
さすが米軍長距離偵察。
曹長が俺に目配せ。
『作戦開始』
慌てて指令。
ノーパソのディスプレイで確認。着地点は問題なし。レコンも展開済み、と。
ん?
左手に柔らかい毛並み。
あ、そか、魔女っ子たちにもインカム付けてたのか。
でないと声が聴こえなくて危険だからな。
【太守領上空/チヌーク一号機キャビン青龍の貴族左】
わたくしは逃げたいような逃げ出したくないような状況にコンランしました、しています。
龍に乗せていただくのは二回目、なのですが、えと。
「きゃ」
龍が揺れた。なになになに?
「手を離すな」
吹き込む風に髪が舞い、ご領主様の腕に絡みます。
見回せば両側の扉、龍籠の両側が開き、風が舞い。
わたくしは、あの娘と二人で椅子にくくられていた理由がやっとわかりました。
回転?
青龍の騎士達は扉から大きな筒を覗かせて、外を、下を見ています。
「HAHAHAHAHAHA」
道化は歓声を上げて空を見上げた。
「きゃ」
・・・・つい。
あの娘は我慢してるというのに!
あねとして不甲斐ない!
「大丈夫だ」
え?
わわわわわわわわわわわわ!
テテテテテテ、ご領主様が握って!!!!
「耐えろ」
軽い衝撃。
降りました?
ご領主様がわたくしたちの腰から拘束具を外してくださいます。
わたくしとあの娘は肩をつかまれ、ご領主様が、わたくしたち三人に向き直られました。
「出るな」
「「「イヤ」です」から」
わたくしたちは同時に応え、歩き出されたご領主様について行きます。
何もおっしゃらない。
承認、ね。
ご領主様の隣の騎士長さんが少し下がり、わたくしたちの右側でかばってくださいました。
左側は別な騎士様。
ご領主様を頂点とした三角の中。
龍の翼風が吹き荒れる中、扉から降りますと。
『隊長!』
ご領主様に騎士長さんが呼びかけ、指差されたのは・・・・・・。
え?
【太守領/港近く/チヌーク一号機後方/降着地点】
俺と兵の間を走り抜ける影。
いや、まあ、速くはない。とたとたとたとた・・・と言うところだ。
「ママ!」
「オカアサンデスYO~」
回し蹴り。
俺、フリーズ回復。
神父が草間に沈む。
エルフっ子はためらわねー。
やっべーやっべー!マジビビった!またかと思った。
ある意味、また、現れた子供は母親にすがりついた。
保護者確認状況終了!
兵士が止めなかったのも解る。
よかったよかった。
「曹長!」
「敵影なし!観測点確保!警戒線完成!」
打てば響く。何事もなかったかのような安定感。
無人偵察機・・・という名のラジコン飛行機が飛びすぎて行く。
あれ?展開早くね?
皆、慣れたか。
魔女っ子シスターズはエルフっ子が引率で問題なし。
「ハートブレイク!メディック~!」
俺は何事もなかったかのように、そのまま丘を登った。
見下ろす位置で思い浮かんだセリフは無視。
「ソウルブラザー!!GOMIがヒトのようじゃないかネ!」
俺は何事もなかったかのように、眼下に双眼鏡を向けた。
っーか、普通について来やがる。
【???】
だんちょー。
好い風。
だんちょー!
青い空。
だんちょーってば!
騒がしい部下。
「一尉殿!」
「なに」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――沈黙。
「だんちょー」
好い風。
「シカトですか!パワハラですか!」
「黙れ」
青くなって震える。チワワかしら。
「と、とにかく!指揮官をだせ、と」
「あ゛」
逃げ腰。ハムスターかしら。
「仕方ないじゃないですか!あの有り様じゃ!死んでますよ?いっぱい!」
「いつものこと」
慣れないけど、いつもいつも、まったく。
表情を引き締める。
「こっちこい」
「ハイ」
「あんたじゃない」
さて、時間だ。
「管制解除。伝達。こちらで会う」
髪を留めなおした。
「砲撃、ヘリ、待機」
あいつがどうでるか。
「すぐに片付けてあげてもいい。伝達」
マメシバが走り出した。
「アタシら、そんなに怖いんだ」
アタシはともかくさー。
憂鬱。
【太守領/港近く/チヌーク一号機後方/降着地点】
あたしは、取りあえずスカーフを子供の頭に被せた。
慌てて母親、盗賊ギルドの頭目、が子供の頭を覆うようにしばる。
「バレた」
一言で伝わった。盗賊の頭目は伊達じゃない。しゃがみこんで子供をあやす母親。
あたしの誤算、だった。
離れた農家、戸口には5人倒れていた。青龍の騎士が一人ついている。
なら生きてるだろう。
港を一望には出来る場所はある。
街を一望に出来る場所は無くもない。
両方を一望に出来る場所は、ここだけなのだ。
あたしが知らなかっただけ。
だから青龍は兵をここに降ろした。
だから頭目は子供をここに隠した。
港街へと攻め込む準備をする青龍。
港街から逃げ出すのに備える親子。
出会って、当たり前、か。
ならば。
あたしは背後の親子に目を配りながら丘を登り眺める。
港。
大河の河口。
青龍の使い魔が空を旋回。
停泊する帆船。
陸揚げされた小舟 。
整然とした倉街。
雑然とした街並み。
潮風にのる音。
怒号。
悲鳴。
喚声。
まだ、匂いはしない。
まだ、火はついていないようだ。
あたしは少し息をつき、青龍の貴族を窺う。
どうする?
【太守領/港近く/丘の上】
俺はノートパソコンに映る直上の高空観測気球からの俯瞰映像と見比べる。
想像外の代物がしっかりと映っている。
たしか、眠りを覚ました蒸気船、だったか。
数世紀の付き合いがあるオランダ他の国から、数世紀来変わらず得ていた事前情報。
一年以上前から、隻数にペリーの経歴や目的、装備まで確認して待ち構えていた幕府とは違う。
まあペリーは日本にばればれだって気が付いていなかったけれど。
ペリーが勝手に寄り道(琉球にいってた)したせいで、
『なんで来ない!!』
とイライラを日誌にぶつけていた浦賀奉行とは大違い。
ここは江戸の浦賀とは違う。まさに寝耳に水。
パニくるのも仕方ない。
とはいえ。
内陸部に向かう人、荷車、馬。河をさかのぼる船。
岸壁に集まる者は武装し、防衛・・・いや互いに睨み合いか?
倉庫や船を守って、る?追い払ってる、略奪か?
千年程離れた世界の単純接触。
護衛艦一隻。
ただ沖合に来ただけ。
ただそれだけ。
街が滅びかけるとは・・・明確な責任者がいないから、突発時に弱い、とは言えるだろう。
だが、そんなレベルの話ではない。
多分、もっと本質的な問題。
まだわからない。だが、わからないままでは、いずれ俺たちが、この星を滅ぼしてしまう。
俺たちはソレが解っているのか?
頭をふって見直した。
俺たちの責任は棚上げ。
よく見たら街中でも人波がぶつかっているな。つーか、死人が出てる?いずれ港が灰になる。
海自に任せれば、砲撃とヘリで街中を威嚇して住民を港から追い出すだろう。
街が丸焼けになるよりは、死体が少なくて済む。
いらんわ!!
「なんとか・・・」
口をつく愚痴。
俺のせいか?いや、違う。
聞いてねーし!
海自の責任まで負えるか!責任者出てこい!
ん?
責任?
責任者?
【太守領/港近く/丘の上/青龍の貴族の背後】
背後のあたしの、さらに後ろに向く視線。
子供を庇う母親。
「鎮めろ」
同時に港を影から仕切る盗賊ギルドの頭目。
太守領全域に手を伸ばす都市参事会すら、お願い、する相手。
青龍の貴族は無造作に命令。
「望め」
諾否すら待たない。
いきなり
『(青龍の命令を達成するために)必要なものはあるか?』
ときた。
頭目、いや、母親は子供を庇いながら応えた。
「港の船までお連れください」
なるほど。
ギルド本部は船の中、か。
青龍の貴族は指差した。風を巻き起こす飛龍。
空から、ということだ。
「空から呼びかけてもよろしいでしょうか」
太守府でおこなったように、青龍は魔法で街中に声を響かせる。
頭目の正体を知るギルド幹部なら声が判るだろう。空から怒鳴れば手回しが早まる。
そもそも、飛龍が飛ぶだけではなく、人の声で呼びかけるのだ。
何も知らない群衆にも効くかもしれない。
青龍の貴族は応えない、つまり肯定。
頭目にも伝わった。
彼女は沖合を見た。
「アレは・・・」
何か。頭目は詰まる。なんと表現すべきか。
説明を求める頭目も、ソレを指すべき言葉に迷う。
混乱の元凶。
港が滅びる原因。
島のように海上にある巨体。
沖合の、海龍?鋼の城にも見える、アレは青龍のものだろう。
他にあんなモノがあるものか。
なんだかわからない。皆が狂うのは無理もない。
しかし、青龍の貴族は、街の住民同士が争っているのを見て舌打ちせんばかり。
彼らにはアレが何でもないモノで、あたし達の畏れが理解出来ないのだろう。
「船だ」
青龍は答えたが不本意な様子。
「港に来た」
今、街を消しに来た訳じゃない。何を怖れるのか。
と言わんばかりに。
青龍の貴族は視線を戻した。
行け、ということだろう。
頭目は屈んだ。
「ママは皆を助けに行きます。だからアナタはこの方のそばにいなさい」
子供を抱きしめて、走り出した。
【太守領/港近く/丘の上】
俺、この方。
マジだよ・・・はぁ~。
まあ、あの修羅場に子供を連れて行くわけにはいかないか。働くお母さんは大変だ。
俺のせいだけど。
まあ、レコン1が続いたから大丈夫。かな?
しかし・・・見回す。
魔女っ子たちに・・・えーと、ま、いいか。
偽少女。
少女。
童女。
うん、エルフっ子に睨まれるのは、読まれてる?
で。
幼児。4~5歳かな?
託児所か。
俺が一番暇だから、か?一番偉いんだけどな・・・いや、仕事があるわけじゃないけど・・・ニートは最終目標だけど・・・あれ。
「HAーAMEN!人はパンだけじゃいけまセーン!」
神父が神父みたいなコトを?
「バーボンとビッチとダイス・・・」
正常だな。無視。
「情けは人の為ならず」
坊主頭が鋭い係長が厳かに手を合わせた。
なぜ、俺に向けて?
「無力なればこそ、情けにすがり、アナタを支える皆さんの徳を生みます」
うん、要らない子認定が過ぎて顔を下げられないよ。
係長の坊主スマイルが痛い。
良いんだ。指揮官はそれで良いんだ。
多分。
「AMEN!汝、REALロリータダメゼッタイ!」
曹長が目顔で問う。
「故にアンリアルロリータ!神は我らにImaginationを授けました!Realは育ってから!イクメンGO!」
仕方ない。連れてくか。チヌークに乗り込んだ。
「HEY!ドーター!オカアサンが立派なヨメに育てますからね!Come!Come!」
軍曹が扉を閉じた。
子供たちはシートに固定。神父は防水シートに簀巻き。
パイロットが確認、二号機は離陸した。
【太守領上空/チヌーク一号機キャビン前部】
わたしは、べると、を締めた。ご主人様が確認。
あの子はどうするのだろう?
母から離れ、ずっとご主人様のそば。上着の裾から手を離さない。仕方なく、ご主人様が抱えて龍に乗り込んだくらいに、離さない。
ご主人様の傍ら。
ねえ様が座り、あの子を抱え込んだ。
裾を握る手は離さない。
・・・・・・わたしじゃ抱き上げられないものね。でも手を引くくらいなら・・・・・。
龍はすぐに飛び上がった。
ご主人様。
わたしたち。
騎士長さま。
騎士さまたち。
僧侶さん。
道化さん。
えーと、ソノタさん?
「ヒドイ」
【太守領上空/チヌーク一号機キャビン前部】
あたしは雲を飛び越えた。
正確に言えば青龍の龍が、だが。
高さとは、こういうものか。遙か彼方が見渡せる。赤龍が瞬く間に大陸を征するわけだ。
だが赤龍の竜は雲に届かない、という。
高見に立てば優位に立つ。
それが龍と竜、赤龍と青龍、の差なのだろう。
『こちら護衛艦、着艦を許可する』
『確認。風上から半周して後部デッキに降りる。オワリ』
ゆったりと旋回する空から青龍の軍船を見た。
あの娘達は拘束具の限界まで身を捻り、窓から見える船と海に歓声を上げた。
立ったまま体を支え、あたしもそれを見た。
胸に抱く子も嬉しそうだ。
碧い海原に浮かぶ、いや、生えてきたように鎮座した龍、のようなもの。
どこから見ても鉄張りのようであり、鉄のヒゲのようなものが勝手に動く。
これは、龍、では、ない、のか?
船上を走り回る人影は余りに少ない。
ヒゲ以外もところどころ動くが、動かしている人影はない。
こんなものが、帆や櫂で動くわけがない。
ならば自ら泳いでいるほうが、しっくりくる。
やはり、青龍は使役した龍、翼龍や土龍、巨大な海龍を乗り物や城にしている。
のかな?
巨大に過ぎて幻術のようだ。
海龍の腹、甲板にあたる場所から、軽装の兵が合図している。
ゆったりと着地。地、ではないけれど。
騎士が扉を開けた。海風が流れ込んだ。騎士はそのまま降りた。
青龍の貴族は立ち上がる。
頭目の子が裾を離さないから、わたしも抱いたまま立つ。
「ベルトを外せるか」
慌てて妹分達が拘束具を外した。ぎこちないが、意外に外しやすいようだ。
翼龍の中から、海龍の腹に。あの娘達は青龍の貴族の手を借りて降りた。
船上から、響く青龍の言葉。
女声で青龍の貴族に呼びかけ。
とても気安い。
初めて聞く声。
女が男にかける声。
「結婚してたの?」




