your “logica”,my “logica”.
UNESCO編登場人物
【地球側】
軍曹:UNESCO強制執行部隊下士官。合衆国第三海兵軍より出向。迷子回収班班長。湾岸もアフガンも経験しているベテラン下士官。
伍長:UNESCO強制執行部隊下士官。合衆国第三海兵軍より出向。迷子回収班班員。軍曹とコンビを組んで長いベテラン下士官。
二等兵:UNESCO強制執行部隊兵卒。合衆国第三海兵軍より出向。迷子回収班班員。ブートキャンプ終了後半年たっていないために二等兵。異世界でのみ実戦経験あり。
Dr.ライアン:学者。若い女性で学識と常識が反比例。迷子。
【異世界側】
令嬢:帝国貴族令嬢。地球人来訪に巻き込まれて逃避行中。迷子。
メイドA:素性は今回明らかに
メイドB:素性は今回明らかに
執事:素性は今回明らかに
「反戦運動が盛り上がってますな」
――――――――――戦時下ですもの。
「反戦批判が消えましたが?」
――――――――――戦時下ですもの。
「反戦運動が目標を得て盛り上がるのは、当然ですが
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・主戦派は、これからが本番でしょう」
主戦派なら、ね
――――――――――まあ、現代日本に存在したことがないけれど。
「反戦運動とやりあってましたが?」
ええ、あれは反・反戦運動よ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そりゃ、なにをする人たちですか?」
反戦運動を罵倒する。
自国の正義を謳う。
敵国を糾弾する。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なら、主戦派でしょう」
――――――――――でも、開戦は主張しない。
「はぁ?」
反戦運動を罵倒する。
自国の正義を謳う。
敵国を糾弾する。
――――――――――以上、おわり。
「戦争しないなら
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんの役に立つんですか、そりゃ?」
国内を分裂させ、敵国を怒らせ、自国に妥協出来なくさせて、戦争はしない
――――――――――反戦運動が徒労なら、彼らはなーに?
「有害でしょう。敵国のアジテーターかもしれません。事態の解決に寄与しないどころか、悪化させるだけだ。まだ下手に出て交渉したほうがマシですな」
――――――――――彼等はね?
信じてるのよ。
悪を糾弾すれば、悪が無くなると。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・Xa-XaXa-XaXa-XaXa-XaXa-XaXa-XaXa-XaXa-XaXa-Xa!
そりゃ凄い。
戦争なんか要らない訳だ!!!!!!!!!!
敵国が我が身を恥じて、挑発を止め、謝罪して、人質を返還してくださると??????????」
だから言わない。
戦争しよう。
敵を滅ぼそう。
同朋を力で解放しよう。
みんなで軍に志願しよう。
絶対に言わない。
考えつきもしない。
恐ろしい敵国が、我が国を脅かしている。
許せない。
そして、敵国が攻めてくるのに備えよう
「いやいやいや
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・おかしいでしょう?
そこまで言ったら、先制奇襲でしょう、普通」
だ・か・ら、彼等も戦争反対なのよ。
「平和平和と唱えていれば、平和になる
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・悪を赦せぬと叫んでいれば、悪が滅びる?」
仲が悪いわけよね。
幻想的平和主義者、二人並べば罵り合う。
でも、大丈夫。
心以外は傷つかない。
大丈夫よ。
妄想世界の住人は、我らが家主とは無関係。
だからほら。
日本人が選んだ議員たちは、戦争が上手じゃない。
ねぇ?
貴女もそう思うでしょう?
※場所:大阪府大阪市中央区大阪城/大阪城公園大阪城音楽堂
※状況:反戦集会視察中
※人物:ロシア連邦大統領(女性)/駐大阪ロシア連邦総領事(男性)
追記:記録を取得した(検閲削除)は所轄署の巡査に連行され(検閲削除)
《警視庁公安部外事第一課第2係(検閲削除)和訳データ》
平和だった時代。
ほんの三カ月ほど前。
異世界も日本も平和だったころ。
異世界側の話。
帝国貴族の娘。
皇統に連なる大貴族の令嬢。
令嬢が旅をする道々で、取り立てた臣下たち。
今後沿岸部を統治する道に入るならば、沿岸部の有力領民と縁を作っておいた方がいい。
そう奨めた爺やの言葉。
側仕えには、ただただ忠誠を求めなされ。
コレという技など要りませぬ。
賢しき者など要りませぬ。
むしろ愚かで、能無しを。
平和が無くなって後。
ソレに従ったがゆえに生き残ることができた。
社会経験というほどのモノがない、貴族令嬢。
特別な考えがあったわけではない。
ただ沿岸部の中心都市を回る中で、地方から遊学に出てきていた人々と交友を深めた。
皆が皆、どこかしらの地方、その有力な領民の子女。
隔絶した立場にある下々。
令嬢は、そんな彼女たちと積極的に交友を広げた。
同じように修学中の帝国貴族の子女など価値が無い。
何処に配されるともわからないのだから。
すでに根を生やしている太守は、通り一遍の歓待はされても、それだけ。
家督を継いでいるわけでもない令嬢。
タダの小娘に時間をかけるような相手なら、それこそ此方が相手にする価値は無い。
日参してくる有力領民も、無価値。
日銭が欲しいだけの連中など、令嬢が腕を振るう10年20年後には一線を退いているだろう。
太守、もしくは太守をまとめる総督。
そのものか、その奥方か。
令嬢の将来像。
今すぐ役に立つ必要もない。
本人が役に立つ必要もない。
才気をひけらかして、早々に躓きそうな者も不要。
縁を広げる基点にするなら、なおのこと。
忠実な者が良い。
ならばむしろ、家柄と比べて本人の能力が劣っている者。
実際は劣っていないけれど、そう思っている者が一番ふさわしい。
痴情にかまけるほど、暇はない。
令嬢は異性愛者だった。
ならば、女が良いだろう。
令嬢は老練な爺やの言う通りに、いくつもの誼を結んで、結局は気分に従って娘を選びだした。
爺やも、初めてにしては、という言葉をのみこんで、上出来です、と讃えた。
それが令嬢の、初めての臣下。
片手の指の数ほどの臣下を取り立てた。
彼女が責任を持てるのは、その程度だからだ。
そして今。
異世界は平和でなくなった、今。
UNESCOが来訪した街。
爺やはもういない。
爺やの孫である執事。
彼が最後の家臣。
御付きの騎士や戦士も殺された。
侍女執事の大半は、囮となって吊るされた。
殺されるまで戦い、吊るされてなお敵意をひきつけ続けた。
令嬢の家の家臣たち。
護衛と世話役にすぎず、こんなことが起きるとは想像もしていなかっただろうに。
氏族に、家に仕える家臣。
そして令嬢に、彼女に仕える臣下。
天地の果ての高みから、声をかけられ歓喜した領民の少女。
そのまま臣下に取り立てられ、感極まっていた領民の少女。
流浪の姫を護る忠臣である身に、陶酔している領民の少女。
彼女の臣下、今は二人。
その一人の縁で、この館に庇護を求めることができた。
令嬢一行は、逃避行に移る前、一度この市を通り抜けただけ。
特に地縁も何もない。
たまたま別な、より大きな都市で出会った、領民の少女。
偶々交わした会話の中で、その少女の故郷の名が出た。
それが、誰も知らない彼女の故郷。
その名が出たことが、命を捧げ忠誠に値した、らしい。
忠誠を捧げられている令嬢にも、よくわからないけれど。
その真価の少女はこの市の有力商家の末娘で、当主である父親に可愛がられていた。
沿岸部でそれなりに手広く商っていた家。
帝国と付き合いが深く、帝国令嬢への印象も悪くなかった。
実際、沿岸部でも富裕層が抱く帝国への印象はこんなものだろう。
保身以外で言えば、反帝国を叫ぶ理由などない。
保身一つで、率先して松明に火をかざすのではあるが。
心配していた愛娘の帰還と、喜びに感情的となる当主。
その娘を経由して、しばらく密やかに、という条件で令嬢は休めることができた。
逃げてきたものも、受け入れた側も、お互い冷静ではなかった。
だから大胆になれた。
それが成功を生んだ。
さて、それから?
そこから、何も思いつかない。
検討は繰り返した。
令嬢たちに、行く当てはない。
此処まで生き残れたのが僥倖にすぎた。
街にまぎれて暮らす。
令嬢が一際人目を惹く美貌でなければ、できたかもしれない。
野を抜け森に隠れ、人目を避けて陽の目を避けて。
やつれて、疲れて、衰えて。
それでも、一目でわかる。
異質な美貌。
単に造形が良いだけならどうにかなったのだろうが。
それは内面、というよりも仕草が原因だろう。
帝国による世界征服戦争初期。
その仕草が原因で多くの密偵が、潜伏に失敗。
どれだけ訓練し、どれだけ精巧に征服予定地の習慣や風俗を真似てもうまくいかない。
もっとも、征服予定地の住民たちに「蛮地からきた田舎者が文明人の真似をしている」と見られた。
そのために侮りと共に受け入れられ、かえって活動しやすかったという。
初期の印象は強烈で、征服戦争終盤には帝国密偵への戯画化されたようなイメージが付いたくらいだ。
もっとも、その時点では新領土の住民を密偵に育てていた。
結局、最初期のイメージが広まってくれたおかげで、かえって潜伏しやすくなったという。
いわゆる異世界人の中でも、特殊な帝国人、いや、騎竜民族。
子供の頃は草原で馬を乗り回し、安定した体幹としなやかな肢体を身につける。
十代に入るころに帝都に迎えられ、豊かさに浸り権力を浴びる。
軍務に向かず、家政と国政に向けられた周囲の努力。
皇統に連なる大貴族の血族ならば、なおのこと。
結果。
何者にも見えない、姫が誕生した。
それ以外に、見えようはずがない。
キレがあり余裕を残した身のこなしは、優雅というのだろうか。
力強さは箱入り娘のそれではないし、力で応じえたとしても農婦や女工には見えない。
相手の視線を楽しみながら把握して、人も馬も犬にも同じように向かい合う瞳。
それは絶対に、領民の、いや身分社会のそれではない。
服も化粧も宝石も、美食はおろか金貨すら見分けられない。
気に入った、気に入らない、それしか評価を知らない。
詩歌や寓話、故事成語が韻をふむくらならいいだろう。
世評に載らない近年の、知る人ぞ知る秘事がポロリと口を突く。
令嬢本人が何をどう考えようが主張しようが、家臣も臣下も下を向く。
それで悟ることはできた。
市井に紛れて暮らせない。
令嬢の発想は、結局その場しのぎ。
だから、慎重に耳を傾ける。
侵略者、二人の会話に。
「いい?この娘は貴重なの。帝国の軍人貴族は幾らでも捕虜がいるけれど、彼等は大人の視点と経験しかもっていない。しかも、捕虜だからこちらに話す内容も制限されている。文官の貴族も居なくはないけれど、大人の視点と捕虜という自覚があることは同じ。彼等からは帝国貴族の日常が全くつかめないわ。帝国貴族騎士の子女もそれなりに確保されているけれど、まったく事情聴取ができないのよ。だれもかれもぎゃ」
「OK!わかった!!黙れ」
軍曹も、その辺りの事情は知っている。
国連軍兵士は、だいたい知っている。
敵である帝国軍はおろか、異世界住民そのものへ隔意を感じる理由。
帝国貴族や騎士はもちろん、帝国寄りとみなされた者たちへの私刑は沿岸部全域で多発していた。
特に太守の家族に至っては、保護された者たちもまともに話をすることができない状態だ。
まるで魔女狩り。
帝国の統治がどうだったのかは知らない。
だがどうであるにせよ、地球先進国の市民感覚にはついていけない。
個別の犯罪ではなくて、街や地域全体が狂騒するなぞ理解しがたい。
軍曹の感覚で言うなら、せいぜい暴動や略奪程度しか考えられない。
そしてそんな話は、子供の前ですることじゃない。
しかも、それがその身に迫っているとなれば。
と、軍曹は常識的に考えるのだが。
Dr.ライアンはそこまで気が回らないらしい。
だから無理やり黙らせる。
「よーくわかった、彼女らを保護すりゃいいんだろ」
令嬢は聞き耳を立てながら、安堵する。
背後のメイドにも、指先でつついて安心させる。
やはり、聴いていた通り。
自分たち帝国貴族は、青龍の戦利品。
彼女ら、と言ったように家臣も臣下も含めて鹵獲される。
戦利品として利用はされても、壊されたりはしないだろう。
勝った。
令嬢は独り思う。
実際、家臣や少ない臣下はみな領民、いや、元領民に殺されている。
帝国本土への帰還をあきらめた以上、青龍に投降するしかなかった、のだけれど。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そもそも、青龍と接触することができなかった。
この市に青龍が来たのは二カ月前に一度だけ。
以後全く近寄らない。
ただ帝国が去った。
それだけで、そこにいないのに、ここでも帝国は憎まれている。
令嬢が姿をさらせば匿われている家も焼かれるだろう。
それを利用して、更に庇護を引き出しているが。
何の経験もない令嬢にも、いつまでも続かないとわかる。
そして手の打ちようがない。
気楽に出歩ける身分でもなく、使いを出そうにも青龍は占領軍すら置かない。
そもそも、青龍の軍がどこにいるのかすらわからない。
匿わせている商家の当主にもどうにもならないという。
兵糧を買うでもなく、馬匹を集めるでもなく、労役を課すでもない。
まるで領地に関わらない。
たどって探る道が無い。
帝国貴族がいると判れば、捕えに来てはくれるだろう。
それを知らせる方法がなく、触れて回れば身が危ない。
臣下の忠誠を信じることはできても、その家族までは信じられない。
隠遁生活にも限度があり、手詰まりだった。
それは表に出せない分、令嬢は独りで苦しんでいた。
その辛さを察している臣下に、気がつかなかったから。
それがさらに臣下と遺された家臣の忠誠を高めていた。
UNESCO来訪。
だからこそ、令嬢はこの僥倖に感謝して手を打った。
青龍がなにやら書物を買い取りにくる。
街に何日間か逗留して、持ち込まれた書物をすべて査定する。
ならば、書物を持ち込めば青龍と接触できる。
令嬢自身が行ければ早いが、青龍の怒りを恐れた商工会は厳重な警備を敷く
見知らぬ娘が紛れ込むことはできないだろう。
だが、有力商家の当主でもある、匿い主なら容易いことだ。
極まった感がある反帝国感情と、徐々に盛り上がる世情不安。
とばっちりを恐れて、令嬢を内密に始末することも検討しつつある当主
それとは知らずに、その愛娘を盾に取る形で青龍との接触を依頼する令嬢。
交渉の果てに、当主が頷いた。
それは令嬢の一言があったからだろう。
私を青龍に売りなさい!
愛娘からの信頼感はゼロになったが。
それでも、ささやかな陰謀は動き出した。
とりあえず初日は様子見。
機会があれば打診。
感触が良ければ交渉。
死線を潜り抜けてきた令嬢とそのメイドから見れば、迂遠に過ぎる。
が、初日に動かないとは言っていないし、これ以上の無理押しは遠慮した。
「わかった。連絡する。伍長!」
軍曹は規定通り、通信を後衛の伍長に任せる。
もちろん、兵士一人一人は通信網で結ばれている。
だが、自由に使っていいわけではない。
特に、前衛であり指揮を執る軍曹は気を散らすわけにはいかない。
可能な限り、部隊との通信は予備か後衛の下士官か将校が行う。
「だがなDr.ライアン、どうしてここに隠れてるってわかったんだ?」
残敵掃討部隊が調査して以後、国連軍は偵察しかしていない。
無数の街々や村々を回る暇などないし、敵対行動をしない限り無視しているからだ。
異世界住民からの申し出があったにせよ、Dr.ライアンが単身で動くことじゃない。
そもそもUNESCOの任務じゃない。
国連軍のしかるべき部隊が拘束に出向くところだろう。
令嬢は今この時を迎え、ゴリ押ししなくてよかった、と思いつつ表情を取り繕っていた。
「密告されたから」




