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完全侵略マニュアル/あなたの為の侵略戦争  作者: C
第七章「神の発生」UNESCO Report.

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人間の条件:審議中



「人間とは何か」


質問はそれでいいのかね。

よろしい。

応えよう。



「そんなモノは存在しない」



これは事実だ。

何か、などと質問自体が成り立たない。

定義以前の問題だ。


「議論の余地がある」

「見解がまとまっていない」


ということではない。

過去から現在に至るまで、一度として存在したことがない。


科学を否定しても始まらない。

否定するのは自由だがね。





諸君らは、思うだろう。


「それなら、自分という人間は何か?」



では、考えてみよう。


異世界人は人間か?

――――――――――人間でいいだろう。

エルフは人間か?

――――――――――人間に近い、人間でいいだろう。

ドワーフもホビットも、いいだろう。


では。


獣人はどうか。

人獣はどうか。


獣のような人なのか?

人のような獣なのか?

人魚は人のような魚なのかその逆か?


ゴーレムはどうか。

言われた通りにしか動かないから道具なのか。


ならば言われた通りにしか動かない者はみな道具か?

土で樹で鉄で石で出来ているのが問題ならば、肉で造ればいいのだろうか?


竜は獣か?

人の言葉をしゃべる龍がいるという。

巨大な卵生爬虫類も話をすれば獣ではない?





単純な話だ。


君も私も、あれもこれも、人間などではない。

論理的に、合理的に、人間というものは存在しない。


人間とは科学ではない。



「人間とは何か」

そうある理由も、利害も、根拠もなく、偶然と惰性で生じたノイズ。





とはいえ、それが論じられる理由はわかる。

我々は我々以外の何かに出会った。


他人に出会ったので自分を規定する。

幼児が自我に目覚める過程と同じ。


今初めて

「人間とは何か」

と考える必要が出てきたわけだ。



答えは知らないが。

答えを出すのは簡単だ。



キミらが決めたまえ。

議員諸君。


「アレとコレは人間ではないから殺していい」

「彼と彼女は人間なので守らないといけない」



そう、言いたまえ。

議員諸君。


「人間とは何か」

これは科学ではない。

政治の機能だ。




議員諸君。

選ばれたのは、何の為かな。


公約なんぞという、音の羅列の為じゃない。

政策なんぞという、文字のパズルの為じゃない。


そんな事の為に選ばれたんじゃない?

そんな事の為に選んじゃいない。




理非善悪を越えたところが、その議席なのだ。


理屈で割りきれるなら、政治家なんぞ必要ない。

事務屋がいれば十分だが、それでは世界が回らない。


科学が扱える範囲はごく狭い。

だから政治は絶え間ない。



怖ければ神籤で決めればいい。



その責任を負うといい。

みんなの為に、みんなに責められ、浮かぶ瀬もなく吊るされる。


代われるものなら、奪いたいほど。

羨ましくてたまらない。


《東京都千代田区永田町一丁目/国会議事堂/衆議院第一別館/衆議院国家基本政策委員会(秘密会)/参考人質疑》












統括研究員がグリーンゾーンから出た段階。


つまりレッドゾーンに入る。

と、同時にアラートが鳴る。


と同時にUNESCO護衛部隊指揮所に、下士官から報告。

予備戦力扱いながら、遊撃的に巡回していた兵士だ。



《該当統括研究員グリーンゾーン離脱防止失敗目視不可》


報告を送ってきた下士官率いる三名が既に、迷子の統括研究員を追跡中。

戦闘部隊指揮官は様子見を判断。

他に選択肢はない。



護衛兵士は各々分担して研究員たちに付き、素人を見張っていたのだが。

性質上、統括研究員には付いていなかった。


グリーンゾーンを飛び回ることが必要な、遊撃ポジション。

兵士を連れたら動きが鈍る。


ついて歩くのは装備をつけた兵士にも負担だ。

そもそもグリーンゾーンなら、護衛部隊指揮官が時々呼びかければいい。

通信に答えなければ、近場の兵士に殴らせる。


故にこそ、グリーンゾーンを出てしまえば手を打てない。

直接兵士を向かわせて、尻を蹴り上げさせるしかない。




偵察ユニットが迷子の安全は確認している。

迷子回収のめども立っている。


遊撃ポジションの研究員。

一人が現場を離れてれも、作戦に支障はない。


SIRENを鳴らし、強制収集活動に移行する理由はない。

収集作戦はそのまま続行。


そして、迷子回収もそのまま続行。

迷子の回収に増援は考えられない。


UNESCO要員と異世界住民が混交する中で、護衛部隊を散開させるのは危険だからだ。

それに追認とはなったが、迷子追跡中の兵士は適任だった。




迷子一人に割かれている人員、現状三名は妥当。

三名ともベテラン兵士たち。


異世界戦闘に経験を積んだ、ある意味積み過ぎて、休暇配置の一環としてUNESCOに出向したくらいだ。

三人とも今日この日同じ班で活動していただけではなく、UNESCO配置以前から同じ部隊出身で連携も取れている。



しかも全員、白人種で異世界住民に溶け込みやすい。



この地方を、いや、国連軍支配地域の異世界住民たちを覆う恐怖。

広場周辺以外、商工会の威令が届かない地域で怯えた住民が集まり始めている。

悪目立ちして、街に不要な刺激を与えなくてすむ。


さらに迷子の統括研究員と国籍が一致。

殴り倒したときの、政治的リスクも少ない。




任せた戦闘部隊指揮官

任された遊撃班改め臨時迷子回収班。




哨戒気球に偵察ユニット。

索敵システムの一部が追跡する迷子。

それは名に違ってスイスイ進む。


兵士たちを引き離して、サクサクと。


これはよくある典型例。

無警戒に進む素人と、警戒しつつ進む実戦経験者との間におこる差。



もちろん本部から迷子へ通信、制止停止静止命令は繰り返されている。


だが、迷子はそれを無視。

あるいは気がつかない。


人間を監視して護る、ドッグ・タグは簡単には外せない。

外しやすければ役目を果たせない。


全身ミンチになっても、外れたりしない。

もちろん外そうとすれば、外れる。

意図して外せば銃殺。



だがこの場合ヘルメットは外しているようだ。

一見して安全そうな場所で、素人がやりそうなこと。


非戦闘員たちの通信機能はヘルメットに着いている。


首筋に付ける骨伝導イヤフォンマイク。

兵士には一般的だが、民間人は慣れていない。

慣れない機材を戦場では使わせない。


やはり、直接殴らせるしかない。

指揮官は溜息をついた。




その様子は迷子回収班も、手間をかけて確かめないが、察してはいる。

本部から別命がないから、そういうこと。


迷子の迎えに出た三名は敵地行動中に、余分な情報を見たりはしない。

目立たぬように路地を抜けながら、自分たちの支援についている偵察ユニットの索敵範囲を絞る。

出会い頭に異世界住民と衝突したら、笑えないからだ。




そしてようやく、迷子の場所に追いついた。


そこは邸宅街。

市場が毎日開かれる、街の広場。

その喧騒が届かない程度に離れている。


商工会の建物や固定店舗に囲まれた、一角。

10分前から、其処にいる。



迷子の統括研究員。

そのバイタルを遠隔チェック。

血圧と心拍数が上がり、アドレナリン数値も異常。

つまり、いつも通り。


危険な状態ではない、本人にとって。

危険な状態ではない、異世界人にとって。

危険な状態だ、異世界住民たちにとって。




今の位置は街中の屋敷、兵士三人の目の前、その三階。


鉄柵に囲まれ、煉瓦づくりの洋館が見える。

洋館、というのは日本が長い地球人の感覚ではあるが。


門衛らしき人影。

瞳の色は青。


裏門を守る門衛は、三人に気がついた。

接近してきた、見慣れない緑の鎧をまとう騎士たち。

迷子回収班の正体に。


おそらくこの洋館は富商の邸宅。

ならば門を守るのはその家人。



大半の住民は地球人来訪中は閉じこもる。

だから国連軍軍装は判らない。


だが富裕層は、青龍と呼びながらその姿に通じていた。


ならば問題の迷子。

この屋敷に入るにあたり、押し入ったのでもさらわれたのでもないだろう。

迷子は堂々と、門を開けさせたに違いない。


顔パスならぬ、青龍パスで。



門衛は無言で頷き、門を開き、三人を招き入れ、素早く閉じて閂を落とす。

事情がわかっているのか、奥から出てきたメイドが先導をかわる。


メイドの瞳は緑。



迷子回収班は、邸宅の主人に迷子の存在を確認せずに済んだ。


要らぬ時間をとらず、気の利いた使用人たちだけと接すれば済むかもしれない。

あるいは内々に納められるかもしれない。


街の有力者と面倒が生じたら、街を焼くことになる。

それは避けたい。



メイドは両手を頭で組んで、背中を向けて走る。


その様子に頭痛のタネが増える、迷子回収班の班長。

転んだ時が心配だし、そんな服従のポーズを誰から学んだのやら。



国連軍の行動は、千里を走るらしい。



だが別の頭痛のタネが減った、それも確か。

異世界人のサボタージュは即射殺。


その判断は個々の国連軍兵士に委ねられている。

判断を誤って、イエローカードをためるのは御免だ。





個々の兵士はドッグ・タグで常に記録されている。

あるいは今、視られている、かもしれない。


違うとは言い切れない。

数少ない戦死の原因は、名誉の戦死が最多。

人類への反逆者、その別名。



その遺族への人道的配慮だ。


まあ命令違反は多くない。

大半は、解釈ミス。



少数の例外。

自分を正義の味方と勘違いしたバカの犯行。

さらにわずかに、異世界住民との不適切な距離。


いずれも累積数は少なくない。

だが、開戦から四カ月がたとうとしている今、新規で処刑は発生していない。

と言われている。


おそらく、それほど嘘ではない。

初期段階で命をふるいにかけたので。

それはこの場の参院もおなじこと。




撃ちたくなくとも撃つ。


規律が感情を上回る例外。

それが軍人だ。


だからこそ感情が流れを造る一般社会に馴染まない。

感情の中に、倫理や人道が混じっているのだから。





実際に、迷子回収班の曹長は銃口を向けている。

ショットガンの弾種は12ゲージのバックショット。


一粒でサイズ8mm以上の散弾。

一撃で18個ばら撒かれる。


目の前を走るメイド。

十代か二十代かわからぬ女性。

軍曹の故郷にいくらでもいそうな彼女。


銃口を向けられて、その意味に気が付いていない。

まあ気づいているそぶりがあれば、射殺しているが。


銃の力を知っているのは、帝国軍の密偵だけだ。

国連軍は、多くの場合、敵を殺すか捕らえる。

一人残らず。


特別な場合以外、目撃者も残さない。

その最中、銃の具体的な動作を仲間に伝えているのは、帝国軍だけだろう。


だから、異世界の人間は銃の威力をよく知らない。


竜殺し。

異名はついているが、それだけだ。

だから容易い。



彼女を撃つ担当は軍曹だ。


迷子回収班の背中をまもる伍長。

全周警戒の二等兵。


部下には任せられない。




もちろん、軍曹は知っている。

自分の兵器の威力を。



細身のメイド。

一撃で背中がミンチになる。


軍曹の判断一つ。

いや、時には判断の余地もなく。


SIRENが鳴れば、そうなる。



安全化措置、SIREN。


指揮所、指揮車両、もしくはもっと上位の指揮系統が発する命令。

発令と同時にヘッドアップディスプレイに照準目標が表示される。


訓練された腕は銃身を向け、指は引き金を絞る。

何も考えずに、必ず反応する。


標的は射界にある異世界人すべて。

明確な協力者以外、地球人以外を殲滅する。


異世界人と近接する部隊、軍政部隊やUNESCO戦闘部隊特有のコマンド。

もちろん、そこまでいかなくとも敵対行動が疑われれば、撃つ。

撃てる。


幸い、メイドに敵対行動は見られなかった。

躊躇や遅滞、迂回などはなし。


まっすぐに素早く迷子のもとへ。




無人の廊下を走りぬけ、哨戒気球の測位情報が示す部屋へ。

部屋の前にいた青い目の執事が扉を開ける。


伍長が扉口につく。

軍曹と二等兵が銃口から部屋に。

そして。


赤い目の人間はいない。




「Dr.ライアン。国際連合決議に基づき処刑する」


軍曹は銃口をおろし拳銃、M1911(コルト・ガバメント)を抜いた。


「人道に対する罪か平和に対する罪か知らんが」

「知らないことは調べたら?」



ライアン統括研究員は目の前の少女から聴診器を離し、銃口を見つめる。

銃身をのぞき込める位置に在り、45口径の拳銃弾を喰らえば頭が砕ける。

余り、自分自身に向けられた銃口には感心がなさそうだ。


軍曹から見れば装飾過剰で、(宮殿かよ?)という感想しか浮かばない部屋の中。

一部屋と言っても、軍曹が日本列島で借りている部屋が二つ三つは軽く入る広さ。

しかも、壁紙や窓枠に装飾があるだけで、家具らしきものはない。




そして胸をはだけた少女が座る、やはり軍曹から見てごちゃごちゃした椅子。

Dr.ライアンが座る同じような、しかしかなり違う、デザインセンスだけ同じ椅子。



それだけだ。

空間の無駄遣い。

何のための部屋だかわからない。



Dr.ライアンに訊けば教えてくれるだろう。



文化背景的に部屋に役割を固定したりはしない。

必要に応じて椅子もテーブルも持ち込んで、目的に応じて部屋をしつらえるのだ、と。


だが、軍曹は訊く気はなかった。

Dr.ライアンの目の前、娘盛りと見える少女を見る。



内心、ひどく胸が痛んだが、軍の習慣。

標的から眼を離さない。


少女とDr.ライアン、少女の背後に立つメイドは軍曹の分担。


「お嬢さん、服を着てくれ肌を隠せ、てください」


呼びかけた少女は、十代半ばだろうか。

やはり異世界にはよくあるブロンドに琥珀色の瞳。

透けるような、と表現すべき白い肌にふくよかな胸。


傷やあざなどが無く、怯えも悲しみもなさそうだ。

軍曹としては、後半には安心できない。



しかも、呼びかけに反応しない。

言葉が伝わらないはずはない、のだが。


きょとん、として軍曹の、男の視線を見ていた。

が、特に動こうとはしない。


意味は理解しているが、意図が解らない。

そんな顔だ。


背後に立っていたメイドが一礼して、少女の服を整える。

軍曹は内心のみで胸をなでおろす。


味方以外の前で隙は見せない。

ざっと見まわして、距離を測る。




邸宅、いや屋敷の一室。


兵士が三人。

メイドが二人。

すぐ外には執事が一人。


少女が独り。

そして、戦争犯罪者(容疑)が一人。



「で」

「あら?銃殺前に時間をくれるのね」



凄く殺したくなった、軍曹。

傍らの二等兵からも、このクソ迷子を殺ってしまいましょう、というオーラが飛んでいる。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・だが。


異世界人の少女に虐待された痕跡が無かった。

幸いに。

だから生かしておくことにした。

今は。



だがしかし相手の無知につけこんで、気がつかれないようにしでかしている可能性はある。

もちろん本来であれば、どんな工夫をこらそうと隠しきることはできない。


そもそもが地球人は誰も彼もドックタグで監視/記録している。

軍法会議となればその前に、あらいざらい自白剤で確認される。



だから敢えて今、処刑も取り調べも必要ない。

すくなくとも、軍曹がやる必要はない。

だが。



(殺っちまうか)



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