カルチャーギャップ/Culture gap
彼は空を見上げていた。
持たず。
纏わず。
挑まずに。
ただ見てる。
畏れず。
祈らず。
妬まずに。
あたしはソレをただ見ていた。
天穿つ矛。
天超える羽。
天見渡す眼。
なにもかも置いた姿を。
あたしはそのうち笑い出した。
見上げてなどいない。
肩を並べているのだから。
ないないつくしの空っぽの。まるでそれこそ空のよう。
【太守領上空/チヌーク一号機キャビン前部】
みなさーん、いま空の旅をしています。下には
『HAHAHAHA!!!!!人がゴミのYOーDA』
・・・もういいや。
妙な奇声を上げたのは俺じゃない。
イヤフォンだからうるせーの何の。骨伝導式でもきつさは変わらん。
俺は魂の強制送還で機内を見回した。
俺、神父 、魔女っ娘たち、メイド、ゲスト(盗賊ギルドの頭目)。
ゲストの婦人はまさに妙齢。
コルセットの効果かどうかは男には判らないが、鋭いくびれの上下が大変ふくよか。
引き寄せられるような曲線が非常に大変わかりやすくアピールされているのは高級そうな薄布故。
レースから素肌が覗いているがなにより深い胸元とスカートのスリット。
大変良い艶やかな肌ですありがとうございました。
「「「・・・」」」
はい、俺フリーズ。
幼女、童女、合法(国際連合審議中)少女の視線が集中砲火。
「NONONO!NOTouch!」
ほれぼれするような安定感。トリガーガードにかけた指はワンアクションで問題を解決する。
なお、神父に銃を向けたのはごまかし狙いではない。
舐めるように見詰めつくしてるのが羨ましいからだ!!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・どうしようかな。
これ。
【太守領上空/チヌーク一号機キャビン青龍の貴族右】
わたしは目が離せなかった。
ご主人様は取り出したジュウを膝に置いた。
椅子の下から金具を取り出して瞬く間に分解。
驚いた。ジュウ、小さな竜殺し、がこんな細工になるなんで。
一つ一つを眺め、磨き、また組み直す。
光沢と質感が特別な金属。細密に手を加えられ、全く異なる細工が綺麗に組み合う。
お父さまの工房を思い出すけれど、はるかに離れた感覚がある。
見知った魔力とは違う、別な・・・意志、のようなもの、それが込められているような。
ふと、ご主人様がわたしたちをご覧になった。
そう、わたしとねえ様、ちいねえ様は銃と細工、ご主人様の手際に目が離せなかったのだ。
道化さん、騎士様は何も感じていないみたい。
青龍にとってはなんでもないことなのだろう。
【太守領上空/チヌーク一号機キャビン前部】
俺は銃を組み上げてホルスターに収めた。
45口径は頼りがいがある・・・ように見える。人間に使った事無いからね。
暴発(誤射)や威嚇は別。
ただ銃の下ろしどころに困ってバラしただけだが、チビっ子魔女っ子は楽しそうだ。
子供は玩具をバラすのが好きだもんな。
俺もよくやった。人形から始まって、ラジコン、パソコン、コーヒーメーカー・・・。
ん?
君たちも興味あるのかな。
【太守領上空/チヌーク一号機キャビン後部】
あたしは見るとも無しに視界に入れた。
妹分たちにゲスト。
特に、ゲストとホスト。
青龍の貴族。
盗賊ギルドの頭領。
頭領が屈した。
「・・・これは、ゴーレム、ですか?龍ですか?」
龍籠の中を見回す。
黙って観察するのが正解。
だが青龍の視線、これ見よがしな銃の動きに逆らえなかった。
銃の恐怖はそれを見たものにしかわからない。
聞いている、程度かと思っていた・・・どこかで見ていたのだろう。やはり油断出来ない。
「ではない。が、似たようなものだ」
青龍は明かさない。だが印象は与える。
知る者、知らざる者。
青龍とあたしたち。
強者と弱者。
上と下。
あぶないあぶない。
【太守領上空/チヌーク一号機キャビン青龍の貴族左】
わたくしも改めて見回しました。
ゴーレムに非ず。ゴーレムに似る。
お父さまにねだったすえに、一度だけしか触ったことはないけれど、印象ははっきり残っています。
あれは、土でできたお人形。
それに、あの娘の本で何度も見せてもらいました。
おじさま、あの娘のお父様は、ゴーレムとは無縁の魔法使いでしたけれど。なぜかたくさん本を持ってらした。
振動。
悪臭。
激しい呼吸。
それは明らかな生き物の特徴だと思います。
固い。
細工跡。
人を納める箱。
これはあからさまにモノの特質でしょう。
わたくしたちの世界では、二つを合わせれば『ゴーレム』としかもうせません。
人型。獣型。泥人形から精緻な彫刻。手の平から城壁を越えるものまで。
それがわたくしたちの知るモノ。
青龍のソレ。
空を飛ぶ。話す。龍を型取った。となれば既存のソレとは桁違い。
やっぱり、ゴーレムではなく、龍かしら?
「・・・すごい」
「まったくだ」
【太守領上空/チヌーク一号機キャビン青龍の貴族右】
わたしはご主人様を見上げた。
他人事のような声。
他人事のような表情。
「・・・なぜでしょう」
ご主人様はわたしにいつもおっしゃる。無言で。
「龍の御技を、青龍たるご主人様は、他人事ようにおっしゃいます」
問え。
「他人事だ」
答え。
「なにもしていない」
?
「すべて先人の力だ」
・・・!
【太守領上空/チヌーク一号機キャビン前部】
俺は気恥ずかしかった、いや、恥ずかしい。現在進行形で。
痛い。
無垢な視線が全身を抉る。
21世紀の人類文化の粋から中世ヨーロッパ級文明へ。
畏怖。
賛美。
恐怖。
感嘆。
銃やヘリだけじゃない。
一人一人が読み書きでき、考えるに足る知識を与えられている(ソレを使えようと使えまいと)。
鏡よりも正確に。
繕う事すら許されず。
子供らの視線に突きつけられる。
『すごいですね』
死にたくなった。今日はいい日だ首をくくろう・・・・・・・・いやいやいや。
すごい。
か。
俺は何かしたのか?
俺が誇るべき何かがあるか?
俺はすごいんでしょーか!
いや、いい。
なし。ゼロ。皆無。
なにもかも、俺という人間自身すら先人の積み重ねに過ぎない。
先人を誇る?
なぜ?
そいつと俺と何の関係がある?
血?遺伝形質?継承文化?
ケッ。
例えば・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・爺さんの爺さん、あるいはその友達か知人が通行人。
あるいは仮に、俺の親父が偉大な文明を産んだとしよう。
つまり。
俺と。
関係無い。
100%
親の成果を誇るくらいなら、自殺するね・・・その勇気がないから必死にドヤ顔を抑える。
感情を抑えることができない、が、表さなきゃ同じだ。
と言い張って。
湧き上がる優越感。
うわー痛い。痛すぎる。
つらー!辛すぎる!
無垢な瞳に映った俺、が、俺を嘲笑う。
俺が所属する文明は星を外から見られるんだぜ?
で、俺は何したの?
俺が持つ銃は指先一つでどんな屈強な騎士もいちころさ!
だから、俺は何が出来るの?
思想、知識、技術、製品。
それは血統、人種や国籍に依存しない。
○○人は凄い(笑)。
日本人、黒人、宇宙人、なんでも良いが。
凄いのは○○さんな。
たまたま、世界を適当に分類した『人種』カテゴリーに一致した。
それ『だけ』の、俺、は無関係。
あるいは、仮に、偉大な集団があるのかもしれない。
○○人、××文明、△△国、○×社。なんでもいい。
なんなら我が自衛隊、国連軍、日本だってかまいやしない。
よし、集団が偉大だとしよう。
素晴らしい、でも最高、でもエクセレント・・・・・・・・・・・・形容詞はなんでもいい。
そこに所属している俺は?
偉大で素晴らしく最高・・・な訳がない。
人間は社会的動物です。
社会は組織です。
俺は個人です。
個人は社会的には何ですか?
どんな結果をだした集団であれ、集団で結果を出したからこそ、個々人に価値はない。
頑張り、それなりに成果を出した、ひとりひとりは・・・代わりが効く部品に過ぎない。
周りを伺う。
竜と魔法の住人たち。
彼らは俺たちが知る事を知らない。
まだ発見していないから。俺たちの文明より若いから。
そんな相手を軽んじる自分がいる。
子供に力をひけらかし見下す自分がいる。
1000年のアドバンテージをもらって、この様ってどうなんだ。
俺は。
先人は誇りゃいい。
我が同朋にいらっしゃる天才、秀才、努力家のみなさんもご一緒に。
俺には関係ない。
偶々、偶然、必然の欠片もなく、拾った力を持った俺。
配られたカードがフルハウスなら受け取ったヤツが偉いのか?
俺みたいなバカはカードをひけらかして周りを軽蔑する。
バカならバカなりに、無価値なひとりならソレなりに自重・・・出来れば一人前なんだが。
言い聞かせ続けないと調子にのる。
そんな俺は虫けらか?
その通り!虫けらに謝ろう。
俺の中に居やがる。
他人の力を振り回したがるクズが。
拾った小銭を空っぽの自分に詰め込んで、小銭こそ俺でございとまくしたてる出来損ない。
だがな。
俺にも見栄がある。
絶対に晒せない恥がある。特に子供には。
だから表情筋に力を込める。
自分をさらしてなるものか。
【太守領上空/チヌーク一号機キャビン後部】
あたしは覗き込む。よくよく見る。
青龍の貴族は顔色一つ変えない。いつもの無表情に見えるが、不機嫌、ね。
表情に残るということは、相当に不愉快だったのだろう。
・・・いまも、か。
あの娘に対して、な、訳がない。
自分に向けられた感嘆・・・が不快?
他者が賞賛を受けるのはかまわない(関係ない?)。
己に無関係な賞賛を、自分が受けるのは容認しがたい・・・というところか。
理解不可能、ではない。
世界を無造作に薙払った力。
数十万の命を吊す権力。
一薙でかき消す命。
青龍の恐怖。
誰もが読み書きする。
誰もが知っている。
誰もが考える。
病を治し、空を飛び、竜を生み出して星に至る。
青龍の英知。
青龍の貴族と言えども、独りの存在には関係ない。
そうね。ごもっとも。
青龍の世界を彼一人が生み出した訳がない。
権力は青龍のモノだ。
チンピラを砕いた技を生み出したの彼ではなかろう。
技術は創始者のものだ。
で、あれば。
彼は、彼らは、青龍の貴族だけではなく、あたしを含めて今を生きるすべての人々は。
無価値。
まったくもって理屈だ。
愉しからざる事実よね。
嗤いがこみ上げてくる。嗤うべき顔が思い浮かぶ。
あたしの故郷。
赤龍の貴族たち。
神殿の巫女。
孤高の剣士。
われわれエルフの光輝な歴史。
我が偉大なる世界帝国の武力。
われらが振るう神の奇跡。
我が流派の秘剣。
なるほど。
一緒にされては腹が立つ。いや、腹が立ったから、棄てたんだった。
何度目の問いかけだろう。
彼。
名画の額縁。
宝剣の台座。
金貨を収めた革袋。
名画を、宝剣を、金貨を尊ぶがいい。
器と中身を混同するな。
そんな声が聞こえる・・・・ああ、そうか、彼は、自分を見てほしいのか。
卑下もなく、謙遜もなく、韜晦もなく・・・潔癖な子供の理屈・・・同時に、老成を感じさせる。
はて、彼?
【太守領上空/チヌーク一号機キャビン青龍の貴族右】
わたしは、押し潰されそう、だった。
参事会を手玉に取る。
凶暴な人たちを軽々と倒す。
殺されかけても眉一つ動かさない。
青龍の屈強な騎士や魔法使いを心服させる。
そんな方が、自身にすら価値を認めていない。
ならば、わたしは。
ねえ様のような強さはない。
ちいねえ様のような機転も効かない。
価値以前のわたしは。
貴方に頼りっきりのわたしは。
わたしを助けて頂けたのはなぜですか。
聞くのは恐ろしい。
ただの気まぐれ?明日の天気のようなものだろうか。
わたしに価値が有れば。
役に立つなら。
それが失われるまでは、信じられる・・・それがあれば。
軽く軽く薄い私。
強大なご主人様には負担ですら無いだろう。
ご主人様の背を滑り落ちても、気が付かれないだろう。
いてもいなくても同じ。
なのに。
なのに。
「わたしは、なぜ護っていただけるのでしょうか」
【太守領上空/チヌーク一号機キャビン前部】
俺はあまりのことに、止まる。
「当たり前だ」
・・・・・・・・・反射的に記憶をさらい、知識をサルベージ。
あー無理だこりゃ。
中世じゃ違ったか・・・当たり前で済ませたら試合終了・・・大人と子供の区別が曖昧で、子供とは、小さい人間や弱い人間程度の認識。
「必要不必要、有用無用など考えるな」
そもそも、仕事の範疇ではない。
はて、どうわからせる?
・・・考える・・・・・・もっと考える・・・・・・・・・さらに考える・・・・・・・・・もっとさらに考える・・・。
「おまえが傷つくことは許さん」
断念。ナノコンマの刹那である。
【太守領上空/チヌーク一号機キャビン後部】
青龍、いや、青龍の貴族。
慈悲深いか?
否。
感傷的?
否。
不合理?
否。
『おまえ』つまり、あの娘を知っている?
・・・・。
それは、あたしの縄張りだ。
あの娘は安心させておこう。
でないと壊れてしまうから。
あの時・・・あの娘が侮辱された時、彼は殺意で弾けた。
なら。
期待できる。
いけるかな?
いこう。
あの娘がそれを知れば・・・愉しいことになりそうね♪
【第三次軍政官教育訓練キャンプ『ハートマン』/大陸西岸/国際連合軍複合拠点『出島4』】
さあ、人権終了の知らせだ。
諸君は兵士と違う。
見るな触るな口きくな、では済まないぞ!
これからいうことをよーく覚えるんだ。
毎回言ってるのは一番大切だから。
諸君らは間違える。
必ず間違える。
間違える。
そして、頭の中をかっぽじって、この講習を思い出す。
そのときは手遅れだ。
取り返せない。
後悔に打ち震えたまえ。
愚痴をこぼしたまえ。
銃と部下を手放すな!
さて、これは我々の歴史だが、参考になるだろう。
子供の人権についてはもう話したね?
「子供」という概念がない、ってやつだ。
小さい人間。
弱い人間。
動物の一種。
それだ!!
そもそも人間、「人権」という概念がない。
自分の持ち物を守ることはあっても他人を守るなんて発想はない。
まさかまた「遅れた社会は」とか言い出す奴はいないな?
だが思っただろう。
お前たちの祖先の話だぞ?
そして、これは我々、そして我が文明社会が愛してやまない合理的な判断の結果だ。
生産技術が進歩する前。
個々人の肉体のみが資産であった時代。
他者を規定するのは個々の能力のみだ。
社会は相互補完関係なのだから、相手を知るのは当然だろ?
個々の相手だけを知る。
必要なのはそれだけだからな。
さて、技術が進歩した。
生産力が増えた。
余裕ができれば投資ができる。
日銭ではなく長期計画で収益を狙える。
貯金する?おいおい。銀行がないのに貯金して腐らせるか?
貨幣が未発達だから文字通り。
財貨の存在も所有する概念もいい加減だ。
くりかえすぞ。
価値があるのは?
人間だ。
ここで「子供」に価値が出る。
投資と回収。
麗しき親子関係の発生だ。
さて、技術はもっと進歩した。
技術に重きが置かれれば個々人の意味はなくなる。
ただ器械を機械的に動かして、作業を延々と繰り返す、人間機械であればいい。
そうでさえあれば価値がある。
マニファクチュア!農業革命!やがていたる産業革命のプロローグ!
背が低い。
背が高い。
足が速い
足が遅い。
デブ、やせ、美醜、勇敢に憶病、エトセトラエトセトラ!
何一つ意味がない。
人間機械であればいい!!
はい!
人間は平等でした!
拍手!
人権の誕生だ。
一分かからなかったろ。
人権宣言で概念が生まれたんじゃないぞ?
ルソーは一般化しつつあった概念を文章化しただけだ。
Gentlemen!
人と人の関係と所有と被所有の区別がつくか?
君たちの知っている人権はあったか?
今の話を本国の友人知人にできるか?
права человека!
Human rights!
人権!
無理無理無理。
ご先祖様のことすら理解不能!
そこで親愛なる非地球人に話を戻すぞ。線で区切れ線で区切れ。
我々は、彼らと意思の疎通ができる。
とされている。
魔法で。
たぶんな。
諸君らはそれに頼らざるを得ない。
命令だ。
人類はそれを望んでいる。
だから、思い出せ。
彼らが「助けて」と言っている。
それは、お前が、「『たすけて』と聞いている」のだということを。
【太守領上空/チヌーク一号機キャビン前部】
俺は正体不明の予感がした。
失敗したとわかるなら、それはもう失敗じゃないと思うんだ。
なに笑って・・・ないな、珍しい神父の劇画顔。
あ、ヘリ内の会話用イヤフォン、PtoPにしてなかっ・・・たけどなってるな?
神父、監察官権限かよ!
てめーは聞いてたな!!
予感これかよ!
ワザとらしいため息意味不明だから!!
ケツ!
笑いたきゃ笑え!見栄に全力に注ぐ俺を笑うがいい!!
「NONONONO!!フリーズ!Don’t shoot!!」




