わるいちきゅうじんじゃないよ?
『UNESCO調査団』
:国際連合三大暴力装置の一つ
「最強の国連軍」
「最恐のWHO」
「最狂のUNESCO」
がともに認定されている。
この三組織は国際連合内で限られた常設の戦闘部隊を保有しており、国連軍は部隊総体(国際連合統治軍を含む)を、WHOは防疫班を、UNESCOは調査団を指す。
この批評は実際に異世界を蹂躙している国連軍側から見て、であり異世界側から見ればまた別の評価があるかもしれない。
UNESCO調査団は国際連合軍と違って「広範囲根絶」を旨とはしていない。「あらゆる危険性を絶つ」軍事作戦とは違い、「あらゆる可能性を温存する」立場をとるため。
よって、調査の障害物を「敵」ではなく「疎外要素」と考えてる。その場で適宜排除し、時には見せしめを行い、事前事後に脅迫する。
異世界知的生物は記録装置の一種であり、紙や石板、あるいは遺跡などに次ぐ価値を認めている。
なお国連軍であればすべてを「敵かそれ以外か」で判断し「敵、敵と疑われる者、作戦を目撃した者、それらすべてになる可能性が在る者」を無警告に攻撃する。
「本を焼く者は、やがて人間も焼くようになる。すべてそこからはじまるのだ」
(Dort wo man Bücher verbrennt, verbrennt man auch am Ende Menschen)
※戯曲アルマンゾル("Almansor")のワンシーン
――――――――――クリスティアン・ヨハン・ハインリヒ・ハイネ
Christian Johann Heinrich Heine――――――――――
やめーや。
スキップしーな。
人にしよ人に。
はなから、な?
本、焼くなや。
※異世界都市にて聴衆に放たれた宣告。
(帝国図書館に乱入しようとした暴徒、および、それらしき者たちを生き埋めにさせながら)
――――――――――UNESCO書籍類似物収集部隊隊長――――――――――
【国際連合統治軍/第13集積地/駐屯地居住区/共同浴場】
俺は眺める。
メンゲレ(仮名)大尉。
合衆国海兵隊制服に白衣。
ネーミング通りの胡乱な目つき。
きっちりとネクタイまで締めて、白い肌が汗ばんでいる。
春の夜、湯気がたゆたう、湯屋の靄。
胸元がたゆたって
・・・・・・・・・・・・・・・いやいやいや、いかんいかん!!!!
思い出にとどめるんだ俺!
最近、自制心がヤバい?
メンゲレ大尉は珍しく、地球人の金髪である。
異世界だと一番多い髪の色。
濃淡や艶、髪質なんかの差があるけれど。
いや、ブロンド、と一言で言ってもこれほどバリエーションがあるとは思わなかったよ。
みんな金髪碧眼白い肌なのに、一人一人全然違うんだぜ?
異世界にくるまで気がつかなかった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・当たり前ですかそうですね。
しかし!!!!!!!!!!!!!
久しぶりの紛う事なき美女。
異世界でも美女はよく見ますけどね。
栄養状態が良く、容姿を整える手間暇に不自由がない富裕層。
じっくり楽しむわけにはいかないんですよ。
どちらかというと、緊張する。
視線や仕草が、相手にどんな印象を与えるか見当がつかない。
これは怖い。
だから、性別問わずにポーカーフェイスが軍政官の基本。
笑顔は人間関係の基本です、なんて言えませんよ。
癖になってるから、常にそうなる。
地球人の前なら気を抜いてもいいけれど、それを異世界人に見られたら?
態度の落差がまた余計なシグナルになる、かもしれない。
だから美女を前にしても表情を崩せない。
だがしかし睨まれているから、眺めても良いよね。
いやらしい意味はないですよ?
意味があっても表面に表さない自信が、観てるだけならありますが、それでもないと言い切れる。
将校の必須スキルは断定なので。
いや、でも、ホント。
子連れですからね。
こんな時にいろいろ考えて怒られるのは相当辛いです。
女の子はそーいう男に厳しいです。
子供にそーいう面で怒られるのは、大人としてすっごく凹みます。
気を使われてスルーしてもらったときは死にたくなりました。
お兄さんも男の人なんですから、とか笑ってない眼の高校生に言われた時です。
マジで。
大人になればきっとわかる。
でも解られるのはそれはそれでいやだなぁ、とか。
ともあれメンゲレ大尉を、見て楽しんでいるばかりではらちが明かない。
さて。
まさか口説いたりはしない。
好感度ゼロスタートなら、あとは上がるだけだから好都合
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・違う!!!!!!!!!!
いかんいかん、禁欲生活が長いせいか、ヤバイ方向に進んでいる。
視線をさりげなく逸らす。
肢体を避け、顔を避け、綺麗なブロンドへ。
一番、女を感じにくい、比較的
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・フェチにもよります。
だが、ある意味で好奇心が先に立つ。
その髪が珍しいのは、染めてないから。
ここは第13集積地。
集積されている異世界住民、50万以上。
労務中の帝国軍捕虜、5千オーバー。
つまり、異世界住民各種と距離が近い。
近いからこそ混同されると、危ない。
なにに?
異世界人に。
異世界人から見て、同胞とみなされると命も体も危ない。
命が軽い、ってよりプライスレスな世界だからね。
他人の命は、ってところは多世界共通。
だから、まあ、国連軍は黒髪推奨。
カラーコンタクトまでは求めないが、地球から来た侵略者と色でアピール一目瞭然。
そうすると危害を加えられる可能性が下がる。
互いに殺し合ってある最中なら髪の色と危険度には関連がない?
そりゃそうだが、それは戦闘中。
戦闘中以外は髪の色一つで生死が分かれる
――――――――――場合がある。
いやいや、戦争なんか、非戦闘中の方が多い。
駐屯地や拠点の中で、地球人しかいない場所なら安全だ。
地球人兵士の大半はそういう場所で過ごす。
国連軍所属者や捕虜を含め、異世界人と接触しない。
だが、例外は常にある。
確率が低くても、存在する以上は無視出来ない。
しかもそれがランダムに発生するなら、常に備えなくてはならない。
すなわち敵中に孤立した場合。
乗機の故障、長距離偵察、戦闘中の行き違い。
戦争中には避けられないこと。
その場合、安全の秘訣は?
念のため、禁止事項はザバイバル。
異世界だから、ってレベルの話じゃない。
中世世界、それがヨーロッパ風でもオリエンタルでもなんでも。
先進国現代人は生存不可能です。
一般人なら、奇跡が起きたら三日目に死ぬ。
頑健で鍛えられあげた兵士で、手持ち物質が尽きるまで。
兵士一万人に一人、くらいの、その為だけの専門家なら味方に合流するまで、保つかな?
たぶん。
生水飲めると思わない。
現地人に殺されないと祈らない。
人里離れて歩ける場所がある訳ない。
ハイ、死んだ!
だからこそ、ザバイバルの基本原則。
――――――――――救助を待て――――――――――
何もするな、何も考えるな、歌でも歌ってろ。
足掻けば死ぬからね。
飢え死ぬほうがマシ。
動かないというのは、一番可能性が高いチャンスに賭けること。
水が無くても三日はもつ。
自分の排せつ物をのんでもいい。
それだけで一週間は稼げる。
三歩目に死ぬよりいいだろう?
別に中世漂流中に限ったことではないが、これは軍隊でも事故にあった民間人でも同じだ。
そして異世界に限った秘訣もある。
それは?
余所者で侵略者で異世界人から見て地球人、ってわかること。
相手が帝国軍なら、生け捕りにしてもらえる。
黒髪黒瞳は賞金付き。
アライブ限定、デッドは賞金どころか縛り首。
死んだ捕虜は役に立たない、あまり。
怪我した捕虜は、すぐに役に立たない。
それが原因で千、万の軍が失われるかもしれない。
役に立つのは生きて元気な捕虜です。
――――――――――――――――――――――――――――――――帝国軍は、わかってらっしゃる。
帝国軍以外の住民も、黒髪黒瞳は敬して遠ざけ全力後退。
正体不明な謎人類、関わらないのが賢明だとわかってらっしゃる。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――常識常識、多世界共通。
異世界人は賢明だね。
遭難漂流救助待ち以外、日常的にやられると凹みますが。
占領とういう名の日常
――――――――――――――――――――――――――――――――――――ねーよ、な。
だから、国連軍はハーグ陸戦規約より厳格に標識を掲げなければならない。
鬼!
悪魔!!
地球人!!!
触ると死ぬぞ見ると目が潰れるぞ近づくと溶けるぞ?
嫌って恐れて関わるな!!!!!!!!!!!!
日本人は簡単だ。
黒髪黒瞳、肌が色づく有色人種。
どんなに西洋化したと自称しても、体格やスタイルがあからさまに異世界人とは違う。
日本オリジナル規格のカップサイズでごまかしても胸は大きくなりません。
いやいや、悪くないとは思いますよ?
任務のせいで、いえ関係で異世界住民と接触する機会が増えたせいだろう。
白い肌や青い瞳も、気持ち悪、いやいや、それほど忌避感が無くなった。
もちろん、シスターズ&Colorfulみたいな幻想世界の住人達とは、質というか世界が違うけれど。
きっと、今は無き地球世界でもいたんだろうな。
異世界を感じさせるほどの美少女ってのは、どの種族、いや民族にも。
俺の見聞の範囲で見つかるわけもない。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・まあ、Colorfulみたいな色鮮やかな子たちはいるわけないか。
五色の髪と瞳の色。
体毛が薄いから、肌は普通に白く見える。
まあ、普通じゃなく滑らかだけど。
ともあれ、国連軍の最大多数は日本人だからいいとして。
決して少なくない各国軍、とりわけ、少なくないなんてレベルじゃない在日米軍兵士諸氏。
実際貴重な実戦経験値集団。
半世紀以上、戦った、有り体に言えば殺したことがない、俺たち自衛隊。
国連軍の背骨ともいうべき、彼等。
だから最前線と後方中枢は彼らだ。
俺たちの代表に言わせれば、金を出してるんだから血を流せ、らしいが。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・言うんじゃありませんそーいうことは。
言わなかったからといって、現実が変わるわけはないが。
変らないからこそ、気の持たせよう、って大事だよな。
リップサービスならタダだし。
でまあ、なんだかんだと有色人種は少ないのだよ。
在日米軍には。
いくら英語が通じなくなってても、選挙人登録をしたことが無くっても、星条旗より連隊旗を崇めていても。
白人国家たる、合衆国。
主要人口、特に軍隊はコーカソイド中心です。
俺、人種偏見は、あんまりないけどね?
傭兵だからこそ、俺たちの盾だからこそ、 不必要な危険を犯して欲しくはない。
前線は危険だ。
いくら今回のような戦争でも、後方よりは危険です。
その危険の中に、人種により左右されるモノがある。
これがいわゆるコーカソイド、特に金髪系の髪色だとヤバい。
帝国軍に同胞たる異世界人、国連軍に雇われた傭兵と扱われる。
まあ、世界帝国にナショナリズムなんか無いからね。
国連制服を着たまま捕虜になっても、特別に虐待されたりしない。
裏切り者だの、売国奴だの、国家以前の中世世界には感覚自体が無い。
で、ワールドワイドでブイブイ言わせてる最強民族、つまり帝国は、迷信や妄想と縁がない。
だから別に、敵意を向けられた悪意を向けられたり軽蔑されたり待遇が悪くなったりはしない。
つまり、普通にヒドい目にあう。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・現代日本基準で、だけどね。
命の保証も食事の保証もない。
別に虐待しているのではなく、当たり前に扱われてるだけ。
それが虐待。
中世の普通は現代の虐待。
中世世界における捕虜は、飲食も自弁。
警察の取調室で出されるという、かつ丼と同じ。
捕まった時点で身ぐるみはがれるけどね。
身代金の保証ができる、と相手に思わせない限り。
身代金を払える捕虜は普通の扱いから解放されます。
大切にしてもらえます。
それが無ければ?
労役に付けば生命は維持できます。
現代日本基準から見て、食事と言える内容ではないが。
利用価値が無けりゃ、そんなモノ。
異世界に籍が無い、一見異世界人と見分けがつかないだけの地球白人種。
異世界で異世界人に異世界人と思われたまま、身代金を払えると思わせることができたらいいね。
詐欺師として大成できる。
出来るわけがない。
他に何か、自分の価値を売り込めるかと言えば、なんにもない。
帝国が地球人捕虜に求めるモノ。
ひとつ。
日本列島の一般常識。
ふたつ。
地球人の異世界知識。
みっつ。
国連軍の動向。
これらは、髪や眼の色に関わらず、国連軍兵士ならみんな知っている。
それらは、髪や眼の色が無ければ、帝国軍に信じてもらえない。
知らないから知りたい。
つまり帝国軍には、真偽を区別する方法が無い。
情報源の外見で判断するしかないのだ。
そもそも。
国連軍に雇われたり仕えたり禄を食んだりするするのは、基本的に魔法使い。
でなきゃエルフやドワーフや獣人や人獣など。
人間種なんぞ、ほぼいない。
だがしかし、それを知らない帝国軍。
中世世界の常識では、戦争には必ず傭兵がいる。
帝国軍以外の場合、それが主要戦力である場合も少なくない。
だから、異世界出身の国連軍兵士と間違われる。
俺たちから教えてあげるわけにもいかないし。
教えたら教えたで信じやしないだろうし。
そんな致命的な誤解を前提に、生存の可能性を探るとすれば。
身代金が払えなくても、傭兵としてリクルートされれば待遇が上がる。
生きていける程度には。
技能があればね。
異世界の平均以上の、力があれば。
紅い瞳じゃないから、魔法を見せろとは言われない。
剣、弓、馬術、戦場で役立つ技能。
水準以上なら雇われる。
転向者はすぐに士官にはなれない。
だが一兵士でも、十分だ。
その十分には無限の距離があるのだけれど。
平凡な地球人、しかも金髪碧眼白い肌は、そうはいかない。
普通の地球人は、鍛え上げられた兵士でも異世界人より弱いです。
鍛える意味が違うからね
特殊部隊でも無けりゃ、現代の兵隊ってのは技術者に近い。
結局、地球人と信じてもらえず、異世界人に判りやすく売り込める技能もない。
装備の大半は、部隊から離れれば意味がない。
銃器は捕まってる時点で弾切れが大半。
仮に残弾があっても、拾った扱い。
誰も地球人とは信じない。
金髪碧眼ってだけで、中世の下層階級の日常。
これ実話。
よほど黒の印象が強かったからか。
まあ科学技術って、属人性じゃないからね。
地球人であることには、ハッタリ以上の価値は無い、ってこと。
元カノ率いる、黒旗団。
捕虜奪還(出来なきゃ抹殺)部隊。
彼らの突入まで、生き残っていた例はない、今のところ。
だからこそ金髪碧眼のままである、仮名メンゲレ大尉には逆に聞きたい。
後方集積基地内ではない、ある意味で最前線より異世界人と距離が近いこの場所で、
「わかってるんですか?なにをしているか?」
先に聞かれたよ。




