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完全侵略マニュアル/あなたの為の侵略戦争  作者: C
第六章「南伐」

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全自動秩序回復装置/Disk 5





ローマ帝国は廃墟を造って、平和と名付ける。






《ローマ帝国最盛期/将軍として功績をたたえられた貴族の三男坊の愚痴》




※ローマ帝国最盛期は「知る人ぞ知る(一般的ではない)」名言の宝庫である。「汝、平和を欲さば、戦への備えをせよ」などがマニアには有名だろうか。こうした名言は当時のニートによって遺されているが、本人たちが考え付いたと考える根拠はない。こうした観測者には共通点が多い。戦いを語るわりに、勝てる戦場に不自由がなかった時代で戦争に行った痕跡がない。社会的警句を残すわりに、拡大期でよほど無能でなければ活躍の場に不自由しない時代に働いた形跡がない。生活に不自由したことがないのは判明しているが、それに満足している様子もない。

ないないない尽くしである。


まあ、世の中には稀によくある。


金持ちの友人に愛人を含む家族全ての生活を見てもらいながら、人類の未来を憂いていた偉人とか。エンゲルスはそのおかげで歴史的著作の共同執筆者になれたから、いいのだろう。

ジゴロ(無店舗型自営ホスト)として有閑マダムから小遣いをせびりつつ、職場のサロンで聞きかじった与太話を文書化した偉人とか。社会契約論と共に奉公先で盗みを働いたあげく、同僚の少女に罪を押し付けるなど逸話を残したり遺さなかったり。


そんな大虐殺を招いた大物とは違って、ローマ時代のコレたちは実に害がない。


迷惑していたのは親ぐらいだろう。


しかし誰にもスルー、もとい注目も干渉もされなかったために保存状態が良い資料が、ひょっこり現れ現代人の一部の心に響いてしまうのである。地中海性気候は資料の保存に最適ですね。


ないない(中略)ない、ある、くらいの人生だろうか?





【Disk 5/再生開始】


本日の死者。

11名。

それはもちろん、人間ではないけれど。




彼等は思い出した。


自分達は何者であるのか。


脅す者ではない。

追う者ではない。

殺す者ではない。


脅される前に怯える。

運が良ければ追われる。

殺される日まで生きられる。


最初から、そうだった。

何か勘違いをしていた。

だけれど、もう大丈夫。


いつもと同じ日常に戻るだけ。





彼女が見ている物を解釈するには、単純な物理法則を知ればいい。


慣性の法則。

質量保存の法則。

エネルギー保存の法則。




全力疾走したランナーが瞬間的に静止したら?


人体を前進させるエネルギーとても大きい。

停止すればエネルギーは人体に向かう。


とはいえ、それは人型を崩すほどではない。

骨を砕き内臓を潰す程度。


それだけだ。


これなら、死ぬくらいですむ。

即死はしないかもしれない。



見えない魔法の壁に叩き衝けられたかのごとく、つんのめった暴徒たち。


M-240の弾倉、最初の1000発、ホローポイント弾、

―――――――――――――――その半分未満。


ふたつの銃口から溢れた各々400発あまりが、先頭集団を停止させた。



500m先、左右に設置された銃口、その十字放火の交点。

そのためにこそ吟味された、衝撃に変形しやすい素材で造る、先端を窪ませた弾頭。


着弾の瞬間から平たく広がり始め、的の内部にて接触面積を最大化。

全ての運動エネルギーを、もっとも柔らかい部分で解放する。


それはすべて、人体の中で起きたのだが。


速度と質量が生み出す暴力。

超音速と7.62mm弾。


腹の高さにバラ撒かれたソレが、最前列を後ろに弾く。


最前列が止められてなお、勢いのまま続く暴徒たち。

前後に衝突し、瞬く間に折り重なった。


多重衝突の交通事故。

それを100倍にしたような状況。




死者重傷者の文字通り、山。

高さは女騎士の腰高にまで届く。


オフェンス・ゾーンの幅100m範囲からあふれ出た暴徒もいた。

人の、人体の壁になるのを避けようとして跳びだしたり、短時間の押し合いへし合いであふれ出たり。


彼等は数瞬の間もなく手足を吹き飛ばされる。



キル・ゾーン。

地雷原に落ち、対人地雷に触れたのだ。

手が砕かれ、腕がちぎれ、脚がえぐられる。


もちろん、致命傷。

当然、即死しない。


製作者が意図した通り、仕掛けは完全に作動した。


繰り返すが、多くは即死していない。

誰も彼もが致命傷だが。

主に銃撃によって。

だから?


人体団子の下敷き、積み上げられて押しつぶされ、圧死するまでに時間がかかる。


呻き、崩れ、落ち、もがく。

それは、非味方動体。


自動機銃は、本体カメラの範囲が急造の遮蔽物で塞がれた、と判定。

索敵を切り替えた。




常設の哨戒気球は、最初からこの多重衝突地点をポイントしている。


地上に規定以上の動きを感知していたからだ。

それが升目に区切られた哨戒範囲から、この居住区をピックアップ。

全体を俯瞰しながら、その地上で動く影の動きを追う。

その先端をポイント。


それはつまり、暴徒の先頭であり、オフェンスゾーン居住区側境界線。


全体を観測する哨戒気球は通信中継点でもあるが、指揮中枢でもある。

パージを含む秩序を司る、第13集積地全体の管理システム。


いくつかの哨戒気球、そのコアがネットワークを組む。

それが築いた仮想コンピューターが、異世界大陸大規模拠点の出島や本土からバックアップを受け、自動起動部分を担っている。


それは人間の手になるシステムであり、地上設置の指揮所でモニター中。もちろん、管制エリアを徘徊している管理責任者は常に状況を確認して介入できる。


してもしなくてもよいのだけれど。



空中を中心とした仮想管理指揮所は、決まりきったプロセスを進める。


哨戒気球、偵察ユニットによる局所観測ネット構築。

自動機銃の照準システムからのアクセス受け入れ。


異常発生時の哨戒手順に従い、観測体制を強化するプロットが発動。

追加偵察ユニットを呼び寄せる。



人の手になる定期整備を繰り返されていた偵察ユニット。

その格納コンテナから、予備機が順次、自動射出。


発射拠点近傍の定期飛行中の機体にスライド。

最短時間、一分以内に俯瞰照準網が完成。

自動機銃の照準システムが拡張される。



同時に12.7mm砲弾がしかるべき場所に注がれ始めた。


オフェンス・ゾーンの守護盾M-240(7.62×51mm)。

その背後にある皆喰らう矛M-2重機関銃/機関砲(12.7×99mm)。

アタッカーたるそれが、感知した遮蔽物に反応したのだ。


狙いは人体で出来た遮蔽物。

自動機銃本体に付属しているカメラの視界と、全火器の射線を確保するため。


自動機銃は形を識別しても、素材は考慮しない。

小さな砲弾の奔流が遮蔽物それ自体を吹き飛ばす。


M-2重機関銃の中でも、自動機銃に搭載されているのは毎分1200発の高発射速度タイプ。


普通の車載タイプは750–850発くらい。

普通の使い方では撃ちっぱなしにはしないからブレがある。


高発射速度タイプは全く完全に連射仕様。

本来は航空機搭載用で、地上兵器として見れば兵士の、人間の力では制御できない。


反動制御も含めて、自動機械の据え付けタイプだから使える。


一秒間に20発。

12.7mm砲弾。


10秒とかからずに、高さを減じた遮蔽物。

その影で蠢く、動体を破壊しながら。


女騎士の膝丈程から、水平に居住地が見渡せる。

そこから上は数秒で消し飛んだ。



射線を確保した自動機銃は反応を続けた。

機関砲弾に下肢を撃ち抜かれた人体が、死体と自覚する前に突き上げた腕。

指先から肩口まで小銃弾が丁寧に砕く。


M-240は1km圏内。

M-2は5km圏内。


無知には見えない死の扇。

2つ二組の射程圏。


現代的な軍隊が、十分と考える殺傷力を持つ範囲。


ここは異世界。

実際には最大射程と必殺距離はイコールだ。


なぜなら、誰一人、避けない、逃げない、伏せない。

なぜなら、誰一人、知らない、見えない、わからない。


銃を知らないからだ。


大半の人影は、呆然としたまま撃ち抜かれた。


7.62mmを喰らった者は叫び声をあげて、のたうち回って殺された。

12.7mmを喰らった者は声も上げられずに、のたうち回ることもできずに殺された。



努力する者もいる。

道を見出す者もいる。

生きるために考える。


逃げようと思いついた、一群の人々。



徹甲弾は人体を貫通。

弾が抜けた側は、弾頭に体組織をもっていかれる。

小さな爆発をおこしたように空く、大穴。


腹を撃ち抜かれれば、背中が弾ける。


まるでそちらから攻撃されたように見える。

逃げ出した人々は、むしろ競って銃口銃弾に跳び込んだ。


それは少なくもないが、多数派でもない。

生きようとあがく人は、いつでも少数派だ。


ただ大半の人々は、立っていた。


視界に入らない遥か彼方。

地響きか遠雷のごとき何か。


次々と地に崩れ落ちる死体。


ホローポイント弾とは違う。

鋼すら撃ち抜く徹甲弾。


土嚢を撃ち抜き、その背後を破壊する。

その為の、弾。


人体は撃ち抜かれ、貫通したが故に衝撃が乏しい。

だから大半は、ほんの数歩以内に崩れ落ちる。


一人二人と撃ち抜く間に、変形した弾頭が誰かの体内で四散する。

十人に一人くらいは、派手に弾かれる。


俯瞰照準は標的、その群体をマッピング。

射線が群体を通過するように設定。


貫通力を生かしてまとめて十人以上に致命傷を与える。

死体はともかく、喚く負傷者を見て逃げ惑う群体。

それを追う射線。


俯瞰で標的を捉え、カメラが照準調整。

ほどなく群体がいなくなる。


まとまるほどの人数が居なくなったのだ。


同時に弾雨密度が減る。

用意されていた射撃パターンが変わった。

二器ずつの銃口が、一つに減った。


弾種が炸裂弾に切り替わる。

切り替わりは十秒とかからない。


だが、射撃を絶やさないために一器ずつ。

設計者の細やかな心配り。


すぐに弾雨密度は戻り、弾片を含む致命傷圏の傘が開く。

この段階では銃口から離れた、外周部の標的が大半だ。


他の居住区への流れ弾を最小化するために、俯角をかけられていた銃口。

周辺居住区の住民が、皆、逃げて距離をとっていたので最少の流れ弾でも犠牲は生じなかった。

とても幸いなこと。


だから、下肢を撃ち抜かれる者が多発した。

人道的な配慮故に。


俯瞰からの観測照準は何者も見逃さない。

這いずる影があれば、炸裂弾が投じられる。


地にめり込んだ炸薬が、人影を中空に持ち上げ、放り上げられたペットボトルを撃つように集弾する。

照準カメラは調整を繰り返し、個々となった標的に命中させるように努める。

人道的な配慮故に。


居住地中央の宿舎や資材に隠れる標的に斉射。

弾片に木片石片が加わり血煙が上がった。


全て皆同じ。

死体、進行形の死体、そして死体になるモノ。

つまりは死体でしかない。




女騎士は見上げ、そして見下ろす。


太陽の角度、影の向き。

軍事作戦の関係から、帝国軍軍人は時間の感覚が鋭い。


機械時計は据え置きのみ。

司令部や指揮所にしかない。


だから帝国軍の小部隊では作戦上のタイミングを合わせる為に工夫する。

脈が300回を越えたら、などと事前に示し合わせたりもするのだ。

もちろん互いの脈を、その場で計ってから。



だが、偶に例外がいる。

彼女は日差しや影で正確に時間がわかる。

他人と共有できないので、作戦上の意味はないが。


だから、好奇心を満たす役には立った。

見渡す限りの、新鮮な血の滴る、肉と骨に脂肪の散乱。


女騎士が死地を抜けて、十分たっていない。



彼女は同じような例を思い出す。

いや、類例というほど似てはいないが。


聖都陥落後、帝国軍が籠城していた市民の生き残りを片付けるのに、3日間。

しかも攻略戦に全く参加せずに、休養をとっていた専任部隊。

一万を適宜交代に使って、だ。


もちろん、一人一人の兵士が一生懸命、その手で武器で殺した。

もちろん、竜や魔法やゴーレムも、使える範囲で動員されたのだが。


彼女は感じざるを得ない。

眼の前の光景に比べれば、どうしても見劣りする、と。




そして女騎士が呆れている横。

管理責任者は一息ついた。


標的が減った為に、射撃間隔が開いてくれたのだ。


銃身の過熱と磨耗。

狂い続ける弾道は、これで安定するだろう。


本来であれば、銃身を交換したいところだが、まあいい。

多少のずれは、照準システムが補正してくれている。



原因は、想定されていない連射。


自動機銃設計時に計画された敵。

隠れて伏せて、撃ち返し、殺られっぱなしにはしない。

つまりは現代の歩兵。


実際に相手にしたのは、中世(相当)の農民。


機械的に撃ち続けた自動機銃。

全く撃たれっぱなしだけに、まさしく連射。

射的の的よりなお悪い。


これは今後の課題。

やはり効率には、交代と休息が必要だ。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


女騎士は、いつの間にか静けさを感じていた。



いや、正確には呻きや叫び、泣き声が聴こえる。

もちろん、それを無視するのは癖だ。


帝国兵ならば、どんな形であれ、はっきり救助を叫ぶ。

音源が明確で意味のない音は、無視してかまわない。

というより、任務の邪魔なので絶対に無視する。


それが帝国クオリティ。


彼女は、鎮圧が終わった、と解釈した。



この居住区にいた一万の徴集領民。

そのうち、何千が暴徒化したのか。


それは俯瞰できない彼女には、判らない。

取り調べで判明するだろう、と彼女は思う。



女騎士は立ち上がり、見渡した。

打ち砕かれた遮蔽物。

起伏のない土地。


立ち竦み、虚ろに立ち尽くす生き残り。


領民たちの、ざっと半分が立っている。

立っていない奴は、すぐに死ぬ。


彼女にとって、考える必要はない。


暴徒は大半、いや、すべて始末された。

少なくとも彼女を追っていた、明確に武器をもって襲い掛かってきた連中は死んでいる。


間の前で肉塊になっているから、確かだ。


最初の段階で振り切って、銃撃が始まる前に追撃をあきらめた連中は、まだ生きているかもしれない。

その中には、彼女の部下を殺したやつもいるかもしれない。



が、どうでもいいこと。

死体はこれ以上死なない。

だから、考える必要はない。


彼女の目の前。

彼女、女騎士が事後処理だと思うことが始まっていた。



上空を飛ぶ、青龍の使い魔。

下に叩きつきるように命じている。


自分を失っている領民たち。

かろうじて、従える者が、ふらふらと歩き出した。

半刻と経たずに、並べられる11体分。



巡察隊前列と、彼女の従士。


検分するまでもない。

形だけで、死んでいると判る。



だが、女騎士と青龍の簡易責任者は些細に調べた。


彼女は彼等の戦果を報告するために。

彼はドッグ・タグを回収するために。



女騎士は数えた。

傷の数が多ければ多いほど、武功となる。


それだけ敵を惹きつけたからだ。

それだけ後列の撤退に寄与したのだ。


それだけなら、彼女か数えなくてもいい。

程なく着くであろう、本隊に任せてもいい。

帝国軍は、無駄なことはしない。


だから、彼女にしかできないことをする。


一人々の技量。

戦闘開始時点の配置。

思い出せる戦闘経過。

最後に確認した立ち位置。


それを勘案してこそ、功績が判る。

それが出来るのは彼女だけだ。


彼女が指揮を誤って、部下を死なせたのだから。

その点、記憶が薄れる前に済ませたかった。

だから、帝国軍の騎士として感謝した。


思えば、まだ一日が始まってさえいない、昼前の出来事。



だが、終わった。

そう、女騎士は思った。

そう、彼女が思っただけだった。







「Count Restart!」





全体の清掃には、他の98の居住区から100名ずつが抽出された。

一万を超える死体の三割ほどは、外傷がない。




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