実力至上主義の陥穽/Disk 1
「何ができるか」
そんなのどーでもいいわよ。
「何に見えるか」
それよそれ。
実力、って、そもなーに?
「運も実力の内」
なーんていうでしょう。
定義できない。
数値化できない。
確認できない。
存在しない、妄想と言って悪ければ、信仰。
天才、秀才、努力の人。
代わりが居ない人なんて、居る?
そ・そ・そ。
唯一無二の人間なんていない。
人の能力なんて、偶然一つでひっくり返る程度のモノ。
結果がすべて?
なら、サイコロをふってるのと変わらないわね。
なぜ貧富の差が生まれるのかしら?
なぜ有無の差が生まれるのかしら?
なぜ生死の差が生まれるのかしら?
ギャンブルだからよ。
レート知らず、天井知らず、ルール知らずの人生ゲーム。
そこに強さは生まれない。
生まれるのは、工夫。
八百長の、ね。
だから社会が生まれたの。
必然性の無い結果を、均して補正する為に。
ツキだけで成果を分けたら組織が成り立たない。
最大多数の最大幸福、ってわけ。
ああ。
軍と同じね。
均質化。
平均化。
同質化。
それが、システム化。
ローマ然り、ヴェネツィアしかり。
元首を百人殺しても、国の力は変わらない。
個人の才を重んじて、強くなった組織なんて、歴史上ひとつもない。
序列は多く、格差は少なく。
それは、強者たるために。
そして?
めでたく地球人類は、集団として最強になりました♪
だ・か・ら。
だれでもいいの。
そこに置くことができれば、ね。
「で、試料No1にしつらえたわけですか?」
「異種交配試験には自然な環境が必要なのよ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・確かに、アレは例外かも」
「Non sine exceptione iuris
――――――――――――――――――――置き換えられそうに、ないですね」
【約二カ月前、3月14日の記録】
管理責任者である一尉の朝は早い。
シャワーを浴びると水気を拭い、着替える。
優れた従兵により設えられた、整った制服。
シワ一つ無い、陸上自衛隊、緑の礼服。
ネクタイにも襟にも、一部の隙もない。
軍人の基本、規律正しい服装。
言い換えれば、杓子定規な衣装。
本土の駐屯地と同じく、国連軍兵士の待機場所には、鏡がそこら中にある。
それは本土の駐屯地と同じく、国連軍の方針でもある。
もちろん、形は外観に止まらない。
規律正しい物腰こそ、もっとも重要だ。
将校たるもの、その存在そのモノで部下を叱咤しなければならない。
ナルシストくらいでちょうど良い。
定刻通りに食堂へ。
そして糧食班が用意した朝食をとる。
第13集積地での食事は、既に現地調達の食材ばかり。
穀類は帝国軍集積地から鹵獲したもの。
生鮮野菜や肉魚は近隣現地住民から購入したもの。
兵站に関与させる現地住民に関しては、定期不定期を取り混ぜて信用チェックを行っている。
商人や、村落街都市の担当者にその家族友人知人。
更にリクルートされた密告者とその公的私的関係者。
自白剤は基本であり、それは人間関係を洗い出すところから進められる。
購入元は複数に分け、互いに品質を競わせる。
しかし、値段は最高値の倍が基本。
駆け引き値切り、一切なし。
購入量で格差をつけ、過剰物資は焼却処分。
懐柔策と安全策。
大きな利益を生み出す国連軍に、悪意や敵意は持ちにくい。
何時、何処で、誰が消費するかわからない物資には、細工がしにくい。
これは国連軍一般で取り入れられている、一般的な購買方式。
イラクで。
アフガニスタンで。
ソマリアで。
合衆国遠征軍の愚行。
適性価格にこだわって、大金をばら撒いて敵意を買った。
苦々しくそれを見る羽目になった、当時の統合参謀本部議長。
現在の合衆国大統領であり国連軍の元締めは、ソレを繰り返させる気が無い。
予算は幾らでもある。
金貨銀貨銅貨、証券債券有価資源。
不動産工芸品美術品。
どうせ帝国軍の奢りだ。
持ち帰ることができない、鹵獲品の山。
配慮すべきは、現地の相場を壊し過ぎないこと。
適度に壊すこと。
その辺りのさじ加減は、市場操作の専門家が行っている。
刑務所から国連軍に徴兵され、労役の代わりに刑務所内部で作業中。
執行猶予者もいるが、必要に応じて執行される。
国内向け機密保持は、万全と言えるだろう。
その成果が、今朝の朝食である。
焼きたてのクロワッサン。
七面鳥に似た食感だと思う、鶏肉のソテー。
根菜類のクリアスープ。
レタスのような葉野菜にドレッシング、どうみてもトマトだがこれも根菜、そしてゆで卵は大人の握り拳くらい。
色とりどりの果物。
中でも一尉が気に入っている、メロン状の果肉。
これは巨大な樹木の若芽らしい。
朝食の後、管理本部でのんびりとモニターを眺める。
彼は部下の前でくつろげるタイプだ。
国連軍の駐屯地。
それは全て、一から作られたプレハブ施設。
現地の城や屋敷を利用するのは、リスク管理からして認められない。
構造が味方以外に知られている。
味方以外との生活空間に距離が近い。
不要な接触は無用なリスク。
多くの場合、大半の国連軍兵士は、肉眼で異世界住民を見たりはしない。
現地の城に住まい、現地住民と寝食入浴を共にして、24時間どこに行くにも一時も離れずに行動して、枕にされたり枕にしている、軍政官もいるが。
日本の連合与党第一党同化政策分科会からNo1と呼称されているから、仕方がない
現地の城郭や都市を拠点にして転戦を繰り返し、エルフやドワーフに異世界人と国連軍兵士、魔剣を持った団長までごちゃ混ぜになって酒盛りをしている兵団もあるが。
日本の連合与党第一党幹事長私邸にある軍事参謀委員会に特異点と呼称されているから、仕方がない。
あくまでも、十指に満たない例外である。
よって、ここ聖都でも同じ。
広い広い旧帝国軍都市解体作業根拠地。
その中でも端の部分に国連軍駐屯地が造られた。
そして哨戒気球と偵察ユニット、自動機銃に装備されたカメラが監視を続けている。
常時、集積された領民や彼らを管理する帝国軍、一人一人の顔すら確認で可能。
そして、可能なことは実行される。
管理責任者たる一尉が眺めるのは、特別な場合のみ。
昼前。
管理官は厳しく彼を見張る国連軍憲兵の前。
サイドカーに、パイプ椅子を載せた。
彼が管理する第13集積地。
百ヶ所に別れた集積区画。
その一つに向かってハンドルを握った。
正午。
激しい呼吸で肺が痛んでいた。
屈強な帝国騎士とはいえ。
たかだか100m程とはいえ。
武器、そして兜すら捨てたとはいえ。
槍も長剣も、短剣以外、はずせるものはすべて外した。
全裸になりたいぐらいであり、そうなれば間違いなく生き延びることができるだろう。
だが手甲と胸甲、脚甲などは外すのに時間がかかる。
もちろん一人で脱げないような、貴族のお姫様ではない。
常に身に着け、はずして片付け、手入れも着脱も慣れている。
騎士であれば当然のこと。
防具であれば当然に外れにくくできていている。
だが戦場で傷を負えば、防具を外さなくては手当てができない。
寸刻を争う事態に置いて、はずすことなど造作もない。
それは基本的な訓練の一部。
ただ今は、寸刻が無いだけだ。
走るだけなら農民たちが上。
鎧が無ければ振り切れる。
鎧は一瞬では外せない。
軽装とはいえ、鎧を着けた騎士。
粗末な衣服しかない農民。
非武装に近い騎士。
材木や、鉈、石を持つ農民たち。
悪いことに、女と男の差もある。
骨格、筋肉、体組織、瞬発力に持久力。
いくら鍛えても、根本的な差はどうにもならない。
それは動物でも人間でも、地球でも異世界でも同じ。
敗走に転じた瞬間、距離を空けことができた。
だからまだ生きている。
距離をとれたのは、撲殺された兵の功績。
囲まれていたら、お終いだった。
異世界最強たる帝国軍。
最前線で指揮を執る帝国騎士。
女であろうと、女であれば、俊敏さや集中力を生かした技術がある。
取り分け帝国軍が認める、精鋭騎士。
女騎士ならば、個の武力を持っても兵にも騎士にも負けるまい。
それはこの際無意味だが。
戦場とは個と個の争いではない。
集団と集団の戦い。
そこで自慢の武芸は、兵を鼓舞する力にしかならない。
なにより数が段違い。
十人やそこらの領民ならば、剣一つでどうにでもなる。
数千となれば、どうにもならない。
十人二十人を一人で斬ったとて時間稼ぎにしかならない。
機先を制すれば、馬も人も容易く操れる。
が、それは先制の瞬間にだけ可能。
それはもはや手遅れ。
それは彼女の、指揮官としての判断ミス。
そう、女騎士自身は考えていた。
走る以外、やることもない。
だから、彼女は考えた。
(――――――――――どうしてこうなった?)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・それはもちろん、彼女たちが呼ぶところの青龍、のせいだろう。
青龍に降伏せよ、という命令が間違っていた、とは彼女も思わない。
それは大局からみれば帝国の為。
だが、青龍が領民をこちらに丸投げしてくるとは思わなかった。
百万、百万人の農民たちだ。
青龍来襲の前、彼女のみならず大陸の人々にとって、帝国だけが世界であった時。
その頃でさえ、ここには万を数える帝国軍がいた。
戦は数、数は力、力こそが犠牲を避ける方途。
帝国にしても羊や馬、領民をわざわざ殺したい訳がない。
常に十全とは行かない、農夫の統制。
しかも強制徴集、強制労役。
村にいる時に比べて、生活レベルが下がったわけではない。
だが下がらなかっただけ、それに感謝するわけもない。
慣れた環境から離された、ソレだけでストレスがたまるものだ。
それが激発にいたらなかったのは、帝国軍の数による。
万を数える帝国兵士、小山程の竜、赤い瞳に察しようがない力を込めた魔法使い。
それが今は、わずかに五千。
青龍に降伏したのは、魔法使いや竜といった重装備を引き抜いた後。
主戦場に戦力を集中するために、そもそれが目的の降伏だ。
それでも、領民管理の任を引き受けた。
それはできると踏んだからだ。
帝国軍は強い。
数は少なくとも、殿に残されただけに精強で練度が高い部隊。
五千もいれば、万を超す敵に勝てる。
相手にとるのは、たかだか農民風情。
逃げ出すことはあっても、わざわざ挑んで来はすまい。
そして帝国軍に領民の管理を命じたのは青龍。
実際はどうあれ、帝国軍の後詰めについているようにしか見えまい。
赤龍と青龍が手を組んで、片付かない問題などあろうはずがない。
だが、そこも勘違いがあった。
身振り手振り、居作動作、手入れと使い込み。
それで力を読み取るのは、武人戦士騎士。
その中でも練立の者だけだ。
戦争を建国目的とした帝国。
その兵士なら、その程度の技量はありふれている。
しかし素人、無知な弱者に対峙する時に必要なもの。
それはバカでも判る、単純な姿。
数、大きさ、異形。
そのどれもが、聖都の帝国軍には残されていない。
百万の領民を統制するならば、二千で十分
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・それは広い領地に散らばって居る場合。
統制する側が集中と速さで勝る場合だ。
ここは広大な太守領ではなく、大とはいえ一都市、その限られた周辺。
多数と少数が、否応なく向かい合う。
互いに互いが、よく見える。
だが、見えるだけで判らない、推し量れない。
つまるところ、帝国軍の精強さは、領民たちには見えなかった。
むしろ、最盛期の数を見知っているだけに、櫛の歯が抜けた様な弱体な姿にすら見えている。
―――――――――――問題はそれだけではなかった―――――――――――
本国と切り離され、孤立している聖都の帝国軍。
その弱体化を、認識していないわけではない。
だが、不測の事態は防げる。
そう、帝国軍首脳部は考えていた。
なぜなら、帝国軍は青龍の指揮下にある。
完全に、ではないにしろ、ここ聖都の管理については間違いなく。
最初に皆の度胆を砕いた青龍。
その命令になら、皆が伏するだろう、と。
そう考えた帝国軍首脳部は、間違っていない。
だが、青龍はほとんど姿を表さない。
全て帝国軍に命じ、帝国軍が農夫に強制。
狩り集められたた農夫たちが百万。
先の見えない不満をたぎらせた、群れ。
それを抑える帝国軍。
それを命じた青龍。
青龍は、直接帝国軍に命じた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・まるで、農夫などいないかのように、無視する青龍。
故に農夫たちが疑い始める。
帝国軍が怒鳴るのは
―――――――――――本当に、青龍の命令、か?―――――――――――
そうでないほうが、反抗したい農民たちには、都合がいい。
だから、徐々に浸透していく、その空気。
農民たちは考える
――――――――――――――――――――――いや、思いつく。
青龍は赤龍の敵。
ここにいる赤龍は、虜囚。
反抗しても青龍に、ではない。
―――――――――――のではないか。
根拠が無い故に、誰も確かめない。
確かでないから、誰にも責任が無い。
責任が無いから、誰もが小声で囁き交わす。
―――――――――――に違いない、と。
農民たちの視線が変わっていく。
そんな違和感を、帝国軍が感じていなかった、と言えば嘘になる。
そもそも最初に徴集農民の集団脱走が起きた。
ここ半世紀で初めて。
労役から領民が逃げ出した。
驚愕の事態。
それこそ降伏までして求めた戦果、大陸北東部を無傷に保つ、を台無しにするところだった。
聖都で降伏した帝国軍、そのまま帝国軍の支配下に置かれている農民たち。
両者の間で、知覚以前に広がっている、違和感。
帝国軍はそれを自らの困惑、と判断。
置かれている異常な状況によるもの、と解釈した。
軍組織を維持したまま、自らを負かせた勝者の指揮下で作戦行動。
それこそ一番、類例がない。
動揺や困惑など当たり前。
帝国軍の不安定化が、支配下の民に波及するのも当然だ。
それでもなお、鉄の規律が抑える違和感。
当たり前ならば、粛々と対処するだけのこと。
それは単に、帝国軍の内部規律の強化に向かった。
軍の動揺を抑えれば、自然に民が落ちつく。
つまり民に対処する必要などない。
組織として、軍としての優秀さ。
それが異常を潜在化させる。
顕在化しない限り、対処は為されない。
対処が為されなければ、エラーは蓄積されていく。
気付かれない歪みが浮かび上がる時は、亀裂の奇襲。
地震に対して、ひたすら丈夫な建物を建てるようなもの。
ゆがみを蓄積し、歪をすべて、一度に一点で受け止めてしまう。
それは、優秀なものだけが嵌る最悪の道だった。
そして、それは吹き出した。
噴出してなお気付かせない、最高にして最悪の亀裂。
帝国軍、その権威への疑いが、疑いでは済まない問題が起こったのだ。
青龍来訪後、農夫たちの食糧は各居住地の中央に保管された。
青龍が農夫たちを区画に閉じ込める為。
蓄積された食糧、つまり小麦状の異世界植物。
定期的に運び込まれる燃料、つまり脱穀した外皮だけでは足りないので畜糞や薪に雑草の類。
区画内で栽培される野菜類。
相当量が事前に内部にあれば、外部と行き来する必要は減る。
区画外との行き来は、帝国軍が取り持つ。
人はパンのみにて生きるにあらず。
そう喝破した人物の意図とは無関係に、蓄積済みの食料だけで生活の質は維持できない。
ある程度の嗜好品、肉類魚類、乳製品に調味料。
布や建材、補充を要する工具に農具。
あくまでも身の回りで使う物に限られるが、それらの所持は監視のもとに許容されている。
手持ちの食糧を、来訪する商人に売る。
物々交換で嗜好品や、食糧以外の必需品を手に入れる。
それを仕切る、帝国軍騎士と農夫の顔役。
そこに癒着が生じる。
もとより馴れ合いはあった。
ひと冬共に過ごせば、個人差はあれど当然だ。
看守と囚人も顔を見知れば親しくもなる。
そこに金銭物品取引が絡めば?
利鞘を稼ぎ、私物化する余地が生じる。
そしてまた当然、帝国軍はその類の問題に慣れていた。
その類、征服戦争の過程でいくらでもあること。
だから誰も異常に思わない。
全てを見通し監視して、どこまで見逃し刈り取るか。
さじ加減は、将、軍司令官の裁量次第。
そして、この時、聖都にておこなわれたルーチンワーク。
該当の帝国騎士は拘束。
あわせて荷担黙認していた兵十数人が捕縛された。
魔法使いは全員、降伏前に撤退済み。
故に読心魔法が使えない。
いささか手間と時間をかけて、拷問。
窒息しないように胃の腑を空にさせる。
単純に狭い木箱に押し込んで地面に埋める。
窒息死の寸前まで放置。
ゆっくり掘り返す。
繰り返し。
よほどの手違いが起こらない限り、対象は死なない。
尋問以外特段の技術は必要なく、手の空いている兵士にやらせることができる。
痛みと違って慣れることも無いので、大して時をかけずに全容が判る。
これを観察していたUNESCOの研究者は、旧ソビエト時代の史料と比較していたという。
以後もまた、決まりきった手順。
拘束されるときに負傷していた者は、できるだけ手当てして、回復させてから処刑する。
帝国では処刑される罪人が、殺される自覚を持つことを求められる。
この治療には時間をかけることは望まれない。
青龍への協力が求められ、快諾された。
国連軍に所属する魔法使いはそれなりの数に上る。
地球の医学知識と治癒魔法のハイブリットは落ちた腕すら回復させるほど効果的。
そして地球人の思い付き、通信回線経由で魔法を行使できることも確認されている。
治癒対象者/死刑囚に通信経由で、地球風にアレンジされた治癒魔法をかけさせることなど、造作もない。
主犯の騎士は適切に処刑。
手間をかけずに苦しむように、効率よく。
掘り返さなかっただけだが。
そして従犯の兵士たちには、やはり効果的な処分。
士気向上の為、余興を兼ねた処刑方法。
互いに相手を殺すまで、殴り合わせる。
他の兵士は観戦し、多くが賭けをした。
無論、帝国の薫陶を受けた、元兵士の囚人たち。
利益が無ければ殺し合わない。
帝国の強要に従属して、死に向かって行進する領民とは違う。
報酬はよりマシな死に方。
元兵士たちは元騎士と同じ死に方を避ける為、全力で殺し合った。
生きたまま埋葬されるのは、歴戦の兵士でも恐れる。
この事件はそれだけのことだ。
帝国にとっては、ただ、それだけ。
いやむしろ、好都合だった。
一軍一隊まるまる虜囚、という事態は前例がない。教本も手本もなく、将から兵まで皆が戸惑っていたのだ。
そんな中で生じた、判り易い娯楽と見せしめ。
しかも実害が生じる前に先手を打った。
それは歓迎されること。
その後の騒動は帝国軍司令部にとって予想外であり、だからこそ彼女が巻き込まれた。




