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完全侵略マニュアル/あなたの為の侵略戦争  作者: C
第六章「南伐」

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幕間:カタリベの取材ノート「百鬼夜行」

地球側呼称《カタリベ/歴史家》

現地側呼称《青龍の史家》

?歳/女性

:地球側の政治指導者が定めた役割。すべての情報へのアクセスを許可されており、発表を禁止されている代わりにどんな情報も入手可能。軍政部隊に同行しているのはジャーナリスト志望の大学生。




カタリベは考えを半歩進める。




地球の史料を予備知識にして、現地の人たちにインタビューを繰り返す。

歓迎こそされないけれど、こばまれは、しない。


この黒髪、黒い瞳のせい、ううん、おかげ?


異世界なら黒色が身分証代わりになる。

もちろん、処刑手配書に変わるかも。



オセロのようにひっくり返されたら、ね。




異世界で取材を始めて1ヶ月余り。

そんな恐怖をいつも感じて来た。



地球人、実質、日本人に向けられる目。




諦めにも似た、拒絶「された」者たちの瞳。


鋭利で無機質な恐怖。


国連軍は、近づかない。

それ以上に、近づけない。



大規模な駐屯地、例えば出島の周りは?


――――――――――地雷でいっぱい――――――――――





異世界の住民が近づけば、どんな目的であれ、意図せず迷い込むだけで、死ぬ。もちろん、それは国連軍兵士を閉じ込め、異世界住民と接触させない為でもある。



実際、駐屯地外周に多数設置されている自動機銃。

IFF(敵味方識別装置)は、常に、OFF。


それが招く必然的な結果は、ありふれた「事故」で、片づけられている。


異世界住民から見る、国連軍。

異世界住民を見ない、国連軍。


徹底的拒絶と、圧倒的な、恨みすら遺さない暴力。


異世界住民にとっての国連軍は

――――――――――――――――――――そういうモノだ。




だから、この邦の、北辺の太守府の、カタリベが今吸っている、この空気は、おかしい、

――――――――――――――――――――たぶん。



やっぱり恐怖なのだけれど、まちがいなく恐れられているのだけれど、他の地域と違う。


他の地域で肌に染みる風。

冷たく、無機質な、感触すらないほどの、息苦しい、それが恐怖。


それがこの邦では、ここの恐怖には

――――――――――――――――――――なにか、熱がある。



恐怖に身を震わせながら、沿道に群集が集まる。

逃げ腰でありながら、邦中から農民が集う。


あの大尉、軍政司令官を目指して。



あまつさえ、アムネスティの、まあ、その、女たちが煽ったとはいえ、国連軍の隊列が祭りの中心になる?

――――――――――有り得ない、いや、有り得なかった。




異世界には街道が整備されている。


竜が、陸上を行く土竜が、巨大なゴーレムが歩き進むことを想定した広い道。

その重量を支える為に、事前に周到に調査された地盤。

それを岩で強化して、慎重に厳重に固められ、上に砂利を敷き詰めならして舗装して。


更に沿道の住民たちに、街道を整備する責務を与えている。



帝国軍が進軍した後は、大陸を駆け巡る物流路となった。

帝国軍が撤退した後は、大陸を蹂躙する進撃路となった。


国連軍は、莫大な補給物資と巨大な戦力を日々行き来させている。



戦車。

砲車。

トラック。

トレーラー。



街道沿いに街はあるが、帝国軍は進軍の邪魔にならないようにバイパスを設けて市街を街道から離していた。その配慮は大いに利用されている、国連軍に。




国連軍は必ず、街には入らない。

なるべく近寄らない。


障害物で時間をとられるのを防ぐため。

決して、住民たちへの配慮、ではない。


軍事参謀委員会にとって、異世界の街や人は、障害物に他ならない。

片付けるのは手間がかかる。


――――――――――特に人は、動くから。



だから距離を空ける。


ただし、邪魔にさえならなければ、彼らがどんな反応をしようと気に留めない。

だから、距離を空ける範囲は、現地住民が気がつかない範囲、ではない。

つまり、歩いて近寄るのに時間がかかる程度の距離。



近づかれないように、これ見よがしに姿を見せて、戦車を積んだトレーラーや補給トラックの隊列が進む。

あえて音を立てたりはしないが、手間をかけなくても十分に現地住民を脅かせると、そう知っているからに過ぎない。



数十台が連なって進む様。この世界ではありえない、黒髪黒目の兵士たち。緑のプロテクターに身を固め、その上空を気球やドローンが飛び交っている。



それはまるで、百鬼夜行。

鋼と火薬の、百鬼夜行。



異世界は、国連軍の隊列が通れば、どうなるか。

――――――――――普通は恐慌か沈黙。


初めての街なら、パニックが起こり、人も獣も逃げ惑う。

何度か通過されていれば、皆が屋内にこもり、固く扉を閉ざして息をひそめる。


住民が排除されていなければ、だけれど。


ソレが異世界。

異世界大陸各地のスタンダード。




なのに、この邦は。



カタリベが取材する土地。


北の太守領。

孤立した土地。

国連軍占領地北端。


異世界大陸における人間種居住地北限。



百鬼夜行に人が惹かれる。

恐れと魅惑が混ざり合い、家々から、村々から、人々が走り出る、とじこもるのではなく、出てくる。

目を伏せ震えて、惑い叫び、恐怖に陶酔して見上げようとする。



――――――――――――――――――――たとえ、すぐに目を伏せようとも。


その違い。


同じ恐怖と暴力が。

同じ地球人と日本人が。

同じ怯えと畏怖を呼び。


異なる様を呼び起こす。



・・・・・・・・・・・・・だからこそ、調べなきゃいけない。

あの特異点を知る為に。



それはきっと、カタリベを設えた、政治家たちの思惑通り。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・知ったことじゃないわ。




あえて、街に残ったんだから、いまのうちにできることをしましょう。

軍政司令官の側にいないことで、見えてくるものがあるハズ。そばにいるとどうしても、現地の人たちは彼の顔色を窺ってしまうからね。


それに軍政部隊と一緒にいる時は、監視されているとは思わないけれど、カタリベとしての役割を尊重されているとはいいがたい。たぶん、肩書以前に非戦闘員、民間人として見られてるんだろうけれど。



単独行動は王城内限定。

街に出るときは護衛付き。


太守府、この街のことだけど、を出るときは事前通達すること。

・・・・・・・・・・許可制じゃないし、拒否もしないと明言された。



軍政司令官がいない今。



留守居を押し付けられている三佐。

例え誰が居ようと独断独走唯我独尊。

この太守府はその三佐が支配している。


彼女は、カタリベに干渉しない。

護衛は付けるけれど、どこか無機的、器械的。

違いはそれだけ。

カタリベだけ。



それ以外、三佐の代理統治は従前通り、らしい。

つまり、軍政司令官が決めていることはその通り、決めてないことは彼が帰って来てから。

三佐は、やることがなさそうな時でさえ、澄ました顔で見てるだけ。



本当に軍政司令官は「あの」三佐の一味なのかしらね。




軍政司令官と、シスターズの関係。

(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・表現はあれだけど)


カタリベにとっても、興味がある

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・マメシバ三尉と違ってカタリベは、恋愛脳ではない。


シスターズは与えられて、与えられ続けている

――――――――――――――――――――彼女たち自身が、そう思っている。


カタリベも、その見方は間違ってはいない、間違っては、

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・と思う。


無尽蔵に投げ渡される保護、共感、尊重、権力

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・語弊はあるが、領民の救済は権力そのものだ。


それは、軍政司令官にしか与えられない。




太守府の領民たちがどうなろうと、国際連合には関係がない。

統治する必要はない。


地球文明に怯えて殺し合おうと、暴動を収めさせる理由はない。

大都市が半壊しようと、復興する義務はない。

野盗が暴れまわろうと、どうでもいい。


ましてや、地球人来襲以前に難民化していた元難民を、異世界社会復帰させるなんて。


仮に何一つ対処しなければ?


その場その場の弾みの果て

――――――――――野盗や農民、市民が殺し合って内戦になったとして、どうだというのだ?


それが、地球人の、有権者の、本音。


それを体現する議員たちは、口先だけの言い訳を紡ぎ出す。


有権者を気持ちよく騙すため。

なにもしない理由を与えるため。


後生、みんなは言うだろう。

我々は知らされていなかった。



――――――――――――政治家に騙された――――――――――


もしその時、生き残りの政治家がいれば、吊される。


幹事長曰わく吊されるまでが、議員の役目

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・それが彼ら、サービス業、その本質。



では、国際連合安全保障理事会、日本の有権者に責任を持たない、面々ならば?


実際、質問したことがある。

異世界の人々が苦しんでいるのに、呵責を感じないのか?


一人目、

「苦しんでいる、ではなく、破滅させている、ではないかな」

と回答。


二人目、

「いや、殺している、だ」

と修正。


三人目、

「異世界人だけでしたか?」

と追加。


四人目、

「連合王国がそれを気にする国柄かどうか、Encyclopædia Britannicaを読んでから出直すといい」

と笑った。


五人目、

「歳をとれば、生きているみんなで笑って話せるようになる、そういうものよ」

と微笑む。


一番若い、六人目は、

「後で考えます

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・老後に」

と言って潜水艦隊の書類を見ていた。



地球人類の意思。

そうなっている、国際連合がこんなもの。

日本国国権の最高機関。

その最大与党連合の意思がそんなもの。



その手先。


軍政司令官の行動は国連軍、国際連合、安全保障理事会の方針から、すくなくとも逆らってはいないし、常に逸脱もしていない。


だが、そこに軍政司令官個人の、その思惑が、色濃く溢れている。


だから、良かれあしかれ、少女たちが軍政司令官個人を志向する。

だから少女たちの好意的反応が、返礼の衝動が蓄積され続け、強迫観念の域に達している。



彼女たちは自分自身以外を持たない。

だから、返礼に全てを差し出す。


差し出してなお、焦燥感に追われる。


足りない、足りない、足りない

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・自分を自分が急き立てる。


なにしろ一呼吸事に、与えられ続けているのだ

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・彼女たちにとっては。


そう。

彼女たちから見れば、だ。




軍政司令官。


彼の嗜好が少女たちのそれと一致しているように見える。

少女たちの望みが彼の行動と一致しているように見える。

ゆえにこそ少女たちは彼の嗜好と一致しようと渇望する。



とはいえ、少し離れてみれば、別の見方をされるだろう。




彼の部下でらる兵士たち。

「大尉殿は、当たり前のことをしている、だけなんじゃないですかね」

「自分らにはやり方が思いつかないですけれど」


軍政部隊の曹長。

支援チヌーク隊隊長。

「自分の娘を近づけたくはないですね、ちょうど13ですから」

「小狡いセコい見栄っ張りの小心者、が突き抜けりゃ、世間様の役に立つ」



言葉の背後にあるのは、皆同じ。


――――――――――できる範囲で出来るだけ

         人間的にふるまう、努力をしている――――――――――


組織人としての共感、だろう。




本当に

――――――――――それだけ?


カタリベには、別のモノが透けて見える、ような気がする。


ある種の善意を否定するわけではないけれど。

善意と同じ方向を向いている、あるいは悪意になりえるモノ。



軍政司令官は、彼女たちを利用している。

下世話な嗜好しゃない。



国連の大枠の中で、枠を壊すことなく枠を動かす為に。



誰からも否定できないように、体制と制度の形を利用して、想定外とも言い切れない範囲で、前例を積み重ねていく。


危険なほどに踏み込んで、誰もが通れる道を切り開く。

道に導かれ、道をたどって、あつらえられた場所に、誘い込む。


地球世界と異世界とのかかわり方。

それは先々の世界の創り方。


そのために必用な仕掛け。




魔法少女、すなわち現地代表を選んだのは誰?


年端もいかない年齢の、強からず弱からぬ政治的立ち位置を持っていて、孤立している。

そんな者を選び出して、後ろ盾となり権威と保護を与え、常に手元で監視下に置く。


傀儡政権の出来上がり。



港街の暴動。

農村の難民。

都市と村の対立。


そこに介入するための道具。

ならば何故、介入しないといけないのか。

誰がそれを望んでいるのか。


誰が軍政司令官を選んだのか。



あなたはいつかえらぶだろう。

あなたはいつかすてるかもしれない。

あなたはいつかすてられるかもしれない。



(何も知らずに利用されている、あの娘たちに言っても、無駄でしょうね)





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