まもるべきもの/ころすべきもの/いかすべきもの
一番強い奴を。
出会い頭に。
思いっきり。
殴る。
コレ、第一印象の基本。
脅しちゃダメ。
宥めちゃダメ。
知られちゃダメ。
不意打ちで、最高の一撃を、最強にぶち込む!
あ、顔だよ顔。
挨拶だからさ。
殺るんなら首に貫手、心臓に掌底、頭から投げ落とすわよ。
顔なら死なないし、ハデに血がドバーッて出るからさ、キクキク。
大したことないのに、全員パニくるビビる。
腕折ったり、脚ツブしたり、本当に怪我させるとしつこく恨まれる。ゼッタイ、寝首を掻きにくるから、殺す気が無いならやめときなよ。
ファエアネスなんかないって。
決闘なんか挑んでも、誰もシッポふっちゃくれないわよ。
フェアなジャスティスなんて、カモじゃん。
最強ってのはさ。
拳だけじゃないんだよね。
振るい方もセット。
殺さないで、相手の意地を潰す。
だから人がついてくるの。
え?
負けたらどうする、って?
負けるならトップに負けた方がマシ
――――――――――――――――――――決まってんじゃん。
【国際連合呼称地域名「聖都」/第13集積地/領民集積区画/出入り口/オフェンス・ゾーン】
さて。
俺は気合を入れなおす。
もうすぐ縦深500mのオフェンス・ゾーンを越えて異世界住民居住区画。
オフェンス・ゾーンという、自動機銃の火力で完全に管制された狭い地域。
そこから踏み入る居住区画は大勢の領民が住まい、降伏したとはいえ敵国である帝国の兵士たちが管理する広い地域。
同行している兵は7名。
残り3名は後方街道上、オフェンス・ゾーン前で待機。
街道上自動機銃(M-2)の射線をなるべく塞がないように停めたランクル三台、兵3名。
指揮車の運転席に一人。
他二台の荷台に一人ずつ、つまりはM-2重機関銃要員。
ランクルは三台ともエンジンは切ってある。
未だに燃料不足ではないにしろ、燃料兵器は不足気味。別段、節約を命じられてもいないが敵地ではないからね。
いざ居住区画内部で事が起きれば?
まず、オフェンス・ゾーンの制圧力。
自動機銃に積まれたM-240×2の射程範囲は最大で4km弱。1500m圏内なら狙い撃ちが可能。縦横500×20mのオフェンス・ゾーンを越えた射撃を命じることができる。
必要なら、街道上の自動機銃装備のM-2重機関銃×2にだってコマンドを与える権限がある。こちらも射程は7km弱。2km圏内なら狙い撃ちが可能。
次に、ランクル。
ランクルの安定起動ならことが起こってからエンジンをかけても、十分間に合う。
街道上のM-2(12.7mm)×4から支援射撃を受けつつ、二台はエンジンをかけさせ待機。ドライバー常駐の指揮車で突入用意。
本隊はシスターズ&Colorfulをまもって後退。
オフェンス・ゾーンまで入れば何とでもなる
―――――――――――という発想。
イマイチ制御に不安があるランクルのM-2。
機械制御じゃないからね?
弾なし上等な自衛官に銃手がつとまるかといえば、お察しです。
だからセミオート、だがスイッチ一つで切り替え可能。
最悪の場合は?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・教育上、良くない光景になるな。
最悪、っていうか、初手から最終段階に至る可能性すらある。
自動機銃なら俺がコマンド入れられるし、ランクルなら最初から俺の指揮下にある。
が、最悪のパターンは俺が判断できない。
まあ何かあっても、その前に片づくだろうが
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・だからこそ頼れる部隊の大黒柱、佐藤、芝が内側、子供たちの両サイドにいる。
え?
曹長は部隊の礎石だよ?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・俺は部隊の屋根瓦。
そして隊列陣形中心は、客人のシスターズ&Colorful。
まあ、いつも通り。
そのすぐ客人の前が俺。
瓦じゃなければ、表札的な?
「!!!!!!!!!!」
エルフっ子に関節をキメられ、余計な口を塞がれた神父。
・・・・・・・・・超芸術トマソン、かな?
ま、どれもが何かに例えられるならば、部隊が正常起動しているといえるんじゃないかな?
部隊はオフェンス・ゾーンの中で、すでに全周警戒態勢。
陣形を崩さずに居住区画にはいる為、だ。
隊列陣形中心後方が、指揮役の曹長。
中心左右が佐藤、芝。
外周が兵、前衛4名後衛3名。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ふだんなら、佐藤、芝は最前衛だ。
狙撃にも長けた選抜歩兵が一番前?
って思うじゃん?
まあ、うちの部隊はアレだからね。
平和、だった国の兵隊さんだけに練度は高い。
だが、経験値が低い。
軍政にて想定されるのは、小部隊単位の不正規戦闘。
練度より、経験値がモノを言う。
不正規戦闘をしたかどうか、じゃない。
ぶっちゃけ、目視距離で人を撃ったことがあるかどうか、だ。
佐藤、芝に曹長は経験者。
他の兵は未経験。
俺はまあ、全自衛隊隊員の中では経験豊富な方、かな?
近くで射殺される人間を、何度もみてるからね。
太守府に派遣されてから。
普通の自衛官は死体しか見てない。
異世界転移後の戦争、おっと、武力制裁だったか軍事的強制そちだったか、まあそれの中、何十万もの死者が出ている。
異世界人だけね。
だが、何十万も殺している、その主力たる自衛官も、ほとんどすべて、そんなもの。
つまり人間を
――――――――――死体に切り替える瞬間は、見ていない。
だから、直接戦闘にはいささか不安がある。
一度殺せば、済むんだが。
最初の一回で、ちょっとためらう。
ほんの少し。
そのように躾けられてる、現代日本の特殊環境。
それは、ちょっぴり、危険なことで
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・訓練ってのは、未経験の行動を初体験で成功させる、そのためにあるんだけどね。
実際、問題が生じたことはほとんどない。
初回でしくじっても、部隊単位で行動する自衛隊、国連軍。
たった一人のしくじりで、部隊が崩壊するわけがない。
二回めからは誰でもスムーズ。
初回の失敗が致命的な結果を招くとしたら、もはや、運が悪いとしか言えない。
普通は、そんなところまで考えない。
考えるコストとあり得るリスクを勘案すれば、切り捨てるべき問題だ。
だかしかし、同じ兵士の命と健康ならいざ知らず、賭けるわけにはいかない。
子供たちの安全を、な。
兵隊さんは死ぬのもお仕事です。
ソレが俺の指揮下にある以上どうでもよくはない。
だが、優先順位が存在する。
だから、佐藤、芝を中心近くに配置。
二人には主に、シスターズの小さい二人の、フォローを担当してもらう。
練習済みとはいえ、さんざん港街で確認したとはいえ、やはり心配なのだよ。
だから、ちびっこ二人分は佐藤、芝に担当させている。
エルフっ子やColorfulのフォローも、できれば。
だが、それは手が空いたらってことで。
年長組は、俺でもフォローできるだろう。
装着をしくじると、肺をやられかねないからな。
【聖都/内陸側/白骨街道/おふぇんす・ぞーんの中/青龍の貴族背後】
あたしは道化の腕を締め上げながら、彼、青龍の貴族の視線を感じた。
「オレオレオレオレオレる~~~~~~るる~~~~フリコンデ」
あ、力抜けちゃった。
「娘さん娘さんおじょーさん!!!
Ouch!Ouch!!Ouch!!
GiveGiveGiveGiveGive Up!!!!
OK!OK!
今夜Your Loverと2人っきりにサセターゲマスMake loveはマジ貴女次第
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――!!!」
関節がしっかりキマれば、声なんか出せないものね。
詳しい打ち合わせは後にして、あたしは彼、青龍の貴族、その視線を探る。
もちろん、さり気なく、意識しないフリをして
――――――――――どこに関心をもってくれたのかしら?
革鎧だから、肢体の線はあまり出てないし、髪は纏めてあるし、肌は他の男が居るときに晒すわけがないし
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん?
がすますく、をみてるの?
――――――――――そこ?????
軍装なんかどうでもいいじゃない!!!!!!!!!!
【国際連合呼称地域名「聖都」/第13集積地/領民集積区画/出入り口/オフェンス・ゾーン】
あ、怒った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・俺のせい?
耳をひくひくさせていたエルフっ子。
一見完全に取り澄ました表情だが、俺にはわかる。
怒気が一瞬オーラの様にあふれたかと思えば、拗ねた様な空気を醸し出す。
ほんとーに解りやすいなこの子、エルフっ子は。
とはいえ、面白がっている場合ではない。
面白いんだが。
原因は?
視線に気づかれたから
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いやらしい目じゃなかったよ??????????
今は!!!!!!!!!!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・普段も、だいだい、概ねは、ほとんど、大半、半分よりやや多めに
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いやらしい目で、見てないと思いますが。
いや、目の前で恥ずかしがりながら着替えられたり、バスタオルで体を隠しても風呂に入ってこられるとね?
いや、堂々と隠さず晒されたら困るどころか大惨事ですが特に小さい二人が常にいるしいないと二人きりだから軍法会議まったなし!!!!!!!!!!
シスターズは俺の部屋で暮らしているから仕方がないのかもしれないが、広い王城の狭くもないが一室で同居ってのも違う気がする。
いやいやイヤイヤいやいや、ガスマスクガスマスク。
話をそらしてはいないあんまり。
俺たち軍政部隊が普段想定していない敵。
因果が巡ろうが責めが誰にあろうが、安全でなければ、敵。
そして偶々偶然誰かにとって運良く、先制殲滅されなかった、敵。
普段から俺たちが想定している敵は、無知な暴漢や義務に忠実な帝国残党、あるいは暗殺者。
帝国は健在なのに、残党?
言葉の使い方としては間違っているような気もする。
がまあ、壊滅した帝国軍の中で生き残り、本隊と合流せずに活動しているみなさん、というほどの意味合い。
俺たち国連軍は残党を出さないこと、減らすことには熱心だ。
戦場で会っていれば、皆殺し。
出くわさない帝国軍はできるだけ内陸部、帝国勢力圏に退いていただいている。
帝国軍主力後退、いや転進とかそーいうごまかし抜き。
最精鋭部隊を皆殺しにされながら、マジで整然と後方へ行軍した帝国軍
――――――――――これはまあ、残党にはならない。
さらに殿、遅滞戦闘や、分かり易く主力と別方向へ退却する、帝国軍後退支援部隊。
指揮系統も目的もはっきりしており、玉砕なり投降なりキチンとする。
――――――――――これも残党にならない。
だが、それはこの戦争では大半の期間中、だ。
最初からそうできたわけじゃない。
まだ戦争は終わってないけどね。
緒戦、残党が生まれたのは、そこ。
国連軍の大陸上陸作戦。
夜中から明け方にかけて。
異世界大陸有数の大規模港湾都市、複数。
駐留帝国軍と、その十倍以上の住民たちの頭上に、散布された。
――――――――――莫大な、催涙ガスが。
莫大な、何千tか何万tか、調べてないから知らないが。催涙ガスも化学兵器だからね。在日米軍兵器廠に山ほどあった
――――――――――在庫の中では一番おとなしい。
もちろん、山ほど窒息死、その他で死んだが。
月の明るい夜。
眠りの最も深い夜明け前。
不可視のガスにまかれた軍民の異世界住民諸氏。
お察し
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・断固拒否!!!!!!!!!!
だーれが想像したいもんか。
相手の身になってはいけません。
大変心と体に悪いです。
これは戦争のルール。
世の中には知らなくて良いことばかりなのだよ。
例えば?
最初に行方不明になった国際連合異世界特使。
帝国との話し合いに出かけた、ラシイデスヨ?
開戦の理由にはなったけれど。
結果、帰ってこなかった。
竜に喰われた、踏まれた、かじられた、トータルするとドウデモイイ。
帰ってこなかった。
これからも絶対に帰ってこない。
確認済み。
――――――――――――――――――――そこ重要。
誰も気にしていないオスプレイは、この日、夜明けとともに飛び立った。
夜明けとともに。
この日に。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・まあ、乗ってたのは、俺の知り合いじゃないし。
そも、乗っていたとも限るまい。
確かに行方不明者はでており、その身内がうちの部隊にいるが、ほら、載ってたのかもしれないし。
――――――――――――――――――――積まれる的な意味で。
特使は30~40人くらいだった、か?
きっと、楽に逝け、もとい行けたんじゃないかな。
三佐、とは限らないが、あの種類の方々が、偶然に頼る訳ないし。
せっかく、官僚や元官僚、経済界から選抜された選り抜きの人材。
無駄遣いはしない人だ、あれは。
そんな意味で人命重視な国連軍。
異世界への軍事制裁先制奇襲にあたって、非致死性ガスを使った理由。
異世界、中世規模の経済社会では数少ない、大規模な港湾。
まあ、機械的な積み上げ積み下ろしの施設があるわけではないけれど、ソレを設置できる広いスペースが整備されている。
限界はあるが、地球基準でもそれなりの大きさの船が停泊できる、埠頭が用意されている。
現在の艦船でさえ無視できない海流や気候、それが船舶の運用に適している。
広大な作戦拠点として、今すぐに利用を開始して、今後整備しながら継続的に利用する大港湾。
――――――――――――――――――国連軍は除染の手間を避けたかったのだ。
当日。
夜明け前から明け方にかけて。
合衆国海兵隊の皆さんが装面状態で続々と上陸していく中。
咳き込み、パニックになり、海や川に跳び込み、建物から飛び降りて、互いが互いを踏みつぶし、現地住民に犠牲は出た。
僅かに四桁!
安心できない数字だね?
だが目論見通り、市民も帝国駐留軍も、その大半が市外に脱出。
まあ、異常と危機に際してわざわざ逃げ場のない海岸を目指すわけがない。ガスで視界や平常心が奪われても、住み慣れた街の中ではあることだし。
内陸側の方向ぐらいは判っただろう。
判らず溺れた者もいくらか出たが。
ソレも含めて計画通り。
上陸作戦中、住民なり帝国軍なりに、そばに居られちゃ困るからね。レミング状になって上陸地点に溺死体が溢れても、やっぱり邪魔だし。
だから想定内の犠牲で済んだわけだ。
敵の犠牲、もちろん、国連軍にとっての敵というのは、味方以外のすべてだが。
海に半ば乗り出した港湾都市。
吹き抜けの道も多く、貨物輸送の為に道幅が広い。
海風に散らされ、ガスの影響は一時的なもの。
冬でもあり、昼夜と陸海の寒暖差で風が起きるとあっさり除染完了。
手間いらず。
その時までには市街地全てが国連軍の制圧下。
現地市民は未知の惨劇に茫然自失、郊外に寄り集まっていた。
攻撃、とすら認識出来なかったからだ。
帝国軍も茫然とはなったが、市民とは違う。
自失しているからこそ再集結を始める。
帝国軍のドクトリンがそうなっているからだが。
それを見守る国連軍。
市民は国連軍占領下の港湾都市に戻り、帝国軍は国連軍の追撃を受けた。
帝国軍は追い散らされて、再結集しながらも本隊に合流できなかった者も生じた。
基本殲滅、人の恨みを物理的に解消する。
それが国連軍。
なのに緒戦だけは皆殺しにしなかった、理由。
第一印象が肝心だから。
緒戦の比較的、後々の予定に比べれば、苦痛の度合いが低い第一撃。
初手だけに、何が起きたか解らない。
殺されたのか、死んだのか、されたのか、おきたのか。
判るならば恐れ。
解らないは畏れ。
情報のハブたる港湾都市。
畏れで満たして溢れさせる。
――――――――――わかる、よね。




