幕間:贈与論/Systematic love.
【登場人物/三人称】
地球側呼称《カタリベ/歴史家》
現地側呼称《青龍の史家》
?歳/女性
:地球側の政治指導者が定めた役割。すべての情報へのアクセスを許可されており、発表を禁止されている代わりにどんな情報も入手可能。軍政部隊に同行しているのはジャーナリスト志望の大学生。
地球側呼称《三尉/マメシバ/ハナコ》
現地側呼称《マメシバ卿》
?歳/女性
:陸上自衛隊三尉。国際連合軍独立教導旅団副官。キラキラネームの本名をかたくなに拒み「ハナコ」を自称している。上官の元カノが勝手に「マメシバ」とあだ名をつけて呼んでいる。
地球側呼称《元カノ/団長/だんちょー/一尉/一尉殿》
現地側呼称《青龍の女将軍/団長/主》
?歳/女性
:国際連合軍大尉/陸上自衛隊一尉。国際連合軍独立教導旅団団長。『俺』の元カノ。インドネシア軍ベテラン兵士の副長(褐色)、筋金入りの傭兵エルフ(白ローブ)。黒副、白副の二枚看板に支えられ、ドワーフやエルフに異世界人と地球人類が同じ戦列を組む、初の多世界複合部隊「黒旗団」指揮官。
地球側呼称《三佐》
現地側呼称《青龍の公女》
?歳/女性
:陸上自衛隊三佐、国際連合軍事参謀委員会参謀、WHO防疫部隊班長、他いろいろな肩書を持つ。日本の政権与党を支配する幹事長の娘で、父親と連携して戦争指導に暗躍している。
【用語】
『アムネスティ』:日本の異世界転移後、国連より早く再建された国際的な人権団体(NGO)。売春合法化の実地試験を兼ねて、日本で育成した娼婦を雇用し異世界大陸国連統治下で営業している。なおアムネスティの「売春合法化論」は現実に準拠しており小説上の設定ではない。ただし、支部ごとの独自性が強い団体なので全体の総意と言えるかは微妙。
(詳細は第28部 「アムネスティ」 より)
『アムネスティガールズ』:太守領にやってきたアムネスティの人員のうち娼婦の10人。他に管理職、料理人、専門医、エステスタッフなどがいる。
名前が出ているのはシュリのみ(第35部 「奴隷市場」冒頭 )。
贈答の要諦は先制にあり。
可能最大財物を可及的速やかに贈呈すべし。
かくして敵の謝意を挫き、第三勢力の貸付を断絶せん。
これ短期決戦の極意にして、不毛な消耗贈答を防がん。
《北米インディアン作戦要務令》
「由々しき問題です!!!!!!!!!!」
(いつもじゃない)
と思って口には出さない、カタリベ。
同室にて長広舌を振るうのは、愛と性愛の伝道師、マメシバ・処女びっち・ハナコ三尉。
軍務に関しては泰然自若。
現代軍人然とした振る舞いも、中世武将的な振る舞いも自由自在。肝も据わっており、医師、いや軍医としての技術も高い。
カタリベはその記録を確認している。
初めての実戦。
片腕を無くした上官に処置を施し命を繋ぐ。
取り囲む敵兵千以上に対峙し土下座哀願叱咤罵倒圧倒する。
両方同時に実行し、しかも、その場で回復系魔法使いを治療に取り入れ、拾い上げた上官の腕を繋げて戻して、以後間断なき治療で一週間以上かけて完全に回復させた。
もっとも国連軍としては、救われた方、黒旗団団長の方を評価しているけれど。
マメシバ三尉が命を救った、地球人初の騎士。
つまりは、軍政司令官のかつての恋人。
(・・・・・・・・・・・・・・かつて、ねえ)
復縁を迫っているのか、復縁を決めつけているのか、いずれにしても人間性にずいぶんと疑問がわく。呆れられても憎まれない、それはそれで人徳なのかもしれないが。
アレは未練なんてものじゃないだろう。
ソレを利用しているようにも見える、軍政司令官。
コレを管理しているのが国連軍の魔女、三佐。
アレ、こと、黒旗団団長
片腕で異世界一の魔法騎士を倒した。
戦場で帝国最強を誇る部隊を服従させた。
それは異世界住民に向けた、最高のプロパガンダ。
これまでも、これからも、現地住民に紛れ込んだ白人種アジテータが広めているだろう。
だからこそ、だ。
事実上、国連軍と帝国軍は休戦状態。
他の部隊が帝国軍から離れて待機中に、黒旗団は積極的に投入された。
――――――――――最前線の更に先へ。
暗黙の緩衝地帯を踏み越えて、帝国の実効支配領域まで。
(熟練の異世界兵士たちが揃った黒旗団が、敵地浸透作戦に向いている
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・それは嘘じゃない、でも、それだけでもない)
帝国内に居る国連軍捕虜奪回を命じられ、帝国で暴れまわる地球人。
軍規を破った地球人を屠殺して見せる、黒髪黒瞳の地球人。
異世界有数の魔剣を振るう、異世界人を従えた地球人。
非地球世界で知られた、知られぬ旗を振り回す地球人。
徐々に知られ始めた国連旗。
異世界の誰もが知る黒い旗。
しかも一般的国連軍とは違い、敵を全滅させなくてもよい任務。
命を繋いだ大勢の帝国兵や巻き添えの領民。
彼らを介し、広くその名は知れ渡る。
帝国領域と、国連軍は支配をしない非帝国領域。異世界の人々は、恐る恐る出入りする。あちらから、こちらから、他方から同じ話がささやかれる。
それは、信じられる
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・根拠が無くとも。
戦火の中、人々が最も餓えるのは、情報、のようなもの。
信じられたら知れ渡る
――――――――――いや、知れ渡っている。
知れ渡っている、というのは推測ではない。
それは国連軍の長距離偵察部隊が確認している事実。
主に拉致と自白剤で。
確認し続けている。
カタリベが覗き見た、国連軍の資料。そ
れはみな、同じ方向を向いていた。
つまり、管理され続ける、伝聞。
(国際連合が、プランA/B/C、どれをとるにせよ、それは大いに役にたつ)
では、カタリベの前で悲憤慷慨しつつ他世界の流れと全く関係しない事実を憂慮懸念している女は?
そして、その突撃広告媒体を支える腹心の部下
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・というだけじゃない。
カタリベが調べたマメシバ三尉、独自の実績。
これも疑う余地はないし、作為もない。
カタリベから見れば、黒旗団団長よりよっぽど価値がある。
(戦争にまつわる宣伝戦より、多世界文明の融合の方が意義深い)
国連軍も評価はしているだろう
――――――――――その比重が、カタリベの価値判断とは違うだけ。
(マメシバ三尉の実績は、多分に偶然性が高い黒旗団団長の実績、とは意味が違う)
とカタリベは思う。
特に、治癒魔法を即興で現代地球医学と組み合わせた、その事実。
本来、繋がるはずのない生体組織、特に神経。
異世界にはそもそも神経組織の概念がなく、切り離された四肢を、いや指すら戻せた事例は無いらしい。
それを成し遂げた。
魔法使い個々の個人差が大きい治癒魔法。
異世界侵略から半年ばかり、今に至るも詳細不明な魔法魔術。
初対面の魔法使いに協力を求め、初見の魔法を使わせて、患部の見えない先まで推測して、異なる文化の異なる術者に伝達。
多世界初の魔法科学複合医療を実現したのだ。
戦闘中の記録映像他データ。
一週間余り続いた仮設野戦病院での治療、いや、人体復元。
それらはネットに公開され、誰にでも閲覧可能。
作為の余地なき事実として繰り返し繰り返し検証され、今も日本列島中の医師医学者医学生が凝視し続けている。
カタリベも亡き父や自分の人脈を経由して、詳しい検証結果を手にしていた。
まぐれでも奇跡でも、そも、成否以前に実行出来たことだけで、凄まじい。
それはカタリベも疑わない、いや、疑わないどころか、カタリベ自身がマメシバ三尉をそう評価する。
(偉そうに考えることじゃないけれど)
と、自嘲しながら。
たかが大学生あがりの、挫折したジャーナリスト志願者。
それがカタリベの自己評価。
地球人類の行いを余すところなく記録する、選抜された生体アーカイブ
――――――――――という自覚はない。
人類史上初にして、これから多くの者たちがその後をたどるであろう、先駆的業績!!!
政治家に囲われているカタリベ自身と比べ、なんと輝かしい業績か!
が、だから、納得出来ないと言うかなんともかんとも
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・目の前、情熱高く熱弁を振るう、マメシバ三尉。
内容はアレだし、本人もアレな感じ。
マメシバ三尉本人の意欲情熱は、軍人や軍医、いやさ多趣味多芸な得意分野、そのどれにも向かっていない。
ほぼ恋愛絡み以外は眼中にない(控えめな表現)。
それなのに軍務にも優れている不思議系自衛官。
マメシバ三尉が間断なく常に懸命に考えるのが、愛と恋。
ということは、軍務は医術は自律神経でこなしていることに
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・??????????
そんなこんななんかなアレ
――――――――――ここ数ヶ月、現地の少女たちの後押しに熱中、いや、熱狂している。
それを知っている、ここ1ヶ月で思い知らされた、カタリベ。
今もマメシバ三尉の演説を、半ば聞き流していた。
半分聴いていたので、カタリベは思う。
(そもそも、このひと、恋愛経験あるのかしら?)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・突いてはいけない内角高め。
危険球まっしぐら。
恋多き処女、っても、別におかしくはない
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・たぶん。
マメシバ三尉が男慣れしており、男あしらいが巧いのは確かだ。
女の魅せ方は心得ている。
緩急をつけて、芝居に素を織り交ぜて、意図的にフックを引っ掛ける。
しかしだがしかし!!!!!!!!!!
カタリベには、その主張がな~~~~~~~~~~んか、虚構じみて感じるのだ。
日常的な男あしらいは、そもそもが、あしらっているだけ。
(むしろ、距離を置いているみたい)
そして唯一全力総力突破力で挑む恋愛が、身近な他人の恋愛。
それがもう
――――――――――熱すぎて、深すぎて、突き抜けている。
(本気、なのよね)
カタリベの見るところ、マメシバ三尉の言行は一致している。
恋愛とは命を賭けるもの
――――ではなく――――――
命を捨てるもの。
(本当に誰かを好きになったことがあれば、相手のために死ねないと判る、よね)
だからこそ、マメシバ三尉自身は、初恋すら未だなんじゃないか
――――――――――カタリベはそう見ていた。
なにしろマメシバ三尉は親のエゴ、潜在中二病の顕在化症例、児童虐待の代表例
――――――――――キラキラネームの被害者である。
多感な思春期に、まっとうな人間関係を築けた筈がない。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・とまでカタリベは思ってないが、近い事は考えている。
思春期に恋愛、疑似恋愛を体験するのは現代社会のバンジージャンプ、イニシェーションだと言って良い。であれば、本人の才能や努力、幸運すら台無しにするキラキラ・ハンディキャップに潰された少女
―――――――――――マメシバ三尉の青春が垣間見えようというもの。
容姿や才能に恵まれているだけに、太陽の黒点のように目立ち、本人と周りを傷つけだだろう。
実の親に敵意すら向けないのも、頷ける。
カタリベが取材したときの、マメシバ三尉。
軍政司令官を愉しそうに揶揄する。
黒旗団団長の愚痴を本人に聴こえるように零す。
楽しそうに団員たちをこき下ろして、三佐には見え透いたお世辞。
そんなマメシバ三尉が、唯一の家族、両親の話で、一瞬、浮かんだ表情
――――――――――軽侮。
憎む価値すら認めない、塵芥を思い出したような。
価値を向けていない壁に染みを見付けてしまったような。
親が目の前で死んでも、スルーしてしまう。
そう確信できる、表情。
その時
――――――――――叫ばれた。
マメシバ三尉だ。
「聴きましょうよ!!!!!!!!!!」
(え~~~~~~~~~~ぇ)
迫るマメシバ、内心で退きながら、ノートパソコンを閉じる、カタリベ。
「さて」
仕切り直し!!!!!!!!!!
とばかりに皆を見回すマメシバ三尉。
皆、とはアムネスティ・ガールズこと性愛含む類似品のプロフェッショナル。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そしてカタリベ。
「イジメですギャクタイですゴーモンです」
両手を握りしめ、今にも卓を叩き割らんばかりに腕をぶんぶん振り回す。
マメシバ三尉は打撃系戦闘も、それなり。
掌底であど硬くてごつくて筋肉なドワーフを一撃で沈める。
結構危ない。
もっとも、顎先を正確に打ち貫く、視線や身振り(だけ)で構えを揺らしてバランスを崩して転倒させる、などなど非戦闘員なカタリベにはわからない技術を使っているだけ。
打撃力そのものが強いわけではない。
そのものといえば、身長体重に女性の筋組織と骨格を加味してお察しだ。
「大切に護って優しく包んで導いて叱って教えて与える」
(軍政司令官・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・と、あの娘たち、ね。)
「――――――――――でも、手を出さない」
(あー、えーと)
カタリベ以外は、深刻な表情。
つまりはいっつも、ウブだ処女だとカタリベをからかってくる、アムネスティ・ガールズ。
「どんなドS行為ですか!!!!!!!!!!
新しい扉が開いちゃいますよ??????????
いやもう開いちゃった!!!!!!!!!!」
カタリベは思う。
(なんな納得いかない・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・意味が解るのが)
「すでに恋に堕ちすぎて帰って来れない乙女に日々刻々寸暇を惜しんで追撃を惜しまないどころか全力オーバーキル」
(軍政司令官にそのつもりはないだろうけど)
だから余計に深刻だ、という主張もわかるカタリベ。
「まさにこれこそポトラッチです!!!!!!!!!!」
(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・また、懐かしい単語ね)
文化人類学か比較民族学の概念。地球人類種の普遍的特徴。
アムネスティ・ガールズにも、マメシバ三尉の持ち出した単語が伝わっているらしい。
アムネスティ・ガールズ。
彼女たち、日本列島で日本人だけから選抜された一群の若い女性たち。
国連軍兵士最大多数の生物学的衝動を管理するための、造りこまれたシステム。
アムネスティが古典的人権問題の最終的解決を実行する為に、鍛え上げた尖兵。
娼婦。
ある業種に忌避感が無い、薄い、しばしば経験のある健康な女性から。
彼女たちは一様に学歴はないが、むしろジャンクデータを避ける為に、そうあれかし。
極限的な目的に特化した、質が高く極めて小量な、知識と訓練のパッケージを与えられている。
生理学、衛生学と応急医学、臨床精神医学、経営学の基礎と経理知識、歴史考古学など。ジャンルだけで言えば広いが、総量は一カ月以内で反復できるもの。
意味のある有為な実践技術と関連付ければ、特に難しい作業ではない。
あらゆる生物は、その個体にとって直接的に役に立たない、無益なデータの蓄積を拒否するようにできている。生物の持つリソースが限られている以上、それこそが生存に対して優位になるのだから当たり前だ。
誰かにとって役に立つ。
そんなことには全く意味がない。
魚の仕分け方法を八百屋に教えるようなもの。
シーラカンスの生態を、オリンピック選手に説くのと同じ。
いつか役に立つ。
限られたリソースをデットストックにあてる賭博行為。
いつ役に立つ。
ソレが見えてからでないと無駄というより自殺行為。
あくまでも、その個体にとって、即時、利用価値があり、即刻、利益が明確化しなければならない。
この簡単なルールを守る。
アムネスティが実行したことは、それだけ。
どのような生物も生得的な欠陥が無い限り、必要な知識と可能な技能を定着できるようになっている。
それができないのならば、不必要な知識と無用の技能だ。
それは向後も決して身につかず、その個体の役に立たない。
そんな無駄に狂奔させられる、気の毒な人々もいるのだが。
そんな知識の中にはに文化人類学や比較民俗学のアウトラインも含まれていた。
――――――――――互酬性――――――――――
なんのことはない。
贈り物をされたときに、返礼をしたくなる衝動。
もちろん、本能ではなく、文化。
借りを受けたままでは落ち着かない。
贈り物を断るのは気が引ける。
このの感覚は世界中にある。
それゆえにこそ、贈り物、それそのものが暴力となる。
それがポトラッチ。
北米先住民の戦い方。
敵に贈り物をする。
莫大な、希少な、誉れ高き、贈り物
――――――――――相手が決して返礼出来ないほどに。
贈られた相手は、受け取らざるを得ない。
受け取った物は、返せない。
ゆえにしばしば、破壊される贈り物。
死に勝る屈辱を避ける為に受け取り、そのままにすれば死に勝る恥辱に潰される。
生き残るために、自力を超えた財貨を集めて、贈り返す。
――――――――――攻撃と報復。
後はシーソーゲーム。
無限のパイ投げ、報復合戦。
もちろん、どちらかが破綻するまで続く
――――――――――戦争だ。
「あー、わかるわかる」
「ヤりたがらない男に愛されたら」
「なにそれキチる」
「Hじゃないのはイケないと思います」
「はやくなんとかしないと」
「墜ちるわ~~~~~~~~~~!」
「堕ちたいわ~~~~~~~~~~?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・興味?」
「ちょっとだけ?」
「ちょっと、だけ??????????」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――あー、もしもし?




