黄色の場合/Fall Gelb!
『軍政部隊』:「俺」が率いる増強分隊。司令官(俺)、監察官(神父)の二人の将校と下士官一人、兵十名(選抜歩兵2名、衛生兵一名)。独立した作戦単位として活動する為に軽装甲機動車一台と3 1/2tトラックニ台、KLX250(軍用バイク)二台、偵察ユニット四機と機動ユニット、各種支援装備が配備されている。
核兵器?
化学兵器??
生物兵器???
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いいか?
これまでもこれからも、最も多くの人間を殺す、最悪の大量破壊兵器は
――――――――――銃だ――――――――――
《映画「Lord of War」の名シーンをほんの少し脚色》
※この映画は実在する
【国際連合呼称地域名「聖都」/第13集積地/第一交通線ランドクルーザー車内/エルフっ子の後席】
俺の前に道がある。
俺の後ろに道がある。
右と左にも道があるから、十字路だ。
左右の道は何kmも続いている。
前後の道は500m前後で短くて狭い。
左右の道は街道で、前後の道は支道だからな。
そして背後にM-2が二機。
重機関銃、ないし機関砲と呼ばれる口径12.7mmのデカ物。
二台であって、荷台じゃない。
ランクル荷台の二器はノーカウントで両サイド。
俺が、引率中の女の子と乗車している指揮ランクル。
まあ、指揮官、俺が乗ってるだけで指揮機能なんか無いが。
指揮通信系システムなら港のチヌークの中に専用サーバーを持ち込んでいる。
俺自身が持っている情報端末と部下、そしてシスターズやColorfulに持たせている端末がローカルネットを組んでいるから、分隊なのに小隊規模の処理能力があったりするのだよ。
これなら電子妨害(Electronic Counter Measures)を受けてもかなり持つ。
極端な話、上空の哨戒気球、まあ、主な役目が哨戒なだけの通信中継気球を経由してレーザー通信でネットを維持してもいい。
直撃を受けなければ電子パルスだって大丈夫だ。
たぶん。
誰がEMP爆弾を使うんだって話だが。
ECCM(対電子戦/Electronic counter counter measures)対応で良いことでもあるのか?
って言われたら困るけどね。
ない。
って断言するのは悲しいじゃないか。
俺は、良かった探しが好きなのだ。
それが得意とは言わないが。
ECMを受ける恐れが無い世界なら、全部ネットワーク上の仮想システムで十分。なのになんだが、いまだに根強いハードウェアやオフラインへのこだわり。
さてさて
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・きな臭い。
異世界転移前のシステム設計ゆえなのか。
それとも、どこかの誰かが何かをこっそりと知っているのか恐れているのか。
安全保障理事会?
軍事参謀委員会?
合衆国大統領?
三佐のオヤジ?
在日米軍?
三佐?
そういや、年甲斐もなくおどけて、言ってたな、キャラクターを考えろ。
「ソレを作る方法って、なーんだ?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なしなし。
ジブンハナンニモキガツキマセンデシタ。
Take2。
指揮車ランドクルーザー。
俺が魔女っ子たちをひっつかんでいる場所。
そんな8人乗りに11人乗せた車両の、前後を固める荷台タイプのランクル。
部下が乗って来た、今も乗っているランクル。
その荷台にも一門ずつM-2が着いており、部下も一名付いている。
だから、左右のM-2と、背後のM-2は別だ。
背後のM-2。
なにしろ銃手が付く代わりに、カメラ付き銃座が付いている。
モーターにターレットとくれば、二器と言うより二機か。
この変わり種は、俺の前にもある。
M-240機関銃。
やはり、二機。
20m離れた左右前方。
いや、M-240は7.62mm機関銃じゃないかというなかれ。
M-2とは、確かに違う。
そろそろ国産も怪しくなってきた、合衆国兵器産業凋落の象徴。まあ、今どき兵器国産化にこだわるなんぞ、よっぽどのファンタジスタだけではあるが。
対人地雷輸出競争でしか中華人民共和国と張り合えない合衆国兵器産業が、ベルギー製の傑作機関銃FN MAGをまんまコピー。
実戦を想定して勝ちたいと思うなら、自前の兵器開発にこだわるわけなんかない。実戦だけには、だけには、不自由してないからね合衆国は。
戦争反対軍需賛成!!!!
兵器なんて飾りです!!!!
頭の緩い人にはそれが判らんのです!!!!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・おお、どこかの国で、国産にこだわるわけが判ったぞ?
それで死ぬのは自衛隊員なんですがそれは基本耐久試験スルーの謎銃器ばっかだから別にいいっていうか米軍から装備貰っているからいいんですかそうですか。
異世界転移後もそれで困ってはいないから、まあよろし。
他で困っているが。
それはともかく。
M-2は合衆国が生んだ永遠のベストセラーである。
合衆国兵器産業、栄光の時代。
第一次世界大戦から第二次世界大戦までの、カラシニコフさんと違って後継者に恵まれなかった、ブローニングさんが元気だったころ。
M-240とは違うのだよ。
だが同じ。
異世界では同じ。
何が同じかって?
M-2もM-240も銃手がいない無人にして、誰も映像を見ていないカメラ付きで、各種センサー連動。
第13集積地、十字路の規格。
規格、ってからには嫌な予感がするだろう。
それはきっと当たっている
同じ仕掛けが山ほどあるのだよ。
そしてあるいは、外れている。
その仕掛けは、此処だけじゃない。
第13集積地だけの特殊事情じゃ、ない。
木造建築物が街道に面して、壁状に並ぶ。
壁と街道の間、500m程が地雷原。
だがしかし、壁にも隙間がある。
それは壁に囲まれた地域からの出入り口。
約20m幅の出入り口から街道まで。
その道には地雷も敷設されていない。
その道は対照になっている。
同じような構造の壁と地雷原は、街道の両側に続いている。
だから、出入り口も両側に同じように造られていた。
だから、十字路。
前後に長く々続く街道。
出入り口から街道につながる、地雷原に引かれた左右対照の道。
十字路の中心にはM-2が二機。
十字路中央の四角い四隅には、M-240が一機ずつ一組二機。
その砲口、銃口は両サイドの出入り口に向いている。
街道と出入り口を結ぶ、幅20m、長さ500m程の場所。
それがオフェンス・ゾーン。
【聖都/内陸側/らんくる前席/青龍の貴族の前席】
なるほどね。
らんくるの横、窓から臨む、仮面越しの黄色い光。
あたしたちは未だに土竜、らんくるの中。
青龍の貴族、その命令を聞いていた。
――――――――――命令?
っていうより、お話し
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・気持ちは解るけれど。
あの娘、妹分、Colorfulが青龍の貴族に甘えているだけ。
彼、青龍の貴族、その命令はいっつも、端的。
ううん、普段の会話からして、端的。
あたしたちをからかう時だって、二言三言で内心をえぐって、赤面させてのたうち回らせる。
だからまあ、青龍の貴族から言葉を向けられたら、みんなが食いついちゃうのよね。
何とか引き延ばして、と意識して考えなくてもおなじこと。
やっぱり、長く話していたいじゃない?
結局は後で後悔するんだけどさ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・青龍の貴族、その邪魔をしちゃった!
って。
とは言え、そのお陰で判ることは多いから、決して無駄じゃないわ。
あたしたちは青龍の概念に馴染みがない。馴染みが無いから、質問が手さぐりになるし、話したい一心でも、言葉を連ねているうちに形をとる。
だから彼、青龍の貴族も付き合ってくれているのよね。
あたしたちのことを、自分の物だと断言する程度には、気に入ってくれている。
でも、無駄なおしゃべりに付き合ってくれるほど、バカじゃない。
あたしが聞き役に徹しているのは、そういうこと。
それでわかった黄色い世界。
街道の真ん中、その四方に佇むゴーレム。
迷宮の門番、城や宮殿の宝物庫。不眠不休のゴーレムを仕掛ける
――――――――――発想は、定番よ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・値が高くて手が届かないのが普通。
それに、かえって不便。
誰も出入りしない前提の迷宮ならいいけど、そんな場所は少ない。
誰も出入りしない宝物庫はないし、通らない道もない。
常に同じ者が通るなら、まだいい。
ゴーレムに一度、条件付けすれば済む。
でも、そんな訳がない。
重い宝物の出し入れ、それに伴う人手、不定期の重労働。
その時に使える者を使って、当たり前。
その都度、ゴーレムを創った魔法使いを呼んでくる?
ゴーレムに魔法をかけさせ、攻撃させないようにする?
そんなことだけの為に、ゴーレムを創れる魔法使いを、ずっと待たせる?
有り得ない
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・丈夫な鍵に屈強な番人で十分よ。
それを、青龍は首輪で片付けた。
首輪を付けていないモノは、壊せ。
つまり、あたしの首にも付いている、それ。
青龍の貴族から初めて貰った装身具。
腕輪や脚輪も貰ったけれど、そーいう役目もあったのね。
もちろん、彼の好みでもあるんでしょう。
それは、貰った後で直接、聞いて確かめたし
――――――――――別に皆で詰め寄ったりはしてないわよ?
青龍の貴族は、あたしたちの質問に面食らっている様子もあったけど。
まあ、当たり前よね。
青龍の貴族が女に与える装身具、彼の好み以外に何がある訳がない
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ほんとうに、よかった、わ。
でも、納得
――――――――――首腕脚に在るのは、青龍の貴族、彼のモノであるという、証。
服や鎧に隠れていても、青龍のすべてに伝わる。
青龍の魔法で、あたし、あたしたちと青龍の貴族の関係が広く
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・う、見られてる見られてる。
あたしは顔を引き締めた。
その必要性だって判る。
別に、あたしたちを見せびらかしたいわけじゃないと、たぶん思う。
他の男が近づかないように、って面が、たぶんあまりないんだろうな、と、でも全くないわけでもなく、それはきっと、あたしたちをその面では信頼してるっていうか、まあ、支配している自信があるからだろうけれど。
ゴーレムを含む青龍全体に、あたしたちとの関係を知らせる所以。
あたしたちは、青龍一般とは見かけが違うものね。
あんなに黒い髪や瞳はどうにもならないし
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いーのよ。
染めるな、って言われたし。
染めなくていい、じゃなくて、染めるな、だから、きっと気に入ってるのよね?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・でも、自慢の銀髪は、身の証にはならない。
太守府に居る時だって、あたしたちを見知っているのは一握り。
青龍に限ればね。
住民に限れば、いまさら知らない者がいるとは思えないけれど。
あたしたちが青龍の貴族のモノだって。
領民に知られても、青龍に伝わらない限り、意味がない。
あたしたちと青龍の貴族、その関係を知っているのは、青龍の貴族が直率する騎士団のみ。
他の青龍。
何百人もの黒旗団。
青龍の公女が連れて来た百を超える工兵軍。
そして、太守府の外、青龍の世界。
青龍の貴族、彼と生きる以上、避けられないこと。
ただ通じ合っていれば済む、訳がない。
青龍の世界に、あたし、あたしたちが、身の証をたてなければならない。
青龍の貴族、彼のモノだって
――――――――――魔法で布告済み、だったなんて♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・緊張感、緊張感。
責任、重大よ。
べべ、つに、奥方になるわけ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・じゃない、けど、そう!!!!!!!!!!
彼、青龍の貴族だけを見ていればいいってわけじゃないのよね。
青龍の、他の貴族や騎士、龍や帝国の捕虜、それにそれに
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・青龍になる、なれるわけじゃない。
あたしたちは、あたしたち。
青龍とは別な世界の存在。
青龍の世界、その外縁に、連れられているだけ。
だから、だからこそ、上手くやって魅せようじゃない。
あの娘と違って、捨てられる心配はしていないわ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あんまり。
でも、あたしは欲が深い。
もっと良く魅せたいじゃない?
競争相手が少ない、こともないけど、いつもより少ない今のうち。
あたしも、あたしたちも、やってみせるわ!!!!!!!!!!
【聖都/内陸側/らんくる中席/青龍の貴族の左膝上】
わたしは、自分の拙い知識をおさらいしました。
ご主人様の魔法。
黄色い光、これはつまり、結界ですね。
わたしが知っている、今は亡きお父さんの結界。
太守府のおうちにはってある、それ。
それは人の出入りを妨げるもの。
通る、という、進む、という気持ちを逸らすもの。
青龍の結界は、もっと直接で荒々しい、です。
結界に立ち入るのは、青龍が許した者。
それ以外が立ち入れば、人でも物でも撃ち砕く。
青龍の方々は、脅したりはしません。
言い聞かせたり、注意したり、罰したり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ご主人様も同じ。
命令に従うこと。
判るまで尋ねること。
従わなければ、従えなければ、死。
殺すぞ、なんていってくだいません。
ただ、命を奪って、おしまい。
――――――――――ご主人様も、同じ、ですね。
この、黄色い光、結界も同じ空気を感じます。
わたしたち以外が踏み込めば、たちどころに殺される。
傍らのゴーレムが撃ち出す飛礫。
それは青龍の騎士さまの銃から飛び出す物と同じ。
一粒で一人が死ぬ。
わたしたちの背後、もっと禍々しいゴーレム。
それは、もっともっと強い。
ゴーレムたちは、考えます。
わたしたち以外を殺せば、わたしたちを守れる。
青龍の方々は、そう考えます。
従う者を守るため、それ以外を殺してしまおう。
わたしが誰かに襲われたら
・・・・・・・・・・・・・・・・・敵意を向けられたら?
――――――――――人が、死にます――――――――――
わたしに出来ることは
――――――――――誰かが、わたしを傷つけたい、と思わせない、こと。
【国際連合呼称地域名「聖都」/第13集積地/第一交通線ランドクルーザー車内/エルフっ子の後席】
俺は、少し反省。
こわがらせすぎたかな?
とはいえ、怖がらないとこれまた困る。
だがまあ、オフェンス・ゾーンの行動規範も、伝わったようだ。
自動機銃。
古くは東西ドイツ国境などに仕掛けられたのが有名。
爆発地点が安全になってしまう地雷。
これに対して持続的な封鎖能力を買われた自動機銃。
簡単なセンサーに連動して標的を撃つ。
バリエーションはあるが、それだけだ。
ここ第13集積地では、今は、オフェンス・ゾーン限定。
ゾーン外からも関知出来る音響センサー、画像センサーで動体を捕捉。
その前にIFF対象は除外。
ゾーン内に入った瞬間に発砲。
標的の規模にもよるが、先ずはM-240。
毎分650発以上の7.62mm弾が降り注ぐ。
まあ、発射時間は1秒以下が平均値。
射程圏は800m以上。
当然、オフェンス・ゾーンを越えて、弾幕が及ぶ。よって、オフェンス・ゾーンに認証以外の誰かが入り込むと、多くの巻き添えが出かねない。
一応、俯角をとって、なるべく地面に当たるようにして、コレだ。実際の有効射程圏は1800m。殺傷能力が落ちてもそれ以上の範囲で人が死ぬ。まあ、オーバーキルだよね、今は。
そしてその後ろの銃座。
M-2重機関銃。
有効射程圏2000m、発射速度毎分485~635発。
まあ、単発で撃つこともあるのだが。
設置してから今まで、ここでは、一度しかつかわれたことはない。
古典的な名機だけに、信頼性抜群。
それでも作動不良を警戒して、二機配置。
在日米軍兵站庫に有り余ってる。
M-2については、オフェンス・ゾーンだけが目的じゃない。
十字路ごとに配置することで、主に街道全体を管制しているわけだ。オフェンスソーンと違って街道に入るとすぐに撃つわけじゃないが。
オフェンス・ゾーンで気をつけるのは、M-240。
どう気を付けるのかと言うと、黄色の光に囲まれた場所で戦闘になったら、まず止まる。自動機銃は機械制御だけに重い銃座とサスペンション的な何かが射撃反動を吸収する。
つまり命中率が高い。
だが銃自体、発射速度も高い。
しかも機械制御だけに融通性がない。
IFF対象の周りだけ加減して撃つ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そんなプログラムはない。
IFF対象に掠りかねない場所でさえ、連射してくる自動機銃。だから、敵味方が錯綜している時に動き回れば、どうなるか。
――――――――――言うまでもない。
だから、止まってしゃがんで、後は自動機銃に任せる。
オフェンス・ゾーンでの戦闘ルール。
千人やそこらなら、一分で片付ける。
今までの最高記録は
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・知らんでよろしい。




