白骨街道

「死んだ犬は犬じゃない。犬の形をした肉だ」

――――――――日本漫画史上最高傑作にて交わされた名セリフ――――――――

無神論者と自称する人々が居る。

自分は神を信じていない、という人はありふれている。

信仰は特にない、となら、誰しも言うのではないだろうか。

人間の死体。

あなたは、何を感じるかな。

恐怖？

興味？

忌避？

それは、なんだろう？

物言わぬ、二度と機能しない、有機物の塊。

論理的に言えば、それは「人の形をした肉」だ。

では、そう感じるだろうか？

それが、親しい人の死体なら。

例えば、親の死体なら、どうだろう。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・信仰とは、そういうものだ。

それは、一神教の言う「神」ではないし、聖典に書かれた「教え」でもない。「ご利益（りやく）」でも「罰（ばち）が当たる」でも、天国でも地獄でも、ない。

信仰とは何か？

―――――――――――非存在への不合理な畏れ―――――――――――

親しい人の死体に、何かを感じるのであれば、無宗教ではない。

せいぜい「信仰に対する無精者」程度だろう。

ソレを持たない。

であれば、無神論者ですらない。

神を論ずる以前のモノ。

愛した人が死んだあと。

その死体をゴミ箱に捨てる。

ソレが無宗教。

世界のどこでも「あなたの宗教は何か」を気にしない場所はない。

ソレを問われて「無宗教です」と答えれば、ソレを信じてしまいバケモノ扱いされる社会も少なくは、ない。

大抵の社会では、答えた相手の無知を、笑って受け流すだけだけど。

これがその理由。

【異世界大陸北東部/国際連合呼称地域名「聖都」/第１３集積地/港湾地区ヘリポート】

俺の目の前には、歴史そのものがあった。

日本が世界に誇る戦略／戦術兵器。

転移前、瞬く間に世界市場を席巻した、歴史的名機。

ソレは、戦争在るところ必ず存在する。

国家が無くとも、法律が無くとも、軍隊すらいなくとも、ソレだけは稼働する。

数多の戦士を支え、幾多の政権を転覆し、無数の敵を葬らせた。

戦士たちは言う。

ＡＫとコイツがあれば十分に過ぎる

―――――――――――――――――――――――――弾薬も燃料も食料も女も、徴発すればいいのだから。

時に、大統領府を包囲して。

ある時は、王宮に突入して。

ちょくちょく村街を突っ切る。

思想信条出生不問。

人種平等性差別反対。

反政府親政府無政府御用達。

クーデターからカウンタークーデター、赤色テロから白色テロまで何でもござれ。

愛され続けて半世紀以上♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪

これからも愛され愛してる♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪

武装集団が崇める真の戦友♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪

同志が転向しても、コイツだけは裏切らない

―――――――――――――――――――ランドクルーザーｂｙ、Ｔ○Ｙ○ＴＡ。

いやいや、ＴＯＹＯＴＡじゃないですよ？

Ｔ○Ｙ○ＴＡだから。

え？

これ、乗るの？

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・乗り心地は良いけどね？

ＨＭＭＷＶより

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・異世界にも、異世界の海外でも嫌がった、

いや、居やがったよ！！！！！！！！！！

【大陸北東部/「聖都」/港湾と待機地区間/青龍の貴族の左前】

「人はＡＫのみにて殺すに非ず。ラン○ルは最期の審判世紀末以後も鳴り続ける喇叭なりし。かの聖なる帝の乗車基盤はラ○クル」

「「そーなんですか？」」

「前向きなさい」

あたしは妹たちの顔を向けさせる。

「「はーい」」

青龍の道化、その戯言に頷いてた妹たち、とＣｏｌｏｒｆｕｌ

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・心配だわ。

「ＯＫ！！ＯＫ！！！」

アンタはね。

「主は言われました」

あら、真剣な顔？？？？？？？？？？

「嘘は愉快なり真実は不快なり」

なら、今の話は不愉快なんだけど、真実だとでも？「

快不快は汝が心奥にあり」

？？？？？？？？？？？

【異世界大陸北東部/国際連合呼称地域名「聖都」/第１３集積地/第一交通線】

事実とは言ってない。

やっぱり日本語達者だよな？

子供を煙に巻く神父を、俺はとりあえず放置。

子供は大人に騙されて大きくなります

―――――――――――――――――――――――――――車外に広がる事実を、意識させないため。

近くを見れば、舗装路の路方。

帝国式街道、都市内においては石畳。

ここのように都市外においては砂利道だ。

帝国にとって街道は全て軍用道路。

幾万の兵士が携える武具は、現代軍隊より重い。

ゴーレムや土竜は何十ｔもの重量、その反動を真下に叩きつけながら進む。

それらの軍隊を支える幾万の馬車列。

いずれも重量物。

その過重に、繰り返し繰り返し、耐えられるように造られている道。

具体的には地盤地質を探ったルート設定。

幅広く余裕をもって潤沢な資源を見積もられた道路計画。

深く深く掘り起こされ、岩、石、小石に砂の層を幾重にも重ねて踏み固める。その上をなだらかに舗装する、砂と砂利。

そしてもちろん、街道は消耗品。

常にこまめに、必要とあらば根本的に造り直す。

実際に人の手になるものでメンテナンスフリーなんて、今も昔も有り得ない。

年度末に繰り返される公共工事。

それが無くなれば、インフラは維持できない。

合衆国のように細かい土建屋がいない国では、必要に迫られなければ工事をしない。

常に人が必要とされないから、票にならない。

票にならないから予算が付かない。

その結果？

事故が起きるまで修理がされない、なんて事が稀に良くある。

壊れないうちは使う、それはそういう事だ。

財政負担は最小限に抑える、代わりに人が死ぬ

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――土建屋政治の真実。

この異世界では、帝国統治下では、そうではないようだ。もちろん、どぶ板民主主義に基づく利権政治とは違う意味で。

例えば街道の傍らには、道路表層をすぐに舗装し直すために、資材が常備。

これはとっくに戦火が収まっている、今は遠き太守領でも同じだ。ましてや、反帝国拠点大都市陥落から半年もたたないここ、聖都周辺の街道ではなおのこと。

さらに異世界大陸の半分を戦場にしている俺たち国連軍。だが、その進撃路は、大陸東方を征した帝国軍主力数十万、予備を含めれば百万、支援人員を含めれば数百万が西へ西へ、新たな征途へ進んでいった交通線。

おかげで国連軍の車両は道に困った事がない。

特大型運搬車も７３式特大型セミトレーラも軽装甲車もＨＭＭＷＶも、そしてランクルも。

それどころかフェラーリだって走れそうな舗装道路が続いている。

そんな素敵道路を走る走る俺たち。

いろいろな武装勢力に愛される、不整地走行能力と整備性最強のランクル。それが完全整地道路を走るとあらば、乗り心地は最高です。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・路肩を見なければ。

補修資材が積まれている。

適当なサイズに砕かれ、箱に納められていたようだが。

今は大半が剥き出しだ。

ちょうど国連軍の占領まで、街道の整備を繰り返していたからだろう。

占領したというか、破砕したというか、意図不明な色々をして、し続けていた大都市の周り。人足だけで１００万人の移動があり、付随する物資の移動が続いていたのだ。

そりゃ、街道の補修も常時必要だろう。

多少の段差があるだけで、荷車手押し車の移動効率が下がるのだから。

常時必要な街道の補修。

その為に、常時街道に用意されている豊富な資材。

それは白く堅そうな、実際にはさらに砕いて使う、と想定出来る

――――――――――人骨――――――――――

【大陸北東部/「聖都」/港湾と待機地区間/青龍の貴族の右膝】

（ちいねえ様？）

と言いたげに、あの娘がこちらを窺っています。わたくしの視線に気が付かせないように、あの娘を抱きしめました。

「ふゃやわゃ？？？？？？？？？？」

もみくちゃにしながら、あの娘の顔をご領主様へ。

ちょっと強引かしら？

でも、ご領主様に顔を向ければ、しばらくはみとれていますから。

わたくしも、路傍から目をそらします

――――――――――まったく、悪趣味なこと！！！！！！！！！！

あの娘が見たら、泣き出すわ。

わたくしだって、ご領主様のお側に居なければ

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・怖くなったかも。

今、恐ろしくない、とまでは思いませんけれど

――――――――――泣いたりいたしません。

あの娘、ねえ様わたくし自身も

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・誰かの死を感じれば、わたくしたち自身を連想してしまうわ。

死ぬのも死なせるのも、怖いこと。

大切な誰かが居なくなる。

考えたくなくとも、思いがよぎります。

わたくし、そんな気分を笑わないといけないわよね。

なにしろ、お姉さんですから！！！！！！！！！！

実際に笑えるのは、

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ご領主様、その腕（かいな）の中であればこそ。

【異世界大陸北東部/国際連合呼称地域名「聖都」/第１３集積地/第一交通線】

異世界には神がいない。

俺はつくづく、それを思い知る。

つまりこれは、アレだ。

海岸近く、山は遠く、平らな耕地が広がる平野部。岩や石の代わりなら、聖都、未だ原型を残している都市から剥がしてこれる。

だが、足りなかったのだろう。

何が足りないって、路面の段差を調整して、滑らかに車輪を走らせる砂利砂が。

石を砕くのは大変だしね。

少なくとも帝国軍の指揮官にとって、人骨は、ただの骨にしか見えないのだ。

骨と言って悪ければ、カルシウムその他の塊、加工しやすい資材。

それに意味を付加したりはしない、出来ない。

おそらくソレは

――――――――――自然界そのものの感覚。

地球でもそうだ。

集団的動物の多くは、互いに支えあう。

中には象のように、仲間を介護する担当らしきものを決めている集団まである。

だが、弔いはしない。

死体は

――――――――――無意味だからだ。

ＵＮＥＳＣＯ調査団は、国連軍部隊が無視した点に注目した。

ここ、聖都で見つかった、白骨街道。

まずは、捕虜に尋問。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・感想を聞けば、キョトンとされるらしい。

それこそ俺たちが、路傍の小石の感想を聞かれるようなもの。

何を訊きたいのか、それ自体を捕虜に認識させるのが大変だ。

認識させた後、理解させるのは不可能だった。

――――――――――ＵＮＥＳＣＯレポートより。

色盲の人間に、特定の色を理解させるようなもんだな。

では、それは、帝国だけの感覚、なのか

――――――――――さて？

帝国軍は、言ってしまえば多国籍軍。

国なんて概念がない中世基準を考えれば、語弊があるか？

だが、帝国軍が一民族の集団ではない、ということは強調しすぎではないだろう。

この大陸東半分、広大な空間で個々に孤立していた諸族。

竜と魔法を前提としない限り、距離はそのまま壁となる。

邦々、国々、街々、諸都市。

それぞれが、接する、多くても四周しか認識せずに過ごしていく百年。

河や海、山々に大森林に面していれば、なお少ない。

帝国以前には大陸、という認識すら無かったはずだ。

船乗りや巫女神官に魔法使いは特異な例外。

つまり、異世界の共通統一スタンダードな感覚は造られなかった、はず。

そんな共通項の無い人々を、少数派の騎竜民族が力付くて集めたのが帝国軍。

ならば、帝国軍の感覚は異世界世界の自然な発想なのかもしれない。

であれば、シスターズ＆Ｃｏｌｏｒｆｕｌは帝国軍一般と同じ感覚を持っている、かもしれない。

であれば、人骨の山を見せたとしても子供たちにも影響がない、かもしれないが

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・今は安全策を続けよう。

この子たちが、白骨にキョトンとする姿なんぞみたくない

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・っていうのは、恥ずべき押しつけですねすいません。

俺はワガママで図々しい大人なので、口先だけで反省します。

【大陸北東部/「聖都」/港湾と待機地区間/青龍の貴族の左前】

あの娘は、気が付いて、ない。

あたしは

――――――――――ほっとした。

あの娘の、あの娘らしさ

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・他人の苦しみに弱い。

もちろん、それは気のせい。

他人の苦痛を無理やり伝える呪いや魔法、奇跡、なわけないわね。

それは、あたしが何度も確認した。

実際に誰がどう感じているか、じゃない。

例えば、苦しんでいるお芝居をみても芝居と気が付かぬうちは、あの娘は苦しむ。

悲鳴を聴けば、血の跡を見れば、怪我人や死人を思って青ざめる。

病気を装った物乞いに、涙するのは昔から。

あたしが下手な芝居を暴くと

――――――――――――――――――――救われたように喜ぶ。

それが、あの娘。

あたしは大好き、妹分も気に入っている。

そして、それはとても危うい。

それはきっと、彼、青龍の貴族もおなじ。

あの娘の危うさを、とても気に入っている青龍の貴族。気に入っているからこそ、苛めはしても壊すことが無い、青龍の貴族。

だから、彼、青龍の貴族は、あの娘の眼と耳を、時には心を塞いでくれる。

彼は隠し事をしない。

伝えないけど、隠さない。

長所も短所も、どうでもいいみたい

――――――――――それが自分のことである限り。

教える？

教えない？

どうでもいい

――――――――――どーでもいいから、あたしたちに命じる。

好きに訊け、知るべきも知らぬべきも、順番も、好きに決めろ。

あたしたちを縛る、命令。

――――――――――好きにしろ――――――――――

でも、あたしたちを従えている。

あたしたちが、彼に心地好いように。

だから、あの娘の目を塞ぐ。

知るべき、見るべき、感じるべき

――――――――――それは、彼が許したモノだけ。

あの娘が泣くのを許されるのは、彼、青龍の貴族の為だけ。

その為だけに、鳴けばいい。

傍若無人、ではなくて、他者を知る術を持たない、そんな感じがする。ただ強者であるから、そうなった、だけなのでしょうね、たぶん。

たぶん。

おそらく。

かもしれない。

彼は、解ってないでしょう。

あたしたちは、それすら判らない。

だけど、だから、信じられる。

青龍、じゃなくて、青龍の貴族は、あたしたちを、あの娘を従える。

壊さないように、壊れないように

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ソレと知らずに壊してるんだけれど。

それがとっても、愛おしい。

それぐらいに、あたしたちは壊されている。

あたしはそれが、嬉しくて、愉しくて、苦しくて、嫉ましい。

だから、あたしたちは一緒に眼を逸らす。

あの娘は彼のモノ。

権力と、武力と、あの娘への支配。

見るな、と望めば、あの娘は従う。

見せるな、と願えば皆がそうする。

失せろ、と示せば消し飛ばす。

見ろ、と言えば青龍の貴族以外なにも見ない。

彼に閉じ込められていれば、あの娘はずっと笑っていられるわ。

それでいい。

あたしは、あの娘の目を見て、妹分が続くのを確かめて、青龍の貴族に向きなおる。

「あいつら、なんなの？」