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完全侵略マニュアル/あなたの為の侵略戦争  作者: C
第六章「南伐」

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212/1003

昔は今、今は昔

【用語】


『青龍』:地球人に対する異世界人からの呼び名。国際連合旗を見て「青地に白抜きでかたどった《星をのみほす龍の意匠》」と認識されたために生まれた呼称らしい。


『赤龍』『帝国』:地球人と戦う異世界の世界帝国。飛龍と土竜の竜騎兵と魔法使いを組み合わせた征服国家。70年ほどかけてユーラシア大陸に匹敵する面積を持つ大陸の東半分を征服した。特段差別的な国家ではないが、エルフという種族を絶滅させる政策を進めている。


『魔法』:異世界の赤い目をした人間が使う奇跡の力。遠距離の破壊、伝達、遠隔視、読心などが使える。魔法使いを帝国では組織的に養成しており、貴族に準ずるものとして扱われる。


『科学技術』:異世界ではすべて魔法として理解されている。ゆえに地球人は全て魔法使いとして見られる。



盟約歴72年12月24日


星辰の極みに魔法昇華。

星都大神宮結界破壊。魔導師258名呪死。同1769名再起不能。正魔法使いの2割。痛恨の極み。学徒動員懸念。

西征延期上奏決。殿下打診。


当日、大神宮入城。先陣幸い。親衛隊特別行動班、異端審問官前衛隊、計画通り。

抵抗なし。神殿にて戦える者はすべて戦死。

星都内は女子供、傷病兵に老人のみ。神宮内は加えて巫女、年端もいかぬ未熟者のみ。親衛隊、前衛隊には屈強歴戦の兵に魔法使い。過大。

傷病者の断末魔。上から下に子供の泣き声。捕らわれた女たちが死体を引きずる音。後刺殺。

血脂にまみれた槍剣が荷車で後送。研ぎ仕立て直された槍剣が前送。

奪わず。辱めず。一人一人。異端審問会決議。放火も略奪もなし。不要な暴力もなし。

審問官監視、要虜囚見逃防止。

棚、梁の上、井戸、茂み、虱潰しに目視確認。確実に。


幾多の落城を見た身には異様。歯車のごとき血肉の流れは阿鼻叫喚より一層汚壞なり。


同日、姫巫女と再会。


≪国会図書館所蔵:回収文献集より≫





抵抗の有無に関わらず大神宮内にいる味方以外を全てを掃討する。最精鋭の兵士たちに魔法使いがついているのだから、私の出番はない。


大神宮内に残っていたのは傷病者や女子供が多いようだ。

戦士は市街地の攻防で全滅したのだろう。


誰一人取り逃がさないよう、肢体を確認できるように放火は禁じられ、各部屋、柱の陰から衣装箱まで虱潰しに捜索されている。傷病者ひとりひとりが槍で突かれ、子供は窓から落とされ、女達は死体の運び出しをさせた後刺殺。


新しい槍や剣、斧を運び込み血糊で使い物にならなくなった武具が運び出される。殺伐の最中にも各隊に配置された審問官により略奪や強姦は防がれ、大神宮の秩序は護られていた。



秩序、か。



死体を確認し、掃討するのに、三日。

死体を焼き骨を集め、家々から集めた燃えない財貨を鋳つぶし砕くのに、ひと月。

工兵が神殿建物を崩し城壁を砕き、農夫たちが敷石を剥がして埋め直し都市全体を更地にするのが、半年。

掘り返した大地に塩を鍬込み、都市と耕地に一年かけて呪法の結界をしたてる。



日程を考えてたのは逃避だったのかもしれない。

だが、足取りは鈍らぬばかりか、知らず知らず速くなる。



星都の中枢。

誰よりも何よりも護られるべき。


帝国魔導大元帥を阻める者はいない。


大神官たる巫女姫の居室に真っ先に向かった。

扉の前には青ざめた巫女が立ち、帝国軍、魔法騎士に率いられた魔法使いと騎士に対峙している。

巫女はみな見習いばかりで人材の枯渇が伺える。


姫の側付がこの程度の者だということに怒りがわいた。例え世界が滅びるのだとしても、ここだけは熟達の者たちを配さなければいけないのに。


無力を自覚している巫女、いや少女達は、それでも立ちふさがる。

名乗ると道を開けた。


巫女姫から命じられていたのだろう。


帝国騎士達は名乗りを聞いて顔色を変えた。

傍らの高位異端審問官が頷いてみせた。

重々しい扉が開き、閉じられた。



70年。



この部屋を訪れるまでに費やした日々。

いや、ちがう。

姫に御会いするまでの日々。


「姫巫女様」

私は自然と跪いていた。

軽やかな笑い声が響く。あの時と同じ声。


「やっぱりキミはおもしろいなぁ」


あの時と同じ(かんばせ)

いたずらっぽい表情。

性別を意識せず、ゆえに女を感じさせる仕草。

すべてを包み込む空気。


あのころと同じだ、まったく。


「だーめ!うちが先」


口を閉ざされた。


「ここ半世紀『わたくし』なんて言ってたんだよね~あ、ゴメゴメ」



前に立たれる。

そっと、この老骨を、抱きしめられた。

あの時のように。


「かんにんな」


おもわず、面を上げてしまった。

星都を、姫の都を、国を今まさに滅ぼさんとしているのに?

私の心が読まれていたのか、と。


「キミの世界を壊してしもた。あんなにあんなに大切に大切に、創ってたのに」


いうだけ言うと、手招きする。


いや、私は苦笑をこらえながら、知った。

姫は姫だ。

他人のことなど全く分かっていない。

気にもしていない。


気にしようとは、している。


ここで落涙するわけにはいかない。

絶対に。



「ほんに壮健でなにより」


姫は仕草で私に顔を上げさせた。


「お茶をくらはる?」


部屋の造りは変わらなかった。半世紀以上たつというのに。姫の隠し場所からとって置きの茶葉を出す。

以前と違うのは、私が魔法で水を生み出して湯に変えたことくらいか。


「変わりありませんね」


姿形はおろか独特の抑揚まで十五の頃と変わらぬ姫。

なにもかも九十に相応しい自分。


お茶を注ぐ。

身についたものは決して失えない。

温度、間合い、量。

何もかもお好みのままに。


「おおきに」


姫が微笑み私に椅子を勧めた。


「いまさらお客様扱いもおかしわ」


と言いながら。


「他にお望みはありませんか」


客と主人にはなれなかった。

奴隷と主、刑吏と囚人。


「赦して欲しい、わ」


私は表情を隠せなかったかもしれない。


「あ、命乞ちゃうよ」


姫が笑った。

命乞いでさえあれば、どれほどよかったか。


「承知の上で願います。帝国にお降りください。姫巫女のお命も安らかな暮らしもお約束いたします。我と皇帝が貴女を守ります」


「遅かったわ~」


私はその時、姫のお心を矜持と受け取った。

機会はいくらでもあった。戦いが始まる前、勝ち目がなくなった時、最後の一戦の前。


いま降伏しても誰も救われない。

そう考えるのも無理もない、と。


では、赦す、とは。


滅ぼす側が滅ぼされる側を赦す?


姫が育まれ育んできた世界は滅ぼされた。

神殿を破壊し、書物を焼き払い、巫女と関わる全てを殺し尽くす。

史書を改竄し口伝を禁じあらゆる痕跡を消す。



我々、私が滅ぼした。











【異世界大陸北東部/国際連合呼称地域名「聖都」/第13集積地/港湾地区ヘリポート】


俺たちが滅ぼした、港。


ここは軍港だった

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・帝国の。


俺たちがやってくるまで、いや、来たかったわけではないが日本列島が転移してくるまでは、この港では数十万の徴集農民たちと軍夫が行き来していたという。


誰もいないが。



俺たち国連軍の管理している港の中では、五本の指に入る規模の大きさ。そして占領した順番でいえば、後ろから数えた方が早い。


港自体は百年前から、この規模だったらしい。

そして、交易を求める商船が最後に入港したのが十年前。

だが当時の姿は絵画の中にしかない。


もちろん、その絵画はUNESCOが収集買収略奪済み。



今、俺たちが降り立った港の形を決め、なにもかも造り直したのは、帝国だ。


以後、昨年までは、この港に出入りするのは軍用の補給船だけだった。

そして今年から出入りした船はない。


帝国軍は陸路撤退したからだ。

帝国はこの港から少し内陸に入った都市、その都市の為だけに異世界有数の港を造ったことになる。




【大陸北東部/「聖都」/港/青龍の貴族の右斜め後ろ】


聖都。


あたしが以前来たときには、そんな名前じゃなかった。

あたしたちが住む太守領から、南、大森林を抜けた遙か先、だけど大陸全体から見れば東北沿岸部にある。昔から神殿がたくさんあり、巫女神官たちが憧れる都市だった。


それは昔、この場所に大きな奇跡を操る姫巫女がいたからだ。

100年は経たない、そんな昔のことだけれど。



元々の始まりは200年くらい前。

この港くらいまでが海の中だったころ。


夕陽が好きな神官が居た。


その、奇跡は苦手でも世話好きで、運が良くて健康で、親切な人たちに囲まれていた。

その神官が、一番好きな夕陽の見える場所。

そこに神殿が建てられた。



それから百年くらい。


最初の神官とは縁がない、だからなのか奇跡に長けた巫女が、その神殿にきた。

北の大地で産まれ、育ち、救い、なにもかも捨てて。

彼女は神殿を囲む街に興味はなく、神殿に住んだ。


自分からは何もしなかったけれど、頼まれても断っていたけれど、この地方には豊作と大漁が続いて災害は起こらなくなった。


神殿には彼女だけが住み、周りに新しい神殿が立ちならぶ。


神殿を中心に街が広がる。

人が集まれば赤い目の赤ん坊も増える。

その子たちを教える為、神官や巫女が集まる。

神官や巫女が多ければお互いに交流する為にさらに集まる。

それでは他の地方が困るからと、一度集まった魔法使いや神官巫女たちが一定の周期で街を出るようになる。


巫女を中心に、神官や魔法使いが集まる街。

大陸で唯一、城壁はおろか王すらいない、不思議な街。

姫巫女と呼ばれはじめた、彼女の少女時代のような、幻のような街。



それでも、聖都、なんて呼ぶ輩はいなかったけれど。



だからだろう。

広い広い無人の港の、はるか向こう。

白亜の城壁に囲まれた何一つ生きるものがいない、無人の大都市こそが、そう呼ばれるにふさわしい。


聖都。




【大陸北東部/「聖都」/港/青龍の貴族の左手背後】


わたくしは、この死んだ港を見回して、立ちくらみを起こしてしまい

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ご領主様に捕まえていただきました。



広い広い、ただ広いだけの場所。


真ん中に飛竜、チヌークさん。

降ろしていただいだ、わたくしたち。

先に降り立ったご領主様の、青龍の騎士さまたち。


騎士さまが、わたくしたちを囲みます。

その周りを囲みなおす、別な青龍の騎士さまたち。


二人一組六方位に、内と外に銃を構える。



おそらくはこの土地を支配している青龍の方々よね。

あらやだ、ご挨拶は、なんと申し上げるべきかしら。


わたくしは、ご領主様の妻。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・まだよね。


友、なわけありませんし。

そもそも、青龍の方々に、友人という観念があるのかしら?


知人

――――――――――――――――――――――そんな程度であるわけが、絶対、ありませんわよ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


ま、考えるまでもない、わね。


ご領主様の女。


これで十分じゃない。

あとは、ご挨拶するのは、いつがいいか、よね。

わたくしたちとは考え方も習慣も違うのですし。違いに不興を抱かれることはないけれど、褒めていただきたいし。


あぁ――――――――――――――――――――もぅ

もっと早く確かめておくべきだったわ!!!!!

考え不足!!!


こうなったら、よくみて機を掴むしかないわね。



わたくしたちを囲む青龍の騎士さま方。

その堅陣、中心はご領主様、に率いられた、わたくしたち。

わたくしたち、それだけを守る、陣形。



いつものことですけれど、それ以外に護るべき者が居ないかのよう

――――――――――当たらずとも、遠からず。


ここにいるのは、青龍のみなさん、とわたくしたち。


わたくしたち以外、弱者がいない、ということなのですから。


不甲斐なさを嘆くべきかしら。

捨て置かれない己が値を、誇るべきかしら。




【大陸北東部/「聖都」/港/青龍の貴族の右斜め後ろ】


あたしが知っていた世界、あたしが知っている世界。

エルフは長生きだから、いいえ、エルフは変わろうとしないから、世界の移り変わりに関われない。

ただただ、茫然と見ているだけ。


それでも、時々考えるわ。


なぜこうなってしまったのかしら?

なぜ、こうなるまで考えなかったのかしら?


人間が先々のことばかり考えて、エルフは昔々ばかりを思い出す。



魔法使いが魔法を、巫女神官が奇跡を。


その頃は、その程度の見方しなかった。

だけど、魔法使いより巫女神官たちの方が集まって協力しがち。


火を起こす魔法使い。

冬の寒さを和らげる巫女神官。


魔法と奇跡。


奇跡は一人には扱いにくく、個々に生きるよりも集団で協力した方が便利だったから。

だから巫女神官は神殿に集まり、魔法使いは世界に飛び出す。


根を張る神殿には、周りで産まれた赤い瞳の子供たちが集まる。


産まれ落ち目が開き、村でも街でもハタと困る。

赤い瞳の意味。

魔法か奇跡かわからない。


人には手に余る、とだけはわかる。


神殿に集まった子供たちは、人間とは違う扱いを受ける。


一人前になるまで、大人が付きっきりで育てるからだ。皆、それぞれの嗜好や資質に合わせて育てられる。


育ち、知り、別れる。


魔法を使うか、奇跡を起こすか。

神殿には奇跡と、世界に飛び立つ前の魔法がある。

だから、人々が訪れる。


国が生まれる前。

国が滅びた後。

人の営み、その中心ではなくても、結び目だった。


――――――――――帝国以前のことだ。




【異世界大陸北東部/国際連合呼称地域名「聖都」/第13集積地/港湾地区ヘリポート】


「現状はご存知でしょうか」


管理責任者は一応、という感じで俺に確認してきた。

俺は知っているし、魔女っ子たちも知っている。

俺が説明したからな。



ここは真新しい埠頭。

帝国が昨年の秋までに造りあげ、一度に十万を越える人足を積み降ろした施設。

もちろん、付随する物資を併せての話だ。


ここから見える広大な廃墟。

廃墟の先には百万余りの労働者。

昨年晩秋には集められ、帰れなくなった人々。


俺たちが攻めてきたからな。



「今は半分程ですが」


労働者の大半は、近隣地域の農民たち。

彼らは故郷へ陸路で帰還出来る。


が、そうはさせじと食い止められた。

だが戦局の安定と共に、まあ、ここ2ヶ月あまりだが、順次、出身地に帰還していった。

近い順に、集団で、順番に。


それ以外は、有り得ない。


帰還した者が従来の生活に復帰し、地域が安定したら、次の集団が出発する。


「手順を繰り返せば、七割ほどは片付きます」


つまり、帰還計画は終盤、と言うことだ。


「いやぁ~十万人も捌けて良かった良かった」


いや、送還計画、か。

陸路で帰せない人々は計画の邪魔だったろうな

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・短気を起こされなくて良かった。


「新記録が生まれるかと」


キル・スコア。

国連軍全兵士エントリーによる、殺人人数記録。

命令による殺人は、命令権者のスコアにカウントされます。


なお、軍政官部門で一位は俺。

意外にみんな、殺してないのね。


「ここは軍政地域ではありませんから」


そーとー殺してるな。


「噂ですよ?」


聴いてね~~~~~~~~~~


「閣下が、これからここで新記録をたてる、のかと」


聴いてね――――――――――!




【大陸北東部/「聖都」/港/青龍の貴族の右斜め後ろ】


あたしは身を固くした。

騎馬がかけて来たから、ううん、騎乗する騎士服と甲冑姿を見たからだ。


前に出そうになって、でも、身構えるだけ。



軽騎兵の甲冑が二騎。

騎士服に将を意味するマントを羽織る礼服姿が一騎。

あたしたち、そして青龍が、だけが居る広大な無人の埠頭。

僅かに三騎の騎馬が走って来る。


そしてその騎乗姿は何れも、同じ特徴、いや、紋章で十分。

赤い龍。


――――――――――帝国軍――――――――――




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