TPO/ドレスコード

種族。

人種。

国籍。

性別。

年齢。

ｅｔ ｃｅｔｅｒａ， ｅｔ ｃｅｔｅｒａ．

人間だから尊重される。

地球人だから賢い。

日本人は誇れる。

女が護られる。

大人は偉い。

いつから錯覚していた？

キミに。

キミ以上の値打ちがあるなどと、なぜ思えたのかな？

【異世界大陸北東部/国際連合呼称地域名「聖都」/第１３集積地/港湾地区ヘリポート】

その男は俺より先に敬礼しながら、管理責任者と名乗った。

管理責任者。

きっちりとした緑の制服。

お互いに無個性な第２種礼装だ。

足元は短いブーツみたいな短靴だけどね。

もちろん裾を靴に入れたりはしませんよ？

戦闘/作業用とは全く違うが、地球の先進国基準で考えればありえないほど劣悪な異世界道路事情。まあ、帝国が整備した街道を一歩出れば自然の草原でしかないそれ。

革靴なんてとってもとても。

だが常に戦闘/作業服ってわけにもいかない。

この世界から見て、よーく見れば素材の違いで異質感に気がついてもらえるだろう。んが、よーく見てもらわないうちに気がつかせるのが制服の制服たるゆえん。

異世界でも地球でも、違和感ってのは人の認識の中で自動的に合理化されるらしい。つまりまあ、戦闘服程度では異世界の人たちに異世界（地球）の人間だとわかってもらえない。

裕福な商人が初めて訪れる村を前におしゃれしている。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・くらいに思われたら、侵略者だよ、って納得してもらうためにどれだけ手間がかかることか。

黒髪黒瞳というこの世界にない特徴。それすら他を圧する小市民オーラで包み隠し、チンピラに襲われかけたことがある俺です。

話しているうちにボロを出して、小市民と気がつかれる自信があります。

ソレを取り戻すために街を滅ぼす羽目になる。

だから俺は、常に制服着用なわけなのですよ窮屈に。これなら異世界住民とまで気がつかれなくとも、貴族か騎士くらいには思ってもらえるから。

寝るときはどうする？

俺も困った。

寝床に異世界の眼が光り続けるなんて思わないものな。

軍事参謀委員会だって想定外。

初日からシスターズが２４時間ほぼゼロ距離。

Ｃｏｌｏｒｆｕｌも参戦。

港街では頭目母子まで加わってきた日には、だらしないカッコなどできやしない。

想定外は処分して想定内に。

って上司の皆さんに、相談できるわけがない。

「まずパンツを脱ぎます」

俺が何を言わずとも曹長が出しゃばってきた神父を簀巻きにして後送。子供たちにマジ顔で何を言っているのかキサマは。

まあ、あの時もしゃしゃり出て状況を引っ掻きまわしていたのだが。

つまり太守府について最初の夜。

浴衣（下着無し）だの褌　（のみ）だのエデンの園Ｖｅｒ（全裸）だの。イチジクの葉っぱを手配しているのを見たときは、思わず撃ちそうになってしまった。

いやいや、俺の腕じゃ５ｍ離れたら当たらないけどね。

ガバメントは重くてデカイ。

あんなもんで抜き打ちで当てられるなんてよほど近距離だけだ。

日本人の体格には合っていないんじゃないかと、Ｍ-１４と合わせて批判が絶えない。んが、武器に体を合わせろ、が合衆国大統領閣下のお言葉だ。

そもそも兵器は人間一人を一撃で殺せるように造られている。扱いやすくして威力を落とせば、殺されるのは自分だ。

５.５６ｍｍ小口径高速弾がいい例だろう。

威力不足で殺しきれず、撃ち返されて味方の死体を増やした。三連射という工夫を加えて、照準精度が下がり、しかも弾薬数が多いという唯一のメリットを台無しにする有様。

威力がまず先に在り、後は重さと体格に合わせた取り回しを確立する。

それを工夫し身に付ければいいだけのこと。

実際、軍政官訓練キャンプで豚の臓物にまみれながら訓練させられた。おかげでとっさに撃つときは自然に両手で保持している。

それでも当たらなかったけどさ。

とはいえ、異常な神父に普通にドン引きしたシスターズ＆Ｃｏｌｏｒｆｕｌ。

俺は王城での睡眠時、普通にパジャマで落ち着いた。

では、子供たちは？

異世界では寝るときは裸が普通らしい。

ソレは健康法とかこだわりのスタイルとか、そーいうものでは全くない。

衣服自体が貴重品。

使えば痛む消耗品。

寝るときになんで服を着るのかその方が不思議。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なのだとか。

いえいえいえいえいえいえ。

シスターズ＆Ｃｏｌｏｒｆｕｌはちがいますよ？

いつも夜着を着ています。

夜着っていうジャンルはあるから。軽く薄い、動きやすく着やすく脱ぎやすい。そんな感じの服は都市部の富裕層には一般的だとか。

夜の着物、という語感ながら、夜はすぐに脱いで寝ちゃうけどね。照明が貴重なことは中世準拠の世界では当たり前であり、富裕層でも変わらない。

お嬢の家なら一晩中館を明るくしても大丈夫、だとかで、実際にやった事は何度もあるようだ。だがしかし、話を聴く限り、あくまでも子供の遊びとして、なんだな。

そりゃそうか。

照明の燃料代を気にしない大富豪でも、商売相手の大半は燃料代を気にする富豪以下。自分の家だけ明るくても、仕事になるわけがない。

だから夜着といっても、身に着けるのは夕方から陽が落ちるまで。夕食や夜寝る前の準備を使用人に任せられる、都市部中産階級の習慣になる。

どちらかというと、部屋着に近い考え方なのかもしれない。

でまあ、上流階級なシスターズ。

上流階級と一緒に暮らすことになっていたから、その習慣を仕込まれているＣｏｌｏｒｆｕｌ。

１７時以降は全員集合。

退勤時間後だけに誰もいない軍政司令部へ。

俺はいるが、歩哨は外。

俺が寝るまでは、部屋付きのメイドさんもいるか。

訂正。

みな、俺がいる軍政司令部に集まる。

俺は勤務時間中に夕食を終えている。

参事会のお偉方との会食になる場合があり、ソレが概ね１７時前、夕方だからだ。

会食だろうと一人飯だろうと、まあ、シスターズが調理や給仕をやってくれるんだけどね。その後、隣室や湯殿の上り口で着替えてから、またやってくる。

自由時間なんだから好きに過ごせばいい、とは言えない。

みんな微妙な立場だから、地球人同伴じゃないと危険だし。地球人の中でプライベートな時間まで付き合えるほど暇なのは俺だけだし。

おかげでシスターズに至っては、未だに私室の割り振りを断固拒否。

俺のベッドに間借りしたままだ。

Ｃｏｌｏｒｆｕｌは一応、部屋をしつらえたのだが続き部屋。

軍政司令部

隣が俺の私室、っても寝るだけだが。

さらに通り抜けた隣室がＣｏｌｏｒｆｕｌたちの部屋。

しかも基本、ドアを閉めないから一部屋のような感じになっている。

しかも、王城前面こそライトアップされているし、部屋付きのメイドさんやメイド長はライトを装備しているけれど、基本真っ暗。

陽が暮れたら遊ぶ場所なんかない。

だからまあ、シスターズ＆Ｃｏｌｏｒｆｕｌで集まるのはわかる。

そこが照明工事済み軍政司令部になるのもわかる。

当直の兵士が仮眠中、引き継ぐまでは俺が司令部にいるからだ。やっているのは、仕事とも遊びともつかない暇つぶしの情報検索。だが待機任務中なので当然、通常の給与に加えて手当もついている。

え？

前線勤務、大規模駐屯地の中でもない限り、２４時間勤務ですよ？

本を読もうがゲームをしようが音楽を聞こうが映画を見ようが寝ていても、前線にいる間は戦闘中。

その瞬間々に業務が発生しなくとも、発生する可能性があり、それに対処する義務がある。

であれば、それは仕事中。

時間つぶしもその一環、必要な対処を妨げない程度で緊張感を保つためなんだから、当たり前。

警備や監視業務が仮眠中や待機中でも勤務時間として給与が出るのと同じ理屈。

そんなわけで、だいたい皆が寝る時まで俺がいる。

広いわ、軍政司令部で安全だわ、メイド長と俺付きのメイドさんたちが常に待機しているから便利、パソコンの私的利用も許可している。

寝る前のひと時を過ごしたくなるのわかる、わかる。

パジャマパーティーに紛れ込んだようで、とっても居心地は悪いけど、俺は本読んでりゃいいし。

当直任務はパソコン一つで出来るから俺が席を外すと、気を使ってついてくるんだよね。先に寝ようとすると、そこでお開き就寝開始、となってしまうし。

まあ、出会って一カ月やそこら。

ざっくばらんな関係になるには、時間がかかろうとういうもの。

その間、微妙な緊張感をいなしてスルーするのは大人の役目。

そんなわけで、シスターズ＆Ｃｏｌｏｒｆｕｌは部屋着を二種類持っている。いや、毎回デザインは違うから、二着ということではない。

昼間の、まあオフィシャルな服装がほぼ決まっているからね。

魔女っ子。

オフィシャル、魔法使いローブ。

ローブの中はシンプルなワンピースと足元に革のブーツ。

・・・・・・・・・・・・時々、ドレスアップさせられているのは、お嬢の趣味。

プライベートでは、寝る時以外各種ワンピースとエプロン。

エプロンはマメシバ印の地球風。

料理好きで軍政司令部近くのキッチンが縄張りだからね。

エプロンは手放せないようだ。

お嬢。

オフィシャル、（たぶん）ゴシック調ドレスが一日最低三種類（遠征時除く）。

装飾がふんだんに取り入れられており、フリルこそ正義！

とか言われそう。

もっとも、触ってみれば丈夫で薄い布、なめらかなシルクっぽい肌触りはお嬢自身の肌とマッチしている。一見布の鎧、実は肢体にフィット。

プライベートでは、ドレスが最低４種類。

気がつくたびに色が変わっているので最初はびっくりしました。明らかに確定的に大変に、マメシバ風の、つまりは地球様式の形をとったドレス姿。

とうぜん、ボタンは飛んだり、よく見ると一部透けていたり、基本的に柔らかい布地で本当に着ているのか心配になったり

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・余計なギミックが満載。

エルフっ子。

オフィシャル、安心の革鎧。

乳袋標準装備ですが、当たり前に硬いです。揺れたりイタシマセン。ナイフくらいは跳ね返し、打撃を全体に散らして軽減するんですから当たり前ですね。

大きさと形は何となくわかりますが、それは実物を見たことがあるからこ

・・・・・・・・・・・・・・・・・いえ、なんでも。

ＴＰＯに応じて、俺には男装の麗人にしか見えない騎士服姿や、お嬢プロデュースの豪奢なドレスをまとうときもあります。

プライベート。

最近やっと、鎧姿ではなくなりました。少しは気楽に過ごせるようになったか。

よきかなよきかな。

ただ、剣は離しませんし俺だってガバメント標準装備だから離さなくていいけれど、服装がアレです。

鎧の下に付けている、薄革のボディースーツ的なアレ。

アレと言ってわからなければ、肢体にフィットした革の長袖シャツにスパッツ的な乗馬ズボン。

胸を支えているのは革鎧自体だと知りました

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ダメじゃないんですけどね？

でまあ、みんなの部屋着、二種類の一つ目はそれぞれとして、二つ目は皆基本的に同じ。

色とサイズが違うだけ。

寝るときに着るんだから、それほど気にしなくてもいいのかもいしれない。

薄物、っていうか、薄布一枚なのは、まあ、あれだよ。

服と言えるのかどうかどうなのか？

常識が全裸なので、そうでなくて

・・・・・・・・・・・・・・よかった？

「Ｎｏｏｏｏｏｏｏｏｏｏｏｏｏｏｏｏｏｏｏｏｏｏｏｏｏｏｏｏｏｏｏｏ！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！」

ちなみにシスターズ＆Ｃｏｌｏｒｆｕｌは常に絹みたいに丈夫で不透明なガウンを側に置く。薄物一つの時も、一緒にお風呂に入るときも、肌を人目にさらさないようにしている。

「Ｈａｔｅ ｃｒｉｍｅ！Ｓｔａｎｄ Ｕｐ！！バンコクの労働者！！！エロイ、エロイ、ラマ、サバクタニ？？？？？？？？？？？？？？？？？？？」

何故疑問形。

間違いなく見捨ててるから。

おまえんちの神様。

再び精神異常者用の拘束着で固められた、トラウマをえぐられたのかフラッシュバックで錯乱した神父。

無かったことの様に見送りながら、俺はその、陸上自衛隊制服をまとった一尉に答礼。

俺は陸上自衛隊では三尉だが、国連統治軍では大尉。

目の前の管理責任者とは、名目上同格ではある。

だが、明らかに年上でもあり、先に敬礼されるのは

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・収まりが悪い。

まあ、仕方ないんだけどね。

俺の肩書き水増しは、占領下現地住民向けのハッタリ。

故に、統治軍軍政官は友軍同一階級から常に最先任として扱われる。とりわけ、現地住民が同席しているときは。

それを忘れたら、軍法会議。

軍法会議ってのは先に敬礼しなかった方だけじゃない。

させなかった方も、だ。

だから、現地責任者と俺、軍政司令官、二人の側には憲兵がいたりする。

警務隊じゃなくて、国連軍憲兵。

今ここには東南アジア系、ユニオンジャック

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・グルカ兵。

一番シャレにならない相手だな。

ここまでして創りあげるファンタジー。

軍政司令官は偉いんだぞ

――――――――――小芝居一つで救える物がある。

なら最善を尽くそうではないか。

物

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・誤字じゃないぞ。

弾薬、燃料、神経ガス。

いや、最後のヤツはいいか。

化学兵器は余っている。

貴重な異世界の自然を守る為、利用を控えているから。もちろん、物、ってのは軍政失敗に伴い消費される兵站物資の話、だ。

有り余る兵器を大切に！！！！！！！！！！

国際連合安全保障理事会の標語

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・と信じられている。

なにしろ軍事の親玉が、死体一つ一つに銃弾を撃ち込ませるアレだから。

だがしかし、者が気になる人もいる。

けっこういる。

俺とか。

その俺が占領統治に失敗したら？

友好的、非友好的、敵対的。

その管理に失敗したら？

区別選別は出来る。

必要とあらば全住民に自白剤を投与する。

手間と時間を惜しまなければ、敵対的な対象だけを、ピンポイントに皆殺し。

無意味な拷問など必要ない。

肉体に傷を付けずに、人間の尊厳を踏みにじる。

ヤダー！

国連軍がそんなヒドいことするわけ無いじゃないデスカ？？？？

――――――――――めんどくさい。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そんな面倒は、かけさせて、くれない。

友人知人敵。

混ざっているなら、それでよし。

識別する必要はない。

いや、真面目な話、命が危ない。

主に他人の、若干部下の、あと俺も

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・現地協力者は何とかなる、間違いなく。

協力者というのは、主に現地代表。

ウチでいえば、魔女っ子。

その周辺を含むから、シスターズのことだと思って間違いない。

現地協力者とは誰なのか、申請するのは俺、軍政司令官。

だが決定するのは軍事参謀委員会。

国連統治軍の中で、軍政司令官は軍事参謀委員会に直結しているからだ。

Ｃｏｌｏｒｆｕｌのような軍属は、採用経路を問わず国連軍非戦闘員。

当然、兵士より安全順位は高い。

順位で言えば、こうなる。

兵士、下士官、士官、指揮官。

ここまでの軍に、現地採用国連軍軍人も含む。

黒旗団のドワーフやエルフの魔法使いなどだ。

休暇配置と称して、太守領港街に駐留。

なにやら不気味に蠢いている

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・のは、地球人の副長か。

軍人のあとは、軍属（シスターズのような現地採用を含む）、民間人（アムネスティみたいな国連承認の渡航者）、現地協力者、情報資産（捕虜）。

捕虜の安全度が一番高いのは、帝国と国連の共通点

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・異世界住民は考慮外なのも共通点だ。

とはいえ、対象の安全危険を考慮していないだけだ。

障害判定はあり、優先作業順位はある

――――――――――よけー悪い。

最低、万から始まる大虐殺。

なるべく遠くでやって欲しい

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・人情だよね？

ならやめろ？

おいおい。

国連軍の死亡者は、誰に殺された者が一番多いのか、察しがつかないのかな。

人情ひとつで三佐に逆らう勇気は無い。

そしてそれは、相対的に多いってだけで、それほど多いわけではない。

第一、非帝国軍の処分作業は安全な仕事なのだ

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・肉体的には。

だからこそ、あまり体験したくもない。

部下に体験させたくもない。

安全過ぎることの危険、苦痛と感じないことへの苦痛。

虐殺される側はもちろん、する側が背負うリスクについて、前線指揮官なら大体気がついているだろう。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・かかっているのは、他人の命、だから厄介だ。

命の軽さに気付かれないためにも、俺たち将校は芝居に励むのである。

だから、やり遂げなくてはならない。

命がけの芝居を。

軍政司令官は、偉いんです！！！

世界でも有数なほど偉いんです！！！！

中身が俺で、階級はハッタリで、下駄をはかせても下っ端ですが！！！！

ぱっとみ、見えなくもないよね？

いや、長く接してたらバレるけど。

――――――――――シスターズ＆Ｃｏｌｏｒｆｕｌには協力を期待する次第。

【大陸北東部/「聖都」/港/青龍の貴族の右手背後】

わたしはびっくりしてしまいました。

わたしたちは、と言うべきでしょうか。

広い広い船着き場。

たくさん並んでいる倉。

整然と並ぶのは開けた道。

太守領、いえ、ここも別な太守領なのかもしれませんが、わたしは邦を出た事がありません。

産まれた時から、邦は太守領と呼ばれていましたから。

わたしが住んでいた、太守領。

そこで一番大きな港、港街と比べてしまいます。

わたしが今いる場所は、邦の港に優るとも劣りません。

それだけなら、わたしたちは驚くだけでした。

わたしたち、わたしは恐ろしくなります。

真昼の、広く、大きく、整えられた港。

そこには

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――わたしたちしかいません。