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完全侵略マニュアル/あなたの為の侵略戦争  作者: C
第六章「南伐」

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210/1003

巡航速度×4/給油×1

登場人物&設定

※必要のない方は読み飛ばしてください

※すでに描写されている範囲で簡単に記述します

※少しでも読みやすくなれば、という試みですのでご意見募集いたします


一人称部分の視点変更時には一行目を【語る人間の居場所】とします。

次の行、もしくは数行以内に「俺」「私」などの特徴となる一人称を入れます。

以下設定を参考に誰視点か確認いただければ幸いです。

(書き分けろ!と言われたら返す言葉もございません)


【登場人物/一人称】


『俺』

地球側呼称《司令官/閣下/大尉/大尉殿》

現地呼称《青龍の貴族/ご主人様/ご領主様/我が君》

?歳/男性

:地球人。国際連合軍大尉(陸上自衛隊三尉)。太守府軍政司令官。基本訓練以外は事務一筋。軍政官なのでいつも陸上自衛隊制服(常服)着用。元々訓練以外で戦闘服を着たことがない。


『あたし』

地球側呼称《エルフっ子》

現地側呼称《ねえ様》

256歳/女性

:異世界人。エルフ。『あの娘』の保護者。姉貴分。ロングストレートなシルバーブロンドに緑の瞳。長身(数値不明)。革を主体とした騎士服にブーツに剣が常備。


『わたし』

地球側呼称《魔女っ子/幼女》

現地側呼称《あの娘》

10歳/女性

:異世界人。赤い目をした魔法使い。太守府現地代表。ロングストレートのブロンドに赤い瞳、白い肌。身長は130cm以下。主に魔法使いローブを着る。


『わたくし』

地球側呼称《お嬢/童女》

現地側呼称《妹分/ちいねえ様/お嬢様/愛娘》

12歳/女性

:異世界人。大商人の愛娘。ロングウェーブのクリームブロンドに蒼い瞳、白い肌。身長は130cm以下。装飾の多いドレスが普段着。



【登場人物/三人称】


地球側呼称《機長》

現地側呼称 《ちぬーくさん》

?歳/男性

:自衛隊三尉。チヌークのパイロットで機長。『俺』に対しては階級差を感じさせないぞんざいな態度と口ぶり。時々怒鳴りつける(任地派遣を嫌がって機から降りないときなど)。異世界転移後の実戦経験豊富なベテラン兵士。休暇配置で太守領と国連軍拠点の輸送任務に就いている。

正式名称CH-47JA

巡航速度260km/h

航続距離1,037km

※通常、航続距離をすべて利用したりはしない





聖都。

異世界大陸東北部に位置する、異世界有数の大都市。

だった。


帝国の征服戦争とは、対抗する諸王国を掃討する過程といってよい。

進軍速度と征服速度はほぼ一致。


戦争そのものより統治の方に総力を投じていた。



北西の草原から大陸中央へと侵攻した帝国。


四王国滅亡後、転機が訪れる。

内陸部にて国家中枢の整備を完了した帝国が、東方全面侵攻を開始。


当初は個別に戦い殲滅されていた諸国は、共同戦線を組むようになる。それは帝国が多方向同時侵攻を開始してから十年ほどたったころのことだ。



反帝国諸王国。

その盟主とされたのは神殿であり、巫女と神官たちだった。


政治的な色を持たない、何処でも必要とされる、魔法と奇跡の集まり。この期に及んでなお、諸国は中心となる政治勢力を持てなかったのだろう。



実際、「神殿」と呼びならわされる集団は確かに存在しているが、組織とも団体とも言い切れない。


我々には神殿と訳されており「祈り」こそ行われているが、信仰らしきものはない。何かに対して祈るのではなく「こうなってほしい」と謳う様は「願い」と呼ぶべきなのかもしれない。


それが効果を持っていたからこそ、魔法と並ぶ異世界の技術として成立していたのであろう。その実態を知らない我々が、あるいは我々の「神とは何か」を規定できない意識に基づいた魔法翻訳が、この存在に「神殿」という訳語を与えた。


あるいは、それについて別な解釈が成り立つのかもしれない。


ソレについては今後の課題である。

(※言語解析作戦:現地採用軍属マルチリンガル5名をに命じ、翻訳、再翻訳、再々翻訳を繰り返し、単語の意味を特定。現存する伝統宗教信徒を兼ねる学者を使い並行検証)



異世界の歴史については未だに資料収集中であり、現象の我々はその概略のみを認識している。だが本件については特例として比較的多くの事実が確認できている。

(※歴史確認作戦:過去十年以内は早急に、五年以内は至急に、特例案件は制限なしに緊急解析を行っている)




異世界大陸における帝国の東方征服戦争は事実上十年前に終了しており、形式上昨年完了した。


昨年末。


聖都が陥落したのだ。


《国際連合安全保障理事会会合覚書》




【異世界大陸北東部沿岸地方上空1000m/ちぬーくさんのおなか/青龍の貴族正面】


わたくし、空から見下ろすよりも、膝から見下ろす方が好きですわ。


弱い者は他人と同じ道を行く、わたくしたちは強いからご領主様と共に征く。

まあ、お膝に載せていただいているだけですけれど

――――――――――今は。


あの娘が申し訳なさそうに見ています。


気にしなくていいのに

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・悔しさも妬みも、わたくしだけのもの。


遠慮されたら、競い合いを楽しめないじゃない。

そう、今は飛竜の腹の中。

揺れに乗じて楽しみましょう。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・この程度なら、暑苦しくはありませんわよ、ね。

――――――――――――――――――――――――お考えに夢中なご領主様が、わたくしを楽しんでいただけないのが残念ですわ。




【異世界大陸北東部沿岸地方上空1000m/チヌーク一号機/キャビン中央窓側】


俺が派遣されている、魔女っ子たちの邦から徴用された農民、十万人。

農民たちのの中でも最も心身健康で頑健な肉体を持つ若者。

あとは腕利きの建築職人と親方たち。


一冬。

北国の農閑期であり、屋外作業を控える時期でもあることから、遠慮なく徴集されたようだ。

単純労働力としてだけ考えられた農民は、無給だしね。

技術職である職人集には相応の報酬があったようだ。


それが帰ってこれなかったから、大衆領では大変な社会問題が生じてしまった。



春の作付けは七割程度しか進まず、農民たちはほぼ全員過重労働で死にかけている。

基盤となる人数が不足している、ってだけではなく、中核労働力を奪われたのはそれだけ悪影響があるってことだ。


無理をして作付けを進めているが、長く持つわけがない。

作付け不可能な土地の整備は、農閑期にフル稼働して何とかするつもりであるらしい。だが、農繁期が訪れれば七割程度を整備し続けるのは困難だろう。


最終的な収穫は、気候が例年通りだとしても半分をきる。このままでは異世界有数の農業地帯ではあっても、秋の納税は見込めまい。



別に要らないが。



だいたいここ十年の納税は8対2で前者が帝国の取り分。これで生活を維持できたんだから、土地の肥沃なことは感動を覚える。

これを仮に維持していたら、例年比50%の収穫に税金が40%、例年比で生活に残る収穫が半減。

うん、飢え死にするか来年の作付けを放棄するかどちらかだね。


もっとも、帝国の徴税は総体比率ではなく、絶対量+α。戦争計画に基づいて必要な兵站物資を統治下の各主体ごとに割り当てる方式。


つまり、収穫量と納税額は連動しない。


不作でも税は同じ量をとられるし、豊作なら太守の取り分が増える。太守の取り分と言っても、収穫量の方に対する保険の意味合いがあるのだから、私財の蓄積ともいえないが。


それを前提として十年過ごしてきた農民が、死を覚悟していたのも無理ないことだ。

帝国の方針に逆らっても死ぬだけだしね。


帝国は収穫が年単位で見込めなくなっても、反乱討伐を優先するから。


さすがは世界帝国。

反抗的な民を根絶やしにしても、従順な民は幾らでもいる。広大な版図全体で見れば帳尻は合う、合わせる。


帝国の人々はきっと、経理が得意なのだ。



でまあ、税収なんかいらない俺たちは、それについて広くビラを撒いて周知徹底。

それを知った農民たちは、半分疑いながらも、落ち着いた。


だからまあ、別に十万人が未帰還でも、占領業務に支障は出ない。

でないんだけどね。

まあいいや。




俺たちが知る限り、帝国の税制は地球の中世と変わらない面も持つ。


いわゆる年貢は、歴史の書籍で、ご存知のとおり。

ちょっとの差異しかない。


では、年貢以外の、税。

これは地球の中世とはだいぶ違う。


その代表例は、労役だ。

つまりは帝国が国策上必要とした作業に、領民を動員するということ。それは治水の為に堤防や水路を造ることだったり、都市計画の為に水道や街道を造ることだったり、国土整備の為に運河や港を造ることだったりする。


ここまでは地球と同じ、ここからが違う。


戦場では専門の工兵軍が動員される。

だから、付け城造りや野戦築城に領民が動員される事はない。



だから。

昨年秋の徴集は異例のことだったのだろう。

いや、そうでもないか。


都市包囲戦の末期。

十年にわたって間断なく隙間なく完全に包囲され続けた都市。その都市を陥落させてから、可及的速やかに行うべき大規模土木工事。


包囲に必要な施設は全て完成して稼働から十年近く経っている。

必要な補修は専門の工兵部隊が行っていたらしい。


周辺地域は帝国領内で一、二を争うくらいの密度で、一、二を争うほどに優秀な部隊がひしめいている。

都市の壁周辺から後ろは、平時よりも安全な場所なのだ。


計画している作業も戦闘要素は全くない。

だから問題を感じることなく、敵とし攻略の数カ月前から多数の領民を徴集して、配置に付けることができた。




もちろん、領民の安全を考えて、じゃない。


異世界で唯一と言っていいほど職業軍人による常備軍にこだわる帝国。

民間人の群れなど、地形障害以上に邪魔だからだ。

その辺りの感覚は、国連軍に近い。


よって、だから、平時に非戦闘地域に動員された民衆が、安全な理由はない。



そんなことは考慮されないのだから。

そしてそれは、今も続いている。




この邦から帝国に動員された人々は、今、国連軍の管理下にある。

だから、今、この瞬間に全員殺されてもおかしくはない

国連軍、いや、国際連合は、帝国に強制徴用され、今はその足元に居る十万人の生死に

――――――――――――――感心が無いのだから。




【異世界大陸北東部沿岸地方上空1000m/ちぬーくさんのおなか/青龍の貴族右足元】


わたしは、隣にいらっしゃるご主人様の手を握りなおしながら、改めて反省しています。

ご主人様に、また、御迷惑をかけてしまいました。


あの時、青龍の公女さまが教えてくださった、時。

行方知らずの方々、農村から連れ出された十万のみなさん、その行方を調べて、しかもお教え願えた時。


正直に申し上げます。

ぜんぜん聴いていませんでした。


ずっと、その、ご主人様の、その、お姿ばかり見ていたのです。

耳もご主人様の、静かに食べ進められますから、衣擦れの音や喉を鳴らす音だけ、聴いてまして、だってだって、ご主人様が、邦でのお仕事が終わった、って

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――捨てられちゃう。



ねえ様のように強くもない、ちいねえ様のように賢くもない、わたしはかまって頂いているだけです。

そればかりで頭がいっぱいになって、他の何もかもが、上の空になってしまいました。



日を置いた今ですら、苦しくなってしまいます。


わたしはご主人様の膝にしがみついて自分を支えました

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・申し訳ないです。




【異世界大陸北東部沿岸地方上空1000m/チヌーク一号機/キャビン中央窓側】


俺は、その時。

いつものように対応しただけだった。


まあつまり、儀式のようなもの。

軍政司令官などと言っても、日本人お馴染みのジェネラル・マックとは違う。


国際連合対異世界不干渉原則。


こいつのおかげで、軍政司令官には、たいした権限はない。

幸いなことだ。


権限があれば責任を伴う

具体的な処罰ならいくらでも逃げ道がある。しかし、自責の念だけは、どうにもならない。


いやいや、訓練すれば何も感じなくなるみたいだけどね?



取り調べ(拷問)で山のような自殺者を出して、起訴した相手が常に無罪になって、出世コースを駆け上った検察官とか。

餓死者に浮浪者、不景気に企業倒産、謎にプレミアムな企画がこけてすべて失敗して見せても責任を追及されない官僚とか。

官公庁が税金と権力を乱用してかき集めた情報を記者クラブで投げ渡され裏付けも取らずに吹聴し、広告費稼ぎだけに注力するが誤報とバレると、発表された通りに書いただけだから関係ない、と開き直る娯楽産業とか。


本当にあり続けるチート能力者はさておき。

そんな新たな世界の扉を開けるのは絶対に拒否する俺です。



だが三佐は俺に権力を振るわせようと、さもたいした権限を与えたように話す。

――――――――――――――――――ワナだ。



三佐は俺を、越権仲間に引きずり込みたいのだろう。


仲間と書いて共犯者、と書いて身代わり、切腹要員。

そんなふうに思っているとは露知らず、こと志と違って残念至極に御座いますが、本人が自決したので許してやってください。

――――――――――――――――――――とかなんとか。


最近の三佐

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんか、俺の任地に居座っていると思ってはいたのだ。


三佐がやたらとシスターズ&Colorfulを意味ありげに見る辺り、嫌な予感が有頂天。

俺に考えを巡らせるには十分な、兆候。


よほど退屈させなければ、人質とかは趣味じゃないはず

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ああ、つまりあれか。



大人の見栄を使って煽る気だな?

子供たちの手前、俺が救いの手を差し伸べる、とか?


――――――――――ねーよ。



異境の地で明日をも知れぬ、異邦の皆様。


へー大変ですねー。

がんばってくださいおうえんしまーす。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・俺は人道主義者じゃない。



人道主義への共感がホンの少しでもあったら、海外派兵な自衛隊、軍隊に入るもんか。


業務殺人が出来なきゃ税金泥棒。

こちとらロマンチックな妄想に浸るアダルト・チルドレンじゃない。


正当性やら国防の大義名分やら、どーでもいい。


正しい自衛戦争だったら勝てる、っていうなら別だが。

現実は俺たちを見れば判る。



贅沢は言わない。

悪党と罵られて平和に豊かに生きるのでよい。



僕たちは自衛の為に戦ったんだ!

と焼け跡で叫ぶなんざ、俺の趣味じゃない。

そんなアレを見かけたら、そのまま死ね、と言ってしまった事がある。



そんな俺に、十万人の運命を丸投げ

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・つまり、持て余してる、のか。


三佐か、国連軍か、安保理か。


誰が言い出したのかは知らないが、思惑が重複しているのだろう。

――――――――――識別は無意味。



邪魔ならば、邪魔になる前に殺してる。



十万人には使い道もない。

が、邪魔と言うほどでもない。

そして、今、使えないカードが、今後、利用価値がでないとも限らない。


日本文化に根ざした(という噂の)もったいない精神。


とまあ、三佐の腹のブラックホールはいつものこと。

ならば、人道主義と縁遠い俺にも、放置、っていう選択肢はない。



示唆

――――――――――微妙なアレを、何とかしろ。



いやいや、しぶしぶ、断じて言い訳ではないが、怖いではなく恐ろしい上司の機嫌を損ねないために、仕事を増やさざるを得ない。



だが人助けは、俺の、俺たち侵略者の役目じゃない。


俺は右側を見た。あの時の食卓でもも、今、チヌーク内でもそこにいる幼女

――――――――――魔女っ子だ。


異世界の者は異世界に。



俺はソビエト連邦もかくやというように、手順を守って身を守る、だけ。

つまり危険は最小限

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ゼロじゃないことに、広く共感ご同情を募りたい。





【異世界大陸北東部沿岸地方上空1000m/ちぬーくさんのおなか/青龍の貴族右足元】


ご主人様の視線

――――――――――ダメですダメです。


気を、しっかり、もたなくては。

またご主人様にご迷惑をかけてしまいます。



あの朝、青龍の公女さまがおっしゃったこと。

わたしは聴いておりませんでした。


うぅ~~~~~~~~~~ご主人様を見つめてたんですぅ

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ごめんなさい、です。


だから、前もって考えることは出来ませんでした。


ご主人様の言葉。


「この邦の民を連れて帰りたいか?」

「はい」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何も考えず

――――――――――即答、してしまいました。


ご主人様の都合も立場も考えず、青龍の皆さんにそんなことをする理由がないと思い至らず、わたしの単純な頭で思ってしまったんです!!!!!!!!



―――――――――――帰りたいでしょうね―――――――――――





【異世界大陸北東部沿岸地方上空1000m/チヌーク一号機/キャビン中央窓側】


俺はあの時、フリーズした。

いや、過呼吸になった人(魔女っ子)を初めて見た。


だかしかし、訓練の賜物。


他人が、なら何も考えないで救護出来る。

間違いなく、自信をもって断言する。


だがしかし知り合い、魔女っ子が対象となれば話は別。

慌てて固まる俺。


つまり訓練の賜物はこの場合は非適応だったわけで。



「抱きしめて!!!!!!!!!!」


多世界複合軍医マメシバ三尉の命令、従う俺。


「人口呼吸!!!!!!!!!!」


何故ってより、とりあえず気道を確保、呼気と吸気を交換する。


吸った空気から酸素を取り込み、酸素が減った空気を排気する。

だが、人間の肺、それほど効率は良くない。

呼気排気、酸素濃度はあまり変わらない。


俺は大人の肺活量を生かして、魔女っ子の呼吸をねじ伏せ、操作した。

よし、落ち着いた

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・が、その時、魔女っ子は伸びてしまった。

全く、今、思い出しても冷や汗モノだ。


よーく考えれば、おかしな対処ではなかった。

過呼吸による酸素の過剰摂取を中和する為に、二酸化炭素やや多めの呼気を吸わせるのは理に適っている。


胸の、ってか肺の下あたりの筋肉をマッサージしつつ、呼吸全体を俺の肺で制御するのも。

医師立会いの下でなければやらないほうがいいのは断言しておくが。



俺は今、ヘリの座席の右側に座っている魔女っ子を撫でた。




【異世界大陸北東部沿岸地方上空1000m/ちぬーくさんのおなか/青龍の貴族背後】


あたしは、あの娘を見ていた。


今は髪を梳かれ、赤面しながらとろけるような笑顔。

あの時、あたしは驚いて、何も出来なかった。


今から思えば、あの娘の言葉に驚いた、と判る。

あの娘が即答したのだ。



望み、希望、あるいは欲を、言葉にした。



産まれて、物心がついて、これまで。

息を潜め、曖昧にして、諾否もなしに耐えていた、あの娘。

あたしにさえ遠慮して、言葉を濁していた、あの娘。



青龍の貴族、彼のモノになってから、無理やり言わされていたけれど。


望みを言え

――――――――――青龍の貴族、その命令には逆らえず、偽れない。



あの娘は、自分を認められない。

だから、青龍の貴族に、何もかも決めて欲しい。

それを判っているから、それを無視する青龍の貴族。



だから、必死になって、望みを言って、言わされていた。



怯えながら、震えながら、涙目で

――――――――――捨てないで、と哀願するように。



それが初めて、一言で、望みを伝えた。


あたしは、やっぱり、あの娘が一番大切だと思う。

あの娘が、素直に答えられ、それが嬉しかった

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・すぐに死にかけたけれど。


それでも、惚れた男のせいで、っていうなら、本懐よね。



あの娘は、青龍の貴族、その眼だけに縛られている。

ううん、自らを繋いでいる、かな。

生きるも死ぬも、彼、次第。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・羨ましい、かな。


そこまで想える、あの娘が。

あの娘の心を開ける、彼が。




【異世界大陸北東部沿岸地方上空1000m/チヌーク一号機/キャビン中央窓側】


俺はチヌーク内の、シスターズの様子を見る。



魔女っ子、足元のクッション(マメシバ印の手作り/手芸まで子共たちに指導しているらしい)に女の子座り。時々、唸って俺の膝にかじりついてくる。

何処からどう見ても子猫ですありがとうございました。


お嬢、俺の膝を独占し俺の脚をしびれさせながら両手で俺の首をキメている。

絶対に離れない覚悟と見た。

俺の胸に顔をうずめて、何やらふやふやと言っている。

寝てるのかな。


エルフっ子、俺の背中に背を預け、基本耳だけ向けている。

・・・・・・・・・・・・様に見えて、ちょくちょく見返り美人。

小さい二人を見て微笑むさまは、聖母ですかアナタ。



一安心。

この長いフライト、みな調子が良さそうだ。


太守府の朝食会、魔女っ子発作事件から、素早く対応出来て良かったよ。


具体的には、三佐から隔離。

あの発作は、心因性のものだろう。

つまりは三佐のせい。



存在自体がストレスだからな。



とりあえず三佐には、太守府の留守番的な立場を押し付けた。

俺たちは速やかに、港街へ移動。

そのまま戻らず、はるばる南下。



おかげで皆、特に魔女っ子が元気だ。

良きかな善きかな。


俺はシスターズを抱きしめて、降下の振動を凌いだ。

さて、到着。


外部系通信より呼び出し。

許可。



『第13集積地へようこそ!』



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うん、収容所じゃないんだよ、これが。




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