幕間:平和と立憲主義のために
彼等一人一人が正直に自問する。
世界中から知性を集めた。
世界中から資料を集めた。
世界中から尊敬を集めた。
答え。
それは愚行である。
それは根拠がない。
それは行ってはならない。
道義的に言えば破壊と殺戮は防ぐべきだ。
法的に言えば聖書にそんな記載はない。
利害から言えば自分も支持者も何ひとつ得られず損をする。
まったくもってその通り。否定も再考も余地がない。幾ばくかの例外はあれど、皆、そう思っているだろう。
何時、誰が、何処で考えても「2+2=4」なのだから。
であれば、ソレを始めてはならない。
中止しなくてはならない。
だからこそ。
皆が、
世界一賢く、
世界一知識があり、
世界一利に敏い、
そんな善良な彼らは叫ぶ。
「十字軍は神が望みたまう!」
《中世後半におけるバチカンの情景》
【事務次官会議議事録】
参加者
・官房副長官
・総務省事務次官
・財務省事務次官
・外務省事務次官
・経済産業省事務次官
・厚生労働省事務次官
・国土交通省事務次官
・文部科学省事務次官
・農林水産省事務次官
・環境省事務次官
・防衛省事務次官
・法務省事務次官
・最高裁判所事務総長
公安調査庁長官
:室内の防諜確保完了いたしました。失礼いたします。
官房副長官
:では、始めようか。最重要課題からだ。
総務省事務次官
:準備会委員と審議会委員の閣議決定は三日後です。メンバーは待機中、いつでも出せますが、一応、3ヶ月後に答申が出ます。
財務省事務次官
:これで実務スタッフの活動を公然化出来ますな。ついでに事務次官会議も承認させたいものです。
農林水産省事務次官
:贅沢だよそれは。
(笑い声)
経済産業省事務次官
:経団連には追加資金を手当てさせます。
総務省事務次官
:メディアは正式承認発表に合わせて報道計画を進めていますが・・・予備費はどうです。
財務省事務次官
:・・・官房機密費が動かせるようになるまでは補正予算に名目をつけましょう。
防衛省事務次官
:それは臨時防衛予算だろう?
財務省事務次官
:名前を借りるだけだ。第一、正規に支出すれば国連に吸い上げられる。しかも支出に手間がかかるのだよ。
国土交通省事務次官
:会計検査院が何か?
財務省事務次官
:いや、それは大丈夫だ。
経済産業省事務次官
:予算委員会ですよ。国会の。
外務省事務次官
:なんで予算委員会が? まったく。いつになったら黙らせられる?議員連中にはウンザリなんだがね。
法務省事務次官
:米軍が邪魔で特捜部が動けんのだ。
国土交通省事務次官
:アメリカを黙らせるのは君たちの仕事だろう!!外タレは何をやっている!
外務省事務次官
:かり出してる。だが元々、日本にいるロビイストは前政権の売れ残りばかりだ。本国に居場所がなくて流れてきた負け犬ども。大統領候補ですらあった大使は歯牙にもかけんよ。
財務省事務次官
:外タレはTVにでも出すんだな。
農林水産省事務次官
:米兵が日本のニュースなぞ見るものか。
防衛省事務次官
:あの戦争屋!
総務省事務次官
:その戦争屋と政治屋が徒党をくんで日本を戦争に突き落としたのだ。
防衛省事務次官
:狂っている!
文部科学省事務次官
:米軍なら防衛省の仕事ではないかね。
防衛省事務次官
:ペンタゴンならともかく在日米軍司令部にツテはない。むしろ制服は我々より米軍に従いかねん。
厚生労働省事務次官
:だが警察、検察、裁判所が取り組めば不可能はあるまいよ?
最高裁判所事務局総長
:書類以外は期待しないでください。逮捕でも捜索でも押収でもいいですが。
厚生労働省事務次官
:弱気だな。仇をうちたくないのか?
法務省事務次官
:警察と違って実働部隊を持たない我々には、出来ることと出来ない事がありますよ。国連は検事を「木っ端役人」程度にしか見てません。
総務省事務次官
:警視庁とて軍隊とやり合うわけにはいかん。
厚生労働省事務次官
:やり合うもなにも、まさか米軍もそこまでやるまい?
総務省事務次官
:知らないのかね。周りを固めているのは米軍虎の仔の戦車隊だぞ。呼びかけても日本語は解らんと繰り返すだけだ・・・・・・幹事長地元の自衛隊も居るが、な。
防衛省事務次官
:ならば警察はどうだ!県警の部隊が都内に展開しとるじゃないか!党本部にも私邸にも!
総務省事務次官
:あれは国連出向者だ!県の認可や補助金を全部止めたが、国連管轄内に逃げられれば手がない。
法務省事務次官
:都区内は国連軍が自由に動ける。国連特別法なんぞ通すから・・・。
総務省事務次官
:誰も通してない。議員がかってに造った法律だ。
厚生労働省事務次官
:法がなんだ!だから弱気なんだ!出向者の家族や縁者を締め上げろ!だいたい・・・
官房副長官
:まあまちたまえ。決着は急がずともいい。全ては大陸を抑えてからだ。
経済産業省事務次官:なにもしないわけにも・・・。
官房副長官
:米軍さえやり過ごせば政治家に何が出来る?せいぜい授業時間が増えるだけだ。
総務省事務次官
:若い者たちが大臣の扱いに疲れてますよ。
防衛省事務次官
:議員の躾は誰もが通る道だ。新世紀からこっち、進んでクビを差し出す馬鹿ばかりで甘やかされたな。
官房副長官
:それより委員会委員長に注意したまえ。大丈夫だね?
総務省事務次官
:マスコミ指導、野党リークで足止めしていますが、長くは持ちませんな。
文部科学省事務次官
:委員長には顔見せもできん。あちらから押しかけた下っ端議員どもが書類をかき回している。大臣を向かわせても「幹事長の指示だ」で一蹴されてしまう。委員会で与党議員が閣僚を吊し上げるから、うちの馬鹿はノイローゼだ。
(笑い声)
環境省事務次官
:何処も同じだ。それにキャリアばかりが次々と左遷されている。いつの間にか国連出向扱い、自宅にMPが来て出撃、だ。止めれば国連軍特別軍事法廷送り。
文部科学省事務次官
:特別法廷なぞ憲法違反だろう?
最高裁判所事務局総長
:日本の施政範囲なら、です。むしろ「憲法以外」でしょう。
防衛省事務次官
:これは侵略だ!明治以来!我が日本を守ってきた先輩方に顔向けできん!まったく!
官房副長官
:いずれ総理に撤回させる。皆、第7艦隊に軟禁されているだけだ。辞令は留保しておけ。時期がくれば復帰に出世だ。
総務省事務次官
:マスコミを喜ばせましょう。十把一絡げ、フリーや特派員にめぐむネタと同じ情報しか出さない政党、議員、国連にはあいつ等も辟易している。
防衛省事務次官
:まったく!議員たちは法をなんと心得ているのか!
文部科学省事務次官
:自分たちこそ法だと思っていましょうな。まあ、国連の外国人は「記者クラブ」を知らないだけかもしれませんが。
外務省事務次官
:ジンバブエ大使館なら理解してくれそうだな。
法務省事務次官
:家族、縁者、友人、支持者の逮捕準備を進めています。司法取引なりなんなりで辞任させ、不逮捕特権を捨てさせたら本人を。
財務省事務次官
:税務調査も念入りにしております。脱税や会計なら、どんな書類にも理屈はなんとでもつきますから、折を見て。
最高裁判所事務総長
:公判を維持出来るレベルをお願いしますよ。
国土交通省事務次官
:かまわんだろ。最後は無罪でも10年引っ張れば死んだも同然だ。
最高裁判所事務総長
:裁判官に因果を含めるのは私たちなんです。
防衛省事務次官
:言わないとわからないのか?最近の判事は?
財務省事務次官
:一人一人の自覚が大切だ。判事は選挙で選ばれたのではない、と。
官房副長官
:首相は我々に妥協しているつもりだろう。まだまだ基盤が強すぎる。扱いやすい五流以下の玉は?
総務省事務次官
:選挙民を無視できるほど選挙に強い世襲議員。極端な主張で我々以外頼れぬ程に党内で孤立し政治力皆無。頭が悪く無目的に行動的。わかったフリと自重が出来る程には利口。
(笑い声)
国土交通省事務次官
:・・・手頃な議員は・・・3~4人。まあ、片手で数えられなくなれば日本もお終いだが。ふん、仕込みを進めておかんとな、諸君。
財務省事務次官
:抜かりはない。スタッフで囲んでいる。首相官邸から追い出された連中を。
総務省事務次官
:マスコミに露出させている。アタマの出来が露呈しないように、な。
外務省事務次官
:特派員協会は?
総務省事務次官
:週刊誌や外国人などどうでも良かろう。しかも外人は本拠を失った浮浪者だ。
外務省事務次官
:そう言って選挙に負けたじゃないかね?あれだけ大手マスコミにキャンペーンをはらせたのに、だ。
経済産業省事務次官
:まあまあ。失策は失策として・・・。
防衛省事務次官
:なにが失策だ!!何人死んだと思っている!国家の柱たる68人が失われ500人以上が左遷されたんだぞ!
官房副長官
:いい加減にしたまえ!公僕たる我々は身を犠牲にしても日本を導かねばならんのだ!!・・・・・・話を戻そう。党の手当てはどうなっている?粛清を繰り返させてはいかん。
総務省事務次官
:幹事長は警視庁に監視させてあります。おとなしいものです。
文部科学省事務次官
:米軍に囲まれているのにか?
総務省事務次官
:それをまた囲めば同じだ。幹事長派の議員はリストアップしている。いつでも支持者や家族、親族まで逮捕可能だ。
国土交通省事務次官
:早くしたいものだ。
通産省事務次官
:今は炙り出しの時期ですよ。議員達も選挙が遠のけば幹事長から離れる。
官房副長官
:大陸を抑えれば誰に従うべきかハッキリする。それからだ。
外務省事務次官
:ああ、そういえば戦況は?
防衛省事務次官
:順調だ。
外務省事務次官
:ならば秋の講和は大丈夫だな。
厚生労働省事務次官
:死傷者は?
防衛省事務次官
:三桁に収まる。所詮、原始人の討伐だ。
外務省事務次官
:三桁?
防衛省事務次官
:外人は知らんよ。
外務省事務次官
:戦前の予想と真逆だね。
(笑い声)
防衛省事務次官
:統幕に情報が入ってなかったのだ。議長は引退させた。
外務省事務次官
:戦時に軍のトップがクビに?
防衛省事務次官
:なにか支障があったか?下っ端は名前すら知らんさ。
通産省事務次官
:今回の予測は誰が?
防衛省事務次官
:情報本部の若手だ。大丈夫だ。それとも誰か別な情報でもあるのかね?
財務省事務次官
:いいだろう。ならば冬には戦争裁判かな。
通産省事務次官
:解放区には秋前に企業進出をすすめませんと。派遣大手は新会社設立で合意できております。
厚生労働省事務次官
:派遣法改正案と検疫強化は出来ている。
法務省事務次官
:出入国管理法改正案で帰国阻止も可能だ。
防衛省事務次官
:終戦と共に自衛官達を退役させて再雇用させる。民間軍事会社のノウハウは任せたまえ。
財務省事務次官
:これで納税不能者百万人を処理出来る。しかも有望徴税地帯と引き換えに。
農林水産省事務次官
:当面の資源は帝国の収奪物で済みますが、中期的にはプランテーション経営が必要ですからな。
国土交通省事務次官
:プランテーションだが学会は黙らせられるのか。近代農法導入に反対しているだろう?生態系が把握出来るまで危険だとかなんとか。
環境省事務次官
:必要ない。反対ではなく、危惧しているだけだ。審議会はいつものメンバーから、学者たちが何を言おうと関係ない。学会はずっと危惧していればいいさ。
財務省事務次官
:数字があがらなければ予算はつけられんぞ。
環境省事務次官
:揃える。だいたいユーラシア大陸なみに広い土地の肥沃な農業地帯のみで農園を行うんだ。失敗すればやり直す土地はいくらでもあるし、どう転んでも、我々に影響はない。国内消費は国内生産だけでまかなえるからな。
官房副長官
:農鉱業の一次産品を中心に一千万人の原住民に百万人の非正規、軍人を含むテクノクラートが数万というところか。
国土交通省事務次官
:原住民は農業地帯の農民ばかり、テクノクラートは専門職と経験者の軍人ばかりで問題はありませんが・・・百万がネックですな。
総務省事務次官
:人手は要るだろう?テクノクラートだけでは回らんよ。
厚生労働省事務次官
:必要なら二百万でもいいさ、半分モノになれば。語学の心配がない、銃を振り回すだけの単純労働だ。
防衛省事務次官
:最終処分場は足りるか?ニートは三百万だったか?
厚生労働省事務次官
:知らんよ。
国土交通省事務次官
:は?白書は?
厚生労働省事務次官
:キミのところ、道路局と同じだ。
(笑い声)
財務省事務次官
:請求予算にあわせて数字を出すのだから、目安にもならん。
厚生労働省事務次官
:その数字を否定出来るか?うちが知らなきゃ誰も知らん。ならなんでもよかろう。いずれにしても百万か、四百万か、ま、ゼロではない。
通産省事務次官
:何人であれ一人分の人件費で十人働かせれば損はありません。現地人なら百人分は可能だ。
財務省事務次官
:寄生階層が減るだけで国庫が救われる。善良な納税者も喜ぶ。寄生された家族が一番救われる。財政黒字も夢ではないな。
総務省事務次官
:自治体に水際作戦を指示しておいた。若年層の補助支援打ち切りを今から進める。
国土交通省事務次官
:大陸側物流拠点造りで百万人の予備訓練ができますしね。大陸以外で生きられないと知らしめませんと。
通産省事務次官
:大陸現地人の輸入は植民地経営が軌道にのってからですな。
総務省事務次官
:パイロット・プラントは始めるべきだろうさ。サンプルの輸入は必要だ。人件費をなくしたい経団連への餌になる。各自統計数値は矛盾無きように調整したまえ。我々の手を煩わせないようにな。
官房副長官
:さて、日本の未来を明るくするためにも大陸暫定統治機構設立会議の準備に話をすすめよう。最初の会議で全てを決めなくてはならない。
絶対にだ。
皆、心得たまえ。
すべては平和のために。
豊かな日本のために。
【添付参考資料】
天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。
(日本国憲法第九十九条)
1.この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。
2.日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。
(日本国憲法第九十八条)
1.公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の權利である。
3.公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する。
(日本国憲法第十五条)
国会は、国権の最高機関であり、国の唯一の立法機関である。
(日本国憲法第四十一条)
国の財政を処理する權限は、国会の議決に基いて、これを行使しなければならない。
(日本国憲法第八十三条)




