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完全侵略マニュアル/あなたの為の侵略戦争  作者: C
第六章「南伐」

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209/1003

種まく人/Le Semeur.

【用語】


『Uranium』:ウラン。自然界に広く存在しているありふれた鉱物。一定の純度を越えた状態で一定の質量が集まると、核分裂反応を起こす。原子爆弾の起爆システム「インプロージョン方式」「ガンバレル方式」はつまるところ、圧縮をどのように行うのか、という違いに過ぎない。人工的に行わなくとも自然状態で、多くの鉱物と同じように純度を上げて集積されていく。中には自然に蓄積された結果、核分裂反応から連鎖反応を起こし「自然の原子力爆弾」と言うべき結果を起こすこともある。さらに珍しいことに、極地帯などで核分裂連鎖反応に氷河の水が流れ込み臨界状態(分裂反応が安定して持続する状態)を生み出した事例すらある。こうなるとそれは「自然の原子炉」と呼ぶべきだろうか。




【登場人物/三人称】


地球側呼称《マッチョ爺さん/インドネシアの老人》

現地側呼称《副長/黒副/おじいさん》

?歳/男性

:インドネシア国家戦略予備軍特務軍曹。国際連合軍少尉。国際連合軍独立教導旅団副長。真面目で善良で人類愛と正義感に満ち満ちた高潔な老人。

旅団には現地職制の副団長が同格としてあり、白を基調とした魔法使いローブのエルフが努めている。区別の為に肌が褐色な彼が現地兵士に「黒副」と呼ばれている。




わしは違うがな

――――――――――夢見る瞳は輝きを増し、頬を染めて、ペコリと頭を下げた子供たち。


老人は礼儀正しい子供が大好きだ。

もちろん躾ればいいのだから、子供はみんな大好きなのだが。


少女たちは自らの願望に基づき、偶像を見出し、内なる忖度に従い、全てを進行させる。



正義は楽だ。

正義は楽しい。

正義は楽しみだ。


とりわけ子供たちの未来が、愉しくてならない。



国際連合軍政官、敬愛する団長の想い人。

そして、子供たちの憧れ

――――――――――――――――――――力の象徴。



いつの世も、どこの世界も、子供は子供だ。

――――――――――――――――――――正義に憧れる。



軍政官の傍らに立つ少女たち。


魔女、富豪の娘、妖精の娘。

そしてハーフの5人。


彼女たちは現地住民、街の者たちに「青龍の眷属」と呼ばれている。

そして、老人に教えを乞うてくるのはこの港街の子供たち。


「青龍の眷属」その外周を囲むとみなされた彼女たち。



一人一人が、この港街の賤しからぬ家々に属する12人の少女達。

彼女たちが同じ現地住民たちから「青龍の友」と呼ばれ始めた。


眷属がシスターズなら、12人はフレンズか?


面白いものだ、と、老人は思う。



少女たちは軍政司令官来訪時、差し出された子供たち。

慰み者として、餌として、生け贄として。


権力者に取り入りたい、親によってしつらえられた贈答品。


それを聴いて老人は、いささか呆れた。

年齢が地球換算で8~13歳程度

――――――――――バカバカしくて腹も立たなかったが。



軍政司令官も団長も、当たり前に普通の日本人。

その趣味嗜好は穏当なものだ。


軍政司令官は、子供がやってきた、としか思わなかった。

性別が女でさえあれば警戒して恋敵、その予備軍とみなす団長もキョトンとしていた。

女、とは考えなかった。


取り繕ってはいても、怯えを隠しきれない少女たち。

それを見れば、まず子供、と考えて当たり前だ。



現地住民の言うところの、青龍の貴族である二人。



12人を、ただ子供として扱った。

それが少女たちにとって衝撃的であったのは、想像に難しくない。

それはこの世界に存在しない感覚。


老人自身も実際、この世界への自信の知識が、耳学問に過ぎなかったと自覚した。


老人は異世界に攻め入って以来、ほとんどの期間を黒旗団と共に過ごしている。複数民族からなる地球人類と、異世界人類を融合させてつくられた黒旗団。

それは、時代を超えた戦争の鋳型。



だからこそ、地球の、祖国と同じ感覚で振る舞ってしまった。

老人は改めて自覚を深める。

まだまだ、良くも悪くも、この異世界を知らない。



地球史上でいう中世に近い異世界。

婚姻という概念すら一般的ではなく、家族という概念もない。


親兄弟が相争う中世史を読めば解ろうというもの。

現代人はまず「親子なのに争うなんて悲劇だ」と誤解する。


「親子」

という単語の意味合いがまったく異質である、それを知らないからだ。いやあるいは、「親子」単語を誤訳しているともいえる。


中世以前は「親子」に血族以上の意味がなく「慈しみあわねばならない」などという条件付けがされていない。


教えられてないから、とも言えるし、文化的同質化を極限まで推し進めた日本人にはわからないのかもしれない。

老人の出身国のように、石器時代から現代がまとまっている国も珍しいが。



団長も軍政司令官も、教育キャンプで講習を重ねてなおも判るだけで解らない。


まあ、だからこその国連軍ではある。自衛隊や米軍だけでは、この辺りの機微に気がつけない。

だから、目の前に差し出された貢ぎ物に気がつかない。


乳幼児死亡率が高い世界で数を確保するために、実質的な婚姻年齢が低いこと。

子供は親の、あるいは村落共同体の資産であり、人間でもなければ構成員でもないこと。

だから子供は、道具、軽作業器具か贈答品にされること。


だから、地元有力者がとった行動は自然だ。



大切に育んでいた娘を贈り物にする。

軍政司令官の趣味嗜好に合った年齢(老人が知る限り誤認だが)。

地元でも容姿や賢さで抜きん出た、最高の逸品(老人には子供にしか見えないが)。


貴重な資産は、新たな支配者に取り入る為にこそ、使うべき。

自然で常識、異世界の、あるいは地球の過去の、当たり前。



だが、道具扱いと道具は似て非なるものだ。



例え道具としてではあれ、手塩をかけて、大切にされていた良家の子女。

将来は血族や親の繋がりを保つ大切な道具として、最低でも、血族間の同盟証書程度には尊重され取り扱われる前提だった。


安楽な生涯を当然視していたのだ。


それが突然、親の方針変更で、愛玩物にされて権力者に差し出された。

その為に一夜で因果を含められた。


遠回しに聞き出した、その内容たるや

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・幼児性愛者とみなされた圧倒的強者。


そこには、勢力均衡による、相互尊重などあり得ない。


彼に差し出され、情欲の玩具となるように。

貧民街や娼館で、そうあれ、と育ち育てられた子供たちではない。

上流階級に属して(資産として)大切にされていた少女たち。



それが突然、奴隷娼婦とされた。

どのような虐待にも耐えて、差し出された権力者に媚び諂い、相手を喜ばせ、

――――――――――父と母に利益をもたらせ。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いやはや。



老人は思った。

少女たちがもう少し成長していれば、親の首を掻き斬っていただろう、と。


当たり前ではあるが当初、彼女たち自身が状況変化についていけず、怯えていた。



人間を道具にする。

それに慣れていない、あるいは、向いていない奴がやらかす失敗の、典型例。


心底怯え、それを表す方法すら知らない少女たち。

壊れかけの人形のような状態で、贈られる相手に差し出された。

すると、人間として扱われた

――――――――――生まれて初めて、だ。


人間という概念がそもそも未分化な世界で、人間という認識から離れることができない相手に、そのように扱われた。


それはおりしも、F-16による爆撃演習の直後。

絶対的強者が力を振るい、街中を、子供にとっての絶対者たる両親を、良心をすら怯えさせる待ちの有力者、いや港街全体を服従させた時。



まあ不器用ながら、目に付いた子供たちの相手をした軍政司令官。

欲望を向けていないことは、相手に伝わるものだ。


もちろん、軍政司令官はペドフィリアではないから、子供を女と見るわけがない。


老人が知る限り、団長のような胸周りが豊かな女性を好む軍政司令官。

なにがどうして子供たちが選ばれたのか、老人は知らない。

そして、どうでもいい。



差し出された少女たちにとっての意味。



誰一人疑うことのない強者から、気遣われたこと。

親や大人を無視する絶対者から、護られたこと。

少女たちを蔑む世界から、唯一人が認めたこと。




それが団長や軍政司令官にとって、当たり前のこと。

だからこそ、突然、人間に引き上げられた少女たちの価値観を破壊した。



その場、つまりは子供たちにとって世界、でほしいままに振る舞う軍政司令官。

特別扱いならば、彼と少女たちの間だけ。


団長を加え、眷属と呼ばれる少女たちを加えて、なお同じならば。


「全てがそう在るものだ」という基準が出来上がる。

それはたやすく「全てがそう在るべきだ」と混同される。



それは、よくあることだ。

そして12人の少女達は、つまり貢物は、受け取られなかった。

画策した両親は面目を失った。


少女たちを妹の代わりにしようとした大商人には、失敗して切り捨てられる。

軍政司令官に取り入ろうとしていた参事会には、抜け駆けを責められる。

出し抜かれた上流階級は、差し出し方が下品だと嗤い囁く。


限られた富裕層の中での悪評。


上流の下程度の親たちは、破滅を覚悟したようだ。

だが、失墜ですんだ。



軍政司令官が公然と命じたからだ。


「子供を護れ」

――――――――――少女たちは、取り置かれた――――――――――

と街中が感じた。


街中の上流階級当主家族が集まる園遊会にて、軍政司令官から歓待されたのは少女たちだからだ。

その親は無視された。



そう、「少女たちは」だ。

見下され信用を失った家の中で、絶対者から裏書きを受けた唯一の価値。

かくして、少女たちは、各々、家の、一門の中で主導権を握った。



家父長制。

家長、この世界で言えば、当主、が全権を握る体制。


そんな中で年端もいかない少女が主導権を握れるのか?


という、勘違いがある。

それは、因果の認識が逆なのだ。


当主が全権を握る、のではない。

全権を握るから当主、なのだ。


いわゆる当主が権力を握り、理不尽な支配を成立させる。それは、近代以降、家長が法で規定されてからの話だ。



ソレはそうだろう。

法は慣習が持つ細部、暗黙の了解を無視して、無意味な形式を制度化しただけの存在なのだから。暗黙の了解が法を凌駕している間は機能するが、了解が廃れればすぐに破たんする。


年端もいかない、というのは、そもそも前提を忘れている。

子供という概念が成立したのが近代以後だ。



人は他人からの扱いで自らを規定する。

人間と扱われたら人間になるのだ。


では、少女たちは?


教育工学上、自我が成立し始める時期。

この子達は、異世界の価値観という外的な刺激に圧倒され、完成した。

あるいは、未完成なまま、自立稼働を始めた、と言うべきがもしれない。


未完部分を補填しているのか、複合体としての完成なのか。

少女たち、衆目の一致する青龍の友人フレンズ、は自分たちで動き始めた。


少女たちは、例外なく、社交性が高い。

これまで、そこに特化して訓練されていたのだから当然だろう。

かくして、12人を中心にネットワークが築かれていく。



一般にこの港街の社交界、老人から見れば上流階級の人間市場、に正式にエントリーするのは15歳前後が多いようだ。


12人はこの港街の、社交界、の手前の世代。

序列が未完成な上流階級の子女達に広がる網。


青龍にキープされている、事が他を圧するステータスとなる小世界。


フレンズに取り入ることで、その先にあるように見える、青い龍への繋がりを感じる。

それは、子供を閉じ込める親という牢獄からの、解放。


実際、青龍との繋がりは、港街上流階級の人々にとって、垂涎のマト。


親たちは、子供という道具をフレンズに近づけ、コレをコントロールしようとする。

それが子供を道具から、人間に変質させると気が付かず。


自らの父母を見限り、支配しつつあるフレンズ。

フレンズに近づき、感化される子供たち。


老人はひとりごちた。


核ができた、と。



――――――――――その流れを煽る、老人。




少女たちは彼、青龍の貴族との接点を求める。

老人は唯一、それに相応しい。


港街における青龍、すなわち国連軍の代表は黒旗団の代理指揮官。

つまりは老人であり、エルフの副長。


少女たちが求める、異質な青龍のイメージに相応しいのは、老人だ。

老人はただ、少女たちを支え導き肯定すればいい。


老人に肯定された少女たちは、老人が差配する国連軍黒旗団に無視されない。

老人が差配する国連旗を仰ぐ盗賊ギルドの荒くれたちに、敬意を払われる。


ソレがさらなる自負と自覚を強めることになる。

それは現地社会の要請にのっとって行われる、国際連合異世界不干渉原則に抵触しない行為。

上流社会の情報ネットワークと、下層社会の暴力が距離を縮めてゆく。



そして、もう一つ。


国際連合異世界不干渉原則に伴う軍事参謀委員会の通達には、国連決議を尊守することを隷下軍兵士に求めており、末尾にこうある。


「なお、作戦上の必要がある場合はこの限りではない」



老人は作戦上の必要に基づき港街に細工を施す。

自分が預けられた部隊が駐留する場所で、作戦上の地盤を固めるのは常識の範囲だ。



老人が日々育成しているトモダチと、組み合わせていく。

老人は毎日のようにトモダチに出会う。


そう。


正義に目覚めれば、みんなトモダチだ。

初日に確保したトモダチ。


彼らが言う青龍に拘束され、長時間隔離され、何事もなく解放された。

皆が、親しい者ほど心配して尋ねる。


「何をされた?」

そして正直に答える。


「なにもされてないよ」

だから皆が猜疑する。


何を狙っている?

何を探っている?

何を知らせている?



友人、恋人、家族

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・皆が距離をあけ、敬遠し、媚びる。


避ける事は出来ない。

強者の姿が、影に映るから。



人間関係という虚構を悟った彼らは、老人との友情を大切にする。


素晴らしい!

正義に目覚めたのだ!

ソレは次々次々次々次々次々次々連鎖する。


トモダチを選ぶにあたり、街の実務を担う中産階級から選抜したのは老人だ。



港の倉庫で措置を受けたトモダチ。

彼らを猜疑する隣人たち。

その隣人を眺める人々。



その深奥に位置する、ネットワーク。



日夜、交友を広げては回帰するフレンズたち。


中堅層に拡大する亀裂。

最底辺を巻き込む集団化。

上流階級に浸透する世代抗争。


人は何者にもなれない。

人は何者にでもできる。

何者でもないからこそ人なのだ。


そんな可能性の塊に、方向づけを施した。

それはこの邦と外部につながる結節点に、集積されていく。

そしてまだ走り出さないように、細工を続ける。





老人が姿を消した後。

老人という規範が消えたとき。

その時こそ、正義は花開くだろう。




どんなカタチをとるのだろうか?





それがどんな形をとるのか。

それは判らない。

その必要もない。


それが正義と解れば十分だ。




老人は知っている。


様々な史料を読み込んだからだ。

耄碌とは程遠い老人は、体験だけではなく理論からも学ぶ。


1939年のベルリンで。

1975年のプノンペンで。

1991年のユーゴスラビアで。


1965年のジャカルタで体験したことを、理論的に理解した。



条件さえ整えば、いつでも再現できる。

それは老人の体験だけではなく、多くの学者が認めるところだ。





条件を整えるのは、なかなか骨が折れる。

それを団長の想い人がたやすく成し遂げ、そこに老人が居合わせた。


待ち人は必ず訪れる。

失せ物は見つかる。

正義をわが手に。



運命とは常に正しき人の味方である。



なによりも。

勝者としての視点。




九月三十日。

あの日あの時、大勢の華僑を殺したのは差別主義であったのか?


老人の祖国だけではなく、東南アジア一帯、数億の民が生きる世界。


アフリカの印僑。

東南アジアの華僑。

ヨーロッパのユダヤ人。


何かが起これば、とりあえず虐殺される民族。


共産党によるクーデター未遂事件。

スカルノ初代大統領の失脚。

スハルト政権の成立。


それが、いつもの反応を紡いだ。

華僑が本国、中華人民共和国と関係が深かったこと、そう思われたことも拍車をかけた。


と、欧米人は言う。

老人は断言する。


否。


華僑を中心とした者たち。

共産主義者とその支持者たち。

そうでないと証明しない者たち。



悪。



ゆえに、殺した。

総力を挙げて、誠心誠意、精励してこれに勤めた。



もちろん、悔恨はある。

殺しつくせなかったのではないか、と。

しかし杞憂だろう。



祖国は立派に発展し、みんなが幸せになった。

問題は片付き、生じ、また片付いて、皆が幸せに向かっている。


老人は確信している。

老兵が異世界に消えても、祖国の人々は正義に邁進しているだろう。

その中には当然、含まれている。



あの時殺されなかった者。


親が悪だった者たち。

子供が悪だった者たち。

友人たちが悪だった者たち。


皆、良き隣人だ。


悪い親を殺してあげた老人に感謝する。

悪い子供を殺してあげた老人に礼を続ける。

悪い友人を殺させてあげた老人のことを忘れない。



勝ったから正義、なのではない。

正義だから勝つ、のでしかない。



だからこそ、見ず知らずの人々までが、老人たちを称賛する。

一握りの、老人たちを貶めたがる奇妙な人々のことを想うと、同情で胸が痛くなるけれども。

もちろん、奇妙であることは、悪ではない。



殺したりないのか、殺し過ぎているのか。


老人は、若さゆえにそんなことを考えることもあった。

そして最近、解ってきた。


大切なのは、努力だ。

殺すべきを殺していれば、悪は滅びる。

悪を絶やせば、減らせば、正義が花咲く。





実体験故に、老人は断言している。

これから、この邦でおこること。




ソレは


――――――――――素晴らしいことだ――――――――――


と。




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