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完全侵略マニュアル/あなたの為の侵略戦争  作者: C
第六章「南伐」

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208/1003

迷信

地球側呼称《カタリベ/歴史家》

現地側呼称《青龍の史家》

?歳/女性

:地球側の政治指導者が定めた役割。すべての情報へのアクセスを許可されており、発表を禁止されている代わりにどんな情報も入手可能。軍政部隊に同行しているのはジャーナリスト志望の大学生。



神を否定すれば、神に出会う。


「生きるのか?死ぬのか?」


人を合理的に解説しようとすれば、最後から二番目に、この問いかけにたどり着く。


何故、生きたいのか?

何故、生きたくないのか?


それは、ふたつの選択でしかない。

では、それに続く問いかけは、何だろう。

思うに、これだ。



「好きか?嫌いか?」



答えることは簡単だ。

何故?

と訊かれさえしなければ。



根源に至れば理屈など立てようもない。

生きるための選択は、枝葉に至れば膨大なれど、根元に在るのは一つだけ。


何故?


答えは、人の中にはない。



「神がそれをお望みだから」


そう。

言うか言わないか。

それだけだ。


言えば何か変わるだろうか?

言わねば何か変わるだろうか?


それだけだよ。


無神論とはもっとも真剣な信仰告白(Shahāda)だ。

もし神を、本当に信じていないのならば、そもそも否定すらしない。


否定とは、肯定の裏返しにしかならない。

否定が強ければ強いほど、対置される肯定も強くなる。


いわるる、そう、ツンデレ、だったかな?



だから、合理主義を否定したりはしない。


知っているからだ。

人は神のもとに戻ってくる。

離れても離れても、神のもとでしかないけれど、ね。



――――――――――――――――――――オックスフォード大学大学を卒業し、中央アジアで紀元前の石仏を爆破している信仰者。



「ああ、バチカンの科学担当司教にして数学博士号所持者、とでも名乗った方が良かったかね?」

――――――――――――――――――――インタビューの最期に、彼はそう言って笑った。


たしかに、肩書一つで読み手の意識は変わるだろう。

それこそが迷信の迷信たるゆえんなのだけれど。






【太守領/港湾都市/埠頭/ヘリポート/軍政部隊中央】


俺は近所のコロを思い出していた。

あいつも頭目の子みたいに、よく舐め付いてきたな。


犬や子供の唾液やなんかを、嫌がる人はいるだろう。


普通は嫌がるかな?

俺はあんまり気にしないタイプだ。




よく考えなくても、この子は父親が居ないんだよな。



まあ、そもそもこの異世界にには俺が考えるような父親という概念が未分化なのだが。

未分化、ってのが余計に泣けてくる。



無いなら無いで、気になるまい。


だが、お嬢の父親のような、この世界の常識からはみ出している人もいる。そもそもシスターズは俺みたいな現代人が知っている、家族、に近い関係だ。


在ると無いの間には、永い永い狭間がある。



そりゃそうだ。

ある概念が突発的に生じるわけがない。


キリスト以前にプレ・クリスチャン(原始キリスト教/キリスト教の教義、その原型を抱いていたであろうユダヤ教徒の分派)が想定されているのと同じこと。


偶然や、生得的環境的異端が、感情を生み出す。

生み出された感情は、個体の中で定着するかもしれない。

その0個体の周りに伝播するかもしれない。



そこから先は?


家族。

親子。

人間。


それがのちに一般化する、か、しないか。


それは、ほとんど偶然による。

ダーウィニズム的な必然性なんか関係がない。


だが、今は、異端だ。



それは宗教的な異端と違って、選択の余地はない。

気がついたらそうなっている。



偶々、俺(現代日本人)的な感性で世界を見てしまったら?



俺を嘗め回すこの子はそうだろう。

娘自慢を繰り返す頭目を見ると、母親として溺愛しているのが判る。愛したエルフの恋人と、一瞬で死別せざるを得なかった、その愛情があふれて娘に向いたのか、どうなのか。


そして娘がハーフエルフだったために、今までは、ほとんど共に過ごすことができなかった。

娘は娘でほぼ生まれたときから人目を忍んで軟禁状態、時折、必死で訪れる母親から愛情を注がれる。

それが愛情を純化させたのか濃縮させたのか。


そんないろいろが重なって、この異世界からはみ出した母娘。


集団性動物であることは、異世界人類も変わらない。



それが。


絶対に誰とも共有できない視線を持っていたら?

相手のことを知ることはできても理解はできない、自分のことを知らせることもできない、理解させる望みもない。

無いがいくつ続くのか。


・・・・・・・・・・・・・・よく生きてこれたな。



宇宙人の中で暮らすなんてレベルじゃねーぞ。

ヤバイ。

勝手ながら本当に泣けてくる。


いや、俺が感情移入できるような話じゃないけどね?

何かできるような話じゃないけどね?


それこそ、ソレが当たり前だったのであれば、辛い悲しいなんて世界じゃないのかもしれないし。

それを、当たり前じゃ無くしちゃったんだよね。


来ちゃったから。

俺達が。


この母娘の一生に、かかわりのない俺たちが、束の間に、通りすぎちゃったんだよな、これが。


いや、ほんと。

財布も預金通帳も差し出すから何とかしてください。

いや、ほんと。

俺にできることなんてそれぐらいだし。



じゃれつかれるくらい、どーってことはない。

特に親しい、というかまあ、頭目と親しいかどうかは疑問だが、嫌いじゃない相手の家族なら気にならない。



そこまで大人げなくない、俺は。


大人げなんて概念が無いのは、俺じゃなくて


「キスじゃないから大丈夫キスじゃないから大丈夫キスじゃないから大丈夫キスじゃないから大丈夫」


なにその呪詛の声コワい。

M-14に着剣してなにかほざく元カノ。

言い聞かせてるところに、大人の片鱗を感じてしまうのは間違っていますか?


「どこからどーみても舌を絡めて唾液を吸い合うディープキスです」


元カノを煽るマメシバ三尉。


「最後尾コチラデース!お一人様5分以内次ノオ客サマガオマチデース」


プラカードを掲げて何をしてる神父。


「体液ノ完売マテ余裕ゴサイマース。順番ニオ並ビニナッテオ待チクダサーイ」

並ぶんじゃありません―

―――――――――シスターズ&Colorfulって、地元の子もか?


チョコを配ったりはしてないぞ。

地球産飲食物提供はシスターズに限って解禁されたが。




【太守領/港湾都市/埠頭/龍の巣/幸せに(?)キスする二人の真横】


「十年後が怖いわ」


まったくね!!!!!!!!!!

あたしが睨みつけても、頭目は動じない。

血は争えないって言うべき?


「男の趣味が最高に良いのよ」


それって、自讃でしかないわよね?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なにかしら、この気持ち。

絶対に否定も肯定も出来ないわ。


だいたい、あんな小さい子に何を教えてるわけ!!!!!!!!!!


「あんな乱暴なやり方、教えられたものじゃないわよ」



「サガ」


「応えから学んで、相手専用の形を覚えていくの」


そ、そう

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いうもの、なの?


「追い抜かれちゃったわね」


アンタもね!!!!!!!!!!




【傍観者の位置】


「インセスト・タブー」


カタリベは、聴こえるように、発声した。


そう、聴こえる様に。

それは確かに確認出来る。

現地の、異世界の商人代表、その一人。

怪訝そうに、こちらを見たから。


そう、訳が分からず、怪訝そうに

――――――――――――――――――――魔法翻訳の限界。



彼には、響きだけが伝わったのだ。


カタリベは、文化人類学の知識で、内在する忌避感を抑えた。

インタビュー対象に、先入観を与えてはならない。

ジャーナリストの鉄則。


取り分け、ここ異世界では、カタリベたる日本人は征服者だ

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はなはだ、不愉快なことに、その感情も押し殺す。


「あの二人の関係は、ご存知ですね」


軍政司令官とハーフエルフの子供。

親子――――――――――軍政司令官が、エルフに産ませた子供。


そう、彼ら、異世界社会上層部、その事情通は思っている。


「ご随意のままに」


若い貿易商人は、如才なく応える。


「どう見えます?」


あからさまに、カタリベの倫理観をもってして、じゃれ合う、と表現するのが精一杯な、二人。

カタリベにもわかってはいる

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・一方通行であることは。


だがそれでも、あからさまな幼児性愛的情景。

カタリベにとっては、精神を磨耗させる。


だが地球と同じ、中世社会そのものな異世界。

ここにはそうした視点で、同調する向きは少ない。

だから、それを確認しようなんて思わない。



だから、別なことを確かめる。



「貴男は妹さんと、あのようにされますか?」


怒声を予想したかった、問いかけ。


「いえ」


若い貿易商人は、妹を見た。

離れた場所の港街有力者を、取り仕切っている。


「あれは良い娘ですから、他家と娶せます」


カタリベは、当たり前なフリをして話を終えた。


軍政司令官とハーフエルフの少女、というより子供。本来であれば気にするようなことではない、カタリベ自身にとっては、だけれど。


実際カタリベは、幼児性愛的な違和感を感じる自分自身を嘲っている。連想する方がおかしい、ということは、軍政司令官の態度を見れば明らかだ。


それでも想起してしまうのは、周りを囲む女性、少女を含む、の態度が原因。異性として意識して、同性として牽制し合う。


(それに引きずられるのも、どうかって話よね)


カタリベは反省。

人間であれば周りの情感に影響を受けざるを得ない。

でも、それに引きずられてはいけない。


例え暴動の最中にいても、客体として見聞きして記録しなければなんらない。

ジャーナリストを断念して、カタリベとなったのであればなおのこと。



だが、今はそうできた自信がある。

だからこそ、気がついたのだ。


違和感を感じる必要のない、違和感に。



カタリベ自身は知っている。


ハーフエルフの少女、子供というよりあえて言えば少女。

彼女が軍政司令官と血の繋がりがないことを。



でも、現地住民の大半は、ソレを知らない。だから少なからぬ現地住民は、少女と軍政司令官が実の親子だと思っている。


そして今、その少女は軍政司令官に恋慕しているように見える。

もちろん、そう見える原因は、周りの女性たちに在り、彼女たちは二人が親子ではないと知っているのだから、当たり前ではあるのだけれど。



であれば。


実の父親に恋慕する娘。

・・・・・・・・・・・・・と見えるのではないか?


そこまで気がついて、カタリベは察した。

二人を親子だと思っている、現地住民たちは、ソレに違和感を感じていない。



カタリベの常識で言えば、穏当な解釈ができる。


未成熟な子供が保護者への思慕と恋慕の区別をつけられない

ある。

社会的な地位もある常識的な住民たちが、いちいち騒ぎ立てるほど幼稚なわけがない。

あるある。


だから、確かめて、理解できた。

この世界のありよう、あるいは、地球世界のありようが。




インセスト・タブー、いわゆる近親婚の制限。


中世準拠の世界では、存在しない。

・・・・・・・・・・・異世界では、じゃなく。



人口の9割を占める農民たちが、雑婚制。

農民の99%以上が村で一生を終える。誰が誰の血縁か、そもそも誰も確認しない。


考慮されるのは歳の頃合い

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いや、これも結果として、だ。


村々の労働配分、生活場所や時間が年齢別になっている。

だから交配が同年代で多いだけ。


地球の中世も異世界の今も、同じ仕組みで成り立っている。



氏族血族社会が行き渡りつつある上流階級。

結婚に近い血統管理が進んでも、タブーなどとは感じていない。


あくまでも氏族の外交手段として、人的資源を無駄にしないための禁止事項。


口振りからしても、そう。

政略結婚的な使い方が出来ないなら、ハーフエルフなら、それでいいだろう、と。



奴隷に主人が子を産ませようが、その逆だろうが、奴隷の子が奴隷であるのと変わらない。

氏族血族とは、そういうもの。


生物学的な血統関係は、重視されない、というよりあまり理解されない。そもそも生物学や遺伝学が普及する前には説明しようもない。



どの有性生殖動物も、ただ血がつながっている、ということに価値を見いだしたりはしない。

保護を必要とする幼体を保護する本能はある。


だが、ソレに血統的要素が無いことは、確認されている。極端に言えば、犬の子供に乳を与えるネコすらいるのだ。




それで問題は起きない?


そう。

問題は起きない。


地球で問題が起きなかった通り。



学問的には決着がついている。

インセスト・タブーは生物学的な根拠を持たない。



劣勢遺伝子の表面化?

そもそも、劣勢遺伝子と障害はイコールではない。

劣勢とは、表面化しにくい、と言う意味しかない。


遺伝病全般と混同されるのは、事例研究において病歴が追跡しやすかっただけ。


世界の果てから連れて来て、同じ劣性遺伝子を持つ全く縁の無い血統を掛け合わせれば、近親婚を繰り返した家系と同じ結果が生じる。


そもそもが劣性遺伝子を持つ家系が少ないのだから、それが一般的な慣習になるわけがない。人類の大半には全く関係が無いのだから。


迷信と同じ。

まずタブーがありき。

合理主義、転じて、非合理なモノを否定する習慣が広まる。

タブーを守るために、合理的に見えるような特異例に、自称学者が跳びついた。


進化論や地動説を否定する論者と変わらない。



結局、学者と名乗っているのは大半が自称に過ぎない。

社会を研究する学者が、社会の制約に捕らわれいれば意味がない。

それは呪い師の戯れ言に近く、文盲で聖典が読めない狂信者と変わらない。




インセスト・タブー。

在る時代の、ある社会の、特定の、支配階級の、その時の都合によって、生み出された習慣。

その一つ。


地球の場合、それが宗教に取り込まれた。

支配階級しか聖典を読めなかったから、聖典に明記されていない枝葉の部分は彼らの価値観、その時における習慣に取り込まれていく。


原理だけでは解りにくいし、説話とて聞く者読む者の解釈で肉付けされていくからだ。



それが千年続けば?

生産が向上し、組織化と知識が浸透するにしたがって、意味も解らぬまま習慣が下々に浸透していく。

例え知ったのが100年前だとて、あたかも、千年前からそうであった、と感じてしまう。千年前の記録というのは、その当時の上流階級にしか書き残せないからだが。


半世紀前に突然現れた習慣も、祖父の代から存在すれば、人類創生以来の原理原則に見えてしまう。本来、事実を探求すべき学者ですら、そうなる。



禁忌というのは厄介なモノ。

考えるより以前に仕掛けられ、意思とは無関係に発動する。


自分の中にいる、他人。

自分を従える、他人の価値観。


それはカタリベにも、わかっているのだけれど。


気付いてしまえば、これほど不愉快なことも無い。


愉快不愉快、喜怒哀楽。

それが自分自身とは全く関係ないところで、器械的に決められているのだから。



親の代から始めれば、最初からそうであったと思うだろう。

親の親から始めれば、最初からそうであったと為るだろう。





(わかっているのかしらね)


モヤモヤを、軍政司令官にぶつけることにした。

ハーフエルフの女の子に「おとうさん」と呼びかけられ、無表情を装いながらも、まんざらでもなさそうな、彼に。


偶然が禁忌を生んだのなら、逆もあり得る訳で

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・だから或いは、この世界に於いては、地球とは違う結果になるのかもしれない。





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