幕間:優しい人を探しています(帝国政府広報)
人っはとっても、痛がり屋♪
牛より♪
猿より♪♪
痛っがり屋♪♪♪
頭っがいいからっ怖がりで♪
傷っつく前っからのたうって♪♪
逃っげる前っから死んじゃった♪♪♪
頭っが悪けりゃ逃っげらっれる♪
口っがきっけなきゃ戦えっる♪
何っでもでっきるから、殺された♪
何もできっないかっら、殺された♪
ボクは馬車の荷台、ふかふかの上。
まあ、飼い葉に使う燕麦のうえなんだけどね。
そしてボクの上。
彼方まで突きぬけるような蒼空。
きもちいいなぁ~。
ゆーか、やっぱり、北の空だよね。
空はどこでもおんなじ。
まあ、十年過ごした帝都と違って、起伏が激しい土地柄だけどさ。
キライじゃないかな、って。
でっ
――――――――――身を起こした。
フフン♪
ちょっと凄くない?
足場ふかふかなのに、腹と背中だけで一気だよ!
ボクは自慢の笑顔で皆を見渡す。
もちろん、その中には口うるさい爺もいるわけよ♪
ボク、爺にいわれる前に、イケたね♪
「姫」
言われるまでも、ないよ~。
目の前にはチンケな街。
ボクの背丈程度の、土壁。
門はだらしなく開けっ放し。
門前市場は店じまい。
見張り、衛兵すらいない。
ここ肝心ね。
大型馬車の上から背伸びで覗けば、門内側の広場が丸見えだ。
「掴みで千!」
どーよ♪
「二千」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――?
へ?
え?
は?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ボクは見直すまでもなく、降参。
「見えない範囲を観てくだされ」
諦めきれないボクは振り向いて。
どーよ?
って視線で問う。
背後の騎士が、慇懃に頷いた。
ぶぅぅぅぅぅ
――――――――――――――――――――――――――――――物見の結果と照らし合わせて、爺の見立て勝ち。
ボクは腹がたったから、荷台から跳び降りた。
「姫」
わかってますよーだ。
将たるものはその身を貴ぶべし。
跳ぶな、走るな、見てるだけ。
ボクは悔しかったから爺に指先で、聞いてますよーだ!って応えて、言葉で命令。
「教本通りね」
馬車はとまり、ボクが中心、左右に五名ずつ並ぶ。
横一直線。
背中はボクの魔法使い。
爺はボクのすぐ左。
ボクが進めば皆が続く、とーぜん、ボクに合わせてね。ボクの脚は素敵に長いけれど、周りの皆は体がデカイ。
足が短くても足幅が広い。
そこでボクたちを置いていくような、不届きモノは成敗だ!!
ボクは背中の気配、ボクの魔女がちゃんとつい来られるかだけ気にすればいい。魔女は体力ないからね、仕方がないね。
バラバラに歩くボクたち。
バラバラってのは横幅のことだよ?
それぞれ腕の長さも違うからね。まあ、互いが互いの間合いの中にいるようにしているんだけど。
必要ないんじゃないかな?
実際、ボクがいなければもっとみんな、気楽にバラけたいたろうね。
で、まあ、すっごく獲物に近づいたんだけど。
いやはや、鹿や野牛ほどに、ってまでは期待してないけどさ。
鳩よりショボいな生け簀の魚?
羊みたいではあるけれど、みたいにしてりゃよかったのにね。
門の内側、広場に集まっている民。
その一番外周より、つまり外から向かうボクたちに近い連中は、比較的醒めてるみたい。
よしよし。
ボクらに気がついた、何人か。
賢く逃げる者。
少し距離を置く馬鹿。
すぐに関心を失う屑。
違うでしょ?
そこは、かまえるとこだよ~??
群衆の向こう側から、悲鳴と嘲笑。
ボクを、帝国を罵倒する声。
もちろん、領民の鳴き声に腹をたてたりはしないよ!
ゆっくり、のんびり、てくてく。
剣も鎧も、略奪品に見えるのかなぁ?
だから民には近づいてくるボクらの姿を見ても、恐怖で失神したり、恐慌状態で暴走したりしない。
どう考えても、ボクを帝国貴族だと、見ていないよね。
これ。
・・・・・・・・・・・・・・・・威厳が足りない?
ボクは手鏡を取り出して、確かめる。
もともと、面頬は外している。
うーん、この肌艶はただものじゃないと思うんだけどな?
切れ長の眼に長いまつ毛。
瞳は、生みの女譲りの紫色。
波打つ金髪は、まあ、肩口くらいしかないけど。
切りたくなかったけどさ。
兜をつける手前、ね。
特注を造るかな。
問題なし。
綺麗だよね?
振り返って、目で問うと、ボクの魔女はうなずいた。
うんうん。
正直でよろしい。
キミもかわいいよ?
フードで隠している淡い金髪は見えないけど、赤い瞳が素敵だね。
なら、こいつらが馬鹿なんだ。
領民だし。
このチンケな街に、あるわけないじゃん。
帝国軍軍装、騎士装備がさ。
!!!!!!!!!!!!!!!
・・・・・・・・・・・・・爺ににらまれた。
ふん。
馬鹿な連中。
ここは吶喊して、向かってくるところでしょ~?
仕方がないな~。
ボクは手近な女を斬った。
うん、悲鳴。
背中を斬ったし、骨は断ってない。
いい感じに血が飛び散って、いい声で泣きながら駆け出す。
立ち尽くしている男、その胸を肋ごと斬りさいた。
うんうん、肺は無事だね悲鳴でわかるよ。
サクサク進む。
こーいう時には、ボクの軽さはべんりべんり。
深く斬りすぎると、脂で斬れなくなるからね。
騎士過程の最後だものね。
軽い体重、弱い勢いでもイケる斬撃術を習うのは。
元気だろうな
――――――――――騎士学校のみんな。
父である前当主、の役目柄、ボクは帝都で育った。
しかも、家を離れて。
ふつーは15歳くらいまで、家で過ごすのにさ。
まあ、氏族の爺婆に読み書き礼儀を教わるところは、どこの貴族騎士とも変わらないけど。
10歳までは帝都周りの草原で、気楽に馬の背で暮らす。
このころは常にフードをかぶっていても、日焼けしてたな~。いま、珠のお肌を見ると信じられないくらい。
後は、主に帝都の天幕の上、で寝てたけれど暮してたのは中。
帝国人ならだいたいみんな、体が出来るまではおんなじおんなじ。
ボクの時は10歳から5年、20回くらいの試練試問をこなした。
走ったり歩いたり、矢継ぎ早に質問されて答えたり。
やってるボクは、競技と区別してなかったけれど、結構重要なことだと後で知らされた。その結果と、結果が伸びているか頭打ちか、それとも下がっていくかが注目されていたって。
結果はもちろんだけれど、伸びていくならさらに高見が期待できるからそっち優先。
頭打ちなら無難だけれど、伸びているところが無いか細かく試練や試問を与える。
下がっていくなら向いてない、のか普段の生活に問題があるのかどちらか。
ボク当然、問題なし。
数字と伸びしろが測られて、狙った通り、騎士学校任官。
まあ、他より優れていたのは容姿だけだけどさ。
官吏学校とか無いよね~ほんと。
まあ、落ちこぼれたり、おんでたり、作戦上の転進は幾らでもあるけど。
ボクみたいな一直線は、一番平凡。
ボクは目についたオジサンの、弛んだ腹を斬り裂きながら、武術課程を思い出す。
最初の最初は殺し方。
兵じゃないから、皆で同じ型にする必要はない。
体格、筋力、瞬発力、反射なんか学徒個々にいろいろ。
学徒ひとりひとりに、教官が方向付け。
兵だったら、一人残らず同じ型で同じ動きを強いられる。それが一番効率が良くて、総体として最強になるから。
まあ、騎士の大半がなるのは将か軍師だから、個々の武術は二の次三の次。
選抜騎士なんかは、個々の技量の頂点を目指すけど。
なるとしても、騎士学校を終えてから。
もちろんボクは将になる。
実家が太守だし、女の肢体じゃ選抜騎士にはなれない。
竜騎士なんか、とてもとても。
当主の竜に載せてもらったから、諦めるのに十分だった。
あれじゃ、竜を御するどころかしがみつくだけ。
ボクの最初の、幾つも積み重ねられる、記念すべき挫折だったよ。
そういう体験が家で出来るんだから、太守の娘っていうのは悪くない。でも騎士学校では実家の訓練と違って、学校にしかない教材がいろいろつかえる。
もちろん、使い方を仕込む教官も込み込みでね。
これ、重要。
ボクは騎士学校を思い出しながら、三連突きで腕と腹を斬り割いて、剣の平で殴りつけて走らせる。
うん、身についている、とはいえ、考えながらやるとうまくいくな。
意識しないと殺しちゃうし。
教材が貴重品じゃなくたって使い方を知らなきゃ、勿体なくて使えない。試行錯語なんて、引退した爺婆がやることだよ。
ボクの時間は大切に。
それに貴重というほどじゃなくても、無限にあるわけじゃないしね。
教材の中でも人間は、週に一人しか使えない。
学徒一人に、だよ?
一回一回の時間と手間を考えたら、仕方がない。
学徒は武術以外にやるべきことが多いから。
最初の頃は、上級生が固定してくださる。
藁束や木とは違う骨肉の感じ、斬る感触、それにまず慣れるんだけど。
次に生体と死体の差を体得。
生きてるうちに殺して、死んだあとは刻む。
もちろん、適当に刻むのは最初だけ。
すぐに、部位々の感覚を教えてもらう。
筋の走り方、骨のつなぎ目、脂の溜口、血のめぐり。
見て知って、感じて覚えて、聴いてバラして、刃の当て方に力加減。
そう、今、突いたみたいに、大きな血管を避けてね。
うーん元気、元気♪♪♪♪
民はこうじゃなくちゃ!
ついでに呆然とした子供を斬る、あ、ダメか。
腕が落ちたから、すぐ死ぬ。
子供は初めてだから、これも経験だよ。
種族に依らないか
――――――――――小動物は、すぐに死ぬ、っと。
そうこうしながら、ボクが10人、ボクの隊で併せて100人位を斬り散らした。大半が血まみれで生きていて、悲鳴と苦鳴を上げている。
集まっていた民衆は、自分が悲鳴を上げて、逃げ崩れていっちゃった。
ボクら
――――――――――――――――――――背後から、ただ斬り進んだだけなのにねぇ。
一人でも、勇気があるヤツがいれば、戦局は変わっただろうに。
勇気は貴重な資質で、威力も大きいんだ。
危険を冒す、そんな者は勇気じゃない。
ただ単純に、死ぬこと。
それだけが勇気。
ボクがいくら騎士でも斬り続けるとき、隙は出来るんだから。素人でもやってやれなくはない。ってゆーか、殺れる。
惨殺覚悟でボクに一刺し。
一刺ししたヤツはボクが斬るけどさ。
この可愛いボクが殺されれば統率している爺がキレる。
そうなればボクの軍が動揺して、広場中の群集がそれに気が付けば?
二千人にたいして、追い回しているボクらは十人しかいない。
弾みさえつければ
――――――――――ボクらが八つ裂きにされてもでも、おかしくはない。
なのに。
なのに。
逃げっちゃった。
みんな
・・・・・・・・・・・・・臆病者。
広場の真ん中には死体が十二。
ボクらが殺した以外には、だけどさ。
吊され、焼かれ、カタチも怪しいね。
街の徴税人や帝国の下っ端を務めていた顔役かな。
他には裸で血塗れ、一応生きてるのが二十三か。
女子供ばかりだね。
嬲り殺しにされた連中の、血族、友人、恋人ってところ。
嬲り殺して、嬲って生かして。
気持ち悪い。
ヤダヤダ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・き、きし、さま・・・・・・・・・・・・」
触らないでくれる?
ボクは剣身で伸ばされた手を払う。
なおいい募ろうとする女を、首蹴りで黙らせた。
横にいた、比較的マシな、おばさんに尋ねる。
「油を売ってる店は、どこ?」
帝国貴族に話しかけられたら、どうするべきかな?
答える?
跪く?
死ぬ?
――――――――――答え、従う。
はーい、正解。
やっと正気に帰った23人。
そのうちから動ける8人を連れて、街の目抜き通り、名も無き商会の店舗兼倉庫に着いた。名前はあるんだろうけれど、ボクが知らなきゃどーでもいい。
うん、まあまあ、かな?
時間も規模も。
ボクが呼ばわって固く閉ざされた鎧戸を開かせる。
番頭だけ?
この規模の店なら、店主は
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・逃げ出した、か。
ボクが指を落とした番頭に集めさせた、手代や奉公人たち。
ボクの指示が皆の頭に入ったら、番頭の首を跳ねた。
それを合図に、皆が走り出す。
ボクは店の前にでる。
前の道に腰を下ろして伸びをして。
見回して。
広場から引きずって、小突いて連れてこさせた馬鹿ども。
その生き餌を、軽く刻ませた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・やっぱ、いない、か。
ざんねんざんねん。
騎士学校で教わったこと。
殺す時に、笑う人間。
世の中には、極々一握りの、異常者がいる。
殺す時に、取り乱す人間。
殺す側には全く危険がないのに、ね。
騎士学校では教官たちが、そして上級生も学徒をよーく観察する。
殺す時、刺すとき、斬る時。
笑う者がいないか?
楽しくて、じゃなくて。
怖くて、じゃなくて。
耐えられない、から笑う。
他人の痛みを、他人の恐怖を、他人の死を我がことにしてしまう、限られた異常者。
異常者は、耐えようとして、笑う。
殺しながら笑う。
拘束されなんの危険もない相手に対して、死ぬほどの痛みを感じ、逃れる為に笑う。
それは臆病とは違う、って教官はおっしゃった。
そういう異常者は、むしろ戦場では頼りになる事が多い。殺す相手だけじゃなくて、殺す味方にも注意を払い、常に周りが見えている。しかも、献身的に戦い護る。
戦友にほしいよね。
最初、みんなそう思っただろう。
でも、いつか壊れて動かなくなる。
殺し過ぎて消耗し、護り過ぎて盾になり、仲間を守るために不眠になる。
やっぱり、戦場には連れていかない方がいい、それ。
縛り上げてでも、帝都に連れ戻す。
みんな、そう思っただろう。
これは向き不向きの問題らしい。
ボクは最初、向かないからつまみ出す、と考えた。
向かない奴を連れ込まなくちゃいけないほと、帝国軍は人手不足じゃない。
そもそも異常者は、数も少ないどころか、存在自体が稀だって話。
なら帝国は広いから、もっと向いている役目は幾らでもある。
帝国は無数の得意で成り立っている。
竜騎士、魔法使い、騎士だけが帝国じゃない。
苦手なことをやる必要はないし、やらせるのはマヌケだけだ。
そいつ等が殺すことが苦手なら、得意なボクたちが殺ればいい。
殺るのが得意な者は多い、少なくとも不得意な者は少ないんだから、なんの問題もない。
なんなら、その異常者はボクの家で世話役か話し相手にしてもいい。
きっと気が回るだろし、話して楽しいだろう。
ボクが子供を産んだら、子守にするといいかも!
ボクだけじゃなくて、騎士を目指す皆がそう思った。だけど教官たちは、ボクらの解釈を読み取って、命じた。
これまでを思い出せ。
これからは目を凝らせ。
他人と自分の苦痛、その境が解らない者を探せ。
その者にしか担えない、役目がある。
鍛えればより一層に他人の痛みを、自分の事のように受け止められるようになる。
そうなれば護られる異常者は、異能者として帝国を護る。
鍛えることは出来ても、生み出す事は出来ない異常性。
一見すると、健常者と変わらない。
多くの地域で、弱さと受け取られる資質を隠す。
だから痛みが溢れている場所、戦場以外で探し出すのも難しい。
戦場なんぞで消耗させる訳にはいかない。
だからボクは、せっかく戦場に来た機会を生かして探してみるのだけれど。
――――――――――残念。
今の部下には居ないみたい。
いうのもナンだけど、普通の騎士ばかり。
領民にもいなかったみたい。
斬りながら、魔女に探させたのにな。
うん、ボクが探せって話だけど、作業に集中していたからね。
ま、いいや。
お楽しみはこれからだしぃ。
遠巻きにし始めていた民が、や~~~~っと、ボクたちの数に気がついたみたい。
棒きれや石、棒きれと同じ扱いしか出来ない槍や剣、鉈や斧を持って集まり始めた。
んん?
集まる、だけ?
もっと張り切ろうよ?
しょうがないな~~~。
店の前に並べられている、生餌。
広場から引きずってきた、暴徒、この街の住民の一部。
ボクは立ち上がり、これみよがしに手近に跪かされて泣いている若い男の首を、っとと、刺激が強すぎちゃだめだね。
また逃げられちゃ、メンドクサイ。
蹴りで足を折った。
生き餌の声で、やっと罵声があがり始める。
気を利かせて、気絶させないように他の連中を蹴り飛ばした騎士。
気が付いて、それを手伝う騎士。
○ひとつ。
ボクは視線で誉めてやる。
後で杯をとらせよう。
・・・・・・・・・・・・・・・・・で、まだぁ~まーだ、来ない。
見た目で五百人越え、凶器をもって集まって、ボクら住人ぽっちに、なにしてんのさ、まったく。
「火をかけますか」
爺がまだ声を上げられそうな女に油をかけた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うんうん!
もっといい方法があるよ!!
ボクが前に進み出て、兜を外した。
ふーんふん、驚いてるね?
こんな綺麗な女の子だって思わなかったろ♪♪♪♪♪♪
あはは。
ついでに、生き餌の子供を斬った。
首を、群衆に向けて蹴り転がす。
騎士学校では出来なかったな。
戦士の首じゃないと、馬上競技の首冠に相応しくない。
授業が進めば、抑えつけたりはしなくなる。
動いて、逃げて、刃向かってくる人間を殺す経験を積むんだ。
でも剣闘士って訳じゃなく、大半は竜の餌からまわされた人間。脱走兵や反逆者なんか、在学中は一度殺れたらいい方。
なら、ボクはツいていた?
二年しかいなかったのに
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・懐かしむのは、まだ早い、ね。
ボクの華奢な姿、与し易い弱そうな容姿。
女一人なら、かんたんにみえるよねぇ?
安全と勘違いし、走り出す。
激昂した連中が、走り出す。
釣られた周りも、走り出す。
ふふ♪
こうして走らせると、やっぱり野牛みたい。
僕は騎士たちを、手で抑えた。
屈強な騎士が前に出たら、勢いが止まっちゃうでしょう?
ボクを殺せると思ってる、興奮した血走った目。
広場でなぶりモノにした女たちを、思い出してるのかな。
ほーらほーら、おいでなさい。
極上の女がいるぞ~~~~~~貴様ら領民には、眼福だろぅ~~~♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪
後、15歩。
騎馬隊が、横切った。
ふふん♪
人間の顔って、こんなに変わるんだ。
うけるぅ~~~~~~~~~~♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪
真横から馬蹄に蹴り殺され、突き飛ばされ、錯乱混乱暴走し、追い散らされた暴徒たち。
先頭が踏み殺され、すぐ後が止まって後ずさり、更に後ろと押し合い。
ボクはゆっくり、前に進む。
馬蹄に踏まれ、かろうじて身を起こした男の顔を斬る。
騎士たちはボクを追い越し、圧倒的多数の民に躍りかかり斬り殺していく。
やっぱり、騎士学校繰り上がりのボクとは違うな。
いや、体力筋力で張り合おうなんて、思わないけどさ。
剣先で首や脚腕の付け根を斬ってる。
脂で剣を潰さないように。
馬車にはまだまた替え剣があるけど、それを届ける従士がいない。
本当は、ボクみたいな半人前の仕事なんだよね。
・・・・・・・・・・・・・・・・・太守がやれるわけ、無いって。
すぐに回り込んだ騎馬隊が、群集の後ろに突撃。
方向もなく、ただただみんなが逃げ崩れた。
たかが十騎の騎馬突撃でねぇ。
しかも大半は、自分たちで逃げながら、互いに踏みつけ押しのけ蹴り殺し。
ボクは教本を思い出す。
後は、夜までに街の家々に火を放てば完了。
ついでに馬鹿どもには、命にかかわらない傷を負わせる。
ボクらを恐れ、夜に怯え、着の身着のままで逃げざるを得ない。
生き延びる為、夜を明かすために、物資を求めてさまよい続け。
周りの村や町で邪魔にされ、嫌われ、盗み襲い狩られる。
共食い。
領民たちは、求めるだろうねぇ。
秩序を。
統制を。
帝国を。
逃げ惑う連中は、結局、元の街に戻ってくる。
このあたり一帯、街も村も、戦時徴税と動員で余裕はないからね。
結局どこにも行けやしない。
そのころには先遣隊が着く。
街にいる全員を串刺しにして並べておしまい。
あはぁ♪
かんたんだなぁ♪♪
『簡単ですなぁ?』
『偽札(偽造軍票)をばら撒き流通を崩壊させて、ついでにボトルネックとなる橋を爆破したのに』
『まあ、不服従から弾圧、反帝国暴動
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・鎮圧』
『羊の群れを恐れる羊飼いはいない、か』
『短い夢だった』
『まあ、特殊部隊三人で帝国軍20人をひきつけられたんだから』
――――――――――――――――――――軍事参謀委員会はこの成果をもって、戦略的焦土化作戦の拡大継続を決定した。




