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完全侵略マニュアル/あなたの為の侵略戦争  作者: C
第五章「征西/冊封体制」

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198/1003

別に死んでもいい奴ら

登場人物&設定

※必要のない方は読み飛ばしてください

※すでに描写されている範囲で簡単に記述します

※少しでも読みやすくなれば、という試みですのでご意見募集いたします


一人称部分の視点変更時には一行目を【語る人間の居場所】とします。

次の行、もしくは数行以内に「俺」「私」などの特徴となる一人称を入れます。

以下設定を参考に誰視点か確認いただければ幸いです。

(書き分けろ!と言われたら返す言葉もございません)


【登場人物/一人称】


『僕』

地球側呼称/現地側呼称《若い参事、船主代表》

?歳/男性

:太守府参事会有力参事。貿易商人、船主の代表。年若く野心的。妹がいて妻の代わりに補佐役となっている。昔は相当な札付きであったようだが、今は特定の相手以外には紳士的。


『わたくし』

地球側呼称《お嬢/童女》

現地側呼称《妹分/ちいねえ様/お嬢様/愛娘》

12歳/女性

:異世界人。大商人の愛娘。ロングウェーブのクリームブロンドに蒼い瞳、白い肌。身長は130cm以下。装飾の多いドレスが普段着。



【登場人物/三人称】


地球側呼称《新議長》

現地側呼称《バカ女/新議長/議長》

?歳/女性

:太守府参事会議長。参事会を、すなわち太守領を経済的に牛耳る五大家、その当主の一人。地球人来訪後の混乱の中、引退した祖父から当主の座を引き継ぎ、参事会議長にも就任した。実家は先代の失策で没落進行中。金髪縦ロール、「お――――――――――ほっほっほっほっほっほっ」と高笑い。



地球側呼称《お嬢の父親》

現地側呼称《大先輩/五大家古参当主/親バカ》

?歳/男性

:シスターズの一人、童女ことお嬢(12歳)の父親。中世準拠の異世界としては異例なほどに、家族思い。特に娘を溺愛しており、愛娘が夢中になっている青龍の貴族(俺)を公然と敵視している。公の場では商人たちの尊敬を集める銀行家。五大家で一番古い家系と、邦で一二を争う規模の商会を持つ。



「三佐」

「ん?」

「死んでも、って以前に、もう殺させてるじゃないですか」

「優秀な部下が多くて助かるわ」


「それに」

「ん?」

「いいわるいの前に、殺してますよね」

「次アレ」


《国際連合安全保障理事会アーカイブ:(検閲削除)音声データより》




【太守領中央/太守府/王城/参事会五大家に割り当てられた塔の一つ/当主執務室】


「もっと優しく縛りなさいよ!!!!!!!!!!」


僕は呆れながら、受け流した。

縛られるのが当たり前になっている、バカ女。


つまりは我が参事会、この邦の商い、金と物、信用を差配する集団の、新議長閣下だ。


わざわざ話を聴くために、丸一日以上待機していただいたのだこのアマ。


昨日は忙しかったからな。

西の山、ドワーフたちは、帰って行った。


山と積まれたままのお宝に、長老たちの死体を斧槍先に掲げたまま。



王城での惨劇、喜劇、悲劇は街中に広がった。


直前に身の危険を悟って退いた連中は、手堅く見聞を金に換えて売りまくった

――――――――――もちろん、逃げながら。


二次売り三次売りで逃げるのを忘れたバカが出るくらいには、金になったようだ。



最中に逃げ出した、下っ端どもは誤認断片願望錯覚妄想を混ぜ合わせ、街中にふれ回った。

更に王城に向かうドワーフと王城を出るドワーフを見る為に、街頭に繰り出していた街中の連中も、似た様なモノ。



僕は一応、街中に出回った話をあつめ、ようとしてやめた。


与太話って類ですらない。

不安、恐怖、期待などなど、吐き出しただけだ。


なんでこの程度の話が、ってほどくだらない、知れた程度で堪えきれず、誰彼かまわすまくし立てあう。

互いにぶつけ合った不安やらなにやらが、新たな噂を生んで更に誰かがそれを吐き出して

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ここまでくると、気味が悪くなる。


殺して焼いてしまいたくなるくらいに、だ。


この半月、堪っていたモノが吹き出した、のだろうが。


それを、把握しても無駄だと把握するだけで、昨日は精一杯。

新議長の拷問どころじゃない。


そして今日、やっと議長閣下の拷問、いや、尋問に取り方かれる訳だ。




なにしろ、街はすっかり落ち着いた。

勝手に生じた恐慌は、はじける前に掻き消えた

――――――――――なにもしちゃいない。


僕も参事会も。




青竜の貴族が、ドワーフどもと西の山を片付けた、からだ。


その話も、瞬く間に街中へ広まった。

布告があったわけでも、ふれ回らせたわけでもないのにな。

皆が同時に知っている。


いや、正確には、皆が同時に思い込んだ。



そう。

思いこんだんだ。

なぜなら、知っている内容に、全く統一がない。


どう、片付けたのか?


西の山の奴らはみんな喰われた(誰に?)。

西の山の奴らは征服された(いつ?)。

西の山は滅びた(根拠は?)。


共通点と言えば、言葉にならない部分。

つまり、誰一人、自分たちの先行きに、不安を感じていない事。



そんな噂が街中に広まり、誰が言い出したとも特定できず、あえて言えば皆で試行錯誤を繰り返し、翌日、つまり今日、昼にはこんな話で落ち着いた。



西の山の反乱は、ご領主様に従う者たちの手で鎮圧された。

ドワーフたちは、叛徒をご領主様に突き出して、財宝を捧げて許しを請うた。

ご領主様は、叛徒の首と財宝をそのまま下寵して、残りの者たちの首を預かりとした。


納得しそうになる

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何も知らなきゃな。





それはそれで構わない。

誰のせいであろうと、参事会、いや、僕に責任を押し付けてくる住民どもが落ちついているのは良いことだ。


何かの陰謀を疑って、多少無駄手間をかけたが。

陰謀ではない、と確認できたのだから、良しとしよう。



だからこそ、次に備えて事実を、何が起きていたのか把握する必要がある。



まずもって、僕は。

だから、大先輩にも。


事実を一人で知っていても役に立たない。

自分しか知らない事実など、誰も信じやしない。

信じられなければ、安いウソと変わらない。



皆で知っているほうがマシだが、それでは値がつかない。


事実を裏書きする為に、値段をつけさせるために、公然の秘密にする仕掛け。

口の堅い、信用の厚い、証人を手配できた。

・・・・・・・・・・だって、のに。



悠然と寝椅子に身を任せる新議長、いやさ、バカ女。


相変わらず暈の多い金髪を、縦に巻き編み、技巧を凝らした化粧で化けている。金糸銀糸で織り上げたドレスは締めるべきを締め、寄せるべきを寄せ、上げるべきを上げる。



要所要所を薄く仕上げているために、端から見れば好い肢体。

一つ一つを見れば、独創性の無い平凡な技術。


それを突き詰め均衡を極めれば、ある種の作品とすら言える

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・剥いたり掴んだり絞めたり担いだり、実体を知っていなければ。




ふん

――――――――――素でみれば、この程度の女は居るものだ。

肢体はな。




肢体以外はと言えば、確かに特別、特殊に過ぎる。


尊大で余裕に満ちた鷹揚さは、とても自然な

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・愚かさの証。


炎の熱さを知らなくば、火事の最中に勇者になれよう。

――――――――――すぐ死ぬが。


迷いのない輝く視線。

迷うほどの知識がなく、そもそも選択すらできない。



流石に大先輩の目の前で殴りやしない。

殴りやしない。


だが、殴りたい。


とりあえず、好きに話させる。

昨日の朝、西の山のドワーフどもと一緒になって、太守府にやってきた経緯。


騒ぎが予想された昨日、いや、一昨日の夜まで邪魔にならないように王城に放り込んであった、バカ女。

ソレが抜け出したってのは判る。


軟禁止まりで監禁してなかったからな。



「紹介して、って」


と、ドワーフに頼まれたらしい。

推測するに、青龍の貴族への取継か取成しを頼まれた、というところ。ドワーフの名誉の為に付け加えれば、もっとまともな口上であったろうが。



バカ女の語彙力には、通じない。

聞かされた言葉の九割方が音楽のように楽しまれる

――――――――――印象しか残らない。


論旨の罠も暗喩も比喩も、言葉の技巧が通じない。


話の半分を占めていたであろう美辞麗句。

それを楽しみ、他を聞き流し、最後の一言くらいは記憶していたのが幸い

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・か?



まあ、どっちにせよ、ドワーフたちの隊列と一緒に街へ戻って来たのだから、解っていなくとも同じ事か。


同行した奴が、煽て上げて、煽りたてて、押し出して。

あやすのが一苦労だったろう

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ドワーフたちには同情する。


それでも、まともに話が伝わらなかったのは、このバカ女が言われた通りに話すことすらできないバカだから。

おかげで衛兵たちは恐れ入って右往左往、とりあえず門を開いただけ。

参事会には、僕には何も知らせが来なかった。

成り行き任せか。



更に続くバカ女の話。


取り留めなく、跳び跳びに、僕への愚痴と自賛を増しつつ、結論もなく続く続く。

時々、睨みつけて話を戻させる。

大先輩は相槌に徹している。



それを要約したのは、しようとしているのは、僕だ。



つまり参事会新議長閣下は、ドワーフから頼まれた。

一昨日、つまりドワーフが到着する前日に。


僕が忙しく走り回り、参事や家中の者と算段を整えている間に。何やら僕を呼び出そうとして諦めて、退屈していたバカ女。


新しい刺激に飛びついた。


西の山、ドワーフたちとの付き合いが深い、バカ女自身じゃなくて、その家。

当主だけが知る、西の山との連絡手段。


それがゆえに誰にも知らせずに、王城中枢の、暇をしているバカ女にところに依頼が届いたのだ。



「連中とは、いつでも簡単に、こわぁぐ」


僕はバカ女の口を掴んで、凄んで見せた。


「議長閣下御家の機密を知ろうなどと決して思っておりませから御了解いただけますな発言に注意してそれ以外についてお話ください」


三度繰り返して、やっと理解したようだ

――――――――――今、言おうとしたことは、マズい、と。



極々一般的な常識として、この邦で一勢力を張る西の山。

極々一般的な常識として、秘密裏に連絡を取り合う手段は、大変に貴重だ。


僕は手を放した。

バカ女は涙目をこらえて表情を作って見せる。



「なんかしらないけど、顔を立ててあげるわ。アタクシ、寛大だから」


極々当たり前に隠すべき内容だって、判れボケ!!!!!!!!!!

てめーの命がかかってんだろーがよ!!!!


僕は背後から差し出された革の口枷と拘束衣を構えた。


「お、おまちなさいな!!!!!!!!!!!

人目があるのよ!!!!!!!!!!

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・抵抗したほうがいいのかしら?」


大先輩に何を聞いてるのか!!!!!!!!!!!

何で毎回縛り上げてると思っているのか!!!!!!!!!!



第一この口枷他は

――――――――――いつもは、適当な帯で縛り上げている。


この、なにやら、専門性を感じる道具は

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なにしてんだ、オマエ。



僕の背後から、趣味性の高い緊縛一式を差し出したのは、バカ女のメイド。バカ女の家中が四分五裂の中、当主たるバカ女自身に仕えている、唯一のメイドだ。


「御当主様の肌に合わせました」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・痣が付かないように、か?


使用感がないのは幸い、なのか?



「どーいう趣味よ!!!!!!!!!!

アタクシばかりイジメると思っていたら、やっぱりそーいう趣味なのね!!!!!!!!!!

知ってたけど!!!!!!!!!!

アタクシはそんな趣味はないのよ!!!!!!!!!!

痛いのも遠慮しますわ!!!!!!!!!!

傷が残るのはお止めなさい!!!!!!!!!!

無理矢理するなら終わるまで口をききませんからね!!!!!!!!!!」


や――――――――――んねーよ!


なんで段取りしてやがる?



「それは2人っっっっっきりでやりたまえ」


な゛――――――――――!


「今は、話を聞こうじゃないか」


大先輩が強引に話を戻した。


状況が悪化したのか?

悪化をくい止められたのか?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・今は、流れにのったほうがいい、か。


つまり

――――――――――どうやら、バカ女の家は、当主しか知らない仕組みを、用意しているらしい。

しかも、いくつも

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・規模の大きな配下を従えるには、裏付けが必然、ってわけか。


それを引き継いだのが、一月ほど前に当主を継いだバカ女。



その一つが、西の山との伝達手段。


封鎖された太守府、王城の中から。

参事会の、僕の密偵すら気づかないうちに。



新議長が跡を継いで以来、バカ女の実家、かつての五大家筆頭の惨状。



内紛と分派と寝返りと、墓穴を自分で掘っている。

そんな中で、バカ女が生かされている理由は、このあたりだな。

そんな命綱を見せびらかすバカ女。


死なせない為には、まだまだ一工夫必要だ。


今は、そしてしばらくは、青竜の膝下、王城の中に居る。

その限りは、拷問や薬漬けはない、か。


出来るだけ、紐で繋いで閉じ込めておくか。



「だから、アタクシ、行ってあげたの」


賞賛を待つ顔

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・鎖と手足腕脚首枷が必要だな。


僕が黙り、大先輩が優しく聞き出す。


バカ女は、ドワーフの長老たちから連絡を受けた。


つまり、西の山と単なる接触ではなく、その中心複数との通信手段

――――――――――詳しく、言うなよ?



「泣きつかれましたのよ。可哀想だもの。捨てられないでしょう?」



自慢気な顔。


小金目当ての取り巻きに、せびられるのではない。

誰からも軽んじられる良家の子女同士で、会話の接ぎ穂でしかない頼み事でもない。


存亡の危機を迎えた名のある勢力から、名指しで頼られる。



バカ女の笑顔が緩んで、とろけそうだ。

思い出しただけで、コレである。



お飾り特有の感覚。


金がある家々には必ず居る。

将来を期待されていない、動く装飾品。

切り捨てられるほどには、無能じゃない。

――――――――――だけ。


平均より上でも、取引に使える容姿ではない。

――――――――――それだけ。


これまでも何もなく。

これからも何もない。

――――――――――居るだけ。




氏族は血族。

だからこそ、当主一門に近いだけの、ただの凡人には利用価値がない。


赤の他人なら、丁稚か人足から始めさせれば鍛えられる。人並み程度の体と頭があれば、つまりは大半の人間は、運が悪くない限り立ち位置を掴める。


富裕家系の子女には許されない。

コイツ等を下積みにつけたら、血族秩序が崩壊する。


使い道がないだけではなく、無駄な存在。


始末したいが、無駄なだけで殺すのもマズい。

血統が無価値と知らしめれば、血族の価値を減じてしまう。


その程度の無駄を許容出来ない、と誤認されたら?


商会の財務状況に難あり、と見なされてしまいかねない。

だから、皆、同じ扱い。



査定の終わった良家の子女は、放置される。

せいぜい飾り立て、当主周りをうろつかせ、遊興させて、家に箔をつける。

維持費は回収できないが、廃物利用の道はある。


血だけは流れているのだ。


他の氏族との盟約の為に娶せたり。

下層の有望株を氏族化するために娶せたり。

娘なら直接与えるし、息子なら先方の娘と娶せればいい。


不始末が起きた時に、自決させるのならば断然、息子だ。

その程度。



数が余っても、まあ、使える。

他家に送った先でしでかしたら、娘や息子を差し替える。

替えがあった方が、先方も安心するというもの。


それこそが、良家の子女。

街でバカをやっている、クズどもの実態だ。



刹那の快楽しかしらない、余計者。

価値を見切られ、半ば放り出された玩具。

形だけチヤホヤされ、内心で皆に憐れまれる、棄てられることすら忘れられた不要品。

金で買える道楽で、紛らわせているうちはいい。


時折、我に返れば、下層の貧乏人に鬱憤を向ける。


どんな可能性もなく、どんな道もなく、市井にも逃れられぬ。

未来の無きことは、経験を積み技能を極めた氏族中枢の裏書き付き。

ソレが覆ることはない。

絶対に、だ。



いずれ諦めるまでに、一度は暴走する。



1ヶ月ばかり前、街で暴れて前太守に連なる娘たちを犯して連れまわしたチンピラ共。

すぐ後に出くわした青龍の貴族に殺されたクズども。

直後、街中で始末された良家の子女の最底辺の面々。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・まったく、さっさと首をくくればいいものを、臆面もなく生きてやがって。



実際、青龍の怒りは良い機会だった。

※第18部分 「Rules of Engagement/ROE/交戦規程」より


もともとの悪評だけで、なくもない程度の使い道もなくなっていた、塵。

皆殺しにできた。

徒党を組んだ下っ端ごと。



あの数日は、青龍の怒りを恐れて、皆が恐慌状態になってしまったが。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・終わってみれば、ゴミ掃除ついでに新しい支配者への忠誠を示すことができたといえる。


こういう時、首は便利で使いやすい。

不良在庫の整理とは、こういうことを言うのだろう。



とはいえ、どちらに転ぶかわからない。

今後は青龍の怒りなぞという、危険を冒したくはない。

もっと気軽に、こういう機会が必要だな。



元来、殺すに殺せない実家はこの手のクズ、不良息子や娘どもを殺すと喜ぶくらいだ。病気や何かで勝手に死なれると、薬師を手配する金がないのかと笑われる。



是非に殺してもらいたい。



衛兵の大半は欲がない馬鹿ばかりなので、賂一つで大抵の狼藉に目をつぶる。が、気が利いたものならクズを付け回し、衆目の中で狼藉を働いているのを見付けて殺すだろう。


クズの実家は不良債権を処理出来て万々歳。

せいぜい残念そうに見せて多少なりと血族の価値を伝え広めさせて、衛兵を脅して権力を誇示し、最後は殺した相手を赦して市井の歓心を買う。



まったく笑いが止まらない。



息子娘を成敗して見せた、気の利いた衛兵が取り立てられるのは間違いない。


実際、身分の差を顧みずに罰したことを足掛かりに出世する、なんて古今逸話は限りない。

気が利いたものなんぞ、絶対的な少数派ではある。


なかなか、楽に確実に殺せる状況に導くのは難しいものだ。下手に怪我で済ませれば当事者のクズはもちろん、余計な出費を強いられたその親からも恨まれる。


クズはクズで、虚勢を張り家の名前がさも効果があるようにハッタリに使う。

実家での立場を隠して自分は親に可愛がられてると吹聴し、的を絞られないようにする。

徒党を組んで、小金をばらまき、欲をかき頭が回る衛兵や無頼者に殺されないように注意を払う。

努力と才能の無駄遣い。


つまりはそういうこと。



無知であるからこその貧乏人たち。

そんなマヌケから見れば、権力をかさに着ているクズの、これが平均的な実態だ。




バカ女は、そんな首を括るのが遅すぎる連中の中では、マシな立場だった。

当主の祖父、そのお気に入りな装飾品。


人形。

鉢植え。

箱庭細工。

そして、無価値な、娘。


重んじられてはいないが、多少は構われる。

程よい距離感を保っていたのか、保てたのかは知らないが。祖父がどうでもいい、派手に見えるがそれだけの、多少の騒ぎを庇うくらいには相手にされた。


クズどもの中では破格の扱い。

連中の中で羨望と憧れを持ってちやほやされたのもよくわかる。


それでも、鬱屈したところはあったのだろう。


そんなバカ女、誰もが内心で価値を認めている、おおやけに認めざるを得ない西の山のドワーフ連中から、頼られる(ように感じる)。




舞い上がるわけだ

――――――――――で呼ばれるままに、ノコノコ会いに行った。



ほう

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・夜中に、メイドとその親族だけ連れて、城壁外にな。


メイド、の、ただの農夫農婦、の親族だけ?


護衛無しで??????????



「な、ななんで

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・怖い顔してるの?????

拳、拳は初めてよね?????

ひ、平手にしましょうよ?????????????」


夜中の太守府城壁外、しかも門近くが、どれだけ危険か、知らないわけか知らないだろうな、貴様は。



「そんなに怒ると、許してくれるまで口きいてやらないわよ!!!」


バカ女はどーでもいい。

知ってる訳がない。


昔から護衛や取り巻きを連れて、何処にでも出入りしていた。

もちろん、危険はない。

盗賊ギルドにも話を通してあったからな

――――――――――前議長、バカ女の祖父が。



帝国絡みの場所など、一部通せない場所もある。

それは、熟練の太鼓持ちが避けさせる。


だから、バカ女は危険を学べないまま、此処まできた、来てしまった。


邦中の富裕な家々で、こんなやり方を極めた奴はいない。

よく生きてたもんだ。

やはりかつてはあった家の力か、バカ女自身の強運か。



「ア、アタクシを放って、ウチのメイドに色目使うって、どーいうこと!!!!!!!!!!ふぎゃ」


そう。

僕はバカ女の顔を掴みながら、背後を睨む。

青龍以来、バカ女を守る力など、ない。


家が没落中だからな。


それをコイツは知っている

――――――――――バカ女の付き人。


無能ではない。

元々、前議長、バカ女の祖父が見いだした娘。

太守府近郊の農村、その長の娘。


村の中でも、太守府の近くでは農民も氏族をつくる、場合がある。

ちょくちょく村の長を出し、私財もある、農民でありながら家に近い集まりの出身。


それなりの素養に加え、才があるからこそ召し出された。


だが、その才は武技ではない。


その程度は秘密でもなんでもない。

僕の家、その日常的な作業として五大家の、当主周りは調べ続ける。


だが、そんな通り一片の確認で、見逃していたようだ。


荒事の役にはたたない。

心得が無くもない程度。

だからこそ、僕の背後に立つことを許された。


僕の背後は鉄壁だ。

メイドの役目はできないからこそ、小間使いに偽装した、うちの女傭兵。

ただの娘じやない。僕の不意を打てたとしても、その前に、首が跳ぶ。


つまり、こういうことだ。


バカ女のメイド長。

戦う力こそないが、危険は見極められる。

守れない危険な場所とわかるのに、バカ女を連れて行った。

敢えて、バカ女の命を賭けた、その理由は?


今、一番簡単に死ぬバカを、どうしたいんだキサマは?




【太守領中央/太守府/王城/参事会五大家に割り当てられた塔の一つ/当主執務室入口】


わたくしがお父様をさがして踏み込みますと、それはそれは得難い光景が広がっておりました。

そんな中心、参事会議長さんのメイド。


「我が当主様を」


メイド装束の裾をつまんで、深々と一礼し跪きましたわ。


「掴み離さぬようにお願いいたします」


その真摯な姿勢。

わたくし、主従というものを見たような気がいたしました。傍にいる、実家のメイドではなく、ご領主様のわたくしに付き従う王城のメイドとともに、口を出すべきではないと察します。


――――――――――参事会新議長が、脱力され青ざめて震えていらしても。



「掴み続けると死ぬぞ」


お父様ったら!!





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