不作為の罪

「何かが起こっている」のかもしれない。

「何も起こっていない」のかもしれない。

一番ありそうなのは「だれも知らない」とういところ、か。

「知らない」なら嘘ではない。

全ては予想であって予測ではない。

選択はできても決断はいらない。

事実でなくとも嘘ではない。

成功の保証がないのなら、言い訳だけは保証しよう。

【太守府/王城/王乃間/国際連合統治軍軍政司令官私室/ベットの上】

トンネルを抜けると、そこはジト目エルフだった。

俺は

――――――――――何を言っているのかと思うかもしれないが、マジだ。

胸の上に頭を、いや、うつ伏せになり、顎を載せたエルフっ子。

銀糸の髪は左右に流れ、緑の瞳が煌めいている

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・で、ジト目。

つまり俺は、寝ていたのか。

うん、よく寝た。

睡眠中は別な国に行っているようなもの。

国境の丸く明るい穴は、まぶたがひらいたのであった。

そんな感じ。

すっごく疲れがとれたよ。

ほら、あるじゃん。

寝不足がかさんで、いくらでも寝れるのに、寝続けたせいで体が痛くなるってやつ。

中休みいれて寝直すけどね、俺は。

しっかし、いまはそんなこともなく、一気にとってもよく眠れたようだ。

さすが王族御用達高級ベッド、と言いたいところだけれど。

人間工学を取り入れ、兵士の継戦時間を薬物無しで極限化しようという、米軍謹製野戦ベッドの方が優れているはず。

まあ薬物療法は一部国連軍で取り入れられてるけどね。

身体能力強化と一緒で副作用はない。

睡眠薬で短時間一気に熟睡させる。

覚せい剤で心体とも瞬間的に戦闘状態にもっていく。

陶酔系薬物で不要な緊張を解除して、興奮剤で戦意を向上させ、解毒剤で瞬間的に平常化させる。

うちの部隊には来ていない。

ってことは、枕が良かったのかな？

なんとなく、首回りが楽な気がする。

枕を変えた覚えもないが。

頬ずりしてよし、押し付けてよし、抱き潰してよし。

すっごく柔らかくて、気持ちがいい枕だったような。

掛け布団も同じような感触がしていたような。

跳ね除けておなかを冷やしたりしないように、何度も引き寄せた覚えがある。

してみると、枕をどっかに飛ばしてしまったのか。

いまの頭の後ろの感触は、明らかに違う。

悪くはないが、違う感じだ。

メイドさんたちが気を利かせてくれたのかもしれない。何も言わなくても、いろいろと試してくれてるみたいだからね。

シスターズも、魔女っ子は料理を工夫してくれるし、お嬢は茶や菓子をいろいろと変えてきて、俺の反応をチラチラとみている。

頑張らない俺に、誰かが御褒美をくれているのか。

そしてエルフっ子は、ジト目で見ている、すいません。

頑張らない俺に、誰かが罰を与えているようだ。

つまり俺の目の前ってか、視線足元方向、体の上ってことは、俺の胸の上にいる潰れエルフはエルフっ子。

いや、エルフっ子以外のエルフがココに居たら、びっくりするが。

ソレが胸の上だったら、びっくりどころじゃすまないが。

とはいえ、決して、驚かないで済むわけじゃないが。

ここはあれか？

おはよう、からか？

今、何時だろうか？

さて、エルフっ子

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・明らかに、むくれている。

平和的呼びかけ失敗。

というか、中止。

声を出さずに様子を見る。

エルフっ子。

頬を膨らませ、半眼で、瞳には責めるような、いや、責める意思がこもっている。

エルフっ子に責められているということは、責められるようなことをしたということで、うちのエルフっ子をイジメたのは

・・・・・・・・・・・・・・俺なんだろうな。

何をしたのか判らん、とは言えない。

それは死亡フラグだ。

三回ほど経験があります。

四回目以後は回避しました。

なぜなら、前三回で大変なことになりました。

いや、ダメかな、と思ったんですよ？

脳裏をかすめた惨劇の予感。

しかし、一瞬の躊躇、の背中を押す格言？

二回目は偶然、三回目は必然

―――――――――――こんなこと言ったのは、誰だ。

勇気を出して、（その相手には）初めての失言。

泣かれたり、沈黙されたり、退き籠もられたり。

未だに何をしたのか教えて貰えないくらいに。

出会うたびに、大っ嫌い、と断言されるのは大変なんだよこれが。

のみに行くとき、食事するとき、一緒に時間を過ごすとき。

毎回毎回言うんだから、よっぽどの事をしたんだろうな、俺。

しかも三例とも同じ反応が返ってくるということは、人類共通のコマンドを押してしまったのかもしれない。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・もはや学術的な興味さえ感じる。

と、そんな昔のことは忘れよう。日本列島で未だに継続中なことではあるが、とりあえず目先の問題に集中すべきだ。

異世界でも、地球でも。

同じ法則が通用するのかどうか？

安全保障理事会や軍事参謀委員会、ＵＮＥＳＣＯに知られたら、絶対に言われる。

やってみろ。

――――――――――――――――――――――と。

解らないことは試せばいい。

判っても解らない、かもしれない。

解らないと判ること、そは進歩の第一歩なり。

ソレも然り

――――――――――――――――――――――人類には小さな一歩が、個人には大破局かもしれないけれど。

・・・・・ざっけんな！！！！！！！！！！！！！

泣かれたり、無視されたり、籠城されたらどーする。

その大いなる知識が地球人類の役に立とうが立つまいが、侵略戦争の成否に関わろうがどうなろうが、知ったことではない。

俺がニコニコ笑うために、この子たちが笑っている。

他に考慮すべき問題があるか？

笑ってないけどね。

ジト目だけどね。

だが、エルフっ子。

一つ、言っておく。

「あたしの胸、枕じゃないから」

先に言われたよ？

【太守府/王城/王乃間隠し部屋/青龍の本陣】

お目覚めの空気。

あたくしは、昨日から待機しておりました。

王乃間、その隠し部屋。

御領主様のいらっしゃる寝所から、王乃間を挟んで向かい側。

昨日、御領主様は一瞥にて懸案、ないしお楽しみを片づけられました。

あたくしどもは、居合わせたのみ。

ただ、備えて置くよう指示されただけにございます。

指示された青龍の僧侶さまも、備えよ、以外に一言もなく。

つまりそれは、一任

――――――――――常と変わらぬ、青龍の流儀。

西の方々がお帰りになられ、御領主様、僧侶さま、騎士さま

――――――――――青龍の皆様は奥に退かれましたわ。

言い置きひとつなく、つまり、それも一任。

あたくしどもは、馬場の血を清めて、お終い。

千に至る、敵味方向背定かならぬ一団を迎えて、それだけで御座いました。籠城戦のことも考えておりましたが、気配すらなく。

とは申せ、良い経験で御座います。

あたくしだけではなく、執事長さまもそのようにおっしゃっておりました。おそらくは、いずれ、あたくしどもも、青龍に召されるのでありましょうね。

あたくしは、差配したあと、閨に入る御領主様、他の皆様を見送りました。メイドたちを寝所の内外に置き、滞りなく、御愉しみいただけますように。

そして、朝のおつとめをすませ、王乃間扉口にてメイド長としてのお勤め。

空気に触れて、御寝所の前にて控えます。

【太守府/王城/王乃間/国際連合統治軍軍政司令官私室/ベットの上】

エルフっ子。

うつ伏せで、俺の胸に顎を載せている。

という訳で、エルフっ子の胸は俺の腹

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・やや、下腹部より。

心は子供、見た目も十代、つまりイコール。

しかして年齢２５６、肢体は大人

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うーん、仕方がない。

これ、拗ねてるよね。

俺はもちろん、何かしたかもしれないが、せいぜい抱き枕扱いくらいだろう。

それはそれで怒られそうだが、拗ねられるような事じゃない、とおもわれ？

――――――――――ご意見募集中。

だがしかし、それ以上の、取り返しがつくことなどこの世にはないけれども、さらに重大に大変な事をエルフっ子に対して俺はしていない。

具体的にナニをとは言わないが、断言する

――――――――――どうして判るか？

そりゃ判る。

自分の体のことだ、すっごく、わかる

――――――――――――――――――――もの凄く、元気だからだ。

ドコともナニとも言わないが。

もし、万が一、あるいは、器用にも意識を失っている間についカッとなってエルフっ子と（自主規制）てしまっていたら？

こんなに余裕がある訳がない

――――――――――――――――――――――――――――――俺が。

賢者モードどころか、涅槃に旅立ち悟り確定。

精神だけで肉体を凌駕する羽目になる。

しかも、この邦に降り立ってしまって以来、シスターズ他増え続ける子供に、一瞬たりとも目を離して貰えないという、たいへんな目に遭い続けているのである。

有り余る（自主規制）が決壊してしまったら、全力の４００％をクリアする自信がある。

例えばアムネスティガールズが居たら、全員をフルコンプしてしまうだろう。

プロフェッショナルを１０人

――――――――――恐ろしい子

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・我ながら。

相手がエルフっ子なのにか？

と言われたら、だからだ、とは言わないけどね。

言わないだけで察していただきたい。

気遣い、優しさ、余裕、配慮、打算

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何もかも蒸発すると断言出来る。

で、あれば、俺が腹を斬っておらず殺されもせず縛り上げられていない以上、そっち方面は大丈夫だろう。

異世界には珍宗教が無いために、純潔信仰はない。

だからいいというわけではない。

まあ地球の中世だって、キリスト教圏だけ。

それさえ形式だけが大多数だけれど。

異世界人口の９０％を占めると言われる農村部は、雑婚。

まあ、婚じゃねーだろ、って世界。

基本的に家族という概念がなく、父母というモノもない。

若者同士が関係を結び、妊婦や子供は村で守り育てる。

日本だって、第二次世界大戦直後ぐらいまで、夜這いやらなんやらが一般的だったのと同じ。今は亡き地球世界で言っても、一部先進国以外はこんなものじゃないかな。

異世界では都市部の富裕層や騎士貴族以上に限れば、夫婦に近い固定の組み合わせが出来る。

氏族（血統集団）を基盤にし始めているからだ。

同時代の地球と、変わらんな～。

だがそれは、人間の話。

エルフは出生率が低い為に、子供にこだわる。

故に、子供を育成管理しやすい、家族や夫婦を造るようだ。

エルフっ子の恋愛観を聞くと、現代日本の感覚と変わらん。

あくまでも、聞いた感じ、であって、専門家には別な意見が有りそうだけど。

エルフっ子を長女と仰ぐシスターズ。

今でこそ、俺に対して無警戒。

いずれは、富裕層の習慣＋エルフっ子の薫陶を受けて、固めになるんだろうな～～～～～～～～～～。

が、そーいうもんだいじゃありません、ハイ。

無垢な魔女っ子。

お嬢の特技は耳年増。

見栄を張っているエルフっ子。

恋愛観性愛観がどうあろうと、無関係。

優しく配慮すればいいのかと言えば、そうではない。

が、それだけ間を取れれば俺が我に返る事も期待出来る。

俺は罪人にならない自信などない。

胸を張って断言出来る。

いいのかそれで？

と言われたら、良い訳がない。

法律が許しても、俺が許さんのだよ。

だからこそ予防が大切。

俺は、頼りがいがある良いお兄さんポジションなのだから。

見栄は地球より重い

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――だから、エルフっ子に早くどいて欲しい。

切に願います

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・大変マズいです。

拗ねてる子を掴んで抱き上げて撤去とかマズいよね、などと躊躇していたら、意識の覚醒と共に漲ってまいりました！

ここで、エルフっ子の柔らかい腕を掴んだりすると、別な方向に進んでしまったら大変です。

２５６歳だから大丈夫、それ以前に、口説くのが先だ！

っとか悪魔の囁きがどっちやら。

俺はカッコイく、撤退

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・既に、手遅れかな？

気づかれてるね？

エルフっ子はまだまだまだ拗ね顔を崩さない。

が、別なナニかが気になるよね？

耳まで真っ赤が進行中。

判りやすいなエルフっ子。

退くに退けなくなってないか？

これはあれだ。

拗ねてる原因に対して適切に対処されないと動けない、ってやつだ。

スルーされちゃ立場が無いものな。

で、対処するのは？

俺。

適切な対処ができたらとっくにやっているが。

女ならからかうところだが、女の子にそんなことができるわけもないのですがどーしましょう。

引っ剥がすにしても、穏便な方法はないか。

力任せだと、自動的に四度目の惨劇が予感される。

よりマシな方を、なんて敗北主義は、無縁な俺。

ベターなんかよりベストです！

犠牲も対価も払わずに、好いとこ取り。

人生の基本だよ、基本。

だから、エルフっ子。

もぞもぞしないでくれるかな？

例えエルフっ子にソノ気がなくてもね、当ててんのよ、ってレベルじゃねーぞ。

エルフっ子の鼓動がヤバい。

ムチャクチャに高鳴る鼓動がダイレクトアタック、されてる俺。

ちょーっと、腰を引くと胸が押し付けられるから！！！！！！

ここで結果的にトリガーを引かない引かない引かない！！！！！！！！！！！

ここで持久戦はマズい。

我が方の戦力（ポーカーフェイス）は時間によらず急速に消耗中。

赤面してしまったら試合終了。

しかも援軍は望めない。

むしろ、敵に援軍が到着する。

テンプレート。

予定調和。

お約束。

敵の名を、運命、と呼ぶ。

ベッドの上。

のしかかったまま、ジト目から赤面涙目に変化しつつある、エルフっ子。それでも退くに退けなくなっているのか、硬直してしまっているのかな？

ベッドの両サイドで寝落ちしているのは、シスターズの小さい二人。

お嬢は書見台、みたいなものに突っ伏している。

魔女っ子はキャンバスによりそって、ふにゃふにゃ。

体が痛くなるよその寝方。

Ｃｏｌｏｒｆｕｌは五人とも、クッションを抱えて部屋の隅で丸くなっている。

自分の部屋で寝ろ、と言いたいが、時々ここで寝てるよね。

禁止しない限り許可だと思っているようであり。

ことあれば、全員一瞬で覚醒。

明らかに、ヤバイ（性的な方向で）状況。

あくまでも見た目そのようになっているだけでまだまだ踏み出してはいないと神に誓えるあと数分。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――な、俺とエルフっ子。

７人の目撃者、予備軍。

まさに惨劇の目撃者として被害を拡大させんとして準備完了。

こーいう時には、運命がやってきてしまうのである。

約束されたトラブルクリエーター。

神父か？

元カノか？

マメシバ三尉か？

ベッドの下か？

天井か？

窓か？

気配が緊張が悪寒が高まる。

その時、衝撃が走った！

「あら」

扉が開いた

――――――――――そっちかよ！！！！！！！！！！

「最中なのね」

――――――――――三佐かよ！！！！！！！！！！

「まだ始まってません！！！！！！！！！！」

エルフっ子～～～～～～～～～～！

「４０秒で終わらせて」

三佐～～～～～～～～～～！

「足りません！！！！！！！！！！！！！」

君はきっと後悔するだろう。

「なら４０分」

「絶対イヤ！！！！！！！！！！

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・です」

キミタチ～～～～～～～～～～！

具体的だなおい！！！！！！！！！！

耳が、じゃなくて耳まで真っ赤だから。

エルフっ子が我に返りだしてるから。

止めたげて～～～～～～～～～～。