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完全侵略マニュアル/あなたの為の侵略戦争  作者: C
第五章「征西/冊封体制」

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193/1003

頭上の刀/The Sword of Damocles.

登場人物&設定

※必要のない方は読み飛ばしてください

※すでに描写されている範囲で簡単に記述します

※少しでも読みやすくなれば、という試みですのでご意見募集いたします


一人称部分の視点変更時には一行目を【語る人間の居場所】とします。

次の行、もしくは数行以内に「俺」「私」などの特徴となる一人称を入れます。

以下設定を参考に誰視点か確認いただければ幸いです。

(書き分けろ!と言われたら返す言葉もございません)



【登場人物/一人称】


『僕』

地球側呼称/現地側呼称《若い参事、船主代表》

?歳/男性

:太守府参事会有力参事。貿易商人、船主の代表。年若く野心的。妹がいて妻の代わりに補佐役となっている。昔は相当な札付きであったようだが、今は特定の相手以外には紳士的。



【登場人物/三人称】


地球側呼称《新議長》

現地側呼称《バカ女/新議長/議長》

?歳/女性

:太守府参事会議長。参事会を、すなわち太守領を経済的に牛耳る五大家、その当主の一人。地球人来訪後の混乱の中、引退した祖父から当主の座を引き継ぎ、参事会議長にも就任した。実家は先代の失策で没落進行中。金髪縦ロール、「お――――――――――ほっほっほっほっほっほっ」と高笑い。



地球側呼称《お嬢の父親》

現地側呼称《大先輩/五大家古参当主/親バカ》

?歳/男性

:シスターズの一人、童女ことお嬢(12歳)の父親。中世準拠の異世界としては異例なほどに、家族思い。特に娘を溺愛しており、愛娘が夢中になっている青龍の貴族(俺)を公然と敵視している。公の場では商人たちの尊敬を集める銀行家。五大家で一番古い家系と、邦で一二を争う規模の商会を持つ。



【用語】


『太守府』:帝国の行政区分をそのまま国連軍が引き継いだ呼び名。領地全体の呼び名と中枢が置かれる首府の呼び名を兼ねる。帝国ではおおむね半径60km程度を目安に社会的経済的につながりが深い地域で構成する。南北が森林、西は山脈、東は大海で大陸のほかの地域からは孤立している。ただし、穀倉地帯であり海路につながっているために領地としての価値は高い。10年前までは古い王国があり帝国に滅ぼされた。


『西の山々』:太守領の西方。大陸内陸側に広がる山脈の始まり。居住圏の西端であり、そこから先は過疎/無人地帯。古くからドワーフの一部族が居住していて、時々の支配者の配下になりながらも自治を保っている。この邦で産出される鉱物資源の大半はこの地域に在る鉱山から採取される。国連軍侵攻前、海上交易路が機能していた時点でもこの邦で鉱物の輸入は、ほとんどない。鉱石の品位が高く、ドワーフによる安定供給があったためと思われる。



『参事会』:太守府を実質的に支配する大商人たちの集まり。五大家と呼ばれる5人が中心メンバー。





平凡な戦乱に明け暮れて、100年。

人類史上最初で最後の平和を謳歌して、260年。

失敗ばかりしてなにもかも失った、70年。

懲りて怯えて引き篭もった70年。


さて。

次にどうなるか知りはしない。

次にどうなっても驚きはしない。



――――――――――日本人について



【太守府/王城内郭正面/内郭と外郭の間/演習場兼閲兵場兼園遊会会場にして馬車乗り場】


空気がざわめいた。


僕はとっさに跳びだす。

居並ぶドワーフの隊列は微動だにしない。


隊列先頭に並ぶ、西の山の長老ドワーフども。

その最前列中央。


最長老ドワーフ、のそばで自慢げに笑顔を振りまく、参事会議長。

その瞬間も長老、最長老に煽てられ、こっちをチラチラ見ている。


つまりは、バカ女。


バカが気づかぬ上

――――――――――――――――――――――――――――――下、前だ。


突っ切る勢いで左腕を首にかけ、右腕で腰を掴んで一気に滑りぬけた。

そのままバカ女の首を胸に抱き、抱きしめる。



引きずり倒しても、キョトンとしているバカ女。


大量の液体がぶちまかれ、僕の背中を熱く染めた。

ドワーフの体温は、人より高い、とは聴いていたがな。


実体験で比較出来ることだけは、数少ない利益だ。


金にならない知識はない。

金にできない無能はいるが。


粘つく前のさらりとした鮮血は、背中だけではなく頭上からも降りそそいだ。

僕は瞼が塞がらなかったのを幸い、バカ女を引きずりながらも、背後を一瞥。


背後には赤い池。

その中央、ドワーフの戦士長が片膝を突いていた。

その膝元で、赤い池が空を映して広がり続ける。


真っ二つ、西の山のドワーフども、その最長老が。

その切断面はまるで魔法のように滑らかで、動き続け生き続ける内臓が、泉のように赤い湧き水をぶちまけ続ける。


あの色は、終わりの色。

鮮やかな赤い血は、確実に命を奪う

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・今更か。


自らの息吹き、命の力で血液をすべて絞り出した真っ二つに別れた肉塊。

それを見た僕はバカな事を考えていたものだ。



流れる血の色。

鈍ければ助かる。

鮮やかならば死ぬ。

・・・・・・・・・・・・・・・場合が多い、って程度だが、な。



どちらにせよ、左右に両断された体が生きているわけがない。

切り口が潰れもせず、まるで刃物を通したようには見えないほどに鮮やかな分離。絵にかいたような、腑分けの図画ではなく、美しい悪夢を描いたような光景だ。



あれはなんだ。


血だまりともに輝く、薄く長い、ソレ。

ドワーフの最長老を、二つに分けた、ナニか。




・・・・・・・・・・・・・・・・くそっ!!!!!!!!!!!!!!


何を考えている。

この程度の流血で、たかが他人が死んだだけ。

血が肉が骨が臓物が、どうしたってんだ?


――――――――――――――――――――――――――――――オレは怪我もしなけりゃ狙われてもいない。



っっとオレじゃなくて、僕は引きずりながら、無駄になった時間で考える。




全く困ったことだ。

死と血肉に対する慣れが、薄れているらしい。

青龍の時代を生きるのならば、カンを取り戻さなければ。



大先輩の手助けで、重さがかなり減った。

バカ女を掴んで引きずりながら、周りを見回す余裕が出来た。


喚き声は便利なモノだ。いちいち確かめなくとも生きていること、ケガが無いこと、泣くほど元気なことが判る。


だから、死体は確認しなきゃわからない。

面倒なことだ。



西の山、ドワーフの長老たちが、いない。


その瞬間まで

―――――――――――誇らしげに宝物を開陳し、精強な重騎兵と力強い馬車列を誇示していた。


城内に招き入れられずに不快感を、敢えて見せ、斧を携えた戦士長の入城に笑った。

最長老は自らの剣を、いや、戦斧に等しい戦士長を青龍の貴族に向かわしめた。


武装したまま入城を許される、それを集まった市民に誇示。


王城正面に鎮座する偉容。

僕らが青ざめ動揺したことで、勘違いしていたのだろう。西の山、ドワーフの、特別なること。それを認めさせたと勘違いして、鼻高々。


ドワーフどもと僕ら。

やっていることは変わらない。


一戦すら、干戈を交えることすらできずに、青龍に踏みにじられたこと。

青龍の貴族に媚びへつらい、宝を差し出して赦しを請う、その惨めさ。




だがドワーフは、人とは違う

――――――――――――――――――――支配者側の存在だ。


そう、あり続ける。

支配者など、誰でも同じ。


ドワーフ抜きで、邦を穫れよう筈がない。

鉱山と鍛冶なくして、支配者で居られようはずはない。


それが西の山の、ドワーフどもの、誇りのようなナニか。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・下から数えて何番目、ってのが呆れてしまうが。



僕は、ドワーフを知るにつけ、思う。


まったく、変わらない

――――――――――――――――――――人間と。


屈強な戦士に守らせ、最長老の振る舞いを確認して、余裕を取り戻していた。

ドワーフの長老ども。

これ見よがしに、僕らに笑顔を向け、雑談に興じていた長老たち

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・だけが、全員、地に伏していた。



一瞬

――――――――――青龍が殺ったのかと、思った。




支配者側、生殺与奪を決める側、うっかり殺して気づかぬ側。

――――――――――ここには青龍の僧侶しかいない。


誰も姿を見せずとも、殺る。

殺ると決めたら、殺る。

殺ると決める前に、うっかりと、殺る。



だから、居ようがいまいが、誰かが、とりわけ強いものか地位が高いものが殺られたら、まず青龍を考えるのが常識だ。



だが青龍の僧侶は、珍しく好奇の視線。


僕は青龍ではない、と踏んだ。

青龍なら、殺すこと自体には関心をはらわない。

他の誰かが殺したときの眼だ、あれは。



なら、誰だ。


ドワーフの長老たちを殺したのは、僕が目を離したすきに、慌てて周りを見逃している時に、どいつだ?


戦士長は、動いていない。


最長老を両断しただけ、か。

片膝を突き、いや、片脚がやられたのか

――――――――――あの高さから、跳び、飛び降りたんだ。


歩けるわけがない。

いや、生きてるのが凄い。

ドワーフの丈夫さは、噂ではなかった。

それでも普通は死ぬがな。


人なら死ぬ。

ドワーフなら生き残る、場合もある、と。

今日得られた、二つ目の利益。



そしてザクザクと肉を耕し、骨を割り折る音がする。


たいした音じゃない。

通りに並ぶ肉屋の店先や、料理人を誉める時に館の厨房でよく聴く音。

・・・・・・・・・こいつらか。




長老たちは、一人一人に、護衛をつけたままだった。


例えば青龍と戦になったら、とでも考えたのか。

いや、戦えない、戦わない、勝ち目がないから媚びている。

なら護衛など付けても無駄だ

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・と、思い知らされてなお、怖かったのだろう。


一山を瞬く間に煙獣に沈められたとおり、斧も腕力も、青龍に対して無意味。

だからこそ、使えぬ剣でも、気は休まる。



長老たちは一人一人の背後に立たせ、西の山で最良の戦士を片時も離さずにいた。


到着後、騎馬隊列に戻ろうとした戦士たち。

それを引き留めたのは、長老たちだ。


それぞれの氏族出身の戦士を呼び出して、背後につけた。



自分の、自分たちの代わりに戦士長が王城に通された。その時、ドワーフたちは皆、長老たちも含めて不安そうだった。


本来であれば、青龍の貴族に降伏するのは、長老たちの役目だったのだろう。

西の山の運命を担った役割、青龍の貴族との対面が、軽輩に任されるはずがない。


だがしかし先の読めない侵略者に、出会う前に殴り倒された敗北者が許しを請うために向かうのだ。

恐ろしくなかったはずもない。


だからこそ、青龍の貴族に、戦士長独りが呼び出されて、誰も止めなかった。


安堵したからだ。

これから膝を屈する支配者の機嫌を損ねるわけにはいかない、と言い訳して。

そもそも媚び諂う役目ではない、むしろ一番向いていない戦士長に役目が果たせるのかとは考えぬようにして。


自分たちが死地に向かわぬ可能性。

盲目的に、すがって逃げて考えずに立ち止まった。


だからこそ長老たちは、戦士たちを配置する事で余裕を演じられるようになったのだ。

不安を打ち消すために。


その瞬間から

――――――――――それが文字通り、命取り、になったのだが。



ドワーフの長老、その背後の、重騎兵、の馬を降り立った騎士たち。

長老が護衛と頼んだ、誇り高く力を備えた戦士たち。


今。


皆が、それぞれ、付けられ従わされた長老を、斧で切り刻んでいた。

首をのみ、刻まれた胴体、肉塊の前にのこして。



一目瞭然、衆目一致。



皆より一足遅れた。

僕は、誰がやったのか、をやっと理解したので、誰がやらせたのか、と考える。

これならおそらく、大半の連中より先んじられる。



並べられた首。


死体でも表情は判る。

驚愕。


幸いに、多くの瞳が剥き出しだ。


一人一人の立ち位置は?

記憶を探ればすぐ判る。


瞳の傾き、焦点、その視線が最期に向いたのは

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・最長老、そして降りて、いや、落ちて来た戦士長の方向。


ならば、背後からの攻撃に驚いた訳では、ないか。


ただただ、上から落ちてきた戦士長、と気づかなかったかもしれないが、に驚いた。

その瞬間に一突き。


長老どもは何も理解していない。

ただの獲物か。


戦士たちは落ちてくるのが戦士長だと気がついただろう。


その程度が見て取れねば、鳥を狩ることすらできない。

ならば、最初からその段取りで?


・・・・・・・・・・・・・・・結論を急ぐな、急ぐな。



僕は周りを見回した。



慌てて叫び、逃げ惑っているのは、五大家や参事会の下っ端ども。

これが普通だろう。



執事長が率いる王城の奉公人。

みな、青ざめながら、一角に集まりしゃがみこんでいる。


メイド長がいないここ、唯一の指揮者たる執事長を向いて。

しゃがんでいるのは、立つ執事長の視線を妨げず、かつ自分たちが執事長の指揮を見逃さぬように、か。

敢えて動きにくい姿勢をとり、不用意な動きで事態をかき回さぬように、してもいるのかもしれない。




流石の練度

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・準備済み予想済み予定通りか!!!!!!!!!!


最低限、何かが、今、起きる

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そうと知らなければ、出来ない。



ふざけやがって!!!!!!!!!

金を甘くみるなよ!!!!!!!!!!

絶対に配下に引き入れてやる!!!!!!!!



しかし、角に集まっている為に、執事長が全ドワーフに合図を出すのは不可能だ。



だが、もう一組、動じていない、いや、喜悦を抑えている連中がいる。

西の山、長老たちが全滅した、ドワーフども。


下手人たるドワーフ騎士たちは、もちろん、笑っているのは護衛の戦士たちだけではない。馬車の御者たちや、荷運びに連れてこられたのであろう、鉱夫たちも。


そして血溜まりの中央に、戦士長に畏敬の念を送る、ドワーフたち。



西の山、ドワーフたち。


その長老たちは、まとめ役。

独りで全員を、とは言わないが、長老全員でドワーフたちを、その要望をまとめていた。


人望が厚いのもたしかだ。


なにしろ、豊かな穀倉であるこの邦で、鉱山を独占していたのだ。

たいていの希望は叶う。


危険で辛く厳しい鉱山労働も、ドワーフにとっては呼吸か娯楽か微妙なところ。


唯一の問題である、人間との付き合い。

それも王国時代から帝国まで、むしろ強大な国家の存在がそれを安定させた。


個々の人間こそ頭痛のタネ。

それを当の人間集団が解消してくれる。


野を走り山で暮らすのを止めれば、人間は国を作る。

国が出来るには金属が必要で、国を続けるなら必要であり続ける。


ドワーフが値付けを間違えない限り、人間はドワーフから奪わない。


買う

――――――――――その方が、得だからだ。


そんな状況が有史以来の日常ならば、ドワーフに独りの王が生まれないのも当然だろう。


長老は文字通り、老人のことであり、有り余る利益を還元するだけの存在。

嫌われる訳が無く、総じて好かれている。


どんな時にも例外はある。


だが、今じゃない。

この半月こそ様子が判らなかったが、それ以前の様子は確かめてある。


もちろん、僕には西の山への伝手はない。

だから、バカ女の伝手を利用した。


さすがにひっかきまわされるだけで、終わらせやしない。



代々、少なくとも50年は西の山、そのドワーフたちと付き合っていた。

それがバカ女の家。

まあ、何家かあるドワーフ扱いのまとめ役になったのは、先代からだが。


だからこそバカ女の家、西の山、その情報は一番新しく深い。


目の前で起きていることは、

――――――――――――――――――――――西の山、いやドワーフの歴史が、この邦だけ異質なモノに入れ換えられた、ということ。




その時、風切り

――――――――――打撃音。



敷石が砕けて砂利が跳び散った。


真っ直ぐに突き立てられた、戦斧。

ドワーフの、跪いたままだった戦士長が立ち上がった。


掠めるような、いや、狙いが外れたとしか思えない、投げおろされた斧。

僕は慎重に視線を上げ

――――――――――――――――――――下げた。



はっきりと見えた。

なら外したんじゃない、ワザと、か。


僕が見た、すぐに視線を外した姿。


腕を下に伸ばした、青龍の貴族。


ドワーフの戦斧を、戦士長に返した、らしい。



そして

――――――――――――――――――――破砕音。



斧の先端、槍の部分が砕け散った。

戦士長が斧の柄を掴んで、体を支え、立ち上がったのだ。まるで、砕けた脚を支える為に与えられた、杖のように。


そして、反りのある剣を掲げた。



立ち上がれなくとも、激痛に耐えて片脚で立とうとして果たせなくとも、杖代わりにしなかったカタナ。


青龍独特な形は

――――――――――青龍の貴族が、愛用し始めた、剣。



誇示するように、手に握りしめ、傍らに置いている、いた、剣。

カタナ、と呼ばれていた、それ。

誰もが、いや、青龍の貴族を知る者には、家紋より明瞭なしるし。



カタナ、掲げられるままに、皆の視線が上に。



一人残らず、訳が分からないようで、ポカーンとする

――――――――――僕も、だ。



高みに独り立ち、傲然と見下ろす、青龍の貴族。



いつもと違い、見ている

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・僕らを。


そ・こ・か。



丈の高い巨大馬車が並ぶ、体格のいいドワーフの農耕馬がひしめく、集まった市民が逃げ惑う。

そんんあ、ここを、唯一、一望できる場所。


誰からも見える場所。



その刹那、顎を引いた。

併せて、僕もドワーフたちも、視線を下げた

――――――――――つまり、前を見た。



そこに立つのは、鎧を捨てた、ドワーフの戦士長。

西の山、ドワーフたちは跪いた。


戦士長、いや、族長に。



西の山、ドワーフたちの革命者。

成功した反逆者。

あるいは、独りの王



戦士長が配下の戦士たちと謀って、西の山の全権を握った

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そう、皆が納得しようとするだろう。



だが、

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・どこからだ?



この場を生み出したのは、青龍の貴族、だろう。

他に可能な者はいない。



それでもコレは、仕掛けでは、有り得ない。


ドワーフの長老たち、ドワーフの戦士長、ドワーフの戦士たち。

誰もが流れるように、勢いまかせ、運任せ。



長老殺しが戦士以外のドワーフを逆上させたら?

長老たちが戦士を呼び寄せなかったら?

戦士長が墜落死していたら?


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・挙げていってもキリがない。



ドワーフの戦士長をもって、西の山を支配させ、それを配下に従えた。




・・・・・・・・・・・・・・ワザと、か。


なにからなにを予定して、どこからどこまで即興だ?

もっと安全で確実な方法は幾らでもある。だれでも思いつくそれを、青龍の貴族や僧侶たちが知らぬはずがない。


元々が青龍に降伏して来た、西の山。


ただ服属させるだけなら、それでお終い。

恐怖を払拭するために、王国はおろか帝国に対した以上に尽くすだろう。

何も求めない青龍には、どうでもいいかもしれないが。



何もする必要はない。

気に障ったなら、皆殺し。

単純で明快に目的だけに向かう。



それが、青龍。

いつものやり方だ。



今回に限って、なぜこんな仕掛けをして見せたのか。




危険も無駄も割り切って、あえて最短距離を捨て、一番危険で劇的な道にドワーフたちを追い込んで。

いや、違う、な。

追い込まれていたのは、僕も、大先輩も、参事会も市民も王城の使用人たちも、最低でも、この太守府のすべての人間だ。



それを仕掛けた青龍の貴族。

ドワーフどもではなく、僕等全てを、特等席から見渡していた。


なら、この結果は、青龍、青龍の貴族、の目的じゃない。

結果がとるに足らぬ物なら

・・・・・・・・・・・・・・・・過程、が狙いか。




僕等はそれと知らずに、観察されていた。





だからこそ、今、なにが起きているのか、わからない。

だから、僕はキョトンとしたまま、涙ぐんで何も判っていないバカ女に囁く。


「話を訊かせてもらうぞ」



断片を集め、選別し、浮き上がらせねばならない。上手く行こうが行くまいが、それすら見つめられている。



一番、僕が気にすべきは

――――――――――青龍の貴族、その意志。





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