まだ人間じゃない

非地球世界における帝国ないし帝国軍に所属する、もしくは所属している可能性がある個体の取り扱いについて。

該当の個体が無力化した時点を持って、これを国際連合情報資産と規定する。

これ毀損した者。

それを看過した者。

その準備を行った者

上記の疑いがある者。

すべては国際連合軍事制裁活動への敵対行動と規定し、平和に対する罪が適用される。

国際連合情報資産の取り扱いについては、別ファイル「ジュネーブ条約抜粋」を準用。なお情報資産活用時はこの限りではなく、扱いは有資格者の指示に従うこと。

軍事参謀委員会作成

安全保障理事会指導

国際連合総会承認

《国際連合軍事参謀委員会通達：（検閲削除）》

【太守府/王城/王乃間/国際連合統治軍軍政司令部窓外屋上端】

一仕事、終えた。

ひと味違う俺。

カッコいい？

よくない？？

いや、ロボットみたいなぎこちなさでも、俺の体が動いたのが、もっと奇跡だろう。

エルフっ子の機転と、坊さんや曹長たちのフォロースキルを考えれば、作戦完了。

良かった良かった、帰るか

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・どうやって。

問題が片づくと、次の問題が生じる。

これはきっと陰謀だ

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・三佐の。

やっと２人っきりになれたのに、嬉しくない。

元カノと２人っきり以上の緊張感。

せめてエルフっ子と２人っきりなら、緑の瞳が小春日和に栄えて綺麗だったろうな

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・俺、死ぬの？

愚問ですか？

いやいや、問題が生じたのではなく、最初から山積み。

やはり三佐が悪いのだが、次はどうする？

もちろん俺には自己犠牲や御恩奉公や七生報国なんぞという奴隷の価値観は全くない。

生き残る気は満々だ。

ケガをしないように配慮もしている。

相変わらずアイディアが全くわかないだけで。

ここからどうする。

フルアーマードワーフが１ｍ圏内。

俺は武器なし、体力なし、敵意を引き付ける肩書あり。

前方１５ｃｍは中空で、落ちたら死ぬと思います。

土下座しても許してもらえる気がしません。

対応策募集中。

――――――――――さて？

【太守府/王城/王乃間王乃間：青龍の本陣前/露台窓扉付近】

「さて」

どうする？

と続く言葉を省略した、彼、青龍の貴族。

あたしは

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いつものことだけれど、つくづく、言葉が少ない。

わかっているわ。

これは、あたしに向けられた言葉じゃない。

あたしや、あの娘たちに向けられる言葉は、常に明確。

質問。

確認。

命令。

言葉が重ねられることは、ない。

答え。

頷き。

諾否。

青龍の貴族は、受け入れるだけ。

あたしたちが、従っても拒んでも。

黙々と、受け止める、だけ。

だから、違う。

ドワーフの戦士長に向けられた、言葉。

愉しむような、なぶるような、試すような。

振り返りすら、せずに、背を向けたまま。

声ひとつかけなくとも、様々な使い魔や魔法で何もかも見通していても。

あたし、たちのことは、よく振り返って見る。

今も、あたしたちに注意を払っているのが、背中越しにも、判る。

ただ、戦士長には言葉だけを投げて

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・戦士長そのものには、関心を向けていない？

まるで、差し手を見ずに盤面を

――――――――――次の駒を待つように。

【太守府/王城/王乃間王乃間：青龍の本陣外、露台中央】

あたくしは、ほどよく距離を置きながら御領主様の声に耳を澄ませ、様子に目をくばります。この場は微妙に過ぎて、部屋付きのメイドたちに任せるわけにはまいりません。

後ろ側方には、本来、御領主様の閨にいらっしゃる皆様方。

やはり耳をすませていらっしゃいますわね。

エルフさまが聴き、他の皆様は固唾をのんで、ご注目。

少しずつ、進んでいらっしゃいましょうか。

露台にて御領主様のお声を待つ、あたくし。

王乃間、窓扉を開け放ってなお、部屋の境界を踏み出せない皆様方。

あたくしが、御領主様の、一番お側に

――――――――――役得、と申せましょうか、この場合は。

メイドとして、生ける家具として、褥の最中にても傍らに。

常に、ご指示の前に動く為。

絶えず、場を把握いたします。

居りますが、居りませぬが如き。

メイドの真髄にございますわ。

その、あたくしの、耳に響いた御領主様の呟き。

――――――――――ドワーフの戦士長、その耳にも響きましたので御座いましょう。

さて。

と、そう促した、御領主様の御言葉。

【太守府/王城/王乃間/国際連合統治軍軍政司令部窓外屋上端】

俺は、さて、と言い

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・後が続かない

――――――――――どうしよう。

名探偵ってすごいよ。

ここから、皆を唸らせる結論を披露するんだぜ？

それは作家/脚本家の日々絶え間ない研鑽と努力の結果。

決して書き始めたら、なんとなく言葉が文字があふれ始める、訳じゃない。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・と言うことに、しておくだろうな。

その方が、有り難みがあるしね。

「言付けがある」

ドワーフの、野太く響く、重低音。

――――――――――マジか？

他人の、他ドワーフの話を聴く？

やったね！！！！！

結論を先延ばしできるぞ！！！！！！

俺が置かれている状況は、それどころじゃないが、俺は否定も肯定もせず。

話を聴いた結果、答えを求められたら、詰んでしまう。

だから、それっぽく、沈黙。

相手にいいように受け取らせ、かつ、確信させずに修正の余地を残す。

だから曖昧に受け流すのは日本人の美点。

聴くような、聴かないような、やっぱり聴かないような。

素知らぬフリで、耳をそばだて、内容次第で反応しよう。

時間を稼ぎつつ迷った時は、すぐ相談。

選択肢すら浮かばない時は、迷う以前だって？

そういう時は、書いて、話して、形にする。それで考えるきっかけに

なる

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・事もある。

ならない時もある。

それはこの半月で、思い知っているのだけれど。

続ける言葉が無い。

「見ろ」

そんな俺の迷妄を開くのは、ドワーフの戦士長、その重々しい言葉。

？

どれ？

指差すドワーフの指。

大変に太く、デカく、鉱夫のそれ。

力任せに人を、この場合は俺、を叩き斬りそうな、戦士の指。

間違えても繊細な細工を施す、彫金師の指ではない。

俺は信じない。

え？

目をそらすな？

指の話じゃない？

下を見ろって？？？

いや、まあ、わかってたけどさ。

高いところは苦手です。

特に投身自殺半歩手前の場所では。

眼下に広がるデカイ広場。

街の中央大広場のことじゃない。

そこよりは狭いのではあるが、王城の中、馬場を兼ねる演習場でもある、内郭構造と外殻構造の狭間。

俺としては、この前に園遊会をしていたところだよね、っていう平らな場所。

全面ではないが、主要部が石畳。

そして砂利、芝生、と広がっている。

見ていて気持ちがいい場所ではある。

完全武装のドワーフたちが、非友好的な気配をみなぎらせて走り回っていなければ。

俺、っていうか、上を見あげる一群の、エラそうなドワーフに笑いかけられなければ。

何台ものトラック、よりもデカイ馬車というか輸送車両というか、が止まっていなければ。

その威圧感あふれる、ホロ付きの、兵車にも似たそれの荷台が一斉に開いた。

――――――――――なんだ、こりゃ。

【太守府/王城/王乃間王乃間：青龍の本陣外、露台中央】

「は？」

青龍の貴族、その困惑以前の、声。

あたしも、気が抜けた。

あたしの耳に捉えられるのは、遥か階下、というより露台の真下の音。

綱を解く音。

厚い布地を引き落とす音。

皆が一斉に動く音。

欲の声。

羨望の声。

恐怖の絶句。

終わった

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・どうでも良いけれど、どうでもよくなったけれど、さっさと滅びてほしかった、街の連中、その声。

ドワーフどもは、どーでもよくないわよ。

そもそも発生してるのが間違いだけれど、多少は同情しなくもない。

それでも。

あたし、あたしたちは彼、青龍の貴族の声に惹かれたまま。

それにしても、こんな声。

あたしも初めて聴くわね。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・まあ、１ヶ月くらいしか、一緒にいないけれど。

青龍の女将軍なら、聴いたことがあるんで、しょうね

――――――――――付き合って、た、訳だし。

「ねえ、様、何事が起こりましたの？」

「こ、怖いお顔」

【太守府/王城内郭正面/内郭と外郭の間/演習場兼閲兵場兼園遊会会場にして馬車乗り場】

僕は、いや、僕らは、絶望的な心地だった。

ドワーフたちが、百台の超重量級馬車、その荷台を開いたのだ。

な・ん・だ・こ・れ・は

――――――――――金銀宝飾、塊から細工物まで、巨大な馬車、その荷台を埋め尽くす、煌びやかな――――――――――

呆れ。

周囲を満たす、感嘆のどよめき

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・部外者の声。

たまたま居合わせた、馬丁や、王城に連れられてきた五大家の下働き、参事会を訪れている、事情に通じていない、商人たち。

僕は、僕らは、参事会の中心とそこに通じる商人は息をのむ。

王城の奉公人は、目を伏せ息を殺す。

みな、命が惜しい

――――――――――賢い奴らだ。

青龍は、金銭を侮蔑したりはしない。

それは形だけ軽んじて見せる、かつての王侯とは違う。

だが熱心に管理していた、帝国太守騎士とも、違う。

毎日毎月毎年悩み狂い採算を度外視しして、政（まつりごと）に狂奔させられていた王侯。

征服の為、次の征服の為、次の次の征服の為に金銭財貨その物を収奪していた帝国。

青龍は、金銭宝玉を集めない。

むしろ、遠ざける。

関わりたがらない。

港街の破壊ついでに復興基金を創り、税を捨てるついでに街々に仕組みを伝播したように。

金と直接関わらず、金の流れを整える。

青龍自身が関与しなくとも、問題がないように、仕掛ける。

金貨、銀貨、銅貨、宝石、飾り石、細工物なにもかも。

重んじるどころか、軽んじるどころか、面倒ごとだと見ているからだ。

煩わしくとも、操らないといけない。

そう理解しているのだろう。

必要だから、仕方ないから、しぶしぶ

――――――――――それが、青龍だ。

金を、おそらくは世界のだれより、理解している。

嫌いはしていない。

好いてもいない。

・・・・・・・・・・・・突き放してみている。

でなくては、あんな仕組みを考え付くものか。

手慣れた様子で算段して、金の流れを整える。

僕たちに、いや、僕らの世界に、引っ込んでいろ、と言いたげに。

困らないようにしてやったのだから、おとなしくしていろ。

――――――――――奪う時まで、おまえらが、もっていろ。

金を、使うのではなく、自在に操る。

金は、単なる道具で、知り尽くした術で、興をそそられない。

そりゃそうだろう。

青龍は酒を楽しみ、食を楽しみ、女を男を楽しむ。

女や男は、主に自前で賄っているが。

青龍の貴族、は、別として。

必要な金は

――――――――――必要な時に奪えばいい。

だから、蓄えない。

関わらないために操る。

関わらないですむように、勝手に金が回る仕組みを創る。

世界自体が、世界そのものが、青龍の財布。

誰も逆らえないほどの、力を持つならば。

所有になど意味はない。

世界を我がものとみるのなら。

本気でそうとしか感じられないのなら。

世界という懐の中で、財貨を移す手間をかけるわけがない。

それは、無駄だ。

つまるところ、買収や贈答に全く意味がない。

いつでも奪えるから放置してある財貨。

そんなものを、わざわざ持ち込んで、何を頼む？

むしろ、逆効果なのは、バカ女の祖父がやらかしたことで明らかだ。

金で買うのも、贈るのも、同じ舞台に立つ相手でないと許されない。上や下ということ自体が、同じ場所にいることでしか成り立たない。

支配する気にすらならないモノが、あたかも対等であるかのように媚び諂う。

――――――――――侮辱とすら感じない、が、気が向けば、捨てておかない場合もある。

今は、青龍の貴族、いや、青龍がどうするか。

知りたくもない。

関わりたくもない。

巻き添えは御免だ。

だが、僕は、あえて、上を見た。

王乃間からこちらを臨む

――――――――――見なきゃ良かった。

【太守府/王城/王乃間王乃間：青龍の本陣外、露台中央/エルフっ子の右後】

わたしは、ご主人様の背中に、深い深い諦観をみてしまいました。

――――――――――ねえ様が、怒りに震えられる訳です。

ご主人様を、ここまで失望させることが、有り得るなんて！！！！！！！！！！

ああ

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・わかりました。

あの時、西の山のドワーフさんたちが、矜持を見せられなかった時と、同じです。

青龍の女将軍さんが試しに贈った、宝箱。

敵からの贈り物を開けずに棄てると豪語した、西の山のみなさん。

――――――――――開いて、しまわれた、方々。

ならば、わかります。

わたしが見ていない場所で、同じことが起きたのですね。

【太守府/王城/王乃間王乃間：青龍の本陣外、露台中央/エルフっ子の左後】

わたくしも、ねえ様、あの娘と同じく、察せられました。

何も見えない、この下で、何が起きてしまったのか。

この半月、気もそぞろになるほどに、ご領主様が気にかけていた、西の山のドワーフさんたち。

お茶も食事も上の空。

注いだお茶と、あの子の料理、味を褒めてはいただけましたけれど。

浴室にてあっさりと近くにより添えましたし、お体を流しても寸での頃まで気付かれず。

膝の上でも無意識に撫でられ、口惜しいほどに気持ち良く。

寝台の上でピッタリと寄り添っても、暑がられないほどに。

なのに、あんまり、見ていただけませんでしたわ。

大変に、とっても、悔しくて悲しくて、機会を何度も逃すほど。

けっして、驚いたからでは、ありませんわ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・初めて、確認しましたけれども。

・・・・・・・・・・あんなに、おお・・・：・・・・・思い出して、ませんわ。

・・・・・・ねえ様も、大丈夫って、そう思うって、言ってくださいましたし。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・心配してませんし。

・・・・・・・・・・・壊されても、本望・・・でも失望されちゃ

ううん。

弱気になっちゃダメ。

それはＣｏｌｏｒｆｕｌの皆や、なにより、あむねすてい、の専門家が図解付きで解説していただけることになっていますわ！

落ち着いてからにしていますのはけっしちぇ、怖気づいているからじゃありません！！！

――――――――――――――――――――では、ありません。

あんなに、あんなに、あんなに、わたくしを差し置いて気にかけて頂けましたのに

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ドワーフたちは、もう、お終い。

ご領主様を

――――――――――失望させましたわ。

【太守府/王城/王乃間/国際連合統治軍軍政司令部窓外屋上端】

俺は幸いにして、必要がない人間だ。

何もかも、俺とは無縁に片がつく。

だから辞職して退職金から失業保険、生活保護から年金生活のゴールデンライフはだめですかそうですか。

だが、俺と全く関係なく、問題は解決した。

それはつまり、新たな難問の登場でもある。

問題が解決するのは俺のせいじゃない。

問題が発生するのは三佐のせい。

ドワーフの戦士長は、言付け、とやらを言葉にしては言わない。

が、意味は判った。

無駄を嫌う実用的な性格は、嫌いじゃない。

眼下に広がる財宝の山。

つまりは献上品、ってこと。

つまりは和平の意思表示。

つまりは国連軍の武力とやり合わない。

大変に理性的な判断ですね。

そー来るとは全く全然思わなかったけれど。

焦燥感にかられた半月。

緊張感に逆上した半時。

脱力感に襲われた反分。

顔を創ることすら追いつかない俺。

そんな俺にお構いなく、偉く端的に言葉を継ぐ、ドワーフの戦士長。

「太守の財宝だ」

もーすこし、言葉が多くてもいいと思うよ？

それより、なんていって謝ろうかな。

子供らを狙ってるような可能性を考えて、つい、バカにしてしまった。

とはいえ、謝ろうとすると浮かぶ言葉。

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不機嫌でも。

泣かれても。

喚かれても。

謝るんじゃありません！

男は謝らない。

赦しを請わない。

謝るくらいなら、腹を切る！

覚悟がないなら、謝らない！

謝る男は二流。

悪いことをした、そう思ったら行動で示す。

司令官には、覚悟で動ける男になってもらいます！！

＜マメシバ語録＞

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・・・・・・・・・・・・・・・お前は俺のオカンか。

【太守府/王城/王乃間王乃間：青龍の本陣外、露台中央】

あたしにも、ドワーフの戦士長、その雰囲気は伝わった。

思わず、同情

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・それは、自嘲。

どこまで堕ちてんのよ、アンタの仲間。

・・・・・・・・・・あたしの故郷が、それよりマシとは言わないけれど。

西の山のドワーフたちは、帝国太守から税に相当する分を、納めずに預かっていたみたいね。

まあ、青龍に降伏するなら、帝国資産を差し出すのは、当たり前だろうけれど

――――――――――意味が違うわ、ね。

西の山は、青龍に降伏する。

今までの無礼、って青龍の貴族が感じたのかはともかく、赦しを乞うために賄を差し出す。

それにあたって、帝国太守からの預かり分を流用した。

バレない、と思って

――――――――――ううん、どっちでも、同じ、よね。

最初から、名義が誰の物でも、同じ。

別に、彼、青龍の貴族だけじゃない。

青龍に、贈り物は通じない。