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完全侵略マニュアル/あなたの為の侵略戦争  作者: C
第五章「征西/冊封体制」

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話せばわかる!



プラスであれマイナスであれ、想定外であればいい。


確実性。

そんなもの、いらないわ。

幾らでも作れるじゃないの。


必要なのは、造りだせないもの。


不確実性。

ソレが欲しいのよ。

造りだせない何かの為に。


造れないものを、創りだすことによってのみ、プランはプランを越えられる。





【太守府/王城内郭正面/内郭と外郭の間/演習場兼閲兵場兼園遊会会場にして馬車乗り場】


僕の前。


王城内郭正面に展開する百台の馬車。二百のドワーフ騎兵。馬車周りのドワーフが500、か。王城内郭の扉は開け放たれ、防備など、もう、ない。



ついさっき、隊列から進み出た、ひときわ大柄なドワーフ。

馬をおりたので騎士、つまりはドワーフの中で身分を持ち、ドワーフ戦士の中で指揮をとる地位だ。

ドワーフ騎士多数の鎧が鋼板を張り重ねたような直線的な形であるのに対して、この騎士の鎧は体躯に合わせた曲線に鋼板を加工している。

つまりそれは、個人あつらえの仕立て鎧。

それは当然高いもの。

騎士はみなそれぞれに意匠をあつらえてはいるものの、別格といえる。


そして、兜についている羽飾りは、明らかに味方に向けて自らの場所を示した者。

つまり、戦士長だろう。


その戦士長が付き従うのが、平服である長衣をまとって皆を従えた、重厚なドワーフ。

・・・・・・・・軽快なドワーフ、など見たことはないが。


ドワーフ細工の粋を尽くした飾りだけではなく、長衣の厚い布地にまで金糸銀糸を縫い込んで刺しゅうを施した造り。

同じような衣裳の、また明らかに違う長衣をまとった者が、隊列の中に、そう、七人、か。

ドワーフたちの長老たち。


明らかに他のドワーフたちと、身分が違う。


西の山のドワーフたちは部族一族のまとめ役と、発言力が大きい最上級の戦士たちを丸ごと連れてきたらしい。


ドワーフたちの、まとまりの悪さを補うため。

まとまって、互いに監視し合っていれば足並みをそろえられる、というところか。


そしてまんまと、全軍をここまで引き入れた。

そしてここまで詰め寄られてしまった、青龍。



ここから先。

喉元に戦斧を突き付けたまま、青龍の貴族に要求を伝えようとするであろうドワーフ。

喉元に何があろうと気にも留めない、どう応えるか予想不可能な青龍の貴族。

その両者に命を握られている僕等。



誰もが、青龍の貴族が、不死身のバケモノであるかのように感じている

・・・・・・・・・であれば、マシだったのだが。



皆がそう信じるのも無理はない。


白昼路上で、十人の暴漢を素手で引き裂くところを、目撃されている

実際は八人だがな。


※〔第18部分 Rules of Engagement/ROE/交戦規程〕より


魔女の家。

富商の邸宅街ではないにしても、そのすぐ下の階層が住まう高級住宅街。

鎧戸を閉じ、息をひそめながら、皆が目撃していた。


当時誰も恐怖していた青龍の貴族と、忌み嫌われていた暴漢たち。

その出会いと顛末。


街でも信用厚い、親方や店舗持ちの商人、小商会の主やその家族たち。

彼等が口をそろえて、瞬く間に一方的になされた殺戮を証言した。


なにしろ、呼吸しているのも図々しい馬鹿の群れが、皆殺し。

誰にとっても害のない、誰一人傷つく者がいない、虐殺。

気軽に楽しく語られようというモノだ。


その話は、目撃した当人のみならず、家族や奉公人、出入りの御用聞きなどを経由して、街中に広がった。





あれだけ圧倒的な力の力を持つ青龍の貴族、それは不死、あるいは傷つけることなどできないに違いない。

・・・・・・・・・・・・・何の根拠もないが、誰もがそう連想し、確信した。


僕でさえ、そう感じてしまいそうだ。

都合がいいから、今、あえて否定しようとは思わないが。



だが、違うだろう。


僕が見るところ、青龍、青龍の貴族は、殺せる存在だ。

でなくては、説明がつかない。


青龍の貴族に危害が及びそうになるたびに、まったく本人が動じないので余計に錯覚が起きる。

あたかも危険が及んでいないかのように、まるで危険に気がついていないかのように、それがどうでもいいことであるかのように。


だが、その都度、エルフの情人が素早く守りに入る。

魔女やお嬢様は青くなり、部外者に対して隙を見せない修練を積まされているはずの愛玩奴隷(Colorful)まで硬直する。

青龍の騎士も、その都度、怒りと報復の動きを見せるし、危害を加えられそうな方向に槍先を向けることが多い。



それはそれで構わない。

誰がどうお思おうと、死ぬなら死ぬなりに。



であれば、問題は。


命に無頓着なことだ

・・・・・・・・・・・・・・・・・青龍の貴族が、自分が殺されることに意味を見いだしていない、

理解しがたいほど、命に関心がない

――――――――――――――――――――それは、他人の命にも、だが。



無造作に生きて無造作に死ぬのは、青龍の貴族の勝手だ。

だが、青龍それ自体が、それを見逃すわけがない。


それどころか、破滅的な制裁を気軽に行おうとする

――――――――――――――――――――初日にして、太守府を滅ぼそうとした時の様に。




ドワーフどもがやった(やろうとした)のであり、僕等は知りません。




通じるもんか!!!!

――――――――――――――――――――名も知れぬ暗殺者による、青龍の貴族暗殺未遂のせいで、広場中の市民を、太守府をやき滅ぼそうとしたんだぞ?


身を守る気はない。

だから被害危害の有無に関心がない。

ただ敵意害意快不快に反応して、制裁しようとする。


損得をを超えた、揺るぎなさすぎる理屈。


説得の余地なし

・・・・・・・・・・・・なんて厄介なんだ。



だから、西の山のドワーフどもと青龍を、接触させまいとしていたのに!!!!!!!!!



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・などと、僕が繰り言に溺れている隙に、状況は瞬く間に動いてしまった。



戦士長が付き従うのが、長老の中の最長老、だったのだろう、たぶん。だった、と言っても、その最長老は悠然として、まだここにいる。


お気楽なもんだ。




ついさっき、進み出た西の山のドワーフども、その戦士長は、青龍の僧侶に迎えられた。青龍の僧侶は、戦士長だけを王城に招き入れ、にこやかな視線のみで言葉もなく、最長老を制した。


戦士長は戸惑うそぶりもなく、武器を置くでもなく、迷わず城内に消え、すでに一時が過ぎる。


まだ、街が灼き尽くされていないのが奇跡に感じる。

ゆっくりと歩いて進んだのであれば、そろそろ、青龍の貴族が本陣に、戦士長がついたころ合いか。




全て僕の手を離れてしまった。

こと、ここにいたっては、のんきな見物客を気取るしかない。




すでに配下の私兵、女奉公人に扮していた娘は走り去った。危険を逃れて逃げ去った、ふりをして、逃走準備の算段にかからせた。


僕が騒動の中心にいて、居ざるを得なくなり、指示命令どころか状況の把握するままらない。


逃げて逃げ切れる範囲じゃないかもしれない。

太守府が灼かれるのならばまだなんとかなる、かもしれない。

邦がやかれるならばどうにもならない。


そもそも僕には現状が判らないのだが、中心にいる僕ではなく外周にいる者からは、かえってよく見えるだろう。



その程度の采配を、僕は私兵たち手代たち番頭たち支配人たちに期待している。

僕が人を配置するにあたって、僕が不在でも対処できるうようには考えていた。僕が常と変わらぬ状態で何もかも掌握していたとしても、ソレが一番効率がいい配置だったからだ。


とはいえ、実際、そんなことが起こるとは想像もしていなかったのではあるが。今回が初めての試験であり実践となる。


連中を信じることは、僕自身を信じること。

疑う余地などあるわけがない。




ゆえにやることはすぐになくなった。

今から思い起こしても、あれほど無為な時間はなかった。

だから何が起こっているのか、なぜこうなったのか、さかのぼって考えていた。



もちろん、考える目的は決まっている。

やることが無いから暇つぶし、ってばかりではない。

数日前の懐かしきやる気に満ちた日々を思い出し、無力なこの瞬間を忘れよう、って話でもない。


この失敗を繰り返すことなく、次に繋げる。

そのためだ。




次があれば?


在るに決まっている。

この、僕が、いるのだからな。

此処で潰えてなるものか!!!!!!




【後刻、太守府郊外の私邸にて】


結局その時は判らずに、僕は後から報告された。


西の山のドワーフどもが、太守府外壁門前に着く、直前。僕の私兵は衛兵を見張り、固く門を閉ざさせ、僕を待っていた。


その頃、集まり始めた五大家の、うち二家の、私兵たち。


遅ればせながら、事態の焦点に旗を立て、功を狙った

――――――――――訳じゃない。




五大家各々の動き。


大先輩の家。

娘が青龍の貴族に寵愛されている以上、安泰に見える

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・本人にとって、どれほど不本意だろうと。

愛娘本人にとっては幸福で、日々それを喧伝し誇示していようと。


まあ、既成事実化に余念がない、お嬢様の方が上手だ。お嬢様が青龍の貴族、その女であることは、邦中が知っている。

太守府が、街が灼け落ちても、青龍がある限り安泰だ。


そして僕の家。

事態の対処にあたる以上、皆は僕とその家を頼らざるを得ず、結果として衆望が集まる、ように見える。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・失敗すれば、吊される、前に逃げるがな。



五つの家の、二家は安泰。

・・・・・・・・・のようにみえる。


では、残りは?

残りの二家はどうしてる?



太守府が、街のみならず、邦全体の危機にさらされている時に、オマエたちは何をしていた?

なにもしておらず、自らの安泰だけをはかって、引きこもっていたのか??



そう皆に思われたら、どうなるか。

今日の朝方に、そのことに思い至ったらしい。


――――――――――それまで、無事だったら、だが

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・みんなとやらが。


だが、そこまでは考えない。



今の延長に明日がある、と信じるダメな意味での、商人の典型。

失う物が多いからこそ、目に入る今日に執着する。


不確実に怯えて目を逸らし、明日にまだ至らぬことを認めようとしない。

ここが頂点と諦めた連中。


――――――――――だから、出てきやがった。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・呼ばれもしないのに。




連中は、二つの大家は、何もしなかった、と批判される、かもしれないのを恐れたのだ。


バカが

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いっそ開き直って、頭を抱えて寝込んでりゃいいものを。


小狡さを蔑まれようが、それとて評価の一つだ。

利用する方法は幾らでもある。


むしろ、顔を伏せて頭を抱えているのが世の大半となれば、その中核たることだって望めるだろう。


しかも、わざわざ、事態が始まる直前を狙ったのか?

それとも単なる偶然か?


僕が仕掛けを回し始めた、ちょうど、その時に!

普通は眼を見開き、耳を澄ませ、コトの見通しがついてから便乗するだろうに。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・とにかく、呼ばれぬ二家は、乗り出してくるにあたり、互いに示し合わせていなかった。


手遅れとも気が付かないで、少しでも誰かを出し抜く為に、何処にも相談しなかった。


僕に相談されたら、ただじゃおかなかったが。

しかしそれでも、それぞれ大家の私兵だけなら、統制が取れたのだろう。


五大家は傭兵業でもなく、貴族や騎士でもない。

当主はあくまでも商人で、差配することには慣れていても指揮を執るなど未経験。

それは五大家の中枢皆同じ。

出世頭は交友が広く、交渉が上手く、帳簿を理解できる者。



だから私兵は私兵頭に、傭兵は傭兵隊長に、チンピラは盗賊ギルドに一任する。

僕がそうしていたように。



だが、この時の私兵たち。

一方は当主が、他方は当主に近い姻戚が率いていた。



そのほうが、あとで非難を受けにくい、とでも思ったのか。

それじゃあ失敗した時に、アレは奴らが勝手にやりました、と言い抜けられないだろーが。




しかも寄せ集め。

数で意を示すという発想は常道ではあるが。

計画していたわけじゃないから、私兵に傭兵、出入りのチンピラまでいろいろ。


誰もが誰の指示を仰いでいいかわからない。

指示すべき者もどう指示していいかわからない。

普段から組まされてるのではないのだから当たり前だ



たんなる見せかけ、示威行動。

だが意図が徹底どころか伝えられていない末端からすれば、名を上げる機会にもみえる。悪いことに、暴力、というより威嚇でのし上がってきた連中はそういう性質を持っている。


大家の中枢や当主ともなれば、チンピラの意気などわかりゃしない。役割が違うから、本来知っている必要もないのだが。


なぜか士気が上がってる、程度にしか考えない。


最初はな。

統制が取れないのに気がついてから、青くなる。

一喝で従う者しか侍らせていない普段に比べ、一喝どころか声が届かない混乱。

練りに練ったさじ加減も、存在証明だけを狙った意図も、総じてみれば何も考えてないのと同じこと。




その、何も考えずにとりあえず出てきた連中に対処するのは、先行していた僕の私兵。

ドワーフを迎える為に、あえて、純粋に配下ばかりがいた。

支配人や番頭はいない。


他家の傭兵や私兵やチンピラには名を知られていても、上には名が知られていない。

名を知っている下っ端連中は、上の手前、かえって意気込んでしまう。


僕の私兵。

五大家の当主姻戚。

五大家当主その人。


集った三者に

――――――――――均衡が取れるわけがない。



主導権は欲しくないが、意図を隠したばかりに囲まれて、面子の上で主導権を望んで見せないといけない、仮にも五大家当主。

他家にて柄をとられるのを黙って見逃すわけにはいかないが、他大家の当主を抑えるには貫目が足りない他の五大家の姻戚。

その場にいない、僕の権威を使って均衡を回復しなければならない、僕の配下。




誰も場をとりまとめられずに、混乱した。


精強なドワーフの一群が今そこに着こうという時に、なお。

城壁と城門があるから、大丈夫

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そう感じていたからこそ、呑気に混乱していられたのだ。


結果。

僕が任せた私兵頭と配下の大半が、城壁内側に下がらざるを得なかった。僕の評価は別として私兵頭に、他家の、しかも当主とその側近を抑える権威は無い。

数で威圧して抑えつけるしかない、という判断だ。


斬り合いすら始めかねない他家の私兵を、明確な権威無しにおとなしくさせる為に、させ続ける為に。

確かに、仕方がなかった、だろう。




斬り合いを抑える為に叩き斬る訳にはいかない。

そして、混乱を放っておくわけにもいかない。


ドワーフたちだとて、独立独歩ではあっても、太守府に、城壁の中に伝手がないでもない。

五大家の私兵同士がもみ合ってにらみ合っていれば、伝わらないとは限らない。

切り合いにでもなれば、そのざわめきは、間違いなく城壁外に伝わる。



城壁内部で混乱が起きていると知られたら?


城壁外にやってくる西の山のドワーフ達が、これこそ唯一の好機だと思うだろう。

高く硬い城壁に囲まれた太守府を、どれほど精強な軍勢でも手を出せない殻の中を、脅して威嚇せざるを得ない深奥を、こじ開ける好機。


そんなバカな混乱が起こっていること自体が奇跡のようなもの。

そんなバカなことが、いつまでも続くわけがない。

そんなバカに付け入るならば、前衛の独断で。


・・・・・・・・・・・・・・・それが原因で、戦端が切られかねない。



壁がある限り、戦いになったからと言って、すぐに被害が出るわけじゃない。

だが、壁を乗り越えようとしてそれを阻止して、殺し合いが始まれば。


確実に交渉の糸口はなくなる。

それは僕の計画にはない。


だから、西の山のドワーフどもが着かないうちに、混乱を鎮めなければならない。


――――――――――早急に!!




僕が信頼した、私兵の頭の判断。

間違っては、いない。


僕は演出上、ゆっくり動くとはいえ、城門に向かっている。

僕さえ着けば、解決する。


演出全体の流れを知っている、僕の私兵頭。

僕に急使をだして計画を破綻させるより、しばらく自分たちだけで凌ごうと考える。




その間、城壁には街の衛兵しかいない。

統一した指揮官がいない、数だけが取り柄の、参事会の手勢。

だが、固く門を閉ざすだけなら、それで十分だったのだ。


だけ

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ならな。




だけ、じゃなかった。

混乱こそ抑えたが、私兵頭が城門に戻る前に、西の山のドワーフ達が城外に着いた。


予定通りの時間。

本来であれば、僕の私兵が衛兵のフリをして、誰何する予定。

そこから、のらりくらりとかわすため、交代要員も含めて気の利いたやつを、半月かけて十人選抜してあった。



その先は僕の私兵も断片的にしか見聞きしていなかったので、また別に衛兵どもに訊いたのだが。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・誰何された、そうだ。

城門外から。


城門上から見える、西の山のドワーフども、その隊列

――――――――――の先頭の先、中央。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・バカ女だ。


太守府全体が外敵におびえ、通常なら日の出とともに開く城門を、固く閉ざして衛兵をありったけ張り付かせている中で。


バカ女は、豪奢なドレスをまとい、瀟洒な馬車の上に立ち、衛兵を叱りつけた。


自分の名前と、家名と、参事会議長たる身分を高らかに唱え

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・流行りの騎士物語でも参考にしたか、成りきったのか。





普通に考えたら、ただの異常者だ。



だが悪いことにバカ女は、その奇行で衛兵たちに広く見知られていた。


普通、深窓の令嬢なんてものは、顔も姿も衆目にさらしたりはしない。限られた、つまりは出荷先候補にチラリと見せつけて、数年かけて競りにかけるモノ。


バカ女は、違う。

前議長時代は、議長の孫娘の立場を振りかざして、酔狂に興じていたからだ。


取り巻きを連れて、松明の火の粉を撒き散らして夜通し宴会。

気に入らない芝居や見せ物に乱入させて、乱闘騒ぎを見物。

同類のバカ女たちと一緒に、城門上で楽団付き園遊会。

気に入りの役者や一座を拉致して、目の前で興行させる。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・その始末に、警備に、苦情の矢面に立たされる衛兵たち。


その不満を家名で

――――――――――衛兵たちを、ねじ伏せて。



その積み重ねが、仇となる。


誰の?

僕と街の、だ。



没落を感じさせない、今もって尊大なバカ女の命令。


まあ正確には、家が没落中なのに、バカ女が気が付いてないだけだろうが。バカ女のバカができる所以は、唯一の源泉は枯れかけなのだが

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・衛兵には、実感がない。



余りにあり得ない場所に、とてもありえない人が立ち、いかにも考えられないことを呼ばわった。

――――――――――――――――――――衛兵の一人が、後にそうヌカした。



他人従わせるには、偉そうにする。


それに限る。

根拠なぞ要らない。

従う事に慣れた、大半の連中は、命じられることを待っているからだ。



城門でも、この時も、そうだった。

参事会の末端として、その権力移動を耳にはしていたはずだが

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・雲の上からの伝聞より、目の前のバカ。



自分の欲求が常に完全に叶えられる

――――――――――この期に及んで!!!!!!!!!!


一片の疑問も不安も抱いたことがないバカ。

大家の娘として、勢力争いの駒であることを、躾られる前の愚かさ

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・それは、強者の自負と、見分けが付かない。



城門には、その時、責任を取りたがる欲張りが、居なかった。

大勢いる衛兵隊長、山盛りの衛兵頭、街の者には尊大な一人一人の衛兵たち。


チンケな肩書きに執着する、権限と権力の区別が付かない、貧乏人しか居なかった。



外壁の門は、重く大きい。

一人では決して開けない。

だから、バカ女、参事会新議長が呼ばわった。




「か~いも――――――――――ん♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪」




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