俺に責任を取らせろ!
登場人物&設定
※必要のない方は読み飛ばしてください
※すでに描写されている範囲で簡単に記述します
※少しでも読みやすくなれば、という試みですのでご意見募集いたします
一人称部分の視点変更時には一行目を【語る人間の居場所】とします。
次の行、もしくは数行以内に「俺」「私」などの特徴となる一人称を入れます。
以下設定を参考に誰視点か確認いただければ幸いです。
(書き分けろ!と言われたら返す言葉もございません)
【登場人物/一人称】
『僕』
地球側呼称/現地側呼称《若い参事、船主代表》
?歳/男性
:太守府参事会有力参事。貿易商人、船主の代表。年若く野心的。妹がいて妻の代わりに補佐役となっている。昔は相当な札付きであったようだが、今は特定の相手以外には紳士的。
【登場人物/三人称】
地球側呼称《新議長》
現地側呼称《バカ女/新議長/議長》
?歳/女性
:太守府参事会議長。参事会を、すなわち太守領を経済的に牛耳る五大家、その当主の一人。地球人来訪後の混乱の中、引退した祖父から当主の座を引き継ぎ、参事会議長にも就任した。実家は先代の失策で没落進行中。
地球側呼称《お嬢の父親》
現地側呼称《大先輩/五大家古参当主/親バカ》
?歳/男性
:シスターズの一人、童女ことお嬢(12歳)の父親。中世準拠の異世界としては異例なほどに、家族思い。特に娘を溺愛しており、愛娘が夢中になっている青龍の貴族(俺)を公然と敵視している。公の場では商人たちの尊敬を集める銀行家。五大家で一番古い家系と、邦で一二を争う規模の商会を持つ。
権力とは責任に他ならない。
権力には責任が伴う、のではなく、責任こそが権力だ。
それは一面において、ではなく、解釈によっては、でもなく、単純なイコールでしかない。
そもそもが「責任」という言葉は「役目」と言う意味。
そして責任を負う、とは、負った者を支配する、ということだ。
だから人は声を限りに叫ぶ。
俺に責任を取らせろ!
【太守府/王城内郭/中央回廊から広間へ】
僕は歩み続けた。
まったく考えずに挨拶を返し、意識せずに会話しながら。
西の山のドワーフどもは太守府を攻め落とそうとでも?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・有り得ない。
ドワーフどもの一人一人がいかに精強でも、城壁があれば何とでもなる。
青龍が一撃で砕いた城門。
――――――――――そんな事を出来るのは、青龍か赤龍(帝国)だけだ。
衛兵が脆弱でも、まとまりがない五大家の私兵しか頼りにならなくても、万を越す市民がいる。
城壁を抜かれなければ、どうにでもなる。
壁上からレンガを投げさせるだけでも、侵入を防ぐことは出来る。
時間をかければドワーフどものことだ、攻城塔を設えたり、穴責めをしかけたりは出来るだろう。
だが、その時間さえあれば、取引に持ち込むのは容易い。
ドワーフどもは一人の指導者などを持たない
――――――――――ハズだ。
坑道でこそ一糸乱れぬ鋼の規律。
山を出ればてんでバラバラ。
部族の意志決定は、長老たちによる合議制。
しかも長老たちが各々、氏族を率いている。
先の見えない長期戦の労苦。
それを考えれば、必ず分裂を始める。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・その程度はドワーフども自身が一番判っている。
ならば、戦は避けられなくも、ないか?
短期も長期も決戦不可ならば、面子を立てて金子を仕込めば片がつく。
金で済むなら参事会が話を聞いてもいい。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・だが、それはない
――――――――――金で済むならそもそもやってはこまい。
内々に見舞金を段取れば済む話だ。
わざわざ行軍して太守府の門前まで来る必要などない。
実際、移動だけでどれだけの費えになるか。
千を越す馬に飼い葉を与えるだけで、大金がかかっている。
街道を外れようがない、馬車の群れ。
無人の草原であればタダ同然の飼い葉が、もっとも高くなる場所。
それが街道
――――――――――略奪していない のだから。
西の山のドワーフども。
山を抜け街道を進む間、必要なすべてを買っている。
街道の優先通行だけは隊列の威圧で奪っている。
それ以外は、適性価格。
あれだけの兵団相手にふっかけたり、足元を見るバカは商人にはいない。むしろ、ドワーフどもの買い込みを当て込んだ隊商が集まり、街道周りで品々の値崩れが起きているくらいだ。
ふむ。
掠奪していない、ということを、どう考える、か。
短期決戦狙いで、後に禍根を残す気が無い、のかな?
あるいは戦を避けたがっている?
ダメだダメだ。
僕は僕に都合よく考えているぞ?
期待するようでは商人として三流以下だ。
戦はさておき目的は?
金
――――――――――ではない、とすれば?
僕は広間に着いた。
王城内郭の正面扉前。
城内各所に向かう廊下や階段に繋がる広間。
扉の外は、閲兵場。
内郭上層階の王乃間、その窓外にしつらえたテラスから、良く見渡せる場所。
本来なら王が兵を見下ろして、兵が王を見上げる場所。
実際には、園遊会にしか使われなかった閲兵場ではあるがね。
名ばかりの閲兵場は、いまとなっては馬車の待ち合わせ場所。青龍の貴族、その命令で組織ごとまるまる参事会が移転した王城。
太守府の街中から、太守領の各所から、参事会を目指して大勢が激しく出入りする。
当然徒歩だけではなく、騎乗や馬車も多い。
青龍の貴族、それ以前は王城外郭の城門すら、特別な祭典か許可が無ければ通り抜けずに済んだのだが。
まったく。
青龍には邪魔はされない、というより、ほぼ関心すら抱かれていないので、困るということはない。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・今は、な。
先々を考えなければ都合がいいことも多い。
それぞれに陣地を構えるがごとく太守府各地に商会を構えていた五大家当主。何かと相談しなくてはならない身でありながら、街の反対から反対へ、使いを走らせ文を交わし、日刻を合わせて約定し、それでも時折吹っ切って、手間暇かけて話していた。
それがどうだ。
歩いていける距離に、他家の当主が居る。
用があれば行けばいい。
談合の余裕の有り無しまで見当がつく。
王城メイドにあたれば、居留守も使えない。
王城の奉公人は五大家にも参事会にも仕えていないからな。
ただ、城主である青龍の貴族に、差支えない範囲で五大家に便宜を図るように命じられている、そうだ。
それがどんな範囲かはしらないが、その辺を歩いている執事やメイドに声をかければ、大抵は話を聴いてくれる。
急ぎの用が無ければ、他の大家当主への伝言くらいは頼める。
大家当主の私室に至るまで、彼等の出入りは青龍の貴族が保証している。
王城メイドが当主へ伝言に来れば、ソレを拒める者はいない。
青龍の貴族からの伝言化もしれないからだ。
ソレが結果として僕の伝言だったとしても、留守だったことにしてくれ、などとは頼めない。
その話は青龍の貴族、その人の耳に入るのが間違いないからだ。
それに、青龍の貴族が、どんな感想を抱くかわからないからだ。
そして、それがどんな行動につながるかわからず恐ろしいからだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・気にも留めないと思うがね。
僕は居留守をつかわれないように、他大家当主を訪ねるときは、王城メイドに茶を頼む。
茶器を持ってくる王城メイドを、王城内で止められる奴はいない。
僕はそれについていけばいい。
絶対に相手を捕まえることができる。
とはいえさすがに、五大家当主以外は王城付き奉公人を利用したりはできない。止められているわけではないにしろ、その程度には遠慮する頭は誰にでもある。
無かったら、森に埋めてやるが。
王城付き奉公人は青龍のモノ。
青龍の貴族が、五大家を手伝うように命じたからこそ、僕等に配慮しているに過ぎない。
青龍の支配を侵すようなことをする、そんなマヌケを出入りさせるような五大家ではない、はずだ、から、それらしきモノを見つけたら問答無用で始末する。
五大家間、暗黙の了解。
さておいて、直接利用できずとも、一般の参事や参事会奉公人たちが、参事会の王城移転で受けている恩恵。
元神殿を流用していた旧参事会、王城とは広場を挟んだ対面だが、そこよりは効率が良くなった。
王城の広い広いスペースが、参事会のために開放されている。とはいえ、恩恵と言うのは単なる広さが原因ではない。
引っ越しに伴う、参事会各部署の再配置が原因だ。
十年前の王都陥落、旧王国滅亡。
王族貴族騎士神官が消滅し、参事会は空き家となった神殿に拠点を構えた。
空白となった政治中枢。
帝国太守により施政の大半を参事会が委託された。
その事務を片付けるための拠点が必要であり、ソレができる唯一の場所が、旧神殿だったわけだ。
与えられた膨大な業務を片付けるためにはまとめられた拠点が必要で、商会の枠を飛び越えすぎる懸案を片付ける為に新たな人の結びつきができ、なし崩しに人が集まり、暫定的な場所に臨時の縄張りが築かれている。
そして、本来は五大家を中心に拠出していた人員は、参事会そのものへの帰属を深めていく。
慣例と前例と不文律で創られた、誰にも解けない絡んだ結び目。
そいつらは、参事会役人とでもいうべきものに成り下がり、奇妙なほどに、太守配下の役人どもと馴染んでいた。
僕などは邪魔に思っていたが、太守の配下とつながりがあるだけで手が出せない。
なるべく関わらないようにするしかない。
それが、青龍以前の参事会だ。
今の参事会は五大家を中心に再編成され、場所も人も大半が入れ替えられ再配置された。しかも参事会の場所ではなく、王城の中なのだから従来のやり方は何も通じない。
元々の住人とでもいうべき王城の奉公人が常に出入りして、その行動を絶対権力が保証している。
僕は参事会を移転させるついでに、邪魔なだけの参事会古参の奉公人たちを神殿に置き去りにした。そして、新しい場所に戸惑っている皆の気分を利用して、必要な人間だけを異動させる。
懸念されたような混乱もなく、こと参事会内部の話に限れば、まったく快調。
結局、前例にしがみついている帳面屋など、本人たち以外に必要とされていないのだ。
この広間でも、誰もが他人を気にせずに、他人の邪魔にならずに立ち働いている。
そんな中、一番邪魔なのは僕だろうな。
さすがに、無視させることはできないようで、挨拶をしながら進むしかない。
用意済みの馬車に乗るために、正面扉に進む僕。
付き従うのは、伝令の娘一人。
よしよし。
僕の部下に相応しく、命じた通り。
若い奉公女にありがちな、緊張感の無い仕草で着いてくる。
いつもの僕なら、つい習慣的に蹴り倒して、踏みにじってしまいそうな態度
――――――――――が、実によろしい。
まあ本来なら躾が足りない若造が、僕のそばに仕えるなどあり得ない。
父の跡を継いでから、路地裏の原理を、態度ではなく、を持ち込んだからな。
だが、敢えて命じただけに、これで良い。
僕らは周りを油断させ、落ち着かせる。
あたかも、ちょっとその辺りを散歩に出ようか、という風情。
馬車に乗り、王城内郭から太守府外壁まで向かうようには、見えまい。
事情に気づかぬ下っ端は、事が済むまで気づかぬがいい。
事情に通じた要所要所は、様子見に転じて結果的に落ち着く。
まったく、面倒なことだ。
昔、率いていたチンピラどもなら、僕の息遣い一つで、いつまでも凍りついていただろう。
この邦と
――――――――――青龍の貴族のように。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん?
まったく、おかしな連想だ。
小さな邦の、船乗りの頭でしかない、僕。
両手の数程の騎士にすら頼らず、敵地を組み敷いた青龍の貴族。
まあ、盗賊ギルドの頭目やら、エルフの情人やら、浸透させてある青龍の手は長い。
その陣容は見かけだけでは窺えやしないが。
まったく、恐ろしく、興味深い。
そこに
――――――――――僕の予定にない人物が現れた。
軽く、大仰に、会釈をして行き過ぎるのを待つ僕。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・わざわざ、僕の前、近付いてから、立ち止まるのは参事会の
――――――――――というより、商いの大先輩。
太守府を司る参事会の、金融を支配する一族の、五大家の最有力者。
愛娘をご領主様に差し出した遣り手。
――――――――――とは世評のみ。
参事会運営に隠然たる力をふるえるが、あえて一歩下がって何も言わぬ策士。
愛娘が男(青龍の貴族)の元に家出中、日夜その奪還を試みる親バカ。
敬意をはらうべき商いの大先輩。
注意をはらうべき、家より愛娘を重んじるキチ○イ。
――――――――――さて、今はどちらか。
にこやかに、ドスの効いた声で、僕に囁きかけてきた。
「貫目が足りん」
なるほど。
前者か
――――――――――僕の指先に応じて、僕の伝令が一歩、下がる。
そのあからさまな態度で、こちらに近づきかけていた者を含め、広間中の皆が僕等から距離をとる。
訊かれぬ配置を確信して、僕は親バカではなく、大先輩に対して応えた。
「では、水増しして置きましょう」
つまり、こういう事。
西の山のドワーフども。
それは参事会に属さない、外部の有力勢力。
それと対峙するなら、僕では役不足、とは大先輩の批評。
腹立たしい
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・事実。
僕が参事会の実権を握ったのは、僅か1ヶ月前。
参事会の参事や奉公人、街々の商工会は競って僕の伝手を求めて争っている。
だが外から見れば?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・議長職すら持たない、五大家当主で一番の、若造に過ぎない。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・コレは効く。
参事会に並ばないまでも、参事会から自立している組織集団が相手なら、それだけで門前払いだろう。
例えば、昨年までなら?
太守に陳情するなら、議長以外有り得なかった。
そういうことだ。
つまり内情を知らない外部には、肩書きが一番大切なのだ。
今、そんな外部と言えるのは?
太守こそいなくなり、青龍は折衝などしない。
だが、例えば盗賊ギルド。
そして例えば、西の山のドワーフども
――――――――――今日の相手だ。
盗賊ギルドは昔から、ある程度、参事会の内情を知っている。
参事会と盗賊ギルドは、互いに人や資金、仕事を融通しあっているからだ。
自然、互いの内情は、ある程度、伝わる。
伝わり過ぎたり、伝わり足りなかったり、それが誤解を生むことが少なくないのは仕方がない。
いずれにせよ、互いに一つの組織ではない、と解りあってさえいれば十分だ。
こちらならば、参事会の実権を握っていさえすれば話はつく。
だが、西の山のドワーフどもは、違う。
この、大陸から独立(孤立)した邦で、特別な地位。
唯一の鉱山を抑え、ドワーフにしか扱えない冶金技術を振るう。
その貴重性から、旧王国や帝国に、独占的な地位を認められていた。
僕らはドワーフたちには十分な対価を払っては、いる。だが、どうしても、独占的価値を、売ってやっている、とドワーフたちが感じている。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・それは、一面では否定できまい。
船乗りでもなければ、意識はこの邦の中だけだ。
海を越えれば鉱山なんか、ドワーフなんぞ、幾らでもいる、とは気がつかない。
だからこの邦の大半は、ドワーフを特別視する。
そして西の山のドワーフたちは、参事会を含む領民を軽んじる。
王家や太守など、邦の支配者に敬意をはらっても、だ。特別視している領民たちの意識に、ドワーフたちも合わせているだけ。
今となっては皆と同じ、青い龍の足元にいる地虫の一種にしかすぎない。
だが、その意識は変わりやしないだろう。
そもそも、ドワーフの昔懐かしく数カ月前の感覚が、今回のバカ騒ぎの原因だ。
そんな相手には、肩書きの方が効く。
馬鹿でも阿呆でも、バカ女でも、肩書さえぶら下げていれば構わない。名無しがでて行けば、話を聞かれないことすらよくあること。
そもそも商談相手には、こちらの中身を知る義務など無い。
ソレを求めるほど、僕も商人としてマヌケじゃない。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・だから、ということか。
だから大先輩は、自分が矢面を代わると、そう言外に伝えてきている。
参事会で一番古い家、五大家で一二を争う有力者、家名ではなく令名が通った古参商人。
箔を考えるなら、これ以上の切り札はない。
ただ存在だけで、話を聴いてもらえる。
ご苦労なことだ。
大先輩の立場からすれば、こんなことを引き受けても、利益などでまいに。
当主としての責務?
五大家としての責任?
同業の年長者としての義務?
ハッ
―――――――――――お断りだ。
これから参事会を使いだてする以上、仕切りは僕がする。
僕が使い尽くすまで、手放す気はない。
大先輩の方が交渉役に相応しい?
話が付く可能性が高い?
まったく、大先輩らしい配慮だ
――――――――――嗤わせるな。
確かに、僕が仕込んでいる交渉には危険が伴う。
しくじれば太守府が焼き払われ、市民が殺し合い、太守領全体で内戦が起こる
・・・・・・・・・・・・だから、どうした。
僕は、自分の物でも他人の命でも、賭けるのに躊躇しない。
僕が名実ともに参事会を握り、その力を利用する為に。
青龍の傀儡と見られかねない位置を脱し、いつか青龍に睨まれる為に。
青龍が現れた海の向こうへ、いつか僕はが至る為に。
邦が崩壊する程度、商機に比べたら当たり前の危険だ。
避ける価値があるのは、青龍の不快感だけ
――――――――――寸土も残さず、毒煙にのまれたら、さすがにおしまいだからな。
第一、目が無いわけでもない。
僕が出るほうが、良い結果に転がる可能性も、なくもない。
西の山のドワーフども、その具体的な意図がわかっていないんだ。
今はまだ。
青龍絡みなのは間違いない。
大先輩が出て行けば、何も聞かずとも、相手から言い出すかもしれない。
そうなれば、瀬踏みを超えて即決必至。
それで参事会に、青龍に関わる何が決められる?
話を繋ぐ事すら、不可能だ
――――――――――青龍の貴族が、参事会に配慮する、訳がない。
そんな時代じゃないのだ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1ヶ月前から。
だから今朝の一時に限って言えば、交渉役は僕の方が相応しい、かもしれない。
・・・・・時間稼ぎと言う意味で。
傍目から見た僕。
五大家の一員で、個人の名前はともかく家の力が軽くはない。
参事会有力者として名前が売れてはいるが、若輩者。
実権を握り決断出来るとは、ドワーフどもには知られていないだろう。
相手を怒らせず、何を言われても即断を避けられる。
話を承り、持ち帰る事が可能なのだ。
大先輩辺りの古参と違って、若さにはこういう使い方もある。
とりわけ、今後、参事会どころか太守府自体を時々忘れる支配者
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・青龍の貴族を戴くからには、参事会を率いるのは、僕の方が相応しい。
それを証明する、絶好の機会に、あえ安全策をとる商人などいるものか。
僕は
――――――――――大先輩に笑顔を返した。
「皆さん、お集まりですな」
僕も大先輩も、あっけにとられ、何も言葉が出ない。
皆が遠巻きにする、この空気。
そこに割り込める、種族的、特性
――――――――――空気を、読まない。
「さあ、扉を」
割り込んだ、意識すらない、青龍の僧侶。
執事長に命じ、王城付き執事達が、大きな扉を開いた。
五大家各々が王城に配したメイドや執事たちは、とっくに逃げ出している。
扉が開けば、よくわかる。
そりゃ逃げるに決まってる。
――――――――――執事メイドから、下男下女まで平然としている、王城勤めの連中が異常なのだ。
大先輩は、微動だにしない
――――――――――さすがだ。
真っ正面から、娘に手をだすな、と青龍の貴族にくってかかろうとする御仁は違う。
愛娘たるお嬢様の視線で合図された五大家の当主たちが、言わせてなるかと取り押さえているというのに。魔女を後援する僕とて、青龍の貴族、その人の閨の中に口を出した巻き添えで、皆殺しにはされたくないからな。
だが、しかし、その大先輩とて言葉を失っている。
そして、また、僕も逃げるわけにはいかない。
どうすりゃいいんだ?




